塩の文明誌 人と環境をめぐる5000年 (NHKブックス)

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  • Amazon.co.jp ・本 (211ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140911341

作品紹介・あらすじ

「サラリー」の語源ともなる塩は、人類に必須の資源である。古代から人は塩を得るため、製塩技術を開発し、交易をしてきた。しかし、ときに塩は文明に災厄を招く物質にもなる。その背景には、この地球上に分布する塩などの物質の偏在を、人間の活動がより強めてしまうという大きな問題があった。塩蔵や発酵食品など世界各地の多様な塩の文化を見ると同時に、シュメール文明の崩壊やカリフォルニア最先端農業の困難、消えるアラル海など、塩のもたらす環境危機の仕組みに迫り、塩の二面性から、人間と自然の過去・現在・未来を見つめる。

感想・レビュー・書評

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  • 植物遺伝学の佐藤洋一郎氏と、農業土木学専門の渡邉紹裕氏の二名からの共著であるものの、対話形式によるものでなく、互いを補完するように、意見を出して修正しまとめたもの。
    当然のように使用し、身体に摂取している塩についてなかなかに興味深い本であった。
    人間だけでなく、それは動植物にとっても塩は必須であるため、それぞれに知恵を用いて取り入れていること、世界を通して塩が循環しているものの、昨今では工業製品に取り組まれ、循環が絶たれること等見落としがちな点を指摘している。
    また農業の発展に伴う塩害についても述べており、発展による人口増加、食糧の必要性、灌漑拡大はどうしても避けられないのであろうが、それらによる森林破壊、土壌の塩性、沙漠化などそれはまさにいかに人間が自然と向き合い、上手に折り合いを付け合いながら生きていかなければならないということ、そして塩に限らず、物事全てに長短、両面性があることを改めて考えさせられた。

  • 塩害って大変です。

  • 著者の2人は、農業土木学や植物遺伝学の専門家。地球環境という広い視野に立ち、人類に必須の資源である塩について解説。塩は生命を育みますが、古代文明を滅ぼす力をも持っています。
      
    人類は古代より製塩技術を開発し、塩蔵や発酵など多様な塩の食文化を築き上げてきました。しかし文明が自然との関係を誤った場合、塩害などは文明を危機に導くものとなるのです。著者は自然と共生する重要性を説きます。
     
    塩漬けや醤油など、塩を活かした食文化の紹介に加え、塩害に苦しんだ古代文明や、塩のもたらす環境危機の仕組みも述べられているこの本。人類と塩の壮大な歴史を概観するだけではなく、未来を見つめる一冊です。

  • 塩害の農業への影響や文明崩壊を中心に、製塩の歴史や食物との関わりも含めて塩の人類に対する関わりを説き起こす。
    図書館にあったのを何気に取ったのだけど面白かった。

  • 塩の利用
    ・塩田による製塩は、1972年にイオン交換膜式の工場で行うよう法律が改正されるまで続いた。
    ・中国では、紀元前2000年頃から塩の豊富な地方から年貢として塩を集める制度ができあがっていた。紀元前506年からは、ローマで塩の専売制がとられた(マルソーフ)。古代から中世にかけてのヨーロッパでは、塩は通貨の代わりをしており、サラリーの語源にもなった。
    ・日本で消費される塩のうち、調味料として使われているのは5%ほど。塩の大部分はソーダ工業が消費しており、塩素は塩化ビニールや脱色剤、消毒剤に、水酸化ナトリウムは石鹸や洗剤の材料に、炭酸ナトリウムはガラスの材料になる。
    ・細胞は物質の出し入れや電気信号の伝達を行うために細胞内外で電位差をつくっており、細胞内ではカリウムイオンの濃度が細胞外より高く、ナトリウムイオンの濃度は細胞外の方が高くなっている。ナトリウムの摂取が増えると、血管中の水分を増やす機能が働いて血圧が高くなる。植物にはカリウムイオンが豊富に含まれているため、植物を食べると体内のカリウムとナトリウムのバランスをとるために塩を摂る必要がある。狩猟採集民は、塩を動物の内臓や血液から得ていた。
    ・発酵に塩を用いるのは、毒素を出す微生物が生きられず、発酵微生物が活動できる塩分濃度の環境をつくるため。

    塩と環境
    ・土壌中にナトリウムやマグネシウム、カルシウムの量が増えると、植物はカリウムの吸収ができなくなって生育できなくなる。世界の農地の4分の1近くが何らかの塩分の影響を受けており、灌漑農地では3分の1以上で塩性化が起きている。塩害は、パキスタン、インド、中国西北部で深刻。
    ・土壌にカルシウムを施すと、粘土粒子と結合したナトリウムにとって代わり、ナトリウムは水に溶けて流れやすくなる。

    塩と文明
    ・インダス文明のハラッパやモヘンジョ・ダロなどは、メソポタミアとの交易によって支えられていたため、メソポタミアの生産低下や文明の崩壊の影響を受けたと考えられる。
    ・エジプトでは、19世紀半ばからの灌漑の拡大によって地下水位が上昇し、20世紀初めになると綿花栽培に塩害の影響が出始めた。はスワン・ハイ・ダムの完成後、1970年代後半に塩害が深刻になり、現在は農地の33%が塩害を受けている。
    ・製塩の中心地だった瀬戸内地方では、向背する森林の伐採が繰り返された。
    ・たたら製鉄のために伐採された森林の跡地には、製鉄に良いとされたマツが植えられたため、広島県は今でもマツタケの生産地として知られる。

  • 前半の概論のあと、後半の大部分が灌漑による塩害に関する記述で占められており、著者の略歴から見ても「我田引水」であるとうかがえる。
    そこを割り切って、塩(食塩、塩類)に関する基礎知識と、灌漑農業についてのレクチャー資料として読めば基礎資料にはなる。

  • 1952・53生まれで若輩と云われてもなぁ副題:人と環境をめぐる5000年〜1:塩とはなにか(とる・つかう)。2:塩が生かす生命(生命に必要・食文化)。3:塩は世界をめぐる(運ばれる・栄養塩の動き・空を飛ぶ・噴出す(灌漑と塩害・消え行くアラル海・黄河流域の土壌塩害と対策)。4:塩と文明の攻防(メソポタミア・楼蘭王国・エジプト・現代カリフォルニア・文明は塩で滅ぶか)。5:人類はしおとどうつきあうのか(うまくつきあう・はたして有害か・塩に耐える植物)。〜総合地球環境学研究所のお二人の共著で,一人は植物遺伝学,もう一人は農業土木。段落ごとに書き手を換える方法もとりつつ,対話も重視した結果,大変学術的でバランスの良い本に仕上がった。

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著者プロフィール

1952年生まれ
京都大学大学院農学研究科修士課程修了
総合地球環境学研究所副所長・教授 農学博士
序章執筆
主 著 塩の文明誌(共著,NHKブックス,2009),イネの歴史(学術選書,2008),よみがえる緑のシルクロード(岩波ジュニア新書,2006),稲の日本史(角川選書,2002)など


「2010年 『麦の自然史 人と自然が育んだムギ農耕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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