中流の復興 (生活人新書 224)

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  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140882245

感想・レビュー・書評

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  • 2007年7月30日、小田実が亡くなった。
    その前日は、参議院選挙で第一次安倍内閣が歴史的大敗を喫した日だった。他所は知らず、私の周りの巷では「小田実さんは、この結果を聴いて笑顔で旅立ったに違いない」と噂した。実際この1か月後に安倍首相は突然辞任し、改憲策動はしばらくは大きく後退するのである。

    2021年、安倍院政が始まった。来年の参院選は、安倍元首相にとっては15年ぶりのリベンジの改憲を問う選挙になる。という時点で、小田実の最期の声を聴きたくなった。既に後書きを書くとき(2007年4月)には癌は進んでいて自らの死を覚悟していた。「生きている限り、お元気で」と結んでいる。

    この遺言とも言える書物で、小田実は「小さな人間」として発言し、「小さな人間」の為に終始話をしている。ハッと気がついたことが多い。

    「被害者であるのにもかかわらず加害者になる」のではなくて「被害者であるからこそ加害者になる」。(21p)
    ←実際に戦争をするのは私たち小さな人間です。アメリカ兵は加害者として生まれてきたわけではなかった。その前に戦争に駆り出された被害者だった。だからこそ、被害者=加害者になる。私たちは軍隊とは違う論理、原理で、違う次元に立ってモノを考える必要がある。台湾海峡に危機があるから基地や兵器が必要なのではない。論理を変える。

    「こうしたことの基本にあるのは、日米安全保障条約という軍事条約です。(略)日米関係は、軍事条約を中心にした内容で、日米平和友好条約というものは現在も存在しないんですね。それなら、日米平和友好条約をつくって、その上で防衛の問題があるんだったらそこで討議しようじゃないか、と考えていけばいい」(23p)
    ←「(日米関係は)既に友好条約を結んでいるのと同じようなものだから必要ない」と反論が来るかもしれませんが、私は全然違うと思います。日本国憲法に「軍」を書き込めば、大きく憲法の論理が変わるように、日米に「平和友好」を書き込めば、その日から日米地位協定の見直しは必須になり、何十年も作られる見込みさえ立たない辺野古基地建設は直ぐに見直されるだろう。だからこそ、自民党は決してこんなことは言い出さない。むしろ真の軍事条約にしようと改憲を狙っている。平和友好条約を言い出す政府を作ることが大切です。

    「虫の視点」「大きな構想」「市民立法」「平和経済」「小国・日本」「日本文化は女々しい」など、小田実独自の表現で、最後の数年間の市民運動を総括している。その思想の全体像の紹介は勿論出来ない。私は、死亡の3ヶ月前にも関わらず、最後の最後までフィリピンの残酷な人権侵害に対して「後書き」のほとんどを使って精力的に、まさに命を削って裁判のスポークスマンになろうとしている小田実を見ただろう。市民運動とは、正にこの人がやってきたことを云うのだと思う。

  • 小田実 中流の復興 死期を察した闘病中の著作のため 日本や日本人への遺言みたいに聞こえる

    著者の主張は 平和主義と民主主義の正論だと思う。政治家、メディア、学者の発想とは 異なる 正論に対する取り組み方は見事だと思う。この大きな理想を引き継いだ人はいたのだろうか?


    革命憲法としての日本国憲法を誇らしく思う
    *24条、25条は権力と関係ない 小さな人間の生き方を示したもの
    *9条は 小さな人間の生き方は戦争があってはできない→戦争のない世界をつくろうというもの
    *小さな人間の努力で世界は変えられるという革命憲法


    絶対的平和主義は ド正論と思うが、性善説で外交や国際関係を考えていいものか 疑問も感じる


    *戦争に正義はない→食糧、原料のない日本は自国のみで自衛できない→戦争をやめる、軍隊は不要
    *平和憲法の積極的な実践が日本、日本の市民に求められている〜テロに対抗するのでなく、国際紛争の解決に反武力の原理により動き出す


    多数決原理や選挙が民主主義の手段に過ぎず、民主主義はピープルパワーであるという言葉は 目からウロコだった


    日本を「普通の国」でなく、「ちがうことをする国」
    *日本の成功は 貧しい人も 金持ちもいない 中どころの経済を作ったこと
    *政治家や官僚に 一喜一憂しても仕方ない〜軽挙妄動せず、自分の在り方を考えるべき〜認識はきちんと行い、思考は自由に行う
    *災害大国日本の在り方〜市民が被災者を救援し、自衛隊を災害救助隊に変える


