憲法の条件 戦後70年から考える (NHK出版新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140884522

作品紹介・あらすじ

戦後70年、日本人は憲法を本当の意味で「自分たちのもの」としてきただろうか。集団的自衛権行使をめぐる解釈改憲を機に、社会学者と憲法学者が世代を超えて白熱の議論を展開。「法の支配」が実現する条件や、ヘイトスピーチ問題が社会に投げかけるもの、そして民主主義の要である議会がなぜ空転するのかを真正面から考える。私たちの覚語を問い、未来を展望する一冊。

感想・レビュー・書評

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  • ●憲法は最高の外交文書でもあります。世界に向けて私たちがどのように行動するつもりなのか、世界の秩序と幸福に対して私たちがどのような使命を果たすつもりなのかを宣言する文書です。
    ●「法の支配」とは、その世界の支配構造の中で最も有利なポジションにいる人であっても、本には従わなければいけない、と言うことです。対義語として「人の支配」
    ●方が機能する2つの条件。1つは「抽象化」、固有名を使ってはいけないと言うこと。2つ目は「形式的な手続き」によって成立すると言うこと
    ●「法の支配」と「法解釈の支配」は違うと言うこと。集団的自衛権の行使は明らかに違憲である。
    ●靖国がA級戦犯を合祀すること自体は信仰の自由。問題がない。ただそこに日本の指導者が特別な意味を求めて参拝することが問題なのです。あるいは、靖国が、1宗教法人であるにもかかわらず、国家との特別な関係を保つことを望んでいることが問題なのです。
    ●A級戦犯に責任があると言う政治的合意によって、多くの日本人が免罪されているんです。そして中韓やアメリカと手打ちをしようと言うことにした。ところが、それすらも自らを否定されたような感じがして、自尊心を維持できないと感じる日本人が1部にいる。また、天皇が免罪されている以上、戦犯が悪いとは言い切れなくなってしまった。
    ●ヘイトスピーチには「守られるべき言論の1種である」と言う側面と、「他者の人権侵害である」と言う側面とがある。こうした二面性のために公権力の抑圧に対して、個人の人権で対抗しようと言うような単純な構造では戦えないのです。
    ●「表現の自由」はなぜ萎縮しやすいのか。これは社会への贈与と言う性質があるから。経済的利害に関わるものでは無いから。
    ●価値のない事であっても表現をする自由が必要。
    ●ヘイトスピーチをする人の気持ち。承認欲求が少し満たされる気分になる。SNSでのいいねと同じ。
    ●沖縄の米軍基地問題。原因はもっぱら日本語にある。すごくアメリカを歓迎して、とてつもないプレゼントをしている。思いやり予算など。でも他方で、本当は日本人自身が、アメリカにここまで依存することに、自分で納得のいかないものを感じているのです。
    ●憲法73条。内閣の権限として、具体的に何ができるのかを示した条文。「一般行政事務」のほかに「外交・条約締結」等の権限を明示されているけれども、「軍事」の規定は無いと言う点です。
    ●「集団的自衛しよう。一緒に自分たちを守ろう。ただし私が一緒に戦うのは、私が死活的に危ない時だけですよ」と言うのはとてもおかしいし奇妙だ。
    ●「差別」と「平等」の違い。不平等とは「合理的な根拠がないにもかかわらず受ける不利益」のことです。憲法学的には合理的な理由や目的があれば、その不平等は許容される。一方差別とは「人間の類型に向けられた否定的な感情」と言う形。まず人間を類型で見る事は、やってはいけないことだと言う価値観を共有することがポイント。

  • 気鋭の若手憲法学者と「不可能性の時代」等の概念で著名な社会学者の対談。ヘイトスピーチや集団的自衛権といった話題について、リベラル方面からの問題提起を行う。憲法は、もちろんひとつの国民国家において国民が政府と取り交わした約束ではあるが、現行憲法の前文にも「いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」という文言があるように、一国の利益のみに依るものではなく、本書で挙げられる「理性の公共的使用」や「国際公共価値」などといった理念に基づくべきなのだろう。

  • 憲法の条件について、元京都大学大学院教授の大澤真幸氏と対談したものである。少し前に違憲だとして話題になった集団的自衛権解釈の話題などあり非常に勉強になった。

  • 買ってから長いこと放置プレーしてしまった一冊。しかし、読み始めたらあっという間に読了。
    日本人ってやはり憲法に対しての意識が二極化してるだろうなぁ。朴も正直なことを言ったら興味深いないほうだったけど、これを読んで実状がわかった気がする。集団的自衛権、ヘイトスピーチとかとか。でも、同じ主題でも語る人の立場で見解が180度違うのが興味深い。だから、こういうことはちゃんと多面的に捉えた上で自分の考えを持つことが大事。

  • 木村草太の対論を連読。今回は、社会学者・大澤真幸が相手でしたが、二人の学者によって非常に高尚なレベルでの憲法論が展開されているのはわかるにしても、それが私たちにどうつながっているのか、他人ごとに思えてしまうのでは、今の憲法との関係と同じになってしまいます。
    二人には、それを自分ごとと感じさせる工夫を、私たちもそれを受けとめる努力が必要だと思います。

