本当は危ない『論語』 (NHK出版新書)

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  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140883419

作品紹介・あらすじ

『論語』はただのお説教本ではない。扱い方によって猛烈な毒にも最良の薬にもなる恐るべき力を秘めた書物である。その力は東洋の歴史を支配し、幕末の日本に革命をもたらした-先入観なしに『論語』を精読するために不可欠な基本知識を踏まえながら、この多面的で危険な古典の神髄を解き明かす画期的な『論語』読本。

感想・レビュー・書評

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  • 論語の成り立ち、孔子の生涯、日本における論語について書かれている。

    副読本に過ぎなかった論語が、江戸時代には、天下を支配するための「漢文の思想の力」として利用されたが、幕府は、論語が革命の起爆剤となりうるため、儒教徒化は規制するという「日本化した水割りの儒教」にとどめた。信長は武力で、秀吉は金の力で天下を支配しようとしたが、思想の力を利用したのが家康だという。

    論語は、支配する側の道具としても、教養として読むこともできるが、革命のエネルギーとして利用したのが、松下村塾という志縁集団の志士であり、論語は読み方によっては「危ない」という所以である。

    孔子自身は地味な人生であり、論語は孔子が書いたものではなく、聖典でもなかった。漢文の解釈の仕方によって意味も変わってくること、論語が古くから日本に入ってきてはいたが、思想として定着するのも江戸以降だとすると、それまでの日本の思想は何を規範にしていたのか疑問に思うと共に、論語を真面目に読む意味があるのだろうかと疑問を思ってしまった。

  • あまり表題と内容は関係あるように思えない。解釈いくつもできることをもってこうした表題ととなったか。

  •  コロナ巣ごもりで再読する。
     高島俊男師が鬼籍に入られた今、加藤徹先生を中国古典の水先案内人と頼んでいる。
     巻末に諸星大二郎『孔子暗黒伝』への言及があるのは嬉しい。

  • 孔子の生涯と『論語』という書物の成立過程について解説するとともに、とくに日本において孔子の思想がどのように受容されてきたのかということを、わかりやすく説明している本です。

    『論語』という書物の成立過程とその読まれかたについて、興味深い実例を紹介している本として、おもしろく読めました。ただ、とくに日本文化に対する孔子の思想の影響については、じゅうぶんに説明されていないような印象もあります。とくに本書のタイトルになっている『論語』の「危ない」側面については、孔子がその後の東洋文明のかたちをきめた「志縁集団」の創始者であるということや、かつての日本人がそうした孔子の思想の「危ない」側面を熟知しており、それに対してある程度距離を置いてきたといった点については、もうすこしていねいな説明がほしかったように思います。

  • 思索

  • 数年前から「古典を読む」という目標を立てていましたが、今年になって初めて古典を読むための準備をしようと思い、古典について解説された本を読み始めています。

    この本は「論語」について書かれていますが、私の「論語」に対する知識は、30年以上前の高校時代に受けた古典の授業しかありません。それもあまり熱心に聞いていた記憶もないので、無いに等しいです。

    そんな私が、このタイトルの異常さに惹かれて手に取りました。論語は現代まで語り継がれている有名な古典なのに何が「危ない」のだろう、という好奇心がこの本を読むきっかけです。

    宋の時代に制定された四書における順位は、大学についで二位と高いものの、漢の時代に制定された「五経」の中に指定されず、論語は副読本のような扱いを受けていたのは驚きでした。

    それでも、日本では江戸時代に論語は武士が修めるべき学問とされていたので、私もいつかは読んでみたいと思いました。

    以下は気になったポイントです。

    ・漢民族以外で、漢字や「論語」を本気で受け入れたのは、朝鮮半島、ベトナム、17世紀以降の日本など、集約農業の国ばかり。人間関係の潤滑油として、上からの政策として論語を導入した(p6)

    ・今日では最高の古典とされる論語は、意外にも初めのうちは経典より格下の雑書として扱われていた、論語というタイトルもずっとあとになってからの命名、それにあたる書物は、「伝」と呼ばれていた(p20)

    ・論語は、孔子の死後に編纂された書物なので、孔子自身の筆は加わっていない、孔子の無名の孫弟子あたりの著作(p23、28)

    ・昭和は書経から、平成は、書経と史記が出典である、大正は書経と並び儒教の最高の古典とされた易経、論語は長い間、格下の二流の書物とみなされていた。論語の地位が高まるのは、11世紀、新儒教の時代から(p25)

    ・歴史に大きな影響を与えた儒教の人物は、孔子、孟子、荀子、朱子、王陽明の5人(p27)

    ・古代中国において、経典は2種類、最も重要な先王の言葉や思想を伝える古典は「経」、この「経」の意味内容を補完する伝承を記した古典は、「伝」(p31)

    ・経典の数は当初は「五経」だったが、時代が下るにつれ、6,7,9,11,13と拡大された。7経の段階でやっと6番目にカウントされた、宋の13経でも徐哲は10番目(p33)

