- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784140883907
作品紹介・あらすじ
社会活動家と脳科学者という異分野の二人が日本を縦断、新たな貧困支援策=パーソナル・サポートの現場を訪ねた。多くの生活困窮者と支援者の生の声に耳を傾けることから見えてきた、貧困の現状、本当に必要とされる支援、そして日本社会の未来とは。貧困をテーマに"人と社会が再び輝きを取り戻すための条件"について徹底的に語り合った、刺激的な対論。
感想・レビュー・書評
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まとめの章であるⅣが良かった。
貧困に陥った社会的弱者を自己責任で片付けず、一つの社会として、どういう救済?システムを組み上げることが出来るのか。
教育機会にしても、試験は公平さを掲げながら、試験を受けるまでの背景には、既に公平さを欠いた構造があるということ。
踏み外したら戻って来れない不安の中ではイノベーションは育たないということ。
そして、「一律」を遵守する日本のお国柄はそこから外れた人々を潰していくという。
最近読んだ本に、日本の「一丸」気質は、成長型社会においては驚異的な力を発揮したけれど、成熟型社会ではむしろ多様性を重んじなければならないとあった(何の本か忘れたけど)
この本でも同じく多様性(ダイバーシティ)の重要性について述べられていた。
これは、かなり個人的な感想だけど。
世界に出ると、都市の目立つ部分にホームレスがいたり、子供たちがわーっと寄ってきて、物を売り付けるという光景が見られる。
でも、そうした人に個人として幾らかのお金を渡しても、それは解決にならないとも言われている。
個人に出来ないことが、社会には出来る。
それが、茂木さんの言う「パブリックマネーも悪くない」なんだろう。
落ちこぼれても、社会復帰が可能な社会作りが出来れば、それはすごいことだと思う。
ただ、システムは一朝一夕には組み上がらないもので、その間に状況は刻一刻と変化する。
AIで仕事が変わるなんていう話は、最早あらゆる所から聞こえてくる。
今、目の前に一人の人がいた時に、自分には何が出来るんだろうと思った。
なかなか、難しい問題だと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
人格って、その人ひとりだけでできているわけじゃなくて、川の流れのようにたくさんの影響が集まってできている。だから、あなたという人は今まであなたが人生で出会ったすべての人の反映なんだということが、脳の研究の現場では、科学的にもわかってきたんですね。ということは、自分を高めたり、自分の命を輝かせるためには、人とつながらなくてはいけない。そういう意味においても、自己責任というのは、矛盾しているんです。・・・逆に言えば、ある人が少しうまくいかないのも、その人の責任ではなくて、その人が今までたまたまそういったつながりに出会えていなかった、というだけの話なんですね。
単にお金を支給すれば、セーフティネットとなるわけではない。・・・つまり、必要とされているのは、お金を出してそれで済ませるのではなく、あるいは社会保障費の額だけを政治問題にするのでもなく、社会の中に豊かな関係性を築いていく技術であり、工夫である。
いわゆる「空気」と言われるもの。忖度文化ともいわれますが。「一つの流れができた」と多くの人が感じると、個々人がそれを所与のものとして動き出して、結果的にそれが強化されるという、妙な増幅過程です。誰かが何かを言いだして初発の勢いを持った時というのがは、それはまだ少数の話なんですね。では、その後に続いた大量のフォロワーたちが、本当にその考えに強く賛同しているかというと、そういうわけでもない。・・・そうやって受け入れられていって、結果的に7割8割になったりする。これは、一人ひとりが誰かに説得されたというよりも、忖度文化の影響が強い。 -
「自己責任論というのは、『自分は関係ないよ』という『社会的無責任論』である」、という考えに共感した異分野の湯浅さんと茂木さんが、パーソナルサポートの現場を回り、貧困の実情とその原因を探っていく本。湯浅さんの考えには声を出して「うんうん」と言ってしまうぐらい、今までなんとなくあった違和感を言葉にしてくれていた。また、脳科学という別の側面からその事実が裏付けられていくのがおもしろかった。
困りごとを抱えた人を支えていくことで社会全体が強くなるため、そういった人を切り捨てる考え方は全体にとってマイナスという捉え方が今まで自分にはないものだった。誰しも人権があるという価値観で支援者になることを決めたが、それは結果的に社会にとってどうかということまで考えていなかった。
「わかりやすいものは良くて、わかりにくいものは悪いもの」とい善悪のつけ方は、とても危険です。
