一九五五年体制の成立

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  • 東京大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784130362122

作品紹介・あらすじ

一九五五年から九三年の細川連立政権樹立まで,日本政治は自民党を政権党とし,社会党を野党第一党として展開された.本書は,戦後日本政治の方向を決定づけた一九五五年体制を,外交と内政,政党政治と労使関係など,多様な視点から詳細に分析する.

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  • 【構成】
    序論 問題と視角
    第1章 朝鮮休戦とMSA
     第1節 朝鮮休戦と日本の政治・経済
     第2節 MSA援助問題の展開
     第3節 緊縮政策と労使協力への転換
    第2章 緊縮政策の開始
     第1節 緊縮政策の本格的開始
     第2節 経済団体の対応と労使関係
     第3節 保守合同の出発と難航
    第3章 インドシナ休戦と政権交代
     第1節 インドシナ休戦と日米関係
     第2節 吉田内閣の凋落と民主党の結成
     第3節 社会党の構成と鳩山内閣の成立
    第4章 一九五五年体制の成立
     第1節 日米関係と保守合同の再出発
     第2節 保守合同の進展と経済力の強化
     第3節 社会党統一と保守合同
    結論 総括と展望

    立教大学教授(政治学)の中北浩爾(1968-)による戦後政治史研究の第2作。「五五年体制」の成立については、その名付け親である升味準之輔からはじまり、1980年代の大嶽秀夫、1990年代にあっては新川敏光、石井修、植村秀樹、2000年代では池田慎太郎といった研究者による研究が積み重ねられている。

    その中で本書は、宮崎隆次が提示した「平和軸」を掲げた革新政党が優位化を念頭に置きながら、竹中佳彦が提示した経済政策をめぐる対立について重視することになる。

    改めて言うまでもないが、五五年体制が成立は、吉田自由党、改進党(民主党)、右派社会党(右社)、左派社会党(左社)の4者が分裂状態を保持せずに、保守陣営・革新陣営それぞれ統合したことによる。従来は、反吉田(自由党)陣営による重光首班構想の挫折がその契機だとする説明が多いが、中北が言うようにそれだけでは合同が必然であったとは言えない。

    本書は、「吉田vs反吉田」の政局や防衛問題をめぐる各党の主張の乖離という従来の議論から離れる。1953年の朝鮮戦争休戦、スターリンの死去、インドシナ休戦といった極東・東南アジアの「冷戦」化を契機とした財政・経済政策をめぐる政府・野党・財界・労組各々の立場を明らかにする。それによって、吉田自由党がアメリカ政府・財界が求める「均衡予算」を組むにあたり野党への妥協を重ねながら、苦しい政局運営を強いられていたことが浮かび上がる。特需が一気に収縮し、輸出を中心に景気の後退が目に見えて現れていた局面であった。

    もちろん、この局面を打破するべく渇望されたのがMSAであったわけだが、中北はMSAは結局的に決定がずれ込んだ揚げ句、大規模な景気後退に焼け石に水であったと述べる。
    してみれば、保守・革新両陣営の合同に際しての最大の課題は焼け石の水のMSAやポーズばかりの再軍備などではなく、今そこにある「経済危機」に際しての予算編成であろうというのが著者のスタンスである。

    そして、この不況を乗り切るにあたって、政府は防衛予算を切り詰めてでも「均衡予算」を達成せんとし、民間にあっては日経連をはじめとする「賃上げの抑制」措置を講じた。

    これに対して、左右社会党および労働組合はどうであったか。「再軍備反対」という左社の明確な主張は選挙を通じて一定の支持を集めてはいたが、その支持母体であった労組組織は総評の政治化に否定的なグループの分離を呼び、合い言葉である「共闘」ができる状態ではなかった。

    本書にあっても、最終局面の左右両社会党の合同と民主・自由の合同についての説明は先行研究と大きく異なる説明がなされているわけではない。しかしながら、革新政党の支持母体である労働組合、わけてもその中心である総評が目指した労働戦線統一が失敗したという側面は、マクロな政治過程と併せて眺めることで立体感を持つようになる。

    ナショナルセンターの分裂が維持されたことによって、総同盟は春闘方式による賃上げ交渉を行う一方で、日本生産性本部に参画して企業経営者とともに「生産性向上」に協力するという労使協調路線に向けて進むことになる。対して総評は社会党とともにその後も政治闘争路線を進んでいく。

    五五年体制の成立史は、その後固定化していった政治・経済・防衛体制の本質を浮き上がらせる。本書は防衛問題について意識的に記述を削っているが、それゆえに基本的な政治史の知識を持たないまま読んでしまうと、この政治過程の力学が理解できない部分もでてくるであろう。しかし、従来の研究と併せ読むことで本書がいかに多くの示唆を随所にちりばめているかがわかるだろう。戦後日本の保守・革新勢力それぞれの、イデオロギーを抜きにした、実際的な政治目標がそこに見えてくる。

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著者プロフィール

一橋大学大学院社会学研究科教授。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程中途退学。博士(法学)(東京大学)。大阪市立大学法学部助教授、立教大学法学部教授などを経て、2011年より現職。専門は日本政治外交史、現代日本政治論。
著書に、『現代日本の政党デモクラシー』(岩波新書、2012年)、『自民党政治の変容』(NHKブックス、2014年)、『自民党──「一強」の実像』(中公新書、2017年)、『自公政権とは何か』(ちくま新書、2019年)、『日本共産党』(中公新書、2022年)など。

「2022年 『選択的夫婦別姓は、なぜ実現しないのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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