  • 木村草太『憲法という希望』(講談社現代新書)p.156

  • 2015年刊。◆全体を通読した読後感は、著者とは憲法の捉え方(説明の手法?)が違うかもしれない(勿論結論に明瞭な反対箇所は少ないし、どうしようもないレベルの憲法論とは異質と理解可能なのだが)という印象。例えば、木村≒長谷部恭男の法の支配論、広義の国際法に依拠しすぎな説明等。◆ただ、その論の前提たる疑問、例えば①熟議の場、討論の場としての議会制度自体の形骸化への懸念は尤もだし、②集団的自衛権容認立法=片思い米国へのラブレター=この目的達成に有用ではない等はフムフムと。◆なお、著者の北岡伸一評には苦笑。

  • 憲法について騒がれることが多くなったので学びのために手に取った本。
    集団的自衛権、憲法9条といった世の中で騒がれているようなポイントだけではなく、憲法そのものについての基本的な考え方を学ぶことができる。
    ただ、法に対しての人の解釈が無数あるように、法そのものに対しての基本的な考え方も他にも多くあるのだろうという予感はしている。
    これはあくまで一つの意見ということで解釈している。特に初心者の私にとっては最初の一歩の本なので、これがすべてだと真に受けてしまうのは危ないなと。

    ただ個人的に大いに共感できる意見が多かったのも確かだ。
    憲法9条はどこの国にもない誇れるものだと思う。

    例えば1000年たって人類が戦争で滅びかけていたとして、人は思うだろう。
    なぜあの時人類は平和を求めようとしなかったのだろうか?なぜ自国の、自民族の利益を追い求め、争い、傷つけあったのだろうか?と思うだろう。

    その時に日本国憲法第9条が発見されば、やはり人類の中には良識がある者もいた。と思うだろう。

    未来のために残したい、そんな憲法なのだと思う。
    もちろん各国が自国中心の利益を求める中、この憲法で自国を守れるのか?本当に大丈夫なのか?疑問はある。
    が、日本だからこそ持てたこの独自の憲法。安易な道を選ぶ前に、しっかりとした議論を行うことは強く感じる。

  • 例えを多用した議論の積み重ねがわかりやすく、一気に読めた。
    哲学から日本国憲法へのアプローチは興味深い。ルソーやカントなどからの引用も勉強になった。
    「選挙権は権利というより公務」という考え方にはなるほど、そうだよなと納得。
    「国家緊急権」についても理解が深まった。

  • 社会学者大澤真幸さんと憲法学者木村草太さんの対談で、新書ということもあり、ライトな語り口、難解なところなど全く無く、余り本を読まない人でもすんなりと一気に読めるだろう。
    大澤さんのいつもの心理学的な視点や独特のキーワードも冴えており、本書では特に中核となる「法の支配/人の支配」という二項対立を提起し、一貫して言及される。
    日本人にはいまだに「法の支配」という近代社会の原則がなじめない。「法」を外部からの介入としてしか感じ取れないのだ。その上、戦争の責任者を結局うやむやにして過ごしてしまった点、ドイツとは真逆である。日本人は自らが引き起こした戦争を、あたかも天災か何かのように、まるで自分たちが被害者であるかのようにイメージして、そのままの心情を保持してきた。
    戦後はアメリカにひたすら思いを寄せ、中国が経済的に台頭してくると、アメリカからの「愛」を取られまいと、ますます必死に媚を売る。すでに沖縄等の米軍基地や「思いやり予算」などという法外なもので徹底的に服従してきたのに。
    最近無理矢理成立された安保法制は、木村草太氏が断言するように、間違いなく「違憲」であり、しかも安倍晋三やその一派が繰り返してきた妙な「例示」や説明がいかに馬鹿馬鹿しくデタラメであるか、本書では明確に語られている。
    ここで指摘されているように、「集団的自衛権」はその本質が理解されることも無く(もしかしたら安倍自身も全然理解していない)、「日本を守るため」という不可解な名目で自公政権が打ち出してきた。勘違いやデタラメばかりの彼らの説明を、真に受けて信じてしまった国民がいるというのが情けない。
    他にもヘイトスピーチやネトウヨについての分析が面白かった。彼らは「国に愛されていない」と感じ、「国に愛してもらいたい」と必死なのである。つまり彼らの場合愛国者といっても「国に愛されたい者」の意味なのだ。
    学術的な論述を好む私としては、この小冊子ではちょっと物足りない部分もあるものの、万人向けのわかりやすい本として、本書はおすすめできそうだ。
    ただし、「国家的な緊急事態への対処を決めておくべき」という議論の部分は、いま安倍自民党が目指している改憲=緊急事態法案の中身とはどうやら異質なもののようだが、そのへんは本書では詳細に突っ込まれていない。それもそのはず、これは昨年(2015年)1月に刊行された本なのである。

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著者プロフィール

大澤真幸(おおさわ・まさち):1958年、長野県生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程修了。社会学博士。思想誌『THINKING 「O」』(左右社)主宰。2007年『ナショナリズムの由来』( 講談社)で毎日出版文化賞、2015年『自由という牢獄』(岩波現代文庫)で河合隼雄学芸賞をそれぞれ受賞。他の著書に『不可能性の時代』『夢よりも深い覚醒へ』(以上、岩波新書)、『〈自由〉の条件』(講談社文芸文庫)、『新世紀のコミュニズムへ』(NHK出版新書)、『日本史のなぞ』(朝日新書)、『社会学史』(講談社現代新書)、『〈世界史〉の哲学』シリーズ(講談社)、『増補 虚構の時代の果て』(ちくま学芸文庫)など多数。共著に『ふしぎなキリスト教』『おどろきの中国』(以上、講談社現代新書)、『資本主義という謎』(NHK出版新書)などがある。

「2023年 『資本主義の〈その先〉へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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