生命で読む日本近代: 大正生命主義の誕生と展開 (NHKブックス 760)

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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140017609

作品紹介・あらすじ

20世紀を解くキーワード「生命」。「生命」がスーパー・コンセプトに浮上し、新たな生命観が問われている今日、20世紀はじめの日本で生命主義が台頭し、その後にたどった経違を追う注目作。

感想・レビュー・書評

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  • 自然との共生、地球は大きな生命体・・・という標語のなか、「生命」をスーパーコンセプトにという動きがある。時代の合言葉にはそれを支える気風があるが、日本近代は「生命」をどのように考え、描いてきたのだろうか。

    日本列島の生命観・近代欧米の生命観・大正生命主義の誕生・生命主義の開花・スタンスと亀裂、そして変容・迷路の中の生命主義・・・このような大項目で話が進められる。

    近代著名人の著作などに現れる生命(神秘)主義を概説し、時代背景との関連がうかがい知る事ができる。

    徳富蘆花の「美的百姓」、武者小路実篤の「新しき村」などは、今の時代の雰囲気に似ている気がする。

    ●神秘主義と物質主義の対立さえも、論理的な構造を持った調和に導く事ができるのが、生命主義の特徴である。

    示唆多き一冊だった。

  • 鈴木貞美が提唱する「大正生命主義」を解説する一冊。確かこの前の年に出た本と内容は被ってると思うが……
    ベルクソンの「エラン・ヴィタル」的な「生命」概念が昭和後期から大正中期ぐらいにかけて文学や美術の世界で非常に重要になるという話。分析の分野的広がりがあってなるほど読み応えがある。
    大窪のようにアナキズムなんかへの連なりを描ければもうすこし後のほうへの歴史的な広がりもみることができよう。
    個人的には、キリスト教の禁欲主義についていけなくて、生命主義が出てきたという側面が面白いと思う。『女学雑誌』の後半から出てくる生と性の肯定というのは、やはり近代化によってそれが抑圧された中で出てきたのだろう。その辺に注目しつつ読んでいくと、今日にも通じるものが見えてくる気がする。

  • 大正期の思想・文化の傾向として、「大正教養主義」という言葉がよく用いられる。また、桑木厳翼らの思想家たちは、新カント学派の影響下に「文化主義」という立場を打ち出していた。だが著者は、大正期の思想を、より大きな視野の下で捉える必要があると説く。たとえば土田杏村は、農村の青年たちを中心とする自力更生的な文化向上運動を組織した。また、白樺派の武者小路実篤は「新しい村」の実験をおこなったことも知られている。そして彼らの著作の中にキー・コンセプトとしてしばしば用いられたのが、「生命」の語だった。本書は、こうした「生命」をキー・コンセプトとする大正期の精神史をたどって、大正生命主義がどのように成立し、多くの人々に共有されていって、どのように終焉を迎えたのかを説いている。

    著者は古代以来の日本思想における「いのち」についての思想を簡単に解説しているが、本格的な「生命」思想の開始は、明治期の自由民権運動の挫折を経て、自己の内部への志向を示す北村透谷の「内部生命論」が書かれた時期に求められる。ついで、宇宙の生命を人間の本性へと置き換えた高山樗牛、性欲を中心に人間の本性を見つめる自然主義文学などの著書にも、「生命」の語が現われるようになる。やがて、生命の自由な発現としての「表現」が多くの作家たちの心を捉えるようになる。とりわけ後期印象派の絵画からヒントを得ることで、作者の観念的な世界をイメージへと転化するという発想が受け入れられていった。

    だが、こうした「生命」をキー・コンセプトとする思想は、個人主義と全体主義、あるいは普遍主義と民族主義との間で引き裂かれることになる。生命の伸びやかな発現を求める「生命主義」の考えは、荒々しい行動への渇欲を呼び起こし、国民国家主義の内に包まれてゆく。他方学問の世界では、物理化学還元主義の制覇によって学問の細分化が進み、「生命」という大きな問題を論じることを避ける傾向が強くなる。

    著者は、こうした大正生命主義の流れを解説し、ふたたび「生命」がキー・コンセプトとなりつつある現代の状況への展望を語って本書を締めくくっている。

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著者プロフィール

1947年生まれ。人間文化研究機構/国際日本文化研究センター名誉教授。総合研究大学院大学文化科学研究科名誉教授。

「2015年 『宮沢賢治 氾濫する生命』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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