特捜部Q ―檻の中の女― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1848)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (472ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150018481

作品紹介・あらすじ

「特捜部Q」-未解決の重大事件を専門に扱うコペンハーゲン警察の新部署である。カール・マーク警部補は「Q」の統率を命じられた。しかし、あてがわれた部屋は暗い地下室。部下はデンマーク語すら怪しいシリア系の変人アサドひとりのみ。上層部への不審を募らせるカールだが、仕事ですぐに結果を出さねばならない。自殺と片付けられていた女性議員失綜事件の再調査に着手すると、アサドの奇行にも助けられ、驚きの新事実が次々と明らかに-北欧の巨匠が本邦初登場。デンマーク発の警察小説シリーズ、第一弾。

感想・レビュー・書評

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  • ミレーデの5年に渡る監禁生活は読んでるだけでしんどすぎて、これが噂に聞く北欧ミステリーの陰鬱さ…!と思ったが、カール&アサドの特捜部Qの2人のやり取りは楽しく、全体としてすごく面白く読んだ。
    特にアサドのキャラが好き!過去気になる。
    それにしてもミレーデの受けた仕打ちは辛いな…犯罪者に刑として執行したらいいのではと思うほど。

  • 最近は海外ミステリーをあまり読まないが、ブログでこのシリーズが面白いとあったので、とりあえず1作目を読んでみることに。
    しばらくぶりの海外作品に、かなり手こずった。
    登場人物が多く、しかも舞台は初めて読むデンマーク。地名の知識もほとんどなく、名詞だけでも何が何だか分からない状態…
    デンマーク警察署の警部補・カール・マークは事前の捜査で、一人の部下を亡くし、もう一人の部下も脊髄損傷で体を動かすことが出来なくなっていた。一人だけ無事だったカールを責める世間だったが、そんな中、「特捜部Q」と言う未解決事件を扱う新設の部署が出来、そこを任されることに。
    相棒は警察官ではない、謎のシリア人・アサド。
    「特捜部Q」が最初に取り掛かったのが、5年前の女性議員の失踪事件。船からの転落で、死体が見つからないまま、死亡と言うことで一見解決したかと思われたが、その裏にはさらに過去の事件も絡んでいて…
    と言う、何とも盛り沢山な内容。
    5年前と現在を行ったり来たりすることや、短いスパンでシーンが変わること、初めて読むデンマークの警察小説と言うこともあり、後半の100ページぐらいまでは、本当に読むのが大変だった。面白いのは確かなので、時間を掛けて、何とか読み進めたら、ラスト100ページにはかなりペースも上がった。
    トリックもかなり専門的だし、まだまだ広がりを見せそうな展開にはまる人が多いのも、納得。
    文章に慣れたところで、2作目も続けて読んでみよう。

  • テレビをつけたら流れていた映像がちょっと気になるので、しばらく見ていた。知った顔の俳優もいないのに妙に引き込まれ、最後まで見入ってしまった。タイトルが『特捜部Qー檻の中の女ー』。その後、これがデンマーク発の警察小説シリーズ第一作だと知った。映画化によって原作が改変されていない限り、自分の中ではネタバレしているわけで、どうかな、と思ったけれど杞憂に終わった。純然たる謎解きミステリではないこともあるが、本筋の事件解決以外の部分に味があって、小説ではその部分が読ませどころになっているからだ。

    警部補カール・マークは、皮肉屋で横紙破りなところが災いして同僚間で不興を買っている。事件の捜査中に撃たれ、腹心の部下の一人が死に、もう一人が全身麻痺で病院のベッドに寝たきりになったことから立ち直れないでいるのだ。殺人捜査副課長は、一計を案じる。警察改革を利用してカールを昇格させ、厄介払いをしようというのだ。過去の未解決事件専門に操作する「特捜部Q」の設置がそれだ。