    ・朱子は、大学、論語、孟子、中庸、の4つを「四書」として選定した。四書の「書」は、書経の意味ではなく、書物という意味。まず四書を、そのあと五経を学ぶのが朱子学のコース。朱子学以降、「四書五経」が儒教の必読書となった。(p36)

    ・孔子は、本格的な中国史が始まる前に生きた古い人物、孔子が生まれたのは、年次が特定できる最古の時代から300年程度しか経過していない、総人口も500万人程度(p39)

    ・旧暦で、孟秋(7月)、仲秋(8月)、季秋(9月)という、兄弟の順番で、長男は孟、まんなかは仲、末っ子は季、と呼ばれた(p71)

    ・孔子の時代、人間の身分は、王・候・卿(けい)・大夫・士・民・奴婢、であった(p74)

    ・孔子が理想とした周の礼では、士が修めるべき「六芸」は、「礼、楽、射、御、書、数」の6教科であった、礼儀作法、音楽、弓術、馬車操縦術、国語、数学(p103)

    ・孔子の有名な詩は、意訳すると、「わしは14までは学問が好きでなかった、29まで自立できなかった、39まで自信がなかった、49まで天命をわきまえなかった、59まで人の言うことを素直に聞けなかった、69までやりたいことをするとやりすぎた」(p127)

    ・漢文の中にある漢字を、音読みで読むか、訓読みで読むか、しばしば擬音感によって決定された(p136)

    ・江戸時代になるまで、孫子は秘伝であった、どう訓読してどういう意味か、学者に解説してもらわなければ分からなかった。それを学んだ武将は恐れられた。しかし江戸時代になって秘伝ではなくなった、お金さえ出せば、誰でも返り点を印刷した書物を買えた(p151)

    ・孔子の思想によれば、政治の要諦は、「食・兵・信」の3つである。政治家はまず食糧を確保し、次に軍備を充足し、そして人民の信用を得る。最も必要なのは信用である(p182)

    ・家康だけが、信長、秀吉と異なり、子々孫々にわたり権力を維持できた、その秘密は、漢文の知識に精通したブレーンの入れ知恵で、儒学による武士の思想改造を行ったことにある(p196)

    ・日本には科挙のような漢文の試験はなかったが、その代りに寛政の改革のときから、素読吟味や、学問吟味、という制度が始まった。論語などのテストに合格しないと、家も継げないし、幕府の役人にもなれない。武士の子供は、論語など、四書五経を必死に暗記するようになった(p215)

    ・明治生まれの人は、幼児のときにみっちり「論語」など「四書五経」の素読を叩き込まれていたので、理科系学者や技術者も漢文の素養を持っていた(p232)

    2015年7月18日作成

  • 論語を多角的な視点から見ることができる。但し、表題の「危なさ」については、創造以上の展開がなかったのが残念。貝と羊の中国人が素晴らしかっただけに。

  • 論語には句読点の打ち方で何通りにも解釈できる部分があるというのが面白かった。
    徳川幕府が儒学を奨励して安定を保つ道具としたというのを初めて知って、社会の安定には教育が大事と改めて思った。織田信長、豊臣秀吉の布石もあったとは思うが、国の思想の均一化に儒学を使い、儒教は禁じたというのは徳川家康という人は全体や先を見る力がすごくあったんだなと思う。著者が書いていらっしゃるように論語は使い方によって毒にも薬にもなるということが、徳川の時代のことからよく分かった。
    日本で初めてしっかり論語を読んだ武将が加藤清正だということで、機会があれば加藤清正についてもっと知りたいと思った。

  • 一般の解説書は、孔子を聖人君子、論語を聖典的にとらえ、
    非の打ち所のないもののように書かれていることが多いが、
    本書は、歴史的な背景を踏まえつつ、淡々と推測される事実
    を書いている。
    従来のイメージからかけ離れた部分も多いが、それにより論語の
    価値を貶めるものではなく、より深く読むための参考になる。
    孔子についても、論語についても歴史的な資料が少なく、本当の
    事実は誰にもわからないが、本書のような考え方も大変おもしろく、
    興味深く読めた。
    孔子のいうように、バランスのとれた考え方を持つためには、
    いろいろな考え方に触れておくことが必要であり、本書の存在は
    価値あるものである。

  • 論語の多面性と、面白い読み方を探っていく。書いた弟子達のパワーバランスだったり、間違いだったり、擬音感だったりと、論語および周辺書籍を読みたい、と思わせる素敵な本。日本人と中国人、どちらが粗野で仁を持っていないか、論語の捉え方から考えてみると面白いですね。
    歴史や古典の授業では、誰が何年に何をした、なんてことより、こういうことを教えたほうがいいと思うなあ。

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著者プロフィール

1963年生まれ。明治大学法学部教授。専攻は中国文学。主な著書に『京劇――「政治の国」の俳優群像』(中央公論新社)、『西太后――大清帝国最後の光芒』(中公新書)、『貝と羊の中国人』(新潮新書)、『漢文力』(中公文庫)など。

「2023年 『西太后に侍して 紫禁城の二年間』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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