終末の思想 (NHK出版新書)

著者 :
  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140883983

作品紹介・あらすじ

経済が上向けば、万事好調を装う日本社会。しかし、その先には幾重にも闇が広がっている。食と農を疎かにし、物を崇め、原子力エネルギーに突っ走り…負の部分を見ずに、すべてツケを先送りしてきた、その当然の報いが待ち受けている。ならば、いかに滅ぶべきか、死ぬべきか-敗戦の焼け野原から、戦後日本を見続けてきた作家が、自らの世代の責任を込めて、この国が自滅の道を行き尽くすしかないことを説く。著者渾身の一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 時に死を考えたまえと
    著者は言う。

    むろん自死のことでは
    ない。

    時々死の地点から生を
    見直してみなさいと。

    あちこちで見聞きする
    言説だけど、

    実践した人はどれだけ
    いることか。

    今日と鏡写しの明日が
    いつまでも続くように
    錯覚するのは人間の性。

    悲しいかな、
    人間とはそういうもの。

    でも、だからといって
    考えることを放棄する
    のは進歩なきこと。

    自分の死を思い浮かべ
    生きていることに感謝。

    そして、
    より良く在ろうとする。

    いつもそんなことでは
    しんどいけど時々はね。

  • 僕が野坂さんに注目を寄せるきっかけは近藤等則さんだった。近藤さんはトランペッター、野坂さんはシャンソン歌手共通点がないわけではないが、恐らく正確性質は全く違う2人だと思う。この2人を繋いじゃってくれたのは黒田征太郎さんである。お陰でお亡くなりになられてからも心通わせられそうなおふたりに会えた。感謝である。本書の内容そのものは終始一貫暗く耳の痛い話ばかりだが、むしろそう言わずまともに向き合える日を目指したい内容だった。令和4年2022年4月読了でまだ初版が手に入るあり得ないオマケもあり。

  •  敗戦を契機にして、この国は自滅への道を歩んでいると嘆いている。その中身は、
    ①原発事故の責任の所在が曖昧になっていること。スタート時からすでに曖昧になっていたこともある。曖昧なまま原発そのものを増やして安全性の問題も曖昧なまま
    既成事実をふやしていったこと。
    ②戦後の食料難に乗じて、アメリカの供給を受け入れざるを得なかったが、その後も日本の伝統的な食料文化も断念

    してTTPも受け入れようとしている。独立国は自国のもので自国を飢えさせないこと。アメリカは日本はどうにでもなる国と思っている。
    ③東京震災のこと、その対策が用意されてない。


     今置かれている現状を把握すること、歴史的にもその本質を認識して自立を自分たちのものにすべく行動する。
     無関心に無気力に刹那の日々を過ごしてはいけない。
    今さえ良ければいいと思ってはならない。このままだと日本民族は滅びかねないと考えているのだ。

  •  野坂昭如(1930。10.10~2015.12.9)著「終末の思想」、2003年脳梗塞、自宅でリハビリ中の2013.3執筆・刊行されてます。ご自分の思いを吐露した作品とお見受けしました。「質素・清貧・分を知る」といったかつての文化に思いを寄せ、「街は便利で清潔、全体に美々(びび)しくなり、人もまた見てくれきれい。醜くなったのはその生き方、消費文化の行きつく果て。」と警鐘を鳴らしておいでです。
     日本は気候に恵まれている。そして島国、海に囲まれている。土に戻り、農を大事にして、近海で獲れる魚、海藻を食べていれば生き延び得る。野坂昭如(1930.10.10~2015.12.9)「終末の思想」、2013.3発行。①少子化は現在にも未来にも希望が持てない本能のあらわれ ②地球上で人間だけが勝手気ままに振舞っている。歪んだ食(品種改良、防腐剤、添加物、人工着色料・・・)は元へは戻らない ③安楽死は最高の老人福祉である。

  • 「日本の将来について考える時、ぼくに希望は全くない」

    この一文から、この本は始まります。

    おそらく、こういう歯に着せぬ物言いを、できる人というのは、
    今の社会では、非常に限られていると思います。

    この本で、野坂氏は、食料自給率にやたらこだわっています。

    「人間の一番の基本は食にある。食べることで人は生きている。(中略)
    食はそれぞれの国の生き方と、つながり、そのには歴史があり伝統も息づいている」

    だが、日本は、それを「捨てた」と言う。

    「大事なもの」を捨てた基盤の上で、今の豊かな社会があることへの
    脆弱性を危惧しているのだろう。
    もし、海外からの供給がなくなったら、いとも簡単に崩壊するであろう社会に
    自分達は生きている。

    野坂氏の、物言いは、極端であるが、あながち間違いでもない。
    きちんと、データーを提示すれば、看破出来そうだが、
    野坂氏は、作家の直感に基づいて、発言している。
    それは、戦後しばらくの食料難を経験し、生きるとは、どういうことなのかを、
    皮膚感覚でわかっているからだろう。

    氏は言う。

    「薄っぺらでお手軽な世の中に、幾重にも正体不明の闇が広がっている。(中略)
    金や物を崇め、合理化とやらをすすめてきた日本。無駄だと省かれたものの中にこそ、日本の誇りがあった」

