いのちを“つくって"もいいですか? 生命科学のジレンマを考える哲学講義

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  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140816943

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  • 島薗進先生の哲学講義

    いのちをつくってもいいですか?の問いに答えるべき学問は哲学=ものごとを考える際、その基礎となっている価値観や考え方を問い直しながら、問題に取り組んでいく学問
    「いのち」をめぐる世界の考え方の多様性に注目しているので、西洋起源の哲学だけでなく、アジアや日本の価値観や考え方にも注意を向ける
    現代のばいおテクノロジーや医学の発展がもたらす問題に対して文化の違いによって答え方が異なってくる場合があり、そのことが重要と考える。

    序章 生命科学の夢と限界

    限りあるいのちと永遠のいのちのどちらを選ぶか
    「限りあるいのち」という自覚に基づいた「つながりのなかのいのち」の尊さを重視する

    第一章 身体を改造すれば幸せに?
    治療(therapy)をこえたエンハンスメント(enhancement 強めること、増強)

    『治療をこえて』であげられた4つのテーマ
    1)「より望ましい子ども」を求めて
    選び、育てる
    ふるまいを改善する~薬物によって
    ADHDは治療を必要とすることなのか?
    2)優れたパフォーマンスを求めて
    ドーピング
    3)長寿を求める
    「これまで自然であったものが自然でなくなり、意図的に追求するもの、むしろ否応なしに選択しなければならないものに変化していく」という問題が含まれる

    4)「心を変える」内面的なものの人為的コントロールについて

    第二章 理想の子どもを選べるなら
    出生前診断と産み分け

    望ましくないもの、は何か
    授かる→選び取るへ
    誰が決め、誰が選ぶのか

    優生学
    イギリスの遺伝学者 フランシス・ゴルトン

    新しい優生学のゆがんだ視点
    病気障害を持つ人の排除
    彼らを社会全体の財産として受け入れるようなあり方を選び築いてきた

    第三章 いのちをつくり変えてもいいですか?
    IPS細胞と再生医療の夢

    キメラ=一つの個体野中に異なる遺伝情報を持つ細胞が混じっているもの

    第四章 すばらしい新世界には行きたくない?
    ある未来予想図

    『すばらしい新世界』を解説する
    オルダス・ハクスリーが1932年に書いたデイストピア小説
    人々の安定のために構成された世界
    ソーマによる操作

    タイトルはシエイクスピアの「あらし」より

    人格なき科学が、人間性を抑圧する

    第五章 いのちは授かりものの意味
    マイケル・サンデルが問いかける 

    「予期せざるもの」を受け入れ、ともに生きる
    これは子どもに関してだけではなく、それ以外の場でも養われる

    何に対して手を合わせる?
    いただきます、ごちそうさま

    「恵み」のつながり

    サンデルは「選べないもの、思うようにならないもの」を受け入れる開かれた姿勢、そこに命の働きを理解する重要な鍵があるのではないかと
    人間の意図に沿ってすべてを選び、変えていこうとするならば、この姿勢から遠ざかっていくことになり、思うようにならないからこそ深く理解されるいのちの尊さを理解する力とともに、人間がもつ3つの徳、あるいは価値観が困難に見舞われるだろうと
    1つめの徳「謙虚」
    2つめの徳「責任」
    3つめの徳「連帯」

    2つの愛によって授かりもののいのちを論じる
    1)受け入れる愛
    2)変えていく愛
    サンデルの社会倫理的論理だけでなく、超越的な感覚や思考のあり方としても問い直していく必要がある

    第六章 小さないのちの捉え方
    「中絶」といのちの始まりの倫理

    日本人の中絶に対する意識~間引き
    人口調整を受け入れてきた文化
    日本人はいのちを尊ばないのではなく、環境のなかでいのちの連続性を保っていく、持続可能な環境との共存を図っていくという考え方にある
    別の倫理観

    第七章 つながりのなかに生きるいのち
    「脳死」に見る死生観

    「脳死は人の死である」という考え方は、心と体、精神と物資をきっぱり二分する西洋的な考え方、とりわけ近代のデカルト的な二元論によるものではないか。それに対して日本の文化では、心と体はそう明確に分けられない。だから脳が機能せず、死に近い状態になったからといって、身体が生きている人間を死者として扱うことには疑問がある

    終章 個のいのち、つながるいのち

  • 死生観を知りたくて選んだ本の中の一つ。
    あと、オルダス・ハクスリーの「すばらしい新世界」が取り上げられていたので読んでみた。

    前半はいまの再生医療の技術について、科学を通して知る。ES細胞とかiPS細胞とか、ニュースで聞くくらいしかなかったけど、なるほどそういう仕組みだったのか、だからノーベル賞なのかと知った。
    それが今後、生きている人間に対してどんな影響を与えるんだろうかということも書かれている。エンハンスメントの話。
    もともと治療をするための医療が、より多幸になるためとして発達しているんじゃないか、と。
    身体能力だけでなく、心も変えることができる…。いわれてみれば、ということが何か所かあった。

    後半は宗教観、欧米と日本との違い、日本の中でも価値観の違いなどにも触れる。
    特に「これから人になりうる命」についてはすごく丁寧に取り扱っていた。
    ES細胞になる余剰胚も、授かりものの命も、すでに社会の中に取り込まれているのだなと感じた。
    自分の意識が生まれる前から、自分を取り巻く社会ができているのだと。
    生まれる前だけじゃなくて、死んでからもそうだと。脳死のトピックでそう感じた。

    「個人が個人として存在するためには、他者や集団、自然や環境との関係が、そして世代を超えた過去や未来とのつながりが必要です」224p

  • バイオテクノロジーがもたらす治療を超えた医療=エンハンスメントの課題の哲学的思考。
    哲学的故か堂々巡り感有り。

著者プロフィール

島薗進(しまぞの・すすむ) NPO東京自由大学学長、大正大学客員教授、上智大学グリーフケア研究所客員所員。著書に『現代救済宗教論』『現代宗教の可能性』『スピリチュアリティの興隆』『日本仏教の社会倫理』『明治大帝の誕生』『新宗教を問う』ほか多数。

「2023年 『みんなの宗教2世問題』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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