英語と日本軍 知られざる外国語教育史 (NHKブックス)

著者 :
  • NHK出版
3.41
  • (2)
  • (7)
  • (6)
  • (0)
  • (2)
本棚登録 : 143
感想 : 8
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140912386

作品紹介・あらすじ

幕末に本格化した外国語教育は近代陸海軍創設に礎となり、日本の帝国主義の道のりを下支えしてきた。一方、その終焉をもたらした一因も外国語教育にあった。陸海軍の制度的問題と教育戦略の欠如が結びつき、現地での軍事行動に支障をきたすまでに至った。はたして軍エリートの養成学校でいかなる教育が行われていたのか。当時の教科書や残された手記の分析、生存者への取材から、その実態に迫るとともに、戦後日本への連続性を明らかにする。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • タイトルに興味を惹かれ、読み出した一冊。なかなかに興味深い。
    幕末から明治にかけて、西欧近代国家に追いつき追い越すことを国是とした日本は、貪欲に外国語を学び、西欧の進んだ知識を取り込んでいく。しかし、時代が下り帝国主義を突き進む中、日本の軍隊は外国語教育、特に英語教育を怠り、その情報処理能力も低下したと著者は指摘する。
    印象的だったのは、序章で紹介されたアメリカ軍による日本語教育である。アメリカは敵国を理解するべく徹底して日本を研究してかかる。その中には当然日本語も含まれ、十数校の日本語学校で数万人に集中訓練を施したという。注目すべきは将兵向けの教科書の冒頭に載せられた言葉。
    Help! Tasukete!(たすけて!)
    アメリカは自軍の兵の命が助かる方策をまずは考えていたことになる。自決を迫る国とは違う。ああ、これは勝てなかったはずだと妙な納得をした。

  •  本書は、明治政府が近代化政策の一環として打ち出した外国語教育政策がどのように展開し、現代に至るまでどのように変遷してきたかを検証して、現在の日本における外国語教育の問題点を提示しています。特に、軍の近代化と一体化した外国語教育において、英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語、中国語などが日本の陸海軍士官養成学校では「敵国語」として学ばれていた実態を調査し、戦後日本の教育にどのような影響を与えているか考察しています。歴史を振り返って、外国語教育を世界平和の方向へ繋げる必要性を再確認させてくれるお勧めの本です。

    京都外国語大学付属図書館所蔵情報
    資料ID:610402 請求記号:390.7||Eri

  • 【書誌情報】
    『英語と日本軍――知られざる外国語教育史』
    [著] 江利川春雄
    シリーズ:NHKブックス No.1238
    発売日 2016年03月25日
    定価:1,540円(本体1,400円)
    判型:B6判
    ページ数:288
    商品コード 0091238
    Cコード C1321(日本歴史)
    ISBN 978-4-14-091238-6

    ◆軍のエリートはいかに「敵国語」を学んだのか?
     陸海軍の学校では敗戦後まで英語教育が行なわれていた。目的はなんだったのか。どんな教科書や参考書が使われていたのか。幕末に始まった外国語教育は近代陸海軍創設からアジア・太平洋戦争に至るまで、皮肉にも日本の帝国主義の歩みを下支えしてきた。英語教育史研究の第一人者が、当時の生徒が使用した教科書や残された手記の分析、生存者への取材から、知られざる教育の実態に迫るとともに、それらが戦後に遺したものを明らかにする。
    https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000912382016.html

    【簡易目次】
    序章 英語教育の敗戦
    第1章 近代陸海軍の創設と外国語
    第2章 日本軍の外国語教育はどう変遷したか
    第3章 アジア・太平洋戦争期の英語教育
    第4章 戦後日本の再建と英語

  • EHa

  • ・終戦時に英語教育を行えた教育機関が軍関係の学校のみとなっていたのは興味深い。
    ・現在の英語一辺倒の我が国の外国語教育は危ういという指摘は至言。

  • 後半、面白い。著者は歴史と英語について詳細に調べているようで、歴史特有の時間を超えた繋がりも導き出すし、それぞれの時点での資料を基にした深掘りも面白い。

    特に、終戦間際の海軍の英語教育が本格的かつ合理的だったものなのは想像だにしなかった。鬼畜英米と教えられたのは庶民だけであり、エリート層は英語排斥すらなかったようだ。エリートとそれ以外の扱いがいかに違うかがよくわかる。

    戦後も、一気に親米化する中で、アメリカがそれを支援したこと、岸信介首相が支援を受けたこと、日米安保などの締結に至るための国民感情など、単なる語学に止まらない、英語教育は世論を、そして政治を動かしてる事実を紐解いてくれる。
    そして日本が今、いかに英語一辺倒の国になっていて、戦時中にドイツ語、ロシア語一辺倒になって、かつ語学閥とでも言うべきものができ、陸軍と海軍がうまく連携できなかった日本軍を見るかのようだという問題提起で終わっており、良い。


  • 幕末、明治初期から戦前、戦中における陸海軍の外国語教育の実態や目的、その効果について、実際に使われた教科書や受講生の証言なども含めながら明らかにしようとしたもの。米軍の手厚い日本語教育との対比、また最終章で論じられる「敗戦占領期における英語教育の戦略的な位置づけの変化」(p.7)の話題が特に興味深かった。

全8件中 1 - 8件を表示

著者プロフィール

江利川 春雄(えりかわ・はるお):1956年埼玉県生まれ。神戸大学大学院教育学研究科修士課程修了。広島大学で博士(教育学)取得。専攻は英語教育学、英語教育史。現在、和歌山大学名誉教授。著書に『英語教育論争史』(講談社選書メチエ)、『日本の外国語教育政策史』(ひつじ書房、日本英語教育史学会著作賞受賞)、『英語と日本軍』(NHKブックス)、『受験英語と日本人』、『英語教科書は<戦争>をどう教えてきたか』、『日本人は英語をどう学んできたか』(以上、研究社)、『英語教育のポリティクス』(三友社出版)、『近代日本の英語科教育史』(東信堂、日本英学史学会豊田實賞受賞)、監修・解題『英語教育史重要文献集成 全15巻』(ゆまに書房)など。

「2023年 『英語と日本人 挫折と希望の二〇〇年』 で使われていた紹介文から引用しています。」

江利川春雄の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×