    何のことはない。態のいい窓際族。やる気をなくしていたカールは、人目のないのをいいことに、ネットサーフィンを続けていたが、課長に進捗状況を訊かれ、一人では手が回らないから助手をつけてくれと言ったばっかりに、アサドが現れた。妙な男で、捜査権限もないのに事件に口をはさみたがる。また、それが結構いい線をいっているのだ。部下の目があっては昼寝もできない。ついに、カールも重い腰を上げ、捜査を開始する。

    積み重なったファイルの中からアサドが見つけてきたのが、ミレーデ・ルンゴー事件。五年前、民主党副党首だったミレーデがフェリーから消えてしまった事件だ。事件当時姉と一緒だった弟は重い障害を持っていることもあって事件について証言することができず、死体は上がらなかったが、水死ということで処理され、事件は迷宮入りとなった。

    プロローグに、暗い部屋に監禁されている女性の話が出てくるので、読者はすぐにこの女性がミレーデだと分かる。つまり、2007年(現時点)と、事件が起きた2002年が、並行して語られる構成になっている。五年というハンデを負って、カールとアサドは事件を解決しなければならない。一方、その間ミレーデは脱出不可能な檻の中で、生き延びるために闘い続けなければならない。或いは、悲惨な死に方を避け、自死するかのどちらかだ。

    サイコパスによる女性の監禁事件を描くミステリは掃いて捨てるほどあるが、これは一味ちがう。何しろ被害者は、三十半ばで有力政党の副党首。しかも美人で論戦にもたけている。そう簡単にはへこたれない。しかし、トイレ用と食事用のポリバケツが一日一回交換されるだけで、外部と完全に接触を断たれた状態で正常な精神状態でいるのは難しい。しかも、彼女が監禁されている場所は与圧室といって、気圧を上げる装置なのだ。時間をかけて高い気圧に慣れた体は、通常の気圧にさらされると爆発してしまう。

    カールたちは、アサドの信じられないような機転や記憶力の助けもあって、過去の捜査で見落とされていた事実を明らかにしていく。押しの強いカールのハードボイルド調の捜査もいけるが、シリア人助手アサドの天才的なひらめきと、脅威的な集中力が凄い。捜査の主導権を握っているのは、カールなのだが、役割的には奇矯な振舞いをするアサドがホームズで、カールのほうがワトスン役をつとめている。この組み合わせが新鮮だ。

    正体不明のシリア人で、その名も現職大統領と同じ、というからまずは偽名だろう。同じ成分のインクで上から塗り潰された部分を剥がし、下に書かれた文字だけ残すという神業をやってのける知人を持つ、この人物只者ではない。独訳からの重訳のせいか、砂糖をたっぷり入れたハッカ茶と訳されているが、メンテ(ミント・ティー)のことだろう。イスラムの国では何かというと口にする飲み物だ。香をたいたり、お祈り用のマットを敷いたり、デンマークでは滅多にお目にかかれないものを署内に持ち込む天然ぶりが痛快だ。部下のことが気がかりで心の晴れないカールが、この陽気なシリア人助手によって、どれだけ助けられていることか。

    日本の警察小説がつまらないのは、主人公の刑事たちが権力に対して服従するのが当然視されているところだ。警察は国家権力の手足に過ぎない。手足は頭に文句は言わない。カールはちがう。平気で政権担当者の批判もするし、冷笑もする。予算を勝手に横取りして特捜部に回さない殺人捜査課長には、強請りまがいなこともして、プジョー607や新品のコピー機を手に入れる。昇任のための研修を迫る課長の度重なる要請にも頑として首を縦にはふらない。権力者には強いのだ。

    シリーズ物を面白くさせるには、脇を固める登場人物が多彩であることが必要だ。カールには別れた妻がいるが、いまだに何かと電話をかけてきては金を引き出そうとする。妻の息子が、母親との同居を嫌って何故かカールの家に転がり込んでいる。フィギュアオタクで料理上手な下宿人もいる。カールは、カウンセリングを担当する心理学者に一目ぼれ状態だが、相手はどうやら既婚者らしい。二人のこれからの関係が気になるところだ。

