シリーズ・企業トップが学ぶリベラルアーツ 宗教国家アメリカのふしぎな論理 (NHK出版新書 535)
- NHK出版 (2017年11月8日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784140885352
作品紹介・あらすじ
なぜ進化論を否定するのか?なぜ「大きな政府」を嫌うのか?なぜポピュリズムに染まるのか?あからさまな軍事覇権主義の背景は?歴史をさかのぼり、かの国に根づいた奇妙な宗教性のありかたを読み解き、トランプ現象やポピュリズム蔓延の背景に鋭く迫る。ニュース解説では決して見えてこない、大国アメリカの深層。これがリベラルアーツの神髄だ!
感想・レビュー・書評
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トランプ大統領を誕生させたアメリカの背景を述べた本であるといえる。
アメリカンドリームと結びついて、キリスト教は土着化し、自分が努力さえすれば神が祝福し成功するという考えを生み出した。これは、プラグマティズム、アメリカの幸福と正当性を約束する幸福の神議論、反知性主義、自由意志力への崇拝などとつながっている。
上記の要因が絡み合って、エリート政治家よりたたき上げのトランプを自分たちのトップに選んだのだ。
詳しくは、この本を読んでもらいたいが、最後の章は白けるなあ。とってつけたような章であるよ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『反知性主義』と『異端の時代』のエッセンスを凝縮した講義録。ポピュリズムの視点からみたトランプ、オバマ、サンダーズの共通性など、挙げられている事例も興味を惹く。森本氏の議論に関心のある人は、まずはこの本から手に取るのがよいと思う。
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アメリカという国を宗教という観点から解説しているんだけど,とにかくわかりやすい.ニュースで何となく感じる違和感の裏にはこういう論理があったのかと腹に落ちた.
キリスト教がアメリカで「土着化」する過程で,「人の声=神の声」という考え方が広まり,成功を収めた人=神に祝福された人という考えるようになった.成功を収めた人は「みんなやればできる!」のだから,政府は小さい方が良いと言う.
でもみんながみんな頑張れる訳じゃないし,頑張れる時もあれば頑張れない時もある.給与明細を見て「一生懸命働いて得た給与なのに,何でこんなに税金引かれるのよ!」と思うけれど,私が今頑張れていること自体,多かれ少なかれ国家,そして支えてくれる色んな人のお陰であり,それに対する感謝の気持ちと考えれば良いのかな.そして,自分だっていつか国家に助けてもらう時が来るのだ.
アメリカはこれまで負けたことがないから,その思い上がりが「反省なきポピュリズム」を招き寄せたという指摘は面白い.戦争は良いことではないけれど,日本は敗戦したからこそ反省し,今日の姿があるのかなと思った. -
アメリカは言わずと知れた超大国で、芸術も音楽もスポーツも優れたものがいくらもあります。
ノーベル賞の受賞数だって300以上あり、2位のイギリスの3倍と圧倒しています。
それなのに、大統領選となると、稀に頭がちょっとアレで思慮に欠ける人を選んでしまうのは何故だろうと、これは長年の素朴な疑問でした。
言うまでもなく、直近ではトランプさんですが、少し遡ってブッシュさん(特にジュニア)、かなり遡ってアイゼンハワーさんも結構なアレだったと物の本で読んだことがあります。
中でもトランプさんなんて、我が邦のどこの村にも1人はいる、尊大で金持ちの保守オヤジと大差ないですもんね。
個人的には、こういうタイプの人は愉快で気を遣わなくて済むので好きですが、国のトップとしては果たしていかがなものかと…。
で、私の長年の疑問に答えてくれそうな本が、読みやすい新書で書店に並んでいたので購入した次第。
森本あんりさんなら信頼できますしね。
結論から言うと、トランプさんみたいな人が大統領に選ばれるのは、ある種の宿命だということ。
日本では、一代で成功した成り上がり者やにわか成金には、どこか冷ややかな視線が注がれますが、アメリカでは「アメリカンドリームの体現者」として尊敬されます。
トランプさんもその価値観で評価されています。
では、その背景に何があるのかというと、キリスト教がアメリカに土着する中で生まれた「富と成功」の福音があるというのです。
三段論法で言うと、①神は、従う者には恵みを与え、背く者には罰を与える②ところで、自分は成功し、恵まれている③だから神は自分を是認している。自分は正しいのだ。―というわけです。
何だか無茶苦茶な論法ですが、アメリカでは自然と受け入れられているようです。
さらに、森本先生お得意の「反知性主義」がアメリカ社会に広く浸透していることも大きい。
反知性主義とは、知性そのものを蔑視する態度ではありません。
知性と権力の結びつきが固定化することへの反発です。
つまり有名大学を卒業したエリートだけが重用される社会に敵愾心を持っているのですね。
有り体に言えば、「エスタブリッシュメントはいけ好かねぇ」というわけです。
その背景には、ハーバード大卒の牧師が幅を利かせていた時代に、ろくに学歴もない巡回説教師が各地で説教し、大衆の支持を集めたことがあります。
説教師によっては圧倒的なパフォーマンスで大衆を熱狂させたそうで、その様は今の大統領選の熱狂ぶりにも通じるものだと、森本先生は分析しています。
トランプさんみたいな人が支持される素地が、アメリカには十分にあるわけですね。
さて、トランプさんの率いるアメリカと同盟国である我が邦の政権の担い手は、安倍さんをはじめ大半が2世、3世のエスタブリッシュメントです。
そんなことも頭の片隅に置きながら、アメリカとの付き合い方を考えていくといいかもしれませんね。 -
米国だけが 異質な理由。宗教史の観点からの解説。
現世での成功を持て囃し それを軸に国家を作ってきたこと、 その裏には繰り返される平等主義からの権威への挑戦がある。それが反権威主義となって繰り返される。
ひとつの軸 -
面白かった!