    教育の在り方
    *人間は 競争のために生まれてきたのでない〜お互いの人生を満喫しながら、社会を発展させるために、そこで生きるために生まれてきた
    *教育は 自由な人生を満喫するための土台づくりとしてある



  • 日本の大きな問題を草の根から変えるんだ、と市民活動を展開し、政治のあり方や戦争への日本の姿勢や世界の中での役割を「こうすればいいんじゃないか?」と自分の考えを口に出した本だなと思いました。
    特に印象に残ったのは、選挙の部分。政党に所属する政治家を選ぶんじゃなくて、政策単位で自分たちの考えに最も近い政党や政治家にその時点では任せる、結果が出せないなら他に任せる、方向を決めるのは市民側であるべきだ、っていうところはまさにその通りだと共感する部分がありました。考え方や利害が一致しているから応援するんであって、何をやっても任せる、あなたに全面的に賛成なんてありえない。でもそのためにも、市民側のやるべきこととして自分の中でどこに問題あると捉えていて、どうすれば解決できると考えるかをはっきりさせないとなと思いました。

  • 戦後日本は平和憲法のもと、軍需産業でなく平和産業でこれだけの豊かな経済を築き上げて来ました。貧乏人も、大金持ちもいない社会。これには平和憲法の元だからなし得たものです。平和主義と結びつくような民主主義と、自由を中流の暮らしを土台にして、世界の理想を追求していくことの重要性を訴えています。しかし、今では格差が形成され、中流の土台も揺らぎ出しています。それと集団的自衛権の容認によって平和主義が亡くなろとし、個人の自由を奪われようとされています。小田は警鐘を鳴らします。富国強兵策にでたら必ず徴兵制がひかれると、

  • 小田実氏の亡くなる直前に出版された最後の本。『小田実の英語50歩100歩』(河合文化教育研究所,1989)と続けて読む。彼が「護憲派」であることは疑いないが、「左翼」かどうかというと、そう思えない、それどころかそんなことはどうでもよい、と思えてくる。彼は40年以上前に世界各地を見聞し、その体験があるからこそ、一貫して日本人の立場から思考し行動している。そして世界を云々する前に市民として日本(人)をなんとか動かそうと行動し続けた人だということがよくわかる。彼は間接民主制を信じない。投票に行くことだけが民主主義的なやり方だと信じて疑わない者を一喝している。「ボケを解消する一番の方法は、デモ行進をすることですよ」(p141)。この国に欠けているのは「理想」だということを改めて感じさせられる。

  • いささか期待はずれだった本。
    名前だけしか聞いたことがなかったが興味を持っていた思想家の書物。この本を読むまでは、ベトナム戦争に反対した平和を愛する温厚な、理路整然とした活動家だと思っていた。

    大阪大空襲の惨事の経験者であるだけに戦争反対の声はわかる。だが、それ以上の現実的な解決策が見えないという気もする。あの当時の全共闘の活動は暴力的だった。

    イラク派兵違憲訴訟で、派兵が精神的苦痛だと訴えた原告代表の小田氏。裁判所は多数決の民主主義におもねって市民をながしろにしている、と訴える。だが、憲法以外の法律、ことに訴訟法を少しでも理解している者なら彼の訴えがおかしいことがわかる。イラク派兵において、なんらの原告適格も有さないのだから。精神的苦痛はデモや集会の活動で晴らしてくださいね、という裁判所の判決は正しい。
    表現の自由が許されるからって、どこでも街宣活動したりビラ配りして、他人の管理権を侵害すれば、それ自体が違憲になる。

    左翼系の言動のおかしさにはじめて気づかせてくれた、という意味では貴重な本。

  • テレビで小田実氏の映像を見て

  • [ 内容 ]
    戦争に正義はない。
    殺し殺される戦争の連環を、小さな人間に過ぎない市民が断ち切る原理と方法は何か。
    軍事経済一辺倒の世界史の中で、平和経済でも繁栄が築けることを初めて証明したのが日本だ。
    酷薄な格差社会を打破し、世界中にほどほどの豊かさと自由を築く鍵は、日本の平和憲法と「中流」にある。
    行動する作家の祖・小田実が語り明かす、「日本の価値と誇り」。

    [ 目次 ]
    序章 被害者にも加害者にもならない未来へ
    第1章 「戦争に正義はない」からの出発
    第2章 「サラダ社会」実現への積極的提案を
    第3章 市民自らが政策をもとう-市民の「政策提言」教育
    第4章 中流の復興-日本の「中流」が世界を変える
    第5章 古代ギリシャから考える民主主義と文学
    第6章 「刀を差さない心」をもつ日本人として生きる
    第7章 「日本の価値」とは何か
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  • ・・・
    H20.11.12読了

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