    ミレーデが『パピヨン』や『モンテ・クリスト伯』を思い出して自分を励ましたり、『クマのプーさん』を諳んじて、精神状態を正常に保とうとするところなど、「文学など何のためになるのか」と言ってはばからない連中に読んで聞かせてやりたいところだ。人は、理不尽な状況にあるとき、強靭な肉体があるだけでは生き抜くことはできない。生き抜くためには、そことは異なる好ましい世界を自分の中に持っていることが必要になる。文学はそれを可能にする。ミステリを読んで感動することはあまりないが、この小説には人を鼓舞する力がある。サイコパスの登場するミステリには珍しく後味のいい終わり方にも好感が持てた。

  • デンマーク作家は初めて。グロテクスな表現が苦手な私には少しキツいところもあったが、とても楽しんで読めた。次作も読む予定。

  • デンマークのミステリ。
    北欧の巨匠、初登場!
    警察で新たに作られた特捜部Qという閑職に追いやられた刑事だが…?
    テンポ良く展開し、明晰さが感じられます。

    カール・マークは、コペンハーゲン警察の警部補。
    有能だが元々おそらく協調性は少ない性格。
    怪我での休養から復帰して以来、さらに怒りっぽくなって周りに迷惑がられていた。
    死体発見現場に乗り込んだときに部下2人と共に銃撃を受けて、一人は死亡、一人は重症でいまだ入院中。
    信頼できる部下を失ったのだ。
    妻は家を出て行き、愛人をとっかえひっかえしつつ暮らしている。義理の息子だけが家に戻ってきたが、大音量で音楽をかけ、小遣いをせびるだけ。
    部屋を貸しているモーデンが料理上手なのが救い。

    迷宮入りの事件を再捜査する特捜部を作るという政治的な要請が持ち上がる。
    特捜部を名目に殺人捜査課の予算を取ろうという上役の画策で、カール・マークにあてがわれた部屋は、地下にある殺伐とした部屋。
    最初はやる気がなかったのが、成り行きでしだいに熱意を取り戻していく。
    ただ一人の部下アサドは雑用係に雇われた民間人で、しかもシリア人のイスラム教徒。
    整理も配線も得意で、書類も読めるが、デンマーク語の冗談は通じない。
    どんどん雑用を片づけてしまう彼に、次の仕事を待たれるのが面白い。

    一方、美貌の政治家が5年前に行方不明になっていた。
    民主党副党首にまでなっていたミレーデ・ルンゴー。
    船から落ちたときに弟と一緒で、最初は突き落とされたとして捜査されたが、弟ウフェは幼い頃の事故で障害を負っているものの、穏やかな性格。
    自殺か事故で片付いているが、死体は発見されていない。
    本人の性格は、誰もが自殺するようなタイプではないという…
    捜査の不備に気づいたカールは、次第に真相に迫っていく。

    監禁されている女性の絶望的な状況が挿入されていて、怖い。
    密室の壁の向こうにいる誘拐犯に、理由を思い出せと罵られるのだが。
    助けは間に合うのか…?
    有能な刑事に期待、大!

    2007年の作品。
    デンマークでは大規模な組織改革が行われた年だそう。
    作者は1950年、コペンハーゲン生まれ。父親は精神科医。97年から作家活動。
    特捜部Qの第三作で、北欧5ヵ国最高峰の「ガラスの鍵賞」を受賞。

  • コペンハーゲン警察で事件捜査中に警察仲間に犠牲者が出てから後、精悍さを無くした警部補の新たな任務は未解決事件を担当する新部署で警察署の地下物置部屋をあてがわれた”特捜部Q”だった。 当初は窓際の閑職だった為に義務的に捜査した五年前の美人政治家の失踪事件が新な展開を見せて次々と捜査が進展し事件の核心に迫る。

    現在、邦訳されてるのは4作てすが本作は第一作目です。何となく軽薄な印象の題名の為に今まで読むのを躊躇ってたのですが内容は本格警察ミステリーで舞台もあまり馴染みのない北欧デンマークという事もあり、少し残酷な場面も登場しますが読み進めるのが止まらない面白さです。