読みやすく学び多い、会社員的に嬉しいコンセプトの本です。
ニュースで触れる米国の「極端さ」を、今後は一段深く観察できそう。 -
政教分離を行ったアメリカにおいてキリスト教が宗教として純化していったことを切り口としてアメリカ的なものを読み解く。ポピュリズムも善悪二元論の代替宗教といえる。
反知性主義は誤用されることが多く、反知性・主義ではなく、反・知性主義である。まず知性主義が正しくとらえられなければならない。 -
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シリーズ・企業トップが学ぶリベラルアーツ 宗教国家アメリカのふしぎな論理 (NHK出版新書)
by 森本 あんり
それは、アメリカという国がさまざまな側面において、宗教という 鋳型 で作られているから
なぜいまポピュリズムがアメリカを席巻している
人びとは思い思いに書いたプラカードを掲げ、Dump Trump, Racist, Sexist, Anti-Gay!(人種差別・女性差別・同性愛差別のトランプを追い出せ!)と、調子を合わせてスローガンを叫んでいます。子どもも老人も、白人も黒人も、女性も男性も、家族連れも同性カップルも。歩道にいた人びとも「一緒に声を上げよう」と誘われて、次々に加わっていき、デモはどんどん膨らんでいきまし
もともと知性は権力と結びつきやすい性質をもっています。そしていったん結びつくと、それは自己を再生産するようになる。つまり、知性は固定化し、固定化すると堕落するのです。 トマ・ピケティの『 21 世紀の資本』( Le Capital au XXIe siècle)が日本でも評判となりましたが、この本が突きつけた問題も同じです。金持ちは金持ちを再生産する。上流階級は良い教育を受けて、その子どももまた良い学校に入る。すると、彼らもまた良い仕事について、良い収入を手にする。逆にそうでない者は、いつまでもチャンスがなくて浮かび上がれない。 こういう階級の固定化に腹を立てているのが、現在のアメリカなの
いつもそのたびに候補者から福音派の願いを 叶えてくれるかのようなリップサービスを受けながら、候補者が当選し、いざ政権を担当する段になると、ほとんど恩恵はなく、裏切られてばかりでした。 そんな彼らからすると、トランプは、確かに下品で乱暴ですが、心の内にあることと口から出てくる言葉が 甚だしく違っているということがない。それは政治家としてはまずいけれども、福音派から見ると、彼こそ「正直な人間だ」ということになるわけ
もしアメリカがこれまで「偉大」だったとしたら、それは国内だけでなく世界中に正義や人権や民主主義を普及するといった目的理念を掲げていたからです。その姿勢は、いつも独善的ではた迷惑だったかもしれません。 高邁 な理念の下には、 怜悧 な国益の計算もまた 潜んでいたことでしょう。 しかしそれでも、こうした大義名分があってこそ、アメリカのパワーとヘゲモニー(覇権)は曲がりなりにも国際的な認証を受けてきたのです。アメリカを「偉大」にしてきたのは、経済力や軍事力だけではない。それによって何を達成しようとしているのか、という目的の正統性でし
次章で詳しく考察するポピュリズムは、陰謀論と非常に相性がいい。アメリカは、ポピュリズム発祥の地でもあり
ポピュリズムのもつ熱情は、本質的には宗教的な熱情と同根
政治とは本来、妥協と調整の世界です。一方的な善の体現者もいなければ、一方的な悪の体現者もいませ
だからポピュリストの発言は、妥協を許さない「あれかこれか」の原理主義へと転化しやすいのです。 市井 の人びともこれを歓迎します。善悪二元論的な世界理解は、日頃抱いている不満や怒りを、たとえ争点とは事実上無関係であっても、そこに集約させてぶつけることができるから
つまり多数者といっても、全体ではなくあくまでも部分にすぎないのです。そして統治者もまた、全国民の代弁者ではありません。 部分が全体を僭称するとき、正統性は内側から 蝕まれてしまいます。そしてこの構図は、宗教において正統から異端が生ずるプロセスとまったく同じです。このことは終章でくわしくお話ししましょ
アメリカは、過去も現在も、一貫して「アメリカ・ファースト」だし、日本も一貫して「日本ファースト」です。たとえ他国への恩恵を強調して見せるとしても、その裏にはしたたかな国益の計算があり
一般に、「正統」というと、折目正しくきちんとしていて厳格なイメージですが、歴史をふりかえると、じつは正統はいい加減で大雑把です。逆に、異端となるのは、知的にもすぐれており、道徳的にも立派な人びとばかりです。 第2章で説明した「チャーチ」と「セクト」の区別を思い出してください。正統は「チャーチ」です。いわば、誰でも入れる寛容で大きなテニス部のようなものです。それに対して、異端は「セクト」です。入会資格も厳しく、明確な目的をもった精鋭部隊です。正統は言うならばデフォルト(初期値)で、異端はそれに対するアンチテーゼ
その先にあるのは、理念や目的を欠いた場当たり的なポピュリズムの支配です。会社で言えば、利益だけしか追求しないマネジメントということになるでしょ
人は、金儲けのためだけに働いているのではありません。自分が社会の役に立っている。尊敬される意義のある仕事をしている。そういう意識をもっている人は、志気も高く熱心に働くことができ、結局は会社全体の評価も -
講義をベースにした本なので分かりやすい。
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【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/690002