- Amazon.co.jp ・本 (552ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150018719
作品紹介・あらすじ
〈特捜部Qシリーズ〉悪徳医師にすべてを奪われ、子を産めなくなった女は、やがて社長夫人となり復讐の鬼と化す! カール・マーク警部補と助手のアサドが再び未解決事件に挑む! 待望の第四弾
感想・レビュー・書評
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結局ミステリーの面白さはどれだけ魅力的な敵役を登場させられるかで決まるような気がする
あるいはどれだけ憎らしい敵役を
その意味で本作は合格点だ
今回カールたちが立ち向かうのはとんでもないくそ野郎でアサドやローセの怒りも大爆発だ
それにしても人の歴史とはこんなにも黒いのか
果たして人とは本当にこの地球に存在する価値のある種なんだろうかと思ってしまう
本作に描かれているスプロー島の女子収容所はデンマークに過去に実在していて、倫理的でないと思われた女性や軽度の知的障害を持つ女性を民族衛生法や優生法といった鬼畜な法律を根拠に不妊手術が行われてたのだという
作者のユッシ・エーズラ・オールスンはそのことへの″怒り″で本作を書き上げたようだ
ご承知の通り日本にもかつて優生保護法という法律が存在して″選別″が行われていました
これはとても恐ろしいことだと思います
なんの罪もない人が正義の名の下に未来を閉ざされてしまう
しかも障がい者や犯罪者に対して生まれてきたこと自体が罪なのだと考えるような人は今の世の中にもごく少数ながら実在し、神の代弁者のように振る舞っている
人の未来を作るのは、そんな悪魔たちに惑わされない人たちだと思う -
未解決事件を扱う「特捜部Q」シリーズ4作目。
デンマークの人気ミステリです。
書き込みが濃厚で、読み応えがあります。
カール・マークは特捜部Qに左遷されたものの、過去の事件解決に活躍中。
助手のアサドは中東系の謎の人物で、温厚で有能だが、大変な過去があるらしい。
秘書のローセもけっこう綺麗で確かに優秀だが、相当な変人。部下のはずの二人のコンビに追い立てられるように捜査にかかるカール。
1987年に失踪事件が相次いでいることに気づく。
人口500万のデンマークでは考えられない頻度。何の関連もなさそうな5人に、どんな事情が‥?
折りしも、優生学的な政策をかかげる老人の極右政党<明確なる一線>が、票を伸ばそうとしていた。
ニーデという女性の人生が、間にさしはさまれます。
農場で育ち、教育を受ける機会もなく、恋にやぶれて‥
一度は里親に恵まれて、幸せをつかんだものの、後にその幸福も奪われてしまう。
デンマークでは1920年代から60年代にかけて、品行が悪かったり知的障碍があったりして問題となった女性を収容する矯正施設が島にあり、退所する際には避妊手術を受けさせられたという。
日本でのハンセン病療養所を連想させますね。
優生保護法は、当時のヨーロッパでは多くの国で施行されていたそう。
作者はこの事実を知って愕然とし、作品に取り上げた。
熱っぽく描かれていて、その気持ちは理解できますが、ちょっと重すぎて‥感想を書くのが遅れました。
カールを取り巻く人間たちは、相変わらずにぎやかでコミカル。
恋人モーナとは上手くいっているのが救いですが、その家族に紹介されるとこれが面倒な性格で、ギクシャク。
銃撃事件で寝たきりの同僚ハーディを家に引き取り、その事件の謎がまだカールを追ってきます。
さらに、カールの伯父の事故死にまで、なにやら疑惑が‥?
このシリーズは10作を予定しているそうなので、何がどこでどう絡んでくるのか‥?
