司馬遼太郎スペシャル 2016年3月 (100分 de 名著)

著者 :
制作 : 磯田 道史 
  • NHK出版
4.12
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本棚登録 : 142
感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (116ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784142230600

感想・レビュー・書評

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  • 司馬遼太郎の作品の魅力について語られている。
    精緻で立体的に時代の空気感、歴史上の人物を再現しているその文章は一緒に幕末の京都や明治維新の東京を歩いている気分になるほどだ。
    また、歴史観は「司馬史観」と呼ばれるほどで、歴史の見方を養うのに、どれほど役立ったかわからない。旅の本は数あれど、歴史を旅できるのは司馬作品ぐらいなもの、と思うことすらある。
    人間の描き方も秀逸で登場人物を100%好きになる。始めはどこかダメダメなんだけれど、いいやつが多い。そして、成長する中で事を成し遂げていく。
    気をつけなけらばならないのは、あまりにリアルで史実と見紛うことだ。司馬氏の脚色や推測で描かれている部分ももちろんある。(そこも面白いところなのだが)だから、多角的に歴史を評価する自分なりの目が必要なのだけれど、それでも大好きで全作品を読みきってしまった。
    司馬遼太郎には感謝してもしきれない。

  • 「歴史家」磯田道史が、「文芸評論家」としての才能を十二分に発揮した本だと思う。司馬遼太郎を縦横無尽に語りつくす面白さは、司馬遼太郎の小説を読んでいるような錯覚さえ起こす。著者がこれほど文芸評論家としての才能があるとは、正直驚いた。
    「100分で名著」というダイジェスト版ではなく、完全な「司馬遼太郎論」として完成している。
    特に、司馬遼太郎自身が生涯のテーマとして取り上げた、昭和ヒトケタ~昭和20年までの「鬼胎の時代」について、最終章で司馬遼太郎の思いを丈を存分に述べているのは圧巻である。

    ただ、取り上げた作品が、「国盗り物語」「花神」「『明治』という国家」「この国のかたち」の4冊ということで、ふと疑問が湧く。
    司馬自身が好きだった作品は、「燃えよ剣」「空海の風景」と本人は言っているが、読者側から見た司馬の代表作と言えば、巷間言われているのは「竜馬がゆく」「坂の上の雲」の2冊は確定で、あとは人により意見が分かれるが、「燃えよ剣」「花神」「播磨灘物語」「菜の花の沖」あるいは「街道をゆく」の中から選ぶだろうと思う。それが上記の4冊ということで、ふと気がついた。
    国盗り物語・・・・・・・1973年NHK大河ドラマ
    花神・・・・・・・・・・1977年NHK大河ドラマ
    「明治」という国家・・・1989年NHKスペシャル「太郎の国の物語」
    この国のかたち・・・・・2016年NHKスペシャル

    もっともこれ以外でも、NHKは司馬の作品に関しては、かなり多くを取り上げて放送している。特に近年放送されたのは「坂の上の雲」。この作品は代表作中の代表作で、普通なら絶対に外せない・・・が、外されている。
    「『明治』という国家」と「坂の上の雲」は共に対象となる明治という時代がかぶっているので、どちらかの選択になるが、「『明治』という国家」を選んでいる。
    理由は、この作品は、司馬遼太郎自らカメラに語りかけるトーク・ドキュメント(放送では「太郎の国の物語」)で、この手の番組としてTVに6回も連続して司馬遼太郎が出演した唯一無二の「伝説の番組」なのである。NHKとしては、これを外す訳には行かなかったのだろう。
    ただ、最後に言っておくと、著者はこの4冊に囚われることなく、他の作品も含めて縦横無尽に語りかけてくる。
    司馬ファンにとっては、見逃せない「司馬遼太郎論」である。

  • 漸くテキストを入手しました!映像も磯田さんの解説も最高でした、改めて司馬さんの素晴らしさを確認しました

  • 昭和という「鬼胎の時代」の淵源を、司馬作品から読み解く。

    司馬遼太郎は、戦争体験から、この国を滅ぼしたものの正体を突き止めたいという問題意識をもって執筆活動に打ち込んだ。『国盗り物語』『花神』『明治という国家』『この国のかたち』を中心に、磯田は司馬からの未来に向けたメッセージを見出そうとしている

