論理学入門 推論のセンスとテクニックのために (NHKブックス)

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  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140018958

作品紹介・あらすじ

「なぜ、人を殺してはいけないの?」「地球外知的生命は実在するだろうか?」-論理的に考えると、どのような回答がもたらされるか。演繹、帰納、背理法など、推論のテクニックを豊富な例題とともに紹介しながら、現代論理学の基礎をわかりやすく解説。明晰な思考のためのトレーニングであるのみならず、宇宙物理学などの科学と論理学の接点をも探る、知的興奮に誘う一冊。

感想・レビュー・書評

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  •  本書は、第?章で記号論理学の基礎を学び、その応用として第?章で、現代科学の基礎的な方法論である『人間原理』を論理学的観点から解説・検討するという構成になっている。<br>
    <br>
     「論理学入門」という書名とは裏腹に、本書の重点は第?章の『人間原理』の論理学的な解説にこそある。第?章もそのために必要な事柄を中心に構成されているので、一般的な論理学の入門書とは切り口の異なる部分が多々ある。特に、『人間原理』の依拠しているいわゆる語用論的背理法の詳細な解説は、類書にない特色として本書の価値を高めている。 <br>
     しかし、斬新な切り口や類書にない事項の詳細な解説は、入門書が対象とする読者層であるはずの「論理学に触れたことのない人」にとって、必ずしも有益ではないかもしれない。全体の分量に対して詰め込まれた情報が多すぎ、初学者はそれらをうまく処理できずに挫折しかねないのだ。<br>
     本書はむしろ、論理学の基礎を学んだ者が、知識を新たな観点から整理したり、実際の問題に応用するための入門書として位置づける方が適切だと思われる。著者が前書きで述べるように、「応用論理学入門」という書名の方が実態に即しているのではないだろうか。
    <br><br>
     第?章の応用部分である第?章では、現代科学の基礎的な方法論である『人間原理』についてたいへん興味深い議論がなされている。本来の『人間原理』は、人間中心主義――観察者としての人間がいる か ら こ そ 宇宙がある――という含みを持った通俗的な理解とは異なり、「人間を他の物理現象と同列に扱う徹底的にコペルニクス的な宇宙原理の一例」だというのである。実際に提唱者の論証過程が紹介され、『人間原理』の論理構造が語用論的背理法であることが示される一方で、通俗的な理解が単純な論理的誤謬に基づいていることを指摘されれば、筆者の主張の正当性を認めないわけにはいかない。通俗的な理解が破壊される過程は、知的興奮に満ちている。 <br><br>

     筆者は『人間原理』の他、「なぜ人を殺してはいけないのか」「人類文明の寿命はどのくらいか」「いわゆる『意識の超難問』」といった問題に論理学的観点から答えようと試みている。230頁程度の分量に詰め込むには多すぎる情報量だが、きちんと消化できれば1000円支払う価値は十分にある。一通り論理学を学んだ人や、上記の諸問題に興味がある人にはオススメ。

  • 論理学初心者にとっては、入門書と思って読むと、時に難解さに打ちのめされる。後半展開される「人間原理」の概念には、驚嘆の一言。呼んでよかった、と思わせる久々の書である。

  •  前半は記号論理学の基本の説明、後半は論理学の人間原理への応用である。高校生の時に一度読んだが再読。今回は後半のみ。
     人間原理は元々宇宙物理学の文脈において提唱された。その一般化した主張は、簡単に述べれば次のようなものである。つまり、「私が『私』であること(今が『今』であること、ここが『ここ』であること)は尤もらしい」つまり、「私たちは平凡だ」ということである(平凡の原理)。
     この、ごく常識的な、少なくともコペルニクス以来の脱人間中心主義・近代科学的世界観の延長線上にある考え方を認めれば、論理学の推論から、例えば
    ・地球外知性は存在しそうにない。
    ・銀河クラブはありそうにない。
    ・地球文明の寿命は残り1000年以内の確率が95%以上。
    といった、非常にショッキングな結論が従うのだ!前二つはともかくとして、文明の寿命に関する議論には、初めて読んだとき、かなり衝撃を受けたことを覚えている(もっとも、あくまで確率付きの結論であることには留意する必要がある)。また、強い人間原理から多宇宙説という考えが自然に生じるが、(他の宇宙というのは定義からして観測できないはずだが)この宇宙に掛かっている「現に人間を生み出した」という制約がどれほど厳しいものかを計算することで多宇宙説の尤もらしさが求められるという。その他にも、人間原理のよくある誤解がまとめられていて、僕自身理解が不十分だった種々の点に気付かされた。

     以下、僕なりに考えたことをメモしておく(頓珍漢なことを言っていると思いますが)。
    ・文明の寿命に関する議論は現在地球の人口が増加中であることが前提だったが、ある瞬間だけを見れば人口が減少している瞬間がある筈で、もしその瞬間毎の情報しか与えられなければ結論は瞬間毎に違うものになるのだろうか?また、日本の人口は減少しているが、そうなると、日本の寿命が人間文明の寿命より長いという奇妙なことにならないだろうか?
    ・宇宙の制約から多宇宙説の尤もらしさを導く議論について、その制約の厳しさの程度というのは結局他の宇宙との比較によってしか分からないのでは無いだろうか?ある制約がとても厳しいものであるように見えても、実は隠れた因子があって、考えうる宇宙に対し必然である(若しくは、そのような宇宙が多数派である)という状況が考えられるのではないだろうか?
    ・永井独在論に対する筆者の批判について。筆者の批判は、一言でいえば「この「私」(自意識的存在)が〈私〉(世界が開ける原点)であることが、永井が言うように「還元できない奇跡」だと思えるのは選択効果を忘れているからで、その問いを問うているのがまさにこの「私」である以上、必然である」ということで合っているだろうか?「世界がこのままであって、にもかかわらず〈私〉が永井均以外の人間であることができたというのは永井の錯覚である。永井均以外の問わぬ者たちは「私」でありうるだけだ。永井の疑問そのものが〈私〉が誰であるかを決める選択条件なのだから。(略)字面上永井と同じ疑問に到達した者も、永井に論理的に賛成することはできないというわけだ。言語ゲームによってただ「永井の知らない別の驚き」へと誘われただけなのである。」(p.230)この点については、三浦の指摘が批判になっているのかどうかも含めて、また考える必要がありそうだ。