    主人公のカールとアシスタントのアサドの迷コンビは何だか危うく頼りなく素性に暗い影を落とす中東系男性アサドだが、何故か??刑事も真っ青な機転と秘めた能力に主人公カールが助けられ、一緒になって事件の謎を解き明かす所は現場臨場感溢れ北欧の見知らぬ街の風景と思考がリンクします。 

  • 海外事情を知るために、進行中のシリーズ・ミステリを追い始めた。もとは黄金期の名探偵が好きで、警察小説は意識して避けてきたのだが、読んでみたらこれはこれで面白い。
    タイトルのアレさから敬遠してきた本シリーズも、実際に触れてみたらなかなかイケる。タイトル(ひいては設定)を逆手に取って、半分ファンタジーが入ったエア警察として読めば何もかも許せるし、最大の美点であるキャラクターやその関係性を素直に楽しめる。言うたら、「時効警察」や「TRICK」みたいなもんなのだ。リアリティがどうこうとあまり細かいところに目くじらを立ててもしかたがないだろう。ここは開き直った者勝ちである。
    そうして開き直ってみたならば、みんな大好きアサドをはじめ、前の相棒のハーディ、家事万能でヲタクな店子、かつての上司と同僚、脇役の元教師に至るまで、愉快なキャラクターをたっぷり楽しめる。主人公はお約束どおり結婚が破綻しているのだが、他作によくあるガチの不幸ではなく、相当にアレな妻(ついでに義理の息子)だがなぜか憎めない。「北欧ミステリの陰惨さがイヤ」という人にも、敷居は低いのではないだろうか。
    ただ、ご当地ミステリ感は低い。「デンマークってこんなんなんだー」と思えるようなシーンを、もう少し入れてくれたらと思う。
    あと、刊行年が古い(2007年)せいか著者がおっさんなせいか、「若く美人な女性国会議員のブラウスから乳首が透けている写真は高く売れる」などといったたわけた描写がある。主人公の意識も低く、その点は期待はずれだった。

    2020/2/15読了

  • カール・マーク警部補は事件で部下二人を撃たれ、本人も心身ともに深い傷を負った。
    マークを持て余した上司に命じられたのは新設部署・特捜部Qへの配属。期待の…といえば聞こえはいいが、まあ閑職部署だ。
    特にやる気のなかったマークだが新しい部下シリア系のアサドの熱に引きずられるように埋もれていた事件に携わっていく。

    本作はもう一人の視点でも書かれていく。
    檻の中の女だ。
    女は何物か。なぜその場所にいるのか。

    2002年と2007年の物語が交錯する。

    〇めっちゃ面白かった。シリーズ読む。
    〇ミステリーとは別に、交通事故、監禁、家族について考える
    〇マークのお嫁がキョーレツで、ともすれば一番印象に残ってるかも。デンマークでは離婚はしちゃいけないの?浮気嫁とその愛人と、義理の息子(子どもはギリわかる。超反抗期の男子って悪夢だけど)を養うって…。

  • 映画を4作目まで見てから原作の5作目を少し読んでみたら、かなり映画と原作とで違いがあるとわかり小説も最初から読んでみる事にした。

    映画を見た時も思ったが、マジで憎い相手への復讐としてはかなりいい内容。ただ殺すよりよっぽど苦しみと屈辱を与えているので犯人やるやん!となる。他の復讐を考えてる犯人もこれくらいやったらいいと思うくらい手がこんでてよかった。

    原作では同時系列で様々な事件が進行し、カールの周りの人間関係やアサドの素性・扱いもかなり複雑なので映画とは結構イメージが違う。割と別物レベルだが映画も綺麗にまとめて見やすくなっていたし小説も読み応えがあってどちらもいい。映画は映画、小説は小説で追っていこうと思う。

  • 主人公も周囲の人々も、キャラクター造形が非常に上手い。
    犯人側まで違和感がない。
    ただのいい人、は一人もいない。
    誰もが癖があり、裏があり、存在に厚みがある。
    また、時間軸の使い方も上手く、読んでいてドキドキした。
    少々ご都合展開かなと思うところもあったが、最後まで惹きつけられた。
    続編も読みたい。

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