    そして、最後に
    「結局、何が豊かなのか判らぬまま、日本は滅びようとしている。戦後、その都度決着をつけてこなかったこの国、当然の報い」

    これが御年80歳を超える方の発言である。
    心地良いことばかりが、喧伝される世の中で、氏の主張は、やはり厳しい。
    しかし、こういう事を言う人がいなくなると、社会はどんどん閉塞感に覆われてしまう
    かもしれない。

  • 書下ろしは読みやすかったけど、過去の文章はちょっと読みづらい。

  • 《教員オススメ本》
    通常の配架場所:教員おすすめ図書コーナー(1階)
    請求記号 914.6//N97
    【選書理由・おすすめコメント】
    水や空気のように今の日本では当たり前のようにあると思われる食料。農業が衰退したらどうなるか、それどころか著者(2015年没)は既に「日本は食の敗戦国である」という。表題のように暗い内容だが、たとえ何があってもめげずに逞しく生きよというメッセージが聞こえることを期待する。昔だって乗り越えられたのだから。(化学・竹村哲雄先生)

  • レビュー省略

  • さすがに野坂氏も年齢を重ねられて、少々丸くなられた感じがしないでもないのです。(大島渚監督をひっぱたいたシーンが忘れられません。)氏の本質であると私は思っているのですが、随所に優しさがうかがえました。私はそこが好きなのです。文学は「生」や「死」を見つめることにつながると思うのですが、氏の作品の底辺にはこの「生」と「死」が流れていると思います。 いっぽうで、氏にはもっともっと毒舌を吐いていただき、辛辣な文章を書きまくっていただきたいのです。

  • 2013年ごろの文章だけでは足りなかったのか、1978年~2010年ごろのもので埋めている印象。まあしょうがない。大体著者が昔から言ってることばかりだが、日本語に関する話はちょっとピントがずれていると思う。もう85なんだからしょうがねえかな、という感じ。

  • 読んでいるうちに暗澹たる気持ちになっていくこと請け合いである…本当に日本に未来はないのか!?

    食のことはよく分かりませんけれども、確かに今後、日本が成長していくなんてことはありえるんだらうか? ってなことは僕もよく考えることなのであるからして、今作は中途で飽きることなく一気に読めましたね…

    なんというか、戦前生まれの人の言うことには説得力があるような…普段、接する機会のない世代の人ですから…こういった著書を読んで少しは戦前生まれの人とコネクトしたい…みたいな気持ちにさせられる著書でした。

    ヽ(・ω・)/ズコー

    著者の書いた小説なども読んでみましょうかね…あの有名な「火垂るの墓」の原作者なのですよ! 著者は…などと言ってみたところで、もはや現代には著者のことを知る人も少ないかもしれませんね…特に若人諸君は…おしまい。

    ヽ(・ω・)/ズコー

  • 戦争を体験したからこそ鳴らせる警鐘。
    豊かな時代しか知らない私には読んでいて共感できるところ、分からないところとあるけれどこの国がおかしな方向に向かっていることは感じているので色々と考えさせられた。
    農業の衰退、輸入任せの現在の状況は人が生きる上で必要な『食』すら自力で賄えない日本の歪な姿を分かりやすく浮き上がらせてくれました。
    文章の調子に馴染めないところもありますが未来を憂う警告の本として読みました。

  •  無から有を見出す、この本にはそうした一貫した流れがある。無。何もないという具体性。具体的な実感。そこから人は歩き始めなければならないと著者は言う。概念にばかり傾倒して具体を忘れた日本人に警鐘を鳴らしているのだ。
     桜は、これはもうあまりにも概念的な産物である。散り際の美しさは必ず何かのダシに用いられる。何かの演出に用いられるばかりだ。
     概念を捨てよ、具体から始めよと著者は言う。具体のつき詰まった先にあるのが、食うことである。食うことを大切にし、食べ物を大切にし、食べ物に対する知恵を粗末にするなというのである。そしてその先にある我々自身の身体と生活もだ。

     言葉遣いは固く、またかなり独特だが、なんのことはない。「土を離れて、人間は生きられないのよ!」(ナウシカ)
     これである。

     素晴らしい目のつけどころだが、なんとなくキライなので星1つ。

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著者プロフィール

野坂昭如

一九三〇年(昭和五)神奈川県生まれ。親戚の養子となり神戸に育つ。四五年の空襲で養父を失い、のち、実家に引き取られる。旧制新潟高校から早稲田大学第一文学部仏文科に進むが、五七年中退。CMソング作詞家、放送作家などさまざまな職を経て、六三年「エロ事師たち」で作家デビュー。六八年「アメリカひじき」「火垂るの墓」で直木賞を、九七年『同心円』で吉川英治文学賞を、二〇〇二年『文壇』およびそれに至る文業で泉鏡花文学賞を受賞。そのほか『骨餓身峠死人葛』『戦争童話集』『一九四五・夏・神戸』など多くの著書がある。二〇一〇年(平成二十七)死去。

「2020年 『「終戦日記」を読む』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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