中東 新秩序の形成 「アラブの春」を超えて (NHKブックス)

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著者 : 山内昌之
  • NHK出版 (2012年2月24日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140911884

中東 新秩序の形成 「アラブの春」を超えて (NHKブックス)の感想・レビュー・書評

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  • 著者は日本における中東研究の第一人者。中東問題の構造的な要因を明らかにする現状分析がきわめて優れている。中東政治に興味のある人は必読だろう。ただし、用語や人名が解説なしでポンポン出てくるので、中東情勢の基礎知識(特にイスラエル問題とイラン情勢)がないと読みにくいかもしれない。

    「アラブの春」は、日本のマスメディアでは「民主化を求める群衆とそれに抗戦する体制側」という図式で描かれがちで、民主主義と平等万歳・力は人民にありのエピソードとして語られることが多いが、アラブの民衆が反体制運動に走る真の原因はそのような崇高な理念ではなく、もっと切迫した状況―生活苦、主に失業率の高さ―である。現に、同じような独裁・強権国家でも、オイルマネーを潤沢に社会福祉に投じているサウジアラビアなどGCC(湾岸協力会議)の国家では、人民の不満は体制転覆や王政打倒を叫ぶほどに高まっておらず、人民蜂起が起きるどころかデモも少ない。問題は「天然資源に依存する不安定な経済」のなかで、人口増とグローバル化が進んでいるために若者の失業率が高止まりし、社会に大きな不満や閉塞感が蔓延していることだ。また、高学歴である一方就職難に喘ぐ一部の若者は、高等教育により恵まれた世界のことを知っている分現状に対する不満が強く、イスラム過激派の門を叩いてしまいがちだという。站谷幸一氏は、アゴラに寄せた小論文の中で、「テロの首謀者としての問題意識を抱くには、相当の教養が必要だということを認識する必要がある。つまり、貧困者が貧困を自覚し、構造的暴力を受ける者がそれを自覚するのは、相当教養がないとできない」と喝破している。(「マララ氏はテロ支援者―教育先行はテロを生みだす」http://agora-web.jp/archives/1617016.html

    その中で「イスラム国」など、イスラム思想を戴くテロリストが影響力を増大させているのは偶然ではない。イスラム世界では、植民地支配から脱するバネになった民族主義が風化し、社会主義も求心力を失っている。イスラムが唯一、広範な影響力を持つ反体制運動のイデオロギーとして残っているのだ。イラン生まれのアメリカの宗教学者、レザー・アスラン氏は、「グローバル化の中で民族や国籍の違いが薄れ、宗教が最も強い帰属意識のよりどころになった」と指摘している。現状に不満を抱いている若者たちに、「社会がおかしいのは、イスラムの教えに従っていないからだ」とアピールすれば、かなりの訴求力がある。(2014/10/27 日経新聞 4面コラム『なぜ今、「イスラム国」なのか』)つまり、デモもイスラム思想の流行も、恒常的な貧困に対する不満の表れなのだ。

    反体制運動により独裁政権が倒れ、民主政治が敷かれるようになっても、待っていたのはバラ色の未来ではなかった。もともと中東は部族社会であり、個人や社団レベルで、本来は国が果たすべきサービスと同じ内容を市民に提供してきたため、中央政府に従うインセンティブが乏しい。おまけにイラクなどは植民地時代の名残で多民族国家なので、強い権限者がいたことによってかろうじて保たれていた均衡が崩れ、収拾のつかない状態になっている。つまり、突然の民主主義国家の出現に国民のガバナビリティが追いついていないのだ。おまけに、各地で行われている権力争いの中で、各派が正統性をアピールするためにイスラム教やナショナリズムをイデオロギーとして利用するので問題はさらに複雑化している。

    本書を読むと「失業による貧困」と「イデオロギー」が、表層の現象に惑わされず中東情勢を読み解くのに必要な「レンズ」である、ということがわかる。また、非アラブの大国イランとイスラエル・パレスチナの変化は、中東地域全体に大きな影響を与えるので、その動向には特に敏感になる必要があると言える。

