アルファベット・ハウス (ハヤカワ・ミステリ)

  • 早川書房
3.64
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  • Amazon.co.jp ・本 (576ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150019006

作品紹介・あらすじ

英国軍パイロットのブライアンとジェイムズはドイツ上空で撃墜された。かろうじて脱出し傷病を負ったSS将校になりすますが、搬送先は精神病患者に人体実験を施す通称「アルファベット・ハウス」だった。そこに軍の財宝を着服した悪徳将校4人組が紛れ込み、虐待が横行する。ブライアンだけが命がけの脱走に成功するが、やむなく残したジェイムズのことが気がかりだった。28年後、ジェイムズを探しに訪独したブライアンは、町の名士として偽名で暮らす悪徳将校らを発見するが…。人気作家が描く友情と愛憎の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 人気シリーズ「特捜部Q」で知られる北欧ミステリの雄、ユッシ・エーズラ・オールスンの初期の作品。嗜虐的な人物による陰湿で執拗ないじめと長い時間をおいて反撃可能になった被害者の苛烈な復讐という人気シリーズに繰り返し現れる主題は、作家活動初期段階から顕著であった。

    二部構成。第一部は第二次世界大戦末期の1944年。第二部は1972年。場所はドイツ、フライブルク近辺。主人公は、イギリス空軍パイロット、ブライアン・ヤング。ブライアンとその親友のジェイムズ・ティ-ズデイルは、アメリカ軍から協力要請を受け、ドイツにあるV1飛行爆弾基地を撮影する任務を受けた。クリスマス休暇中でもあり、ブライアンは渋ったが、ジェイムズは否やを言わなかった。

    複座のP51Dムスタングに搭乗した二人は、予想通りドイツ軍の反撃に遭い、パラシュートで降下。追撃する兵と犬から逃げようと運良く来かかった列車に辛くも乗り込んだ。それは傷病兵を帰郷させる列車だった。二人は、高級将校に成り代わることに。だが、連れていかれた先は何と精神病院だった。ジェイムズはドイツ語が分かるが、ブライアンは分からない。連合軍の進撃が迫る中、終戦まで偽患者に成り果せることができるのか。

    Rhマイナスのジェイムズが、同じA型でもプラスの血液を輸血されてアレルギー・ショックを起こしかけたり、電撃治療や服薬で意識が朦朧となったりするのも危険だったが、それより怖ろしいのは、患者の中に敗色濃厚なのを知り、隠匿した美術品を山分けすることを目論む四人の偽患者が紛れ込んでいたことだ。彼らは、ジェイムズを疑い、食事に糞便を混ぜるなどをして、正気かどうかを試す。彼がためらいを見せると、密告を恐れて夜ごと暴行を加え、瀕死状態に追い込む。

    逃亡を企てるブライアンは、ジェイムズの様子を窺うが、とても同行できる状態ではなく、一人で逃げる。それを知って追いかけて殺すために偽患者たちも逃亡。厳寒の北ドイツ、闇