科学哲学の冒険 サイエンスの目的と方法をさぐる (NHKブックス)

著者 :
  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140910221

作品紹介・あらすじ

「法則」や「理論」の本当の意味って知ってる?「科学的な説明」って何をすること?「科学」という複雑な営みはそもそも何のためにある?素朴な疑問を哲学的に考察し、科学の意義とさらなる可能性を対話形式で軽やかに説く。科学の真理は社会的構成物だとする相対主義に抗し、世界は科学によって正確に捉えられるという直観を擁護。基礎から今いちばんホットな話題までを網羅した、科学哲学入門の決定版。

感想・レビュー・書評

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  •  科学哲学の入門書。科学哲学を専門にしている大学教師の「センセイ」と二人の学生(つまりリケジョのリカさんと現代思想オタクのテツオくん)の三人による対話形式。まず科学哲学の歴史から入り、現在でも未だ解決していない科学哲学の難問に対する「センセイ」=筆者の解答が示される。
     一口に「科学」とは言っても、その捉え方は様々である。本書を読むと、自分が如何に色々な立場の考えをごちゃ混ぜにしていたかを突きつけられる。直観的には、科学の対象には確かに実体があって科学はその姿を少しずつ明らかにしていく営みだと思っているのだが(科学的実在論)、中途半端な聞きかじりの社会科学の知識も持っているので科学は結局科学者の間の社会的合意に過ぎないという主張も分かるし(社会構成主義)、科学理論が世界についての真理を語っているとは限らないという考えも理解できる(反実在論)。例えば、量子力学には正準量子化という重要な手法があるのだが、この手法が何故上手くいくのかは、少なくとも今は、経験上上手くいっているからとしか説明しようがない(清水『量子論の基礎』)。こういうことを知ると、最も直観的に思われた科学的実在論は俄かに怪しく思われ、現象をうまく説明できさえすればそれで良いという反実在論になってしまう。筆者は科学的実在論を擁護する立場に立っており、彼の、社会構成主義や反実在論といった他の陣営からの批判に耐え得るような理論の構築の試みを、本書の後半で見ることができる。
     最近関心があることとの関連で言えば、「帰納」というのは論理的に言えば飛躍のある推論方法である訳だが、それが科学の方法として正当化されるのは何故かというとそれはまさにこの世界が帰納がうまくいく世界だからだというのが、人間原理に近いと思った。「帰納を使って科学をやってよさそうな究極の理由は、宇宙のわれわれがいる場所が、帰納が役に立つような場所だからだ。われわれのいる場所が、ありとあらゆるものがもっとカオス的で、最初の状態がちょっと違っただけで、そのあとどうなるかが劇的に違ってしまうような現象に満ちあふれているのだったら、帰納という情報処理をやる生き物は進化してこなかっただろう。(略)それどころか、そんな太陽系では安定した軌道を回る惑星が存在できなくなるから、そもそも科学をやるような知的生命が進化してきたかどうかも分かりませんよね。ということは、わたしたちの科学の方法がうまく当てはまるようになっているということが、同時に科学という営みが生じてくる条件でもあるってことかしら。」(p.266-267)岩井克人の、「貨幣が貨幣なのはそれが貨幣だからだ」ともロジックが似ている? たまに見る論法なので、何か名前が付いていそうな気もする。

    Ⅰ 科学哲学をはじめよう—理系と文系をつなぐ視点
    1 科学哲学って何?それは何のためにあるの?
    2 まずは、科学の方法について考えてみよう
    3 ヒュームの呪い—帰納と法則についての悩ましい問題
    4 科学的説明って何をすること?
    Ⅱ 「電子は実在する」って言うのがこんなにも難しいとは—科学的実在論をめぐる果てしなき戦い
    5 強敵登場!—反実在論と社会構成主義
    6 科学的実在論vs.反実在論
    Ⅲ それでも科学は実在を捉えている—世界をまるごと理解するために
    7 理論の実在論と対象の実在論を区別しよう
    8 そもそも、科学理論って何なのさ
    9 自然主義の方へ

  • 『哲学者はなんでこんなに対話篇が好きなんだろうか。
    という理由はまぁだいたい想像がつくけど、これもご多分にもれず対話形式をとっています。
    センセーとリカちゃんとテツオくんだったかな、彼ら3人の哲学オタクの会話から、科学哲学が楽しく学べます、そんなコンセプトの本。
    疑似科学について知りたくて借りたんだけど、この本からは「科学には実証可能なものが多く、疑似科学には実証不可能なものが多い」という程度のことしかわからなかった。
    それから、科学哲学を専攻している友達に言ったら殺されそうになったが、こんなもん考えるくらいだったらもうちょいましなこと考えろよ、というのが正直な感想。
    ロジカル・シンキングの訓練としては面白いが、おそらく実際的な意味はほぼ皆無。
    ま、話のタネにはなったからそーでもないか。
    あと、貸してくれた友達いわく、「後半は誤解を招きかねない記述が多いから(シロウトは)読まなくていい」らしいです。
    (参考:http://www.bun.kyoto-u.ac.jp/~tiseda/works/adventure.html)』

