ワキから見る能世界 (生活人新書 195)

著者 :
  • NHK出版
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (234ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140881958

作品紹介・あらすじ

生者はとどまらない。とどまるのは死者だけ。「能」の物語は、生きている「ワキ」と、幽霊あるいは精霊である「シテ」の出会いから始まる。旅を続けるワキが迷い込んだ異界で語られるのは、執心か、追慕か、残恨か…芭蕉の旅、漱石、三島に大きな影響を与えた日本文学の原点を、ワキの視点から捉え直す。脇役ではない、「ワキ」から見た能は深くてこんなにも面白い。

感想・レビュー・書評

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  • 能楽師のワキ方を務める筆者によるワキについての考察。
    夢幻能において、霊に出会うワキは、出会う能力がある。それはワキが乞う旅をし、存在が薄く無に近い状態になった時に出会うのだという。

    それは、自分探しの旅、何か非日常を期待して出かける旅ではなく、期待しないことで異世界に出会う旅であり、旅中に起こる出来事を能に見立てたり、歌や短歌にまとめたり、歌枕を訪れてみたりといった提案をしている。
    少し大袈裟に書かれているような感じがしたり、話が少々脱線気味なところもあるが興味深く読んだ。

    印象に残ったのは、以下の部分。

    初心 未熟だった頃の自分の芸を忘れてはいけない。新たなステージに上がるのに、積み上げてみたものをバッサリ捨てて初心者になることをいう。

    伊勢神宮の式年遷宮に見られるように、
    日本人の伝統は、形ではなく、精神性を継承していくことである。

  • 日本人は正月までの暮れにすべてを清算してリセットする民族だとか、紙には必ず表裏があるように、「この世」が表としてあるならば「あの世」が裏としてあり、それは紙の表裏と同様に出会いはない( 表の世界で裏の世界を見ることはできない)とか。

  • 村上春樹さんの短篇集を読んでいて、何気ない日常からふとありそうでなさそうな、なさそうでありそうな不思議な世界に紛れ込む感じをなんどとなく味わい、ある人からそのことによって血が入れ替わるような、浄化されるような体験するという話しを聞いて、なぜそんなことが起こるのかが気になった。すると以前購入していたこの本がロッカーに積んであって、ふと目に止まったので読んでみた。

    最近は養老さんの影響でなんでも脳の働きにしてしまう癖がついているんだけど、僕らが感じる時間も空間も脳で作っているとしたら、能を見たり村上さんの小説を読んで時空間が歪みそこに異界が出現するのもやはり脳の一部が配線を換え、場合によっては神経細胞自体の中身も若干変性していたりするのかもしれないと思った。こころが動くというが、特に強い情動や感情の変化は人格を変える力があるのかもしれない。能や村上さんの小説にはそういうものを引き出す仕掛けが仕込んであるのだろうな。

    この本では、行き詰ってしまった自分を変えるために異界に出会う旅にでようと誘われるが、わたしはもう50で芭蕉のような才も無いし、なんの修練も積んでいないから手遅れであろう。むしろ、この場に留まって地縛霊のように妄執を抱いた亡者になりたいと思った。いつの日か無名の旅人が訪れわたしの恋を昇華してくれるのを待って…

    Mahalo

  •  お能には、シテ(主役)とワキ(脇役)がある。本書はそのワキから能の世界を見る非常に画期的なもの。ワキとは分けるという意味がある。シテの混然とした心の渦を分けるのだ。 
     
     ワキの視点から見ると能とは異界と出会う物語だ。通常ではありえない異界と出会ってしまう(他動詞的に)ことで、大きな衝撃を受け新しい世界の存在を感じることで人生をリセットする、新たな自分を生きる約束を得るのだ。能ではそれが、漂泊の旅の途中で顕現する。乞い生きる行脚の旅だ。そういった決断はノーマルな状態の人間にできるはずもない。こうした思い切った行動が取れる人間には概ね2つのパターンがある。ひとつは人生の旅の途中で暗闇の深淵と覗いたもの。いまひとつは、生まれの起源自体が暗闇の深淵である人だ。
     こうした条件を持った人が漂泊の旅で異界と出会う。漂泊者こそ能のワキなのだ。

  • [ 内容 ]
    生者はとどまらない。
    とどまるのは死者だけ。
    「能」の物語は、生きている「ワキ」と、幽霊あるいは精霊である「シテ」の出会いから始まる。
    旅を続けるワキが迷い込んだ異界で語られるのは、執心か、追慕か、残恨か…芭蕉の旅、漱石、三島に大きな影響を与えた日本文学の原点を、ワキの視点から捉え直す。
    脇役ではない、「ワキ」から見た能は深くてこんなにも面白い。

    [ 目次 ]
    第1章 異界と出会うことがなぜ重要か(定家 時空の歪みが能の物語を引き起こす ほか)
    第2章 ワキが出会う彼岸と此岸(無力なワキ 「旅」がワキのキーワード ほか)
    第3章 己れを「無用のもの」と思いなしたもの(「空洞」な旅人 敦盛 ほか)
    第4章 ワキ的世界を生きる人々(ワキ的世界に入れる人、入れない人 松尾芭蕉の旅路 ほか)

    [ POP ]


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    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

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    [ 参考となる書評 ]

  • 数年前に読んでから幾度となく読み返している本。
    お能にハマるきっかけとなった本です。

  • 1176夜

  • 能って分かりにくいというのが定評ですが、これはすごく身近に分かりやすく書かれていて「能」と親しむ基盤になりました。
    安田さんはボディワークの面から購読していましたが、能そのものの理解についても非常によかったです。

  • 今まで読んだ本とか、見たお芝居とか、いろんなものを思い出しながら読めた一冊。また読み返したい本。

  • 未読

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著者プロフィール

安田 登(やすだ・のぼる):1956年生まれ。 能楽師のワキ方として活躍するかたわら、『論語』などを学ぶ寺子屋「遊学塾」を、東京(広尾)を中心に全国各地で開催する。関西大学特任教授。 著書に、『身体能力を高める「和の所作」』(ちくま文庫、2010年)『異界を旅する能』(ちくま文庫、2011年)、『日本人の身体』(ちくま新書、2014)、『身体感覚で『論語』を読みなおす――古代中国の文字から (新潮文庫、2018年)、『見えないものを探す旅――旅と能と古典』(亜紀書房、2021年)『古典を読んだら、悩みが消えた。――世の中になじめない人に贈るあたらしい古典案内』(大和書房、2022年)、『魔法のほね』(亜紀書房、2022年)など多数。

「2023年 『『おくのほそ道』謎解きの旅』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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