- Amazon.co.jp ・本 (478ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150018740
作品紹介・あらすじ
かの天才学者のひ孫にして、ICPOのベテラン捜査官アンリ・ポアンカレ。数学者爆殺事件の背後に潜む巨大な陰謀に挑む彼はやがて、自らの家族に抹殺司令が出ていることを知る……傑作スリラー
感想・レビュー・書評
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小説を読むとは大なり小なり痛みを伴うものだ。もちろんどの小説もというわけではないだろうけれど、ミステリ読みのぼくにとっては、殺人や暴力が扱われることにより犠牲者の痛みを洞察せざるを得ない機会が少なくない。痛みを余儀なくされるという意味では、この作品ほど痛切な鋭さを持って読者に挑戦してくる小説は他に類がないような気がする。
インターポールの捜査官という主人公設定は珍しいのでないだろうか。アメリカ小説でありながら、独特のヨーロッパの深みを与えた世界を描き切っている作者の腕が見事である。捜査官ポアンカレはフランス人であり、リヨンやパリなど、ぼくにとっては訪れたことのある地であることから、想像しやすいという利点もあって楽しむことができた。
カオス=混沌といった言葉が原題(邦題ではサブ・タイトル)に組み入れられている通り、わかりやすい犯罪ではない。ましてやポアンカレが身を引き裂かれるような運命に出くわす経緯なども、わかりやすい動機などはどこにも存在せず、まるで殺意は悪魔のもたらすそれのようだ。ましてやそれは本作で取り上げられるメイン・ストーリーですらない。
主人公は天才数学者ポアンカレのひ孫という設定。実在した数学者アンリ・ポアンカレ(1854-1912)は「ポアンカレ予想」で知られる数学者。数学と聞いただけで鳥肌が立つタイプのぼくにはその功績はよくわからないのだが、ここでの主人公捜査官ポアンカレは捜査の途上で祖父の理論に繋がるかもしれないヒントを犯罪現場から入手してゆく。それはさまざまな画像であり、小説中に挿入され、目眩を呼び起こす。葉脈、山脈、市街図、稲光、木の枝。カオスは深まる。
あらゆる意味で難解な犯罪でありながら、謎を解き明かす小説の面白さは群を抜いている。ハーバードで教鞭をとっていたという作者のデビュー作というには、途轍もなく緻密でしっかりとした書きっぷりであり、その想像力の広がりには度肝を抜かれる。その上、あの痛みである。この展開が許されていいのかというタブーにまで踏み込んでいる、破壊力抜群の国際感覚ミステリと言えよう。
ホテルの一室のみが爆弾テロで吹き飛ばされ、犠牲者は講演を予定していた数学者であったという派手な展開の事件に、獄中から殺し屋を雇う狂気の犯罪者。スケールの大きさや犯罪の奥深さで勝負するデビュー策としては大胆にしか見えないのに、しっかりと書き込んでゆく小説作法に好感を感じてならなかった。『このミス』あたりでもっと取り上げられるのかと思いきや、あまりポイントを得ていないようだ。それでもぼく個人としてはこの作品は奇跡的に思える。未だに、とんでもない作品に出くわしたとの印象が、拭えないままなのだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
派手さはなく、重たい物語だった。
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インターポール捜査官が主人公、ということで犯罪も世界を股にかけている。
ひとことでいうと「ちゃんと読める」
このごろ当たりの作品が少なくて。
これも当たりとはいえないけれど、とにかく安心して読める。
いろいろ盛りこもうとしすぎて筋が追いづらい。
このあたりは編集の力量不足か。 -
それぞれの登場人物たちがしっかり描かれていて、面白かったけど、途中主人公に起きる悲劇があまりにも辛すぎる・・・。シリーズものらしいので、今後の主人公の再起の行方が気になるところ。それともこの作品がシリーズの最後なのかな?だとすると辛すぎる~
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主人公アンリの造形が素晴らしい。彼の苦しみや悩みの描写が的確で、こちらも彼の感情に巻き込まれてしまう。世界のすべてを支配する理論と「目には目を」を求める原始的な人間の感情が等しく存在する背景が、まさにカオスだ。結局大きなシステムに全てが支配されているのだとしても、人は自らの頭で考え最良の結果を求めて行動する事しかできない。求めるものは一人一人が皆違うのに、全員が幸福になることなんてあり得ない。そんなことを考えさせられた。
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ポアンカレと聞いて何かを連想する方はどの位居られるのでしょうか?
ここで言うポアンカレとは「ポアンカレ予想」でこの世に名を残した大数学者を指しており、本書の主人公「捜査官ポアンカレ」は彼のひ孫と言う設定です。
何だかルパン三世みたいですが、しかしポアンカレの方は以下でご紹介する粗筋からも伺える様に、かなり成熟したキャラクターです。
なお、本書の特徴として結構長いミステリーとなっている他、フラクタルにちなんだ挿絵が随所に差し込まれている等があり、独特の"風味"を持つ一冊となっています。
では前置きはこの位にして以下で粗筋をご紹介。
長年インタポールの捜査官として第一線で活躍してきた主人公、ポアンカレ。
そんな彼のもとにアムステルダムで起きた数学者爆殺事件の捜査が舞い降りてくる。
この事件には軍用ロケット燃料と言う特殊極まりない爆薬が使用され、また現場となったホテル最上階の居室のみが「まるでレーザー砲に切り取られた」様に綺麗に吹き飛ばされたいた状況から、捜査開始当初は容疑者はかなり絞れるのではないかと見られた。
しかし、その予想に反して捜査は難航。
一方、かつてポアンカレが逮捕した旧ユーゴスラヴィアの戦犯が彼の家族を狙い始め・・・
ハッピーエンドとそれとはほど遠い物が入り混じった終わり方をしています。
その為、単なる"苦い"ストーリーではなく、最後に奇妙な"甘さ"をも感じるミステリとなっています。
本書をあえて一言でまとめると、「人生は続く」と言った感じになるのでしょうか?
訳者の後書きによれば、本書は著者のデビュー作にして「捜査官ポアンカレ」シリーズの記念すべき第1巻目との事。
早めにシリーズ続巻の和訳版が出てきて欲しい所ですね。