  • 科学哲学ってのはなんだろうか?という素朴な疑問への回答とその意義の伝達を試みた一冊。

    「帰納法vsヒューム」の辺りはおもしろい。ただ他の箇所は読み飛ばしがちだったので、もうちょっと時間をかけて読むべきだったと反省。

    なぜかヒュームへの理解が深まったのでよかった。

  • 科学哲学の入門書.著者によれば背伸びした高校生から大学1,2年生くらいを対象に書いたらしい.
    第I部の科学哲学の基礎概念の部分は,ちょっと前に読んだ「科学的思考」のレッスン」と重なる部分もあって,ふむふむと読み進めていったのだが,著者が一番力をいれて書いている科学的実在論をめぐる議論を扱った第II部,第III部が私にはとても退屈だった.
    理由を考えてみると,まず第一は,当たり前なんだろうが,科学哲学が科学ではなくて哲学であること.私は抽象的な哲学的議論がとても苦手(そういう意味では大学1,2年生以下なのだろう).もう一つは,科学哲学と科学自身の距離があまりにも遠くに感じてしまうこと,ここに出てくる議論のほとんどは哲学者には大問題でも科学者にとってはほとんど気にもならない問題なのではないかな.そして哲学者が科学者を誤解している部分もあるのではないか.たぶん,科学者は素粒子というような一見抽象的な対象を扱っていても,その科学者の中では非常に具体的で手触りのあるものに感じているに違いない.そうでなければ,自然の本質を踏み外さない研究は難しいのではないか.そうなると「電子の実在性」なんてことを議論されても,なんだかまったく別世界の物事のように感じられてしまう.
    というわけで,学問の意義は認めつつも,私との距離は遠いし,それが近づくこともなかった.哲学好きの人はどうぞ.

  • 科学と哲学。
    これらは理解し合えないものなのでしょうか。
    そんなことはないと信じたい人が読むべき一冊です。
    もはや科学は哲学の土台から独立した学問です。
    しかし、哲学も科学も基本的な成り立ちは同じであり目的も似ている。
    したがって、いがみ合うべきではなく協力し合うべきものだと考えています。
    “科学哲学”というどっち付かずのような学問について会話形式で綴られる一冊。
    少々難しい部分もありますが、おすすめです。
    又、最後のストーリーの締めくくりが素敵ですよ。

  • 自分の知りたいことではなかった。

    自分が知りたかったのは、
    「科学によって人類はどこに向かっていくのか?、科学をどうコントロールするべきか?」
    というような内容だったんだけど、書いてあったのは
    「科学的な考え方とは?」とか「実在と観察」とかだった。

  • 星なし。イアン・ハッキングの本が下らなかったので、もうちょっとゆったりと面白おかしく読めるものと思って長らく積んでいたものに手を伸ばしたが、ハッキリ言ってもっとつまらなかった。
    論理実証主義を取り巻く言説の紹介程度に始終しているだけにしか見えない。科学哲学ってのは立場ばかり気にして人の意見の擁護とか抵抗するために言葉尻をとらえて遊んでる人たちなのかと感じた。そのうえ科学の進歩(それ自体疑わしい)も研究のヒントにもならないような事ばかりなのであきれる。
    この分野に限っては、いろんな本を読めば読むほど自分の寛容が失われていく。かなり「恣意的な」対話篇にしたのだから、その点を自ら批判的に吟味する解説を加えるべきなんだろう。そういった点も挿絵同等に稚拙で我慢ばかりの読書だった。ひどいのが「帰納を『斉一性の原理』によって正当化できない」という論証。生まれて初めて論証を読んで吐き気を催した。

  • 私には非常に難解でした。
    文系だからって言い訳するつもりもないです、理解できないから低評価っていうのも良くないですが…

    帰納と演繹の部分だけかろうじて理解できました。

    私達は日常の中でも無意識に帰納と演繹を使ってるんですね。

  • 【2021/4/8】
    随所にあるまとめ、巻末の人物・用語解説や読書案内など、初学者に親切な構成が良い。対話形式のおかげで読みやすいが、内容はなかなか手強く、特に後半から難しくなってきて理解が追い付かないため再読が必要。科学的実在論を擁護する著者の立場が色濃く反映されているため、他の立場の本も読んでバランスを取る必要がありそう。

    【2021/4/29再読】
    再読。やはり後半が手強い。特に第3部が理解できたか自信がない。

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著者プロフィール

1958年生まれ
1989年 東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学
現 在 名古屋大学大学院情報学研究科教授
著 書 『論理学をつくる』(名古屋大学出版会、2000年)
    『誇り高い技術者になろう』(共編、名古屋大学出版会、2004、第2版2012)
    『科学哲学の冒険』(日本放送出版協会、2005)
    『「科学的思考」のレッスン』(NHK出版、2011)
    『科学技術をよく考える』(共編、名古屋大学出版会、2013)
    『哲学入門』(筑摩書房、2014)
    『科学的実在論を擁護する』(名古屋大学出版会、2015)
    『〈概念工学〉宣言!』(共編、名古屋大学出版会、2019)
    『教養の書』(筑摩書房、2020)他

「2020年 『自由の余地』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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