特捜部3人の捜査は体当たり! チームが次第に強力になってくるのが、楽しみです。 -
『人間の一生は、誘惑の奈落の上を綱渡りし続けることであり、一歩間違えれば、どん底に落ちることもある。』
北欧ミステリーの人気シリーズ【特捜部Q】の第4弾。
本作は50年ほど前に実際にスプロー島に存在した女子収容所と、そこで行われていた非人道的な行いの史実をもとにしたストーリーだ。
映画化もされているが、映画とは違うストーリー展開なので、原作未読の方はご安心を。
本書では収容所出身のニーデの壮絶な過去パートと、現代の複数の失踪事件を捜査するパートが交互で構成されており、なぜ事件が起こってしまったのかを丁寧に描いている。
今回も胸糞が悪くなる内容ではあるが、史実をもとにしているので内容もより重く感じた。
作中に登場し、実際の収容所で行われていた強制不妊手術と優生思想は、けしてデンマークだけの問題ではない。世界中、日本でも行われていた。
現代では、出生前診断がそれにあたるのではないかと人種差別問題として取り上げられている。
この問題に関しては、漫画【進撃の巨人】等でも取り上げられているように多くの作品に影響した問題であり、私たちが考えなければならないことのひとつであると改めて思った。
【ダンサーインザダーク】のような救いがないストーリーだが、作中登場するニーデと教師の触れ合いが素晴らしく、これだけで1冊出来そうなエピソードだ。
ラストのエピローグも救いがありよかった。
また、カールと仲間たちのユーモラスなやり取りも健在で楽しく読ませてもらった。
エンタメとして楽しむだけではなく、社会問題として考えさせられる著者の熱い思いが込められた1冊だ。
こんな人におすすめ .ᐟ.ᐟ
・北欧ミステリーが好きな人
・社会派ミステリーが好きな人
・イヤミスが好きな人
・考えさせられる話が好きな人
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シリーズ第4作。情報の少ない海外小説を読む場合、巻末解説はぼくにとって非常に重要なのだが、やはり一つ重要なことが記されていた。本<特捜部Q>のシリーズは、10作を予定しているという。一作一作、極めてダークで印象的な悪党どもとの闘いを余儀なくされている地下室の特捜部だが、気になるサイド・ストーリーの解決の方向性がこれで見えたか、といった嬉しい予感に震撼しそうなニュースだ。
カール・マークはおそらくエド・マクベインの87分署シリーズのキャレラのようにあるときから年をとらなくなる恒久的なヒーロー像にはなるまい。未解決事件捜査に専念することを旨とする本シリーズは、毎度過去の亡霊たちを現代に引きずり出して対決するばかりではなく、生々しくカールという主人公の風変わりな日常生活と心情を重視してもいる作品群であり、同時に彼を追い込み、自らの中の暗黒面としてマークが直視することすら避け続けているアマー島の失態とその謎めいた経緯についての長い物語でもあるのだから。
アマー島で失われた同僚の記臆と同様に、日々、全身麻痺という姿でカールの家に同居しているハーディはアマー島の失態をカールに毎日いやが上でも突きつけ続けているのである。こうしたシリーズの全体を覆う黒雲のような通低音をベースにいつも語られるのがこの一冊一冊の重厚な物語であるところに、本書の凄みが秘められているわけである。十作という限られた作品の中でそれらが解決を見ないわけにはもはやゆかないところまで、それらの原因と結果論については度々語られているし、そもそも特捜部Qの存在理由ですらある。
さらに謎多きレギュラーメンバー・シリア人アサドの正体についても、どこかの作品中で明らかにされるに違いない。そうでなければここまで思わせぶりな数々の奇行の描写は有り得ない。これに回答がなければもはや罪である。
さてシリーズ全体の俯瞰はともかく、本書で今回もまた取り上げられたダークな題材であるが、これまでが娯楽色が強かったのに比して、今回は国家の恥ずべき部分として、差別された女性の強制堕胎、強制不妊治療などを行うという収容所の実態である。なんとこうした信じがたい国家暴力が作者幼年の頃まで存在し続けたというこの国の歴史的事実を作者は詳らかにすべく、小説という表現を活用したのである。
巻末に作者の一文が添えられており、ショッキングな事実が明らかにされている。民族衛生法・優生法といった恐るべき法律が1920年代から30年代には欧米30ヶ国以上で公布されていた。デンマークでは1929-1967年までに1万1千人が不妊手術を受けておりそのうち半数が強制的に行われたと推測されている、とある。「そして、ノルウェー、スウェーデン、ドイツ等とは対照的に、デンマーク王国は今日に至るまで、こうした人権侵害にあった人々に対する賠償金の支払いも、謝罪も行っていない」
この題材を元に、人生を棒に振った女性が復讐の鬼と化す。同時期に消息を絶った複数名の行方をたどるうち、特捜部Qは、驚くべき真実に行き当たるのだが、ミステリの謎解きというよりも、凄絶な独りの女性が理不尽な人生を送ってゆく様の描写を読んでゆくのが辛い。娯楽小説それも警察小説の形を取りながら、サイドストーリーのカラフルな衣を纏わせながらも、物語の中心に作家の乾坤一擲の真理追求の姿勢が見え隠れしてやまないところが、魅力的な骨太の女性戦記としての本書を価値づけ、忘れがたい強烈なインパクトを残しているのである。 -
特捜部Qシリーズ4作目。スプロー島という島に1960年代まで実在したという、知的障害があったり品行方正でなかった(と独断で判断された)りした女性の矯正施設(という名の強制収容施設)を土台にしているそうです。よもやこんなひどいことが、と慄きながら読み進み、慄けることは幸運なのだな、としみじみ感謝しつつ、複雑な気持ちで読みました。子供の頃に母親を亡くしたことに起因する知識の欠如に、いくつもの不幸と無関心と不親切と悪意が最悪のタイミングで重なってしまったニーデという美しく魅力的な女性と、親子二代で優性思想にとりつかれつつも権威を持った医師であるため長期間に渡り非道な行為を続けてきて政治にも働きかけようという野心を持つクアド・ヴァズという男性が中心人物。もちろんおなじみのカールにアサド、ローセにモーナ、ハーディもみんなそれぞれの過去に傷やわだかまりなど他人と共有したくないことを抱えながら日々を懸命に過ごしています。カールが燃え尽きてしまった例の事件現場からは新たな遺体が発見されそこからカールの写真や指紋の残った硬貨が出てきたり、ローセには実際にユアサという妹が居ることがわかったり、アサドもカールも捜査中に死に直面したり、と、かなり心を揺さぶられる内容でした。早く続きを読まなければなりません。
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おもしろかった!
