NHKブックス別巻 思想地図 vol.2 特集・ジェネレーション (NHKブックス 別巻)
- NHK出版 (2008年12月23日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (451ページ)
- / ISBN・EAN: 9784140093412
作品紹介・あらすじ
家族は崩壊したのか?「労働」と「創造」の新しい関係とは?世代間対立をどう捉えるか?「ジェネレーション」をキーワードに現代の諸問題に鋭く切り込む論文を多数収載。情報社会の新パラダイムに挑む論考も加え、新進気鋭の若手から第一線で活躍する論客まで、さらに充実した内容でお届けする第2弾。
感想・レビュー・書評
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上野千鶴子へのインタヴュー「世代間対立という罠」では、上野の『おひとりさまの老後』(文春文庫)に対する東の批判を題材に、北田がインタビューをおこなったものです。東の立場をよく咀嚼しつつ上野に対して切り込んでいく北田の議論と、それに対する上野の明快な回答には、舌を巻くほかなく、おもしろく読みました。
森直人の論文「「総中流の思想」とは何だったのか―「中」意識の原点をさぐる」は、いわゆる格差論に緻密な再検証をおこなったもので、北田による紹介によるとアカデミックな価値の高い論文とされています。そうした側面についての評価はわたくし自身にはまったくできないものの、結論についてはたいへん納得ができるように感じました。
座談会「再帰的公共性と動物的公共性」では、東と北田の立場の相違を軸にしながら、法哲学者の大屋雄裕と小説家の批評家の笠井潔が議論を交わしています。 -
【簡易目次】
目次 [003-005]
「特集・ジェネレーション」に寄せて〔東浩紀+北田暁大〕 [006-009]
■特集・ジェネレーション■
I. 家族の現在
毀れた循環――戦後日本型モデルへの弔辞/本田由紀 013
それでも、家族は続く――カウンセリングの現場から/信田さよ子 035
II. 労働と創造の新しい関係
ゲームプレイ・ワーキング――新しい労働観とパラレル・ワールドの誕生/鈴木健 067
対抗的創造主義を生きよ!――「労働論の根本問題」に応える/橋本努 093
民主主義のための福祉――「熟議民主主義とベーシック・インカム」再考/田村哲樹 115
私小説的労働と組合――柳田國男の脱「貧困」論/大澤信亮 143
III. 世代論をどう捉えるか
世代間対立という罠 上野千鶴子インタビュー(聞き手・北田暁大) 177
〈ジェネレーション〉を思想化する――〈世代間の争い〉を引き受けて問うこと/天田城介 203
「総中流の思想」とは何だったのか――「中」意識の原点をさぐる/森直人 233
■特集 胎動するインフラ・コミュニケーション
[座談会] ソシオフィジクスは可能か 東浩紀+北田暁大+西田亮介+濱野智史 274
「ソシオフィジクス」を知るための10冊/西田亮介+濱野智史 311
ニコニコ動画の生成力――メタデータが可能にする新たな創造性/濱野智史 313
〈社会〉における創造を考える――問題発見・解決の思考と実践/西田亮介 355
[座談会] 再帰的公共性と動物的公共性 /東浩紀+大屋雄裕+笠井潔+北田暁大 377
[特別掲載] 「市民性」と批評のゆくえ――〈まったく新しい日本文学史〉のために/入江哲朗 417
編集後記 [447-449]
プロフィール [450-451] -
東浩紀の思想地図vol.2読了。
やはり哲学は難しい。とはいえカルチャー分野の見識はさすがの一言。
思想地図シリーズ他のも読みたい! -
ニューアカかぶれの成れの果?
というのは読者である僕のことで、東浩紀、北田暁大の両編集委員はこんな時代にあって真正面から「批評」に取り組んでいます。
こういう雑誌は本屋さんでも奥の隅の方にこっそりあったりするから、なかなか見つけにくくなって、文芸書や総合誌もホント売れなくなったというし、でも80年代にこの手の「人間」や「国家」、あるいは「社会」、「歴史」とかを大上段から論じたさまざまな本を訳も分からず読み漁った身としては、本屋さんに行けばそういうコーナーに必ず向かうし、たまに手にして、ぱらぱらめくり、話題の新鋭や懐かしい名前に出会えばそのままレジに向かったりするわけで、本書はバック・ナンバーなんだけけど、読み応えありました。
大テーマは「ジェネレーション」なんだけど、その言葉から派生する領域を縦横に何人もの執筆者が論じ深化させています。すべての物事が一律に平面状に並べられFast化し、果てはジャンクとなる運命しかないような世の中で、少なくとも全体を見据えて、愚直にも自らの地平を築こうとする思想に触れられるのは「贅沢」なんじゃないでしょうか。
むろんそれが錯覚である可能性も大いにあるんだけど、なんとなく分かったつもりで高揚した若い頃から、たとえそれが勘違いであったとしても、ある種の「気づき」を継続させるためにも、古典を含め、この手の雑誌(本)は僕にとって必要不可欠なアイテムであり続けるだろうと思いました。 -
今回は現状認識に徹した本。
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家族社会学のゼミに参加している者として非常に参考になった。
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まず、家族や労働などの問題をめぐる言説がステレオタイプとして語られてしまっている中で、問題の本質やその輪郭を正しく捉えようとする各論文の主張には納得させられる。特にヒットしたのが、信田さよ子「それでも、家族は続く――カウンセリングの現場から」、森直人「「総中流の思想」とは何だったのか――「中」意識の原点をさぐる」。前者からはアディクションアプローチという手法や、問題に対して所謂局所的に治療する従来のカウンセリングやそのバックボーンとは違った視野を学び、後者からは社会が人々に抱かせる「中流意識」の深層を細かく実証的に探ったことに驚かされた。
また、第二特集の「胎動するインフラ・コミュニケーション」では次号の特集でもある「アーキテクチャ」への視座を提供されているが、濱野智史「ニコニコ動画の生成力――メタデータが可能にする新たな創造性」、西田亮介「〈社会〉における創造を考える――問題発見・解決の思考と実践」がヒット。それぞれの主体の意思が異なる中であるシステムへアプローチしても、結果としてある一定の目的の達成へと進ませようとするアーキテクチャの働きがクリアに書かれていて、参考になった。 -
「世代間対立という罠」上野千鶴子の戦闘力が高すぎて、フィクションを読んでいるみたいな面白さ。なんという実用的な頭の良さよ。
鈴木健の「労働のゲーム化」、濱野智史の「ニコ二コ動画の生成力」がとても興味深かった。
座談会の「再帰的公共性と動物的公共性」も。思いの外いろいろなことが曖昧なまま人間て生きているんだな、という驚きがあった。