  • 16.3.3
    津田沼丸善

  • 司馬遼太郎の各文学を平和で読み解く一冊。というよりも平和(=昭和前半の状況)を司馬遼太郎の文学から考えるという一冊,という表現の方が正しいかな。どうしてそうなってしまったんだろう,と思うところはあるけれど,司馬遼太郎の文学そのものの魅力がもうちょっとあっても良かったかなと思う。

  • 昨年放送された、NHK Eテレ「100分de名著」のテキスト本。
    司馬遼太郎の回のゲストは、歴史学者 磯田先生。
    NHK-BS「英雄たちの選択」の司会者で、番組で歴史上の人物について熱く語る姿は、本当に歴史と人物を愛しているんだなと感じさせてくれる先生で、僕も以前からファン。

    磯田先生曰く、
    「歴史小説」と本当の「歴史」の関係は、「地図」が本物じゃないというのと同じ。本物でなかったとしても、本物の説明力があればそれに価値はある、とのこと。
    歴史好きの中には、「司馬史観」と呼ばれる、歴史上の人物に対するレッテル貼りを批判する人もいるけど、日本一の歴史学者の方がそうやって、司馬小説を評価してくれているのが嬉しかった。
    以下、放送で取り扱った作品について。

    「国盗り物語」

    ・織田信長‥独創的・合理的な発想で、中世社会を「破壊」
    ・豊臣秀吉‥明朗・柔軟な思考で、新たなシステムを「建設」
    ・徳川家康‥堅実・現実的に仕組みを整えて、新システムを「持続」
    のように、異なる個性を持つ三英傑が、順序良くバトンタッチしたおかげで、江戸という平和な時代が270年間も続いた、というのが司馬さんの主張(革命の三段階論)で、今の時代に伝えたかったのは、以下のようなこと。
    ・企業や組織においても、今がどのフェーズなのかにより、求められる人材が変わってくる。
    ・リーダーがどのタイプで、どういう人生観・価値観で生きているかを汲み取ることが、部下にとっては大事。
    戦国時代を、現代の企業における組織経営・処世術の参考にするという考え方、以前は好きではなかったけど、今は良く分かる。日本人は昔も今も、 本質は変わっていないのだろうから。

    「花神」

    僕が一番好きな司馬作品。磯田先生も「花神」が司馬作品最高傑作だとの意見で、嬉しかった。
    おそらく、「花神」主人公の大村益次郎は技術者、つまりヲタクであり、僕も磯田先生も多分にその気質があるが故に、共感する部分が大きいということも一つの理由なのだろう。
    この作品のテーマは、「技術」と「合理主義」を重んじることの大切さ。
    それを忘れて精神主義・国粋主義に陥った昭和初期の日本への恨みつらみが、司馬さんが歴史小説を書き続けた動機。
    日本の歴史は、合理主義と非合理主義の時代の繰り返しであり、どちらかに振れすぎると間違いを犯してしまう。だから、現在の位置がどこなのかを確認するため、歴史を学ぶことが大事なのだろう。
    また、この小説の大村益次郎は、合理主義・客観性が強すぎ、他者への共感性・情緒が欠如した、無愛想で非人間的な人物として描かれている。そのような、一般人からは理解できないような人物(戦国時代でいえば織田信長)でないと、時代や組織を変革することは出来ないのだ、ということも教えてくれている。
    そして、大村益次郎のような技術ヲタクは、自身から表舞台に立とうとはしないし、周囲も付いてこない。
    だから、技術者の優秀さを見抜いて表舞台に立たせ、周囲の批判を引き受ける、桂小五郎のようなリーダーも必要なのだ、ということもこの作品のテーマ。