  • 最初は読みにくかったが面白い。「自由・法の支配・豊かさ」を求める中東の人々と近代化の課題などが書かれています。

  • おれの頭が悪いのか、文章が読みにくいと感じた。けれどアラブ世界、トルコ、イランと中東を網羅して事情を説明しており、アラブ世界も国ごとに異なる国情の解説が充実。さらに各論ごとに中東の情報源を挙げてくれてるので今後の自学に役立つ。

  • 中東と一言で言うが各国は国内も複雑だが、各国間の事情も複雑であり、激動が続きそうだ。

  • 中東はアラブ、ユダヤ、イラン、トルコがある(これも大雑把)。

    イランが素晴らしい歴史を持っていて欧米の都合で悪者扱いされることに対して憤りを感じる点は共感できなくもない。
    でも、それはお互い様。

    歴史を認識したうえで恨みつらみを乗り越えて平和を築く。

    それは若い世代にこそ期待されること。
    日本ができること技術協力。

    わたしにできること、公平な目で中東を見ること。

  • オバマ大統領はコストのかかる新たな軍事的任務を中東において引き受けないと宣言した。
    アメリカは自国の利益にかなった中東秩序を維持するために独裁政権を支えながら民主化を要求するという矛盾にみちた伝統的スタイルから離れようとしている。
    エジプトの民主化と中東地域安全保障という背馳しがちな2つの目標を実現するには、パレスチナ問題を法と正義に基づいて解決することによってアラブ市民の信頼を広く獲得することが不可欠である。

    カダフィーはヒトラーかスターリンのようなもの。

    イスラエルの基本立場は、核を持つイランとの共存はできない。イランが核武装するとシリア、サウジアラビア、ヨルダン、エジプトも核開発競争を加速化させ、イスラエルは核の脅威に包囲される。

  •   中東の最近の政権の交代、あるいは、シリアの泥沼化など、中東の状況は、中東に石油を大きく依存する日本にとって気になる。

     山内先生は、中東問題の大家。今年の3月で東大を退官されるらしい。

     これまで読んだ、中東本は、大部分が事実を述べているが、この本は、アメリカとの関係、日本との関係から、大きく、中東問題を分析している。

    (1)(これからの中東の対立軸は)アラブ対イスラエルの政治対決が基本座標であるが、スンナ派アラブの支配エリートにとっては、テロとの戦いにおける穏健派対テロ勢力、イランが影を落とすスンナ派対シーア派という対立こそ無視できなくなっている。(p188)

    (2)2010年9月に日本政府と国際石油開発帝石は、イラン南西部のアザデガン油田開発から完全撤退する方針を決めた。米政府の制裁措置対象に国際石油開発帝石が含まれる可能英た高かったため。(p230)

    (3)日本経済の生命線であるホルムズ海峡をテロや海賊から守るには、オマーンとの関係の戦略性を重視する政策が求められる。(p240)

     アラブの春が、日本とっていい結果になるとはわからないという立場から、冷静に中東の政変と日本の関係、米国との関係を分析している。

     骨太な名著。

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中東 新秩序の形成 「アラブの春」を超えて (NHKブックス)の作品紹介

二〇一一年のアラブ諸国を覆った民衆運動は、「自由・法の支配・豊かさ」への普遍的な欲求から生まれた。好調に見えた民主化はバーレーンで頓挫し、シリアで膠着する。なぜか?ここには中東の政治力学が垣間見えている。デモを弾圧しながら大国化の一途をたどるイランと、民衆を手なずけて王制を維持する湾岸諸国との対立があり、イランの核開発に憤るイスラエルと、手を焼くアメリカがいる。イラク戦争を経た諸国の社会情勢を丹念に追い、生成しつつある勢力構図をあざやかに描き出す。

中東 新秩序の形成 「アラブの春」を超えて (NHKブックス)はこんな本です

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