登場人物たちがユニークで好き。追いつめて行く、追いつめられて行く様が絶妙に描かれてる。
ストーリーとは別に、高福祉国家だと思っていたデンマークの、そう遠くない過去にあんなことが行われていたことにびっくりした。 -
80年代に起こったナイトクラブのマダムの失踪事件を追う特捜部Qの面々。
その過程でいくつかの失踪事件が浮かび上がり、やがで一人の老女と新進政党の党首が捜査線上に浮かび上がってくる。
待ってましたのQ。4作目。
今作も色々やるせない気持ちになる事件だった。
一番辛いのが女性だけが優生保護的な観点で被害者になるところ。そしてそれに同性が協力するところ。
前3作は被害者当人の痛みを共有した感じなんだけど、これは自分の中の深いところにある治らない傷をつつかれたような…、リアルな痛みを感じたよ。
イタイイタイ。
あと、ミステリ部分の鬱展開を救ってくれるかのようなQの面々のやり取りが『八仙飯店之人肉叉焼包』を彷彿とさせるんだよなぁ。
まぁ、オールスンにはQを悪く言うつもりはないのだろうけど、事件の痛さや社会問題としての提起とかね。
作者は全10作の予定でいるらしいので、このあとの展開をドキドキしながら見守ってる。 -
シリーズ4作目。
過去の未解決事件を扱う特捜部Qが今回手がけるのは、80年代の連続失踪事件。
失踪事件を探るうちにやがて躍進している新進政党の裏の顔に迫ることとなり、同時にデンマークの闇と社会の偏見が浮き彫りになっていきます。
劣悪な遺伝子の排除を謳って繰り返される強制中絶、不妊手術という今回の断種のテーマは大変残酷で重苦しい。女子収容所というデンマークの負の過去に対する作者の熱情が伝わるようです。
現在の捜査と交互に描かれる一人の女性の人生が悲しく、秘密組織に疑惑を向けるものの、あくまで失踪事件を追う特捜部Qがなかなか事件の全貌を見通せないのがもどかしい。
読者としても、現在と並行して語られる数十年も前の出来事が現在の状況と結びつかず、予想のできない展開にのめりこんでいきます。クライマックスに向けての作者の手腕が光るところです。
シリーズを通しての問題であるカールの事件、アサドの謎も進展を見せており、ただの変人だと思っていたローサも何やら問題を抱えているよう。
重苦しい事件ばかりですが、いつも通り冴えないカールが楽しく良い緩和剤となっていました。
ミカという新たな希望が登場したのもうれしい。
アサドの危機に涙するカールとローサにはグッときました。
今まではカールひとりがほかの二人のことに頭を悩ませていただけですが、今回、アサドとローサがカールの為に怒り、カールとアサドがローサを気遣い、カールとローサがアサドの危機に駆けつけました。
普段諍いばかりでお互い胸の内を明かさない特捜部Qですが、今作ではほんの少しだけ互いが互いに理解を深め、支えあったように思います。
シリーズは10作を予定しているということで、特捜部Qの面々の謎が明かされるのはまだまだ先のようですが、今後が楽しみなシリーズです。 -
デンマーク・スプロー島
1923年から1961年までこの島には女子収容所が実在しました。
収容所には法を犯した者を始め、当時の倫理観にそぐわない者や軽度知的障害者とされた女性が収容され、彼女たちが収容所から出ようとすれば、不妊手術を受け入れなければいけませんでした。
特捜部Qシリーズ第4弾の本書はこの収容所と現在の移民排斥運動を背景に、優生学思想に染まった者たちと彼らの被害者の個人史を描いたものとなっています。
他のシリーズ既刊が凄惨なストーリーの中にも希望やユーモラスも感じる事が出来る中、本書は全面グレイに覆われており、自身の少年時代にも人道主義の名のもとにこの収容所が実在していたと言う事実から受けた著者の衝撃の程がうかがい知れます。
【あらすじ】
人口500万人のデンマーク。
同国において20数年前、失踪事件が不自然な頻度で起きていた事に気付いた特捜部Qはこの連続失踪の影に何らかの犯罪が存在しないかと疑い、捜査を開始する。
失踪者たちの共通点を探る彼らはやがて元収容者の女性にたどり着く。
しかし、同時にその優生学思想を強く批判されている政治団体「明確なる一線」を刺激し・・・
偏見に基づき他者を不妊化する。
日本におけるハンセン病療養所を連想させるストーリーです。
北欧系のミステリーはこれまで何冊か読んできましたが、読んだ全てが何らかの社会問題がテーマに含まれており、ただの「ミステリーの為のミステリー」にはなっていません。
「ミステリーの為のミステリー」も勿論良いのですが、本書の様なミステリーを読むと果たしてそれだけで良いのか?と。
私がその存在を知らないだけかもしれませんが、日本人作家による社会問題を深くえぐるミステリーを読んでみたいです。
まだ2作目でとまってるわ( ノД`)
まだ2作目でとまってるわ( ノД`)