    Ⅰ 記号論理学の基礎—ゲームの規則
    1 論理学的思考へ 意味論と語用論
    2 真と偽 命題の特性を探る
    3 トートロジー 偽となりえない命題
    4 「ならば」の論理 条件文の構造
    5 「妥当な推論」とは何か 推論規則と定理
    6 推論の冒険 演繹定理から仮説演繹法へ
    7 地球外知性は存在するか? 背理法的推論
    8 述語論理学 命題の内部構造を探る
    9 多重量化と同一性 日常言語の曖昧さを解きほぐす
    10 存在をめぐる謎 哲学と論理学の交差点
    11 「何もない世界」 存在論への論理学的アプローチ
    12 前提明示化のテクニック 意味論的前提と語用論的前提
    13 演繹と帰納 「健全な推論」の導きかた
    14 事実と価値をつなぐ論理 「である」から「べし」を導けるか
    15 なぜ、人を殺してはいけないのか? 論理学からの回答
    16 嘘つきのパラドクス 背理法の盲点
    Ⅱ 人間原理の論理学 論理における「私」の位置
    17 「10^40」というミステリー 巨大数仮説と観測選択効果
    18 反コペルニクス主義? 人間原理と宇宙原理
    19 宇宙は人間を必要としていたか? 目的因という錯覚
    20 因果と認識 「証拠」は「原因」ではない
    21 名指される宇宙 文法的再定義
    22 地球は特別か? 「平凡の原理」による推論
    23 さびしい地球人 平凡のパラドクス
    24 私たちは多数派である 確率から見た地球外知性
    25 文明の寿命を探る デルタt論法
    26 必然論から偶然論へ 終末論法の衝撃
    27 世界の選択 多宇宙説は予言する
    28 「私」の論理
    ブックガイド

  • 【由来】


    【期待したもの】


    【要約】


    【ノート】

  • 何度読み返しても興奮する。

    第Ⅱ章のロジックはなかなか目にすることはない。
    人間原理「ここは人間がいることを許す世界である」
    と平凡の原理「私は平凡である」を足すと
    一般人間原理「ここは人間がいることを許す世界のなかで平凡である」になる。

    ここから、地球外に知的生命体はいそうにないとか、宇宙植民による人類の繁栄はなさそうだとか、
    多宇宙仮説の確からしさを宇宙の秩序から推定するとかスケールの大きい話が導かれる。
    論理と確率論すごい。

    自意識過剰な人は平凡の原理を学ぶべし。

  • 言語の理論的な問題だったので、前半はまったく興味が湧かず。

    後半の、クイズ的な問題1問だけが、おもしろかった。
    「記憶もなくし、自分の外見もわからず、ただ、各国の人口や風土などの知識はあります。あなたが密室に閉じ込められ、テロリストに、「どこの国のものか言わなければ殺す」と言われた場合、何と答えたらいいでしょう?」

    答え:中国人
    または、インド人あたりでも。人口構成比の問題で、一番、確率が高いから。

  • [ 内容 ]
    「なぜ、人を殺してはいけないの?」「地球外知的生命は実在するだろうか?」―論理的に考えると、どのような回答がもたらされるか。
    演繹、帰納、背理法など、推論のテクニックを豊富な例題とともに紹介しながら、現代論理学の基礎をわかりやすく解説。
    明晰な思考のためのトレーニングであるのみならず、宇宙物理学などの科学と論理学の接点をも探る、知的興奮に誘う一冊。

    [ 目次 ]
    1 記号論理学の基礎―ゲームの規則(論理学的思考へ―意味論と語用論;真と偽―命題の特性を探る;トートロジー―偽となりえない命題;「ならば」の論理―条件文の構造 ほか)
    2 人間原理の論理学―論理における「私」の位置(「10の40乗」というミステリー―巨大数仮説と観測選択効果;反コペルニクス主義?―人間原理と宇宙原理;宇宙は人間を必要としていたか?―目的因という錯覚;因果と認識―「証拠」は「原因」ではない ほか)

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    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 「二値論理でやりゃ推論はカンタンに答えが出るじゃん」というのが書名に対する一応の解答でしょうか――まあ確かに。入門書だから、それでもいいんですかね。
    第2部・人間原理批判の部は「論理学をつかった読み物」として楽しんでこそ、よい読者。読み物なので第2部のほうが感想は言いやすいです。
    第1部はコンパクトにまとまっていて、一般論理学へのいざないとしてご利用いただくのに適量かと思います。

  • 面白い!でも難しい…特に後半。永井均の反論としてこれは有意義なのかなぁ…?検討が必要かと。
    『可能世界の哲学』でもそうだったけれど、ブックガイドが地味に優れていると思う。

  • 独我論への批判を形式的におこなったことで有名な一冊。「なぜ人を殺してはいけないのか」という問いに論理学から答える挑戦的なトピックまで!

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著者プロフィール

中央大学教授

「2022年 『マーケティング戦略〔第6版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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