- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784140815083
作品紹介・あらすじ
筑波宇宙センターの宇宙飛行士採用試験から、スペースシャトルの訓練用トイレまで、口の堅いことで有名な宇宙開発研究機関の扉をこじ開けて突撃サイエンス・ジャーナリストがわたしたちを宇宙の旅に連れ出してくれる。アメリカで最高にPOPなサイエンス・ノンフィクション。
感想・レビュー・書評
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お風呂に入りながら、あるいはベッドに潜りながら寝る前に、1章好きなところを読むのがいい感じの本。ついニヤッとしてしまう本当の宇宙ルポ。
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一見華やかな宇宙旅行に隠された、凄まじいまでの労力の記録。死体や霊魂、セックスなど、ちょっと変わったテーマでの突撃取材を得意とするメアリー・ローチの新作は意外なことに宇宙開発だった。
宇宙開発関連というと、どうしても技術開発などのテクノロジー関連の話が中心になりがち。でも、ローチの関心はロケットや人工衛星にはなかったみたいで、宇宙に飛び出す人間に向けられてる。宇宙飛行士に向いている特性とは?宇宙空間での入浴って?トイレはどうなってるの?宇宙空間で船酔いしたらどうなる?無重力に長時間晒されると人の体はどうなるんだろう?そんな疑問をNASAやJAXA(!)にぶつけて、お得意の突撃取材を敢行。
その結果、見えてくるのはヒトを宇宙に出すということの想像を絶する大変さ。そして、そこに至る大変な苦労。例えば、被験者が数ヶ月寝たままになることで人体に起こる影響を調べる実験や、数ヶ月、密室に数人の人間を閉じ込める実験、カロリーを凝縮した宇宙食を食べさせ続けての影響を見る実験などなど。数多くの研究者(と被験者)の地道な研究の積み上げで、宇宙にヒトが飛び出していけてるんだ、という事実を描き出すことに成功している。
取材はかなり大変だったようで、NASAからもかなり嫌な顔をされたっぽい。でも、これはNASAはもっとアピールしてもいいんじゃないかな。この本を読むと無重力という未知の領域にヒトを送り込むにあたり、NASAは相当慎重に実験と検証を繰り返した様子が見て取れる。何度かの不幸な事故はあったけれど、多くの飛行士が宇宙へ行き、無事に地球に帰還できたのは、その地道な努力のおかげなのだ。確かに「下」の話や下世話なものも含まれてはいるが、それも含め、誇るべきことだと私は思う。
ローチ本は4冊目のNHK出版ということで、ジョークが散りばめられた軽いノリの文章を上手く訳してくれてる。原注がなかなか笑える内容が多く、見開き左に固めた本の構成も素晴らしい。が、参考文献が無いのは残念(原書にも無いのかもしれないけど)。
宇宙開発に興味のある人なら是非読んでみるべき一冊。トリビア的に笑える部分も多いけど、実は大いに考えさせられる、いい本です。 -
【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/57042 -
サイエンス
ノンフィクション -
摂南大学図書館OPACへ⇒
https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB99350450
2014年度の「宇宙~Universe~ 」でも取り上げられました。 -
アメリカで最も愉快なサイエンスライターと評されるメアリー・ローチが連れて行ってくれる宇宙は予想のやや斜め上を行く。メアリーのこれまでの著作のテーマは死体、霊魂、セックスで、下世話な話題を扱いながら本書でもみられるように独特のユーモアを交えながら下品にならない軽いタッチが特徴だ。原題は「Packing for Mars」火星探検に行くためにこれまでの宇宙開発を下敷きにどう準備するかを広範に取り上げている。
「宇宙開発のエキスパートにとって、あなたは巨大な頭痛の種だ。」無重力も狭い閉鎖空間も当然ながら人間が長期に暮らすには向いていない。食事、お風呂、トイレ、洗濯と日常生活の全てが頭の痛い問題になる。短期間のミッションなら我慢しろというのが一番簡単な解決法だが火星まで行こうかとすると数年がかりのミッションになるので宇宙飛行士の健康だけでなくモチベーションも大事な要素になる。これがすごく厄介なのだ。
最初の場面はJAXAの宇宙兄弟で有名な閉鎖空間試験現場から。第一期宇宙飛行士に求められたのは勇気やカリスマ的な才能だったが現在ではストレス耐性や協調性が重視されている。これはミッション期間が長期間になるからだ。例えばNASAでチームワークに関する研究を行った所男女混成>男性のみ>女性のみだったらしい。火星に行くならベストなチーム構成は?アポロ計画の飛行士マイケル・コリンズによれば去勢済み男子クルーがベストだとか・・・。ちなみに体型が小柄で協調性の高い日本人は宇宙飛行士に向いてると言う評価だ。狭い部屋にも慣れている。