2009年から民主党政権時代に内閣府にも参与し、政策を変える過程に人を納得させることの難しさを感じた湯浅さんの言葉はずっしりと重いものがあった。これから調整する立場の仕事に就く自分に意思がなくて、社会にとっての善悪がわかるだろうか。社会が持っている多様な意思を理解できるだろうか。そう思って、これから新聞を読みたいと思った。 -
貧困問題の活動家と脳科学者が編んだ、ちょっと変わった形式の対談集。
湯浅が内閣府参与となって手がけた「パーソナル・サポート・サービス」(※)の現場を、茂木と2人で探訪し、そこから感じたこと・考えたことを語り合う内容なのだ。
※「様々な生活上の困難に直面している方に対し、個別的・継続的・包括的に支援を実施する」もので、「全国19地域においてモデル・プロジェクトが実施されて」いるという。
茂木は貧困問題に無関係だし、ミスキャストではないかと思ったが、読んでみたら意外にいいこともたくさん言っていて、悪くない。
サポートの現場を訪ねた際の、当事者たち(サポートされる側と、スタッフ)とのやりとりも記録されている。
そのうち、母子家庭の貧しさから中卒後すぐに働き始めたという15歳の少年とのやりとりが、たいへん感動的だ。そこでは、湯浅と茂木が二人がかりで抱きかかえるように少年を励まし、アドバイスしているのである。
たとえば、母親に高校進学を反対されたという少年に、茂木は言う。
《お母さんは、君にとってすごく大きな存在だと思うんだけど、ある意味で、お母さんが小さな存在に見えたとき、初めてお母さんに恩返しができるっていうのかな。》
また、湯浅は次のように言う。
《いま仮に対立することがあったとしても、将来はもっと仲良くなることがある。その一方で、いま我慢することで、もしかしたら一生お母さんを恨むことになるっていう人生があるとしたら、こっちのほうがいいだろう。そういうこともあるんだよ。だから、今すぐに結論を出さなくてもいいから、もうちょっと考えてみるといいと思うよ、僕は。》
ほかにも、2人がそれぞれいい発言をたくさんしており、貧困問題を考えるうえで示唆に富む良書になっている。たとえば――。
《生活が困窮している人への支援について語るとき、これまでは、恵まれない方への温かい気持ちや、慈善の精神といった面だけが強すぎたような気がするんです。そうではなくて、自分をより豊かにしていくためにも、その人たちとのつながりをつくる、というように発想を変えていく必要がある。(茂木の発言)》
《私は20年ぐらいこの分野で仕事をしてきたわけですが、ある人から「俺の知っている友達で生活保護を受けている奴はパチンコ三昧だ、だから生活保護なんてだめなんだ」と言われたりすることがあります。そうすると、私のほうとしては、「あなたはそういう人を一人知っているのかもしれないけれど、私はそうじゃない人を何万人か知っている」と思うわけです。こちらがこれまでやってきたことが、まったく尊重されない、あるいは配慮してもらえないことで、私自身もすごくがっかりした経験は何度もあります。(湯浅の発言)》 -
茂木健一郎さんということで、ちょっと足踏みしたのですが、なんてことはなかったです。
現場できちんと話をして現状の確認をしてセーフティネットをいかに広げるか、ということを、直接現地を回ってやっぱりそう思った、という書籍。 -
~べき はやめよう。
人はみんな違っていい。
きっちり人と向き合おう。人間を理解することが大切。
人とのつながりがなければ、金がないより生きづらい。
同質の人の集まりは足し算にしかならないが、異質の人の集まりは掛け算 -
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新たな貧困支援策=パーソナル・サポートの現場を訪ね、生活困窮者や支援者の生の声を聞く -
最後に今まで論じてきたことのまとめ的なおさらいがあって良かった。貧困とは金銭面だけじゃなく他者との関わりも乏しくなるということだ、といった内容の言葉に改めて気付かされたことがあった。
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良識ある大人同士の対話で安心できる。こういう良識ある人がちゃんといるんだと思うと、世の中捨てたもんじゃないなと感じる。
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人のつながり、人の多様性について考えさせられた一冊。
タイトルが違えば、あるいはサブタイトルがあれば、もっと広くいろんな方に手に取っていただけるのではないかと思いました。
マーク・グラノヴェッターの「弱いつながりの強み」、有益な新しい情報は「弱いつながり」の人たちから得られるケースの方が多い、という考え方が興味深かったです。
貧困に陥る方の多くは孤立していて、人とのつながりがほとんどなく、ゆえに有益な情報を得る機会も乏しい、とのこと。
なるほど、でした。
また、パーソナル・サポートのような「福祉」の「枠」にとらわれない支援のあり方についても、共感できる部分が多かったです。
運営資金をどうやって集めて、どのように運営していくのかが気になりました。
異業種交流、いいですね。
私も何かチャレンジしたくなりました。