ドストエフスキー 父殺しの文学 (上) (NHKブックス)

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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140910078

作品紹介・あらすじ

崩壊への道をひた走る帝政ロシア。貧困、凶悪犯罪、性の退廃、革命の夢と挫折。世界の変革を夢見る若いドストエフスキーに死刑判決が下る。八年のシベリア徒刑、賭博、恋愛の修羅場から『罪と罰』『白痴』が生まれた。青春時代の内面に刻まれた四つの事件=トラウマの深層に迫り、自己犠牲と欲望に引き裂かれた主人公たちの悲劇的な運命を通して、隠された「父殺し」の謎を焙り出す。

感想・レビュー・書評

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  • 筆者のドストエフスキーを再体験する旅行の文章も入れている。スタイルは小説の要約とそれに対する筆者の意見及びドストエフスキーの履歴との関係で、父殺しというテーマを一貫して解説している。
     上では1~6つの講義である。大学のテキストに使えるようになっているのかもしれない。

  • ドストエフスキーの癲癇と父殺し  -2006.03.27記

    「罪と罰」や「カラマーゾフの兄弟」の文豪ドストエフスキーが、癲癇性気質だったことはよく知られた話だろうが、
    本書によれば、フロイトが1928年に「ドストエフスキーと父殺し」と題する論文で、ドストエフスキーの生涯を悩ました癲癇の発作について、彼の持論である「エディプス.コンプレックス」を適用してみせている、とこれを引用しつつ論を展開しているが、なかなかに興味深く惹かれるものがあった。

  • 沼野充義評
    ドストエフスキーの全体像を把握するのに、刺激的な入門書。

  • 下を読んでいないので、確定ではないのだが、著者のドストエフスキー作品への肉薄は並々ならぬものがある。父殺しという結論は正しいのかわからないのだが、そこにせまる過程は鬼気迫るものがあり、思わず引き込まれてしまうのだ。

  • 【読書その104】ドストエフスキーの数多くの著書の翻訳を手がけた亀山郁夫氏の父親殺しというテーマwp中心に分析した本。当時の時代背景や著者の人生の歩みを知るとこんなにも小説に深みを感じることができるのかと感動。

  • ドストエフスキーの子供のころからの実体験、そしてロシアの世相を騒がせた凶悪事件の数々。それが彼の作品にいかに反映されていったのか。自分自身のヒョードルという名が「カラマーゾフ」のヒョードルと重なるのか。そして農奴に殺された父の姿は「カラマーゾフ」の「ヒョードル」にあまりにも似ていることに驚きです。そしてイワンの父殺しの悩みは彼自身の悩みなのか?確かに彼の育ちと関係がある名前、地名などに意味を持たせることは当然です。いかにかれの人生と重なる小説の中身でしょうか。格調高くドストエフスキーの神に関する思想を解釈していく本は多く読んできましたが、この本ではあくまでも彼の深層心理に迫って説明していくという姿勢は大変好感が持てるとともに、新鮮なものがありました。単なる一人の文学者であるドストエフスキーの思想を重々しく解釈することに何の意味があるのか、と当たり前の事実に今更ながら気がつきました。ドストエフスキーの哲学的な意味は聖書そのものではないのですから。この本では初期の「貧しい人々」「虐げられた人々」「白夜」などのほか、「罪と罰」「地下室の手記」「白痴」についても彼の履歴・事件の紹介、そして講義という形で進んでいきます。

  • 『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』の新訳で有名な筆者によるドストエフスキーの生涯及び作品を講義形式で行う上巻です。彼の生い立ちから『白痴』についての詳細を極める解説が素晴らしかったと思います。

    ドストエフスキーの作品を読みながらこういう解説を読むのは果たしていいものなのかどうかということは非常に迷うのですが、多様な解釈のできるドストエフスキーの作品を『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』の新訳で知られる亀山郁夫氏の筆による解説と講義で綴られる本書は、ドストエフスキーの悩み多き人生と、数々の要素に引き裂かれた心の中から生み出される複雑な小説及び登場人物、ストーリーに鋭く迫っております。