無重力下ではトイレが大問題になる。地球上のトイレは重力を元に設計されているので宇宙では全く役に立たない。当初使われたのは糞便バック、袋の開口部に粘着剤がついていてぴったり張り付けて用を足す。問題はこれで終わらず、口を閉じたままほっとくだけだと大腸菌の働きでガスが出て破裂してしまう。”逃亡者”を作らないためには殺菌剤をふりかけもみ込まなくてはならない・・・。スペースシャトルでは宇宙用便器が開発されたが開口部はわずか10センチ、正しい位置で使用すれば気流で回収するので”逃亡者”は逃げられない。NASAでは正しい位置合わせの訓練用におまるカムつき便器でトレーニングする。自分のお尻をみながら座る位置決めをするのだが、メアリーはチャレンジしようとするも断念。しかし火星に行くには尿も貴重な水分と言うことで濾過した自分の尿を飲んでみせる、チャレンジャーだわ。
無重力空間では平衡感覚が無くなる。重力下では耳石が転がりどちらが下かわかるが宇宙で頭を急激に動かすと耳石はでたらめにぶつかり、目から入ってくる情報との狂いから宇宙酔いを起こす。船酔いにしてもそうなのだがなぜ吐くのかはよく分からない、吐いても解決にならないのだから。海の上なら魚が集まってくるぐらいだが、宇宙ではこれも大変。バイザー内がゲロまみれで何も見えないのではニュータイプでない人はモビルスーツに乗るべきではない。ただの水でも表面張力で肌に貼り付くのでゲロは凶悪だ。閉鎖空間では臭いがこもりもらいゲロを誘発、うわぁ〜っ。おならですら空気の流れがないとそこにずっと漂い続ける。
お風呂も問題で基本は入らないのだがこれも悪臭のもとだ。足、股間、脇の下が特にひどい。ずっと着替えない不潔実験では最初の1週間は皮脂の分泌量は変わらない。衣服は汗と汚れのほとんどを吸収する。ジェミニ7号の2週間のミッション終了後には地上での実験以上に宇宙飛行士のパンツはひどい有様になっていた。その頃使ってた集尿器は時々豪快にお漏らししたらしい。無重力下ではシャワーの水滴は集まり大きな塊になるのでからだを洗う役には立たない。現在では日本女子大の開発した宇宙下着が素晴らしい成果を上げている。光触媒の作用により汚れを分解し、抗菌剤が菌の繁殖を防ぐ。若田光一さんは28日間同じ下着を履き続けても不快感はなかったらしい。光触媒を働かせるにはパンツ一丁の時間が長かったのだろうが・・・
食事もいまでは美味しく食べれる宇宙食が増えているらしいが当初はとにかく少量でハイカロリーが標準だった。毎食エナジーバーみたいな物だ。しかも水分は減らして唾液で戻す。逆にぱさぱさなものはくずが出るのでNGになる。また食事はそのままトイレの問題に直結する。ペットが喜んで食べ糞の処理が楽なそんな食事が理想なのだ。
無重力セックスは可能なのか?やはりそう来たかというところだがポルノ映画会社が無重力体験の弾道飛行を貸し切ったことはあるらしい。メアリーが調べた限り真実は不明だ。無重力空間では血液が上半身に集まる。映像でみる宇宙飛行士の顔がむくんでいるのはそう言う理由でへそから下には血液は集まらないらしい。と言うことは・・・。
他にも骨密度を調べるための寝たきり実験や、アポロは実は宇宙に行っていなかったと言う陰謀が生まれた国旗の秘密、着陸時の重力加速度の影響を調べるマネキンの落下実験はエイリアンの噂を呼び、アストロチンプ(宇宙チンパンジー)が当初チンポノート(セーラーパンツをはいた猿になる)と言われた話などコネタの脚注が満載。厄介な荷物を火星に運ぶためには滑稽に思える様な莫大な努力の積み重ねが続けられている。宇宙兄弟には出てこない日常の時間がミッションの時間以外の全てを占めるのだから当然なのだが。 -
愉快な突撃サイエンスライターとして売れっ子らしい。
ちょいと下品つーか下世話な話を絡めて、人間を宇宙飛行させるためにどれだけ地上で実験しているか、実際行ったときどうなったか、をレポート。
無論だいたいはNASA周辺に突撃しているのだけれど、日本関係の部分も結構ある。
初っ端はJAXAでの宇宙飛行士選抜について。
後はロシアにも取材してるね。
海外の翻訳物は読みにくいけど、(笑いのツボもいまいちだし)今までに読んだ中ではだいぶましだと思う。
この間「ゼロ・グラビティ」見たから、興味もあったし。
ブックデザイン / 福田 和雄
jacket image of astronaut / Getty Images
原題 / "Packing for Mars:the curious science of life in the void"(2010) -
私の知らない世界はどこにでもある。