現代世界の十大小説 (NHK出版新書)

著者 :
  • NHK出版
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140884508

作品紹介・あらすじ

私たちが住む世界が抱える問題とは何か?その病巣はどこにあるのか?そして未来はどこへ向かうのか?これらの疑問に対して、いま小説は、どう答えられるのか-。モームの名エッセイ『世界の十大小説』刊行から六十年、池澤夏樹が新たな「世界文学」を擁して激動の現代世界を問い直す。

感想・レビュー・書評

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  • 近年、個人編集で世界文学全集を刊行し、話題となった池澤夏樹さんが、主に第2次世界大戦以降の現代世界文学で「これは!」というおススメの10作品をピックアップ。
    芥川賞や谷崎賞を受賞した練達の小説家で、信頼できる書評家でもある池澤さんのガイド本です。
    読まないわけにはまいりません。
    本書で池澤さんが挙げている「十大小説」は次の通りです。
    ①「百年の孤独」ガブリエル・ガルシア=マルケス
    ②「悪童日記」アゴタ・クリストフ
    ③「マイトレイ」ミルチャ・エリアーデ
    ④「サルガッソーの広い海」ジーン・リース
    ⑤「フライデーあるいは太平洋の冥界」ミシェル・トゥルニエ
    ⑥「老いぼれグリンゴ」カルロス・フエンテス
    ⑦「クーデタ」ジョン・アップダイク
    ⑧「アメリカの鳥」メアリー・マッカーシー
    ⑨「戦争の悲しみ」バオ・ニン
    ⑩「苦海浄土」石牟礼道子
    ふう。
    ちなみにこのなかで、私が読んだ(所蔵している)のは、「百年の孤独」と「苦海浄土」だけという体たらくです。
    本書を読んで、10作品をすべて読んだ気になりました。
    それだけ作品の中に深く分け入って解説し、中身が濃いということです。
    たとえば、9歳の双子の「悪童」の視点で書いた「悪童日記」。
    池澤さんは、子どものいたずらというレベルをはるかに超えた双子の粗暴なふるまいを紹介する一方、物語の舞台の具体的な国名や地名、時代も一切明示していない点に着目します。
    「おそらく、みずから子どもの頃に深く体験したこの時代の祖国の現実や、そのなかで生きることの厳しさこそ、作者のもっとも書きたいことだったはずです。しかし歴史家ではなく文学者であるアゴタ・クリストフは、それを生のかたちではなく文学的に語ろうとする。固有名や時を特定しない民話的な枠組みのなかで、救いのない物語を毅然と容赦なく描くことを通じて、象徴性を帯びた寓話に昇華させる。これが作者の文学的意図でしょう。」
    作者の意図まで丁寧に解説されていて、思わず読みたくなりますね。
    こちらは読みましたが、「百年の孤独」もこんな具合です。
    「従来の小説、たとえば恋愛小説では、障害やじゃまを乗り越えて結ばれるという骨格がまずあり、そこにさまざまな具体的な障害をはめこんでいくという書き方をとります。全体から細部にいたるという方向の流れです。これに対して『百年の孤独』では、右にあげたような個々のエピソード、すなわち『細部』があまりにも多い。つまり<過剰>であるために、ある意味で作品の本質そのものになってしまっている。だから、それを無視して全体を語ることは不可能なのです」
    ははあ、と思わずうなりました。
    「百年の孤独」はそういう構造になっているのだと感心したのです。
    読んだつもりになって満足せず、いずれ本書で紹介された作品はすべて読むつもりです。
    余談ですが、池澤さんとは昨年、岩見沢に講演にいらっしゃった時にごあいさつさせていただくという僥倖に恵まれました。
    私にとっては文字通り雲の上の方なので、緊張して自己紹介する声が上ずってしまいましたが、池澤さんは終始優しい笑みを浮かべ、激励までしてくださいました。
    素敵な紳士でした。

  • 小分け読み本。
    返却期限が来たら、次回また借りて続きを・・。

    深堀具合が程よくて読み易い。

  • 世界にはこんなに読みたくなる本が溢れている。
    10の小説のうち、ひとつも読んだことはなかったけど、著者の池澤さんはひとつも責め立てることなく、「僕とあなたが共に生きる世界を、こんなに鮮やかに描き出した小説があるんだよ。一緒に読もう」と誘ってくれる(ような気がする)。
    決して美しいとか楽しいとかではないけど、強烈に何かを刻みつける作品ばかりだと感じた。
    それを巧みに選び出し、提示してくれる著者がすごい。

  • なかなか過激なチョイスで「十大小説」を紐解いてみせる。個人的に既読だったのは『苦海浄土』のみ。これは是非とも池澤夏樹が編んだ『世界文学全集』に挑まなければと思ったところ。こちらを読書に誘うエッセイかと考えると苦しいところもあるけれど、兎も角も最重要な作品を紹介していることは疑い得ない。私はバオ・ニン『戦争の悲しみ』を読んでみたくなった。文学の力というものを池澤夏樹が今なお(今であっても)信じていること、そのストイックな姿勢には非肉抜きで頭が下がる。不良の読者として、その姿勢を見習いたい。マルケスも読まねば

  • 本の本

  • 4〜5

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著者プロフィール

1945年生まれ。作家・詩人。88年『スティル・ライフ』で芥川賞、93年『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞、2010年「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」で毎日出版文化賞、11年朝日賞、ほか多数受賞。他の著書に『カデナ』『砂浜に坐り込んだ船』『キトラ・ボックス』など。

「2020年 『【一括購入特典つき】池澤夏樹=個人編集 日本文学全集【全30巻】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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