喪失〔ハヤカワ・ミステリ1866〕 (ハヤカワ・ミステリ 1866)
- 早川書房 (2012年12月7日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (494ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150018665
作品紹介・あらすじ
当初は単純な窃盗と思われたカージャック事件。だが強奪された車の後部座席に乗っていたはずの少女はいっこうに発見されない。捜査の指揮を執るキャフェリー警部の胸中に不安の雲が湧きだしたとき、今回とよく似た手口の事件が過去にも発生していたことが判明した。犯人の狙いは車ではなく、少女だったのか!事件の様相は一変し、捜査に総力が注がれる。だが姿なき犯人は、焦燥にかられる警察に、そして被害者の家族に、次々と卑劣きわまる挑発を…屈指の実力派が、MWA賞最優秀長篇賞の栄冠を射止めた力作。
感想・レビュー・書評
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読み応えのあるスリリングなミステリ。
車が強盗され、後ろの席には11歳の少女が乗ったまま。
カージャックが目当てなら、足手まといになる子供はどこかにおいていかれ、まもなく発見されると思われたが‥?
子供は見つからず、緊迫した展開に。
キャフェリー警部シリーズ5作目だそう。
評価が高いので、初めて読んでみました。
この作品からでも読めます。
ブリストルのジャック・キャフェリー警部は、重大犯罪捜査隊の指揮を執っている。
スーパーの駐車場で、車が奪われた現場の緊迫した様子から、一気に引き込まれます。
フリー・マーリー巡査部長が、キャフェリーがロンドンから赴任する前に、似た事件があったことを指摘します。
フリーは小柄な女性(フリーは通称)だが、潜水捜索隊隊長。
冒険家で万能だった父の血をひいている。
じつは前作で、弟の起こした重大な事件の証拠を隠匿していた。
以来、仕事に身が入らず、仲間に心配されている。
キャフェリーとは内心惹かれあった仲だったが、今はキャフェリーの目には苦い失望しかない。
その理由がフリーにはわからなかったが、実はフリーのしたことに気づいたキャフェリーは、フリー自身が罪を犯したと誤解していたのだ‥
キェフェリーは子供だった30年前に、兄が誘拐され、ついに見つからなかったという経験がある。
ウォーキングマンというホームレスの男は、娘を誘拐した男を殺した過去がある。
互いの過去を知る二人は、時折顔を合わせ、ウォーキングマンは謎めいた言葉で啓発し、キャフェリーはそれにすがるような思いを抱くこともあった。
警察官の地道な捜査と、被害者家族らの必死の思いと意外な人間関係、やがて出来上がる力強い連携が、きめ細かく描かれます。
その背景に、警察内部のキャフェリーとフリーが抱えている問題も濃い陰影を落とすのがユニーク。
フリーは土地勘を働かせて、少女のいそうな地点の捜索を主張。
大掛かりで危険な捜索が不発に終わったため、それ以上の主張が通らなくなる。
見落としがある可能性に気づいたフリーは、単独で捜査に。
犯人の魔の手が迫る‥?!
作者は15歳で学校をやめ、バーメイド、英語教師など、さまざまな仕事を経験。
2000年、「死を啼く鳥」で作家デビュー。
1、2作は翻訳されていますが3、4作はまだ。
4作目は相当、暗そう。
その重さを知る読者には、この作品でのスリルと大転換がさぞ読みごたえあったことでしょう。
それもあっての受賞だったかなと思います。
東野圭吾の「容疑者Xの献身」も候補に挙がった2012年度のMWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞の最優秀長編賞受賞作です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
シリーズ一作目『死を啼く鳥』てっきり読んだと思っていたら、
『死を哭く鳥』カミラ・レックバリだった。
読み飛ばしてもなんら問題ない部分がたくさんあるから、ストーリーだけ追った。
まぁまぁぼちぼち、悪くない、てかーんじ(えらそう?)。
わざわざ一作目、二作目に立ち戻ることはしないな。 -
悪くはないけど、犯人の心情、独白が無いのでもう一つ動機が薄いのが残念
コーリーが彼女にふられたと妻の前で泣く…マジか⁉ 妻ですよ妻! こいつの中では、妻が母親になってるんだろうな ヤレヤレ(´д`)
警部キャフェリーにもう一つ感情移入できなかったが、潜水捜索隊隊長フリーが女性から見てもかっこよすw -
久々に海外ものを読んだので、人の名前や回りくどい描写に少し疲れましたが、面白かった!ある人物に感じる違和感がじわじわ膨らんでいく過程では文字通り手に汗握りました。犯人が分かってからも結構長いけれど、それでも最後まで楽しめました。シリーズものだと知らなかったので、前作も読んでみます。
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低く垂れ込める灰色の空と降りしきる雨。光も届かぬ危険な地底と淀んだ運河。描かれる情景も人間関係もどこか北欧ミステリを彷彿とさせる。
犯行目的が上手い具合に隠され、二転三転する事態はミステリとしては巧妙なのだと思う。が、あまりにも進まない捜査状況が読んでいてもどかしく、犯人が利口というよりは警察が無能すぎるのではないかと思ってしまう。加えて、キャフェリーとフリーのあの隠蔽が悪い意味で気になって事件に集中できず、さらには二人に共感も魅力も感じられないとなれば、必然ページを捲る手が遅くなるというものだ。ただ、シリーズ途中作品のようなので、それゆえの共感欠如なのかもしれない。
犯人側の視点がなく、事件の詳細が誰からも語られない為、想像で補わないと事件の真相がどこか曖昧だ。終盤は時系列も混乱し、犯人はいつの間に最後の犯行へ?状態。あと見せ場と言えるトンネル内やバージ船の情景がイメージできず、全体的にちょっと置いてけぼり感が残ってしまった。 -
単純なカージャックと思われた事件は、少女誘拐事件へと発展した。
キャフェリーは過去よく似た手口の事件が起こっていることに目を留め捜査を進めるが…。
キャフェリー警部シリーズ3作目。
3、4作目が訳出されていないので、本当は5作目らしい。
おかげでなぜキャフェリーがこんなに丸くなったのか、レベッカはどうなったのか、わからないこと満載。
間を読ませて欲しいよ~。
ウォーキングマンというキャラクタを配置して、キャフェリーを救済しているのもよかった。彼は、読んでいて辛い主人公だったからさ。
2作目の『悪鬼の檻』からずいぶん時を経て書かれたらしく、それまであった痛さは影を潜めていて非常に読みやすかった(自分は)
きちんと伏線を貼ってくれるのも変わらず。
犯人はわかりやすく、動機がわかる過程も意外性はないけれど、良作だと思う。 -
とても面白くて一気読み。緻密なプロット、厚みのある人物造形、サスペンスに満ちた語り、どれをとっても一級品。MWA賞受賞もむべなるかな。是非シリーズを順次邦訳してほしい。
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途中、プロットを大旋回させる作者の手並みはみごと。
今日、日本でもしばしば登場するテーマが大掛かりなエンターテイメントになっている。
日本だったら小さく小さく収斂していくような書き方をするんじゃないかと思われる。
冒険小説的な部分もいい。
ただ、シリーズ物を途中で読む辛さも。邦訳未刊行の前2作が読めれば、なおよし。