    18歳で悲劇的な形で父親を亡くしたことからその人生のトラウマが始まるのですが、この父親がこれまたとんでもない人物で…。長じて寄宿生の学校に進学したドストエフスキーはそこでシラーなどの文学に親しむようになります。やがて、革命を夢想した彼は『ペトラシェフスキーの会』という秘密結社に加わるようになります。そして、秘密警察による逮捕。死刑判決を経て死刑場で銃殺されるまさにその瞬間。死一等が減じられるという劇的な(全て仕組まれていた)出来事があって、8年の徒刑に従事するようになります。『死の家』での生活は彼の人生及び精神世界に重大な影響を与えるこことなります。

    『地下室の手記』である種の『転向』宣言をしたドストエフスキーは作風もがらりと変わったものとなります。そうして生まれた傑作こそ後の文学に多大な影響を与えた『罪と罰』であります。「分離派」にちなんだ名前を持つロジオン・ラスコーリニコフが退廃の街、ペテルグルグで『ナポレオン主義』という特異な思想から、金貸しの老婆とその妹を斧で惨殺し、予審判事であるポルフィーリイーとの知恵比べや、娼婦であるソーニャとの献身的な愛によって自らの『罪』を自覚し、『罰』を引き受けることで新しく生まれ変わるというストーリーを微に入り細に入り解説している描写が本当に面白かったです。

    さらには『本当に美しい人間』として描かれるムイシキン公爵がたどる運命を描いた『白痴』。これにも登場人物の行動原理や思想の解説が面白く、ムイシキン公爵=キリストがあまりにも『純粋』であるがゆえに周りを巻き込んで悲劇を起こしていくというお話はなんともいえない後味を覚えてしまいました。それらの作品を産み落としながらも、彼の私生活といえば、狂ったように賭博や恋愛にのめりこみ、ここまで破滅的な人生を歩みながらも土壇場のところで作品を書いて全てを打っちゃっていくという『作家魂』を地で行くような『生き様』も読んでいて『なるほどなぁ』と感じ入ってしまいました。

    一人の偉大な作家の前半生でも、これだけ濃い生き方をしているんだと思うと後半部が描かれている下巻を手にとって読むのが若干、躊躇気味になっている自分がおります。

  • [ 内容 ]
    崩壊への道をひた走る帝政ロシア。
    貧困、凶悪犯罪、性の退廃、革命の夢と挫折。
    世界の変革を夢見る若いドストエフスキーに死刑判決が下る。
    八年のシベリア徒刑、賭博、恋愛の修羅場から『罪と罰』『白痴』が生まれた。
    青春時代の内面に刻まれた四つの事件=トラウマの深層に迫り、自己犠牲と欲望に引き裂かれた主人公たちの悲劇的な運命を通して、隠された「父殺し」の謎を焙り出す。

    [ 目次 ]
    第1部 若き魂の刻印(楽園追放;引き裂かれた夢想家;回心、神をはらめる民;地下室の誕生)
    第2部 聖なる徴のもとに(観念という狂気;聖なるものの運命)

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著者プロフィール

名古屋外国語大学 学長。ロシア文学・文化論。著書に『甦るフレーブニコフ』、『磔のロシア—スターリンと芸術家たち』(大佛次郎賞)、『ドストエフスキー 父殺しの文学』『熱狂とユーフォリア』『謎とき『悪霊』』『ショスタコーヴィチ 引き裂かれた栄光』ほか。翻訳では、ドストエフスキーの五大長編(『罪と罰』『白痴』『悪霊』『未成年』『カラマーゾフの兄弟』)ほか、プラトーノフ『土台穴』など。なお、2015年には自身初となる小説『新カラマーゾフの兄弟』を刊行した。

「2023年 『愛、もしくは別れの夜に』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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