  • 司馬遼太郎の小説をあまり分析的に考えたことはなかったので、面白い考察だった。

  • (2016.04.01読了)(2016.02.26購入)
    Eテレの「100分de名著」の放送テキストです。
    今回は、司馬遼太郎さんの著作を取り上げて、司馬さんが読者に日本の歴史からどんなことを学んでほしかったのか、を読み解いてくれています。
    主に取り上げている作品は、『国盗り物語』『花神』『「明治」という国家』『坂の上の雲』『この国のかたち』といったところです。
    NHK大河ドラマを見ながら、いつの間にかたくさんの司馬遼太郎さんの作品を読んできましたが、『花神』は、まだ読んでいなかったので、この機会に読んでみようかなと思います。

    【目次】
    【はじめに】司馬さんからのメッセージ
    第1回 「戦国」から読み解く変革力 『国盗り物語』を中心に
    第2回 「幕末」に学ぶリーダーの条件 『花神』を中心に
    第3回 「明治」という名の理想 『「明治」という国家』を中心に
    第4回 「鬼胎の時代」の謎 『この国のかたち』を中心に

    ●歴史をつくる(8頁)
    司馬さんは、ただの歴史小説家ではありません。「歴史をつくる歴史叙述家」でした。
    歴史というのは、強い浸透力を持つ文章と内容で書かれると、読んだ人間を動かし、次の時代の歴史に影響を及ぼします。それをできる人が「歴史をつくる歴史家」なのです。
    ●歴史に影響を与えた歴史家(9頁)
    小島法師『太平記』
    頼山陽『日本外史』
    徳富蘇峰『近世日本国民史』
    ●動態の文学(14頁)
    司馬さんの文学というのは、時代のダイナミズムや社会の変動を描く「動態の文学」です。徳川幕府や全国の諸藩があるとするならば、それがどうやってできたかに考えをめぐらせ、それをつくる諸々の力を描く。あるいは、幕府や藩が逆にどのように壊れ、敗れていったのか、どんな力がそこに働いたのかを考察し、その様子を描いていく。動態のエネルギーがどのように生じるのかということを国民の眼前に見せる文学です。
    ●信長(19頁)
    すべては、信長からはじまった。近世の基本については信長が考え、かつ布石した。
    信長は、すべてが独創的だった。
    ●「国盗り物語」(31頁)
    司馬さんがこの物語で描きたかったのは、その後の日本、あるいは日本人の在り方の二つの側面だと思います。ひとつは、合理的で明るいリアリズムを持った、何事にもとらわれない正の一面。そしてもうひとつは、権力が過度の忠誠心を下のものに要求し、上位下逹で動くという負の一面。
    ●大村益次郎(43頁)
    変動期には大村のような合理主義的な人物が登場して日本を導くが、静穏期に入ると日本人はとたんに合理主義を捨て去る。
    ●リーダー像(46頁)
    司馬さんが描きたいリーダー像というのは、国を誤らせない、集団を誤らせない、個人を不幸にしない、ということに尽きると思います。

    ☆関連図書(既読)
    「国盗り物語(一)」司馬遼太郎著、新潮文庫、1971.11.30
    「明治という国家」司馬遼太郎著、日本放送出版協会、1989.09.30
    「坂の上の雲(一)」司馬遼太郎著、文春文庫、1978.01.25
    「この国のかたち(一)」司馬遼太郎著、文春文庫、1993.09.10
    「龍馬史」磯田道史著、文藝春秋、2010.09.30
    「NHKさかのぼり日本史⑥江戸」磯田道史著、NHK出版、2012.01.30
    (2016年4月6日・記)
    内容紹介(amazonより)
    二十一世紀を生きる私たちへ
    作家・司馬遼太郎が亡くなって20年、日本はいま大きな転換期にある。『国盗り物語』『花神』『「明治」という国家』『この国のかたち』を題材に、日本と日本人の未来について考える。

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著者プロフィール

磯田道史
1970年、岡山県生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(史学)。茨城大学准教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2016年4月より国際日本文化研究センター准教授。『武士の家計簿』(新潮新書、新潮ドキュメント賞受賞)、『無私の日本人』(文春文庫)、『天災から日本史を読みなおす』(中公新書、日本エッセイストクラブ賞受賞)など著書多数。

「2022年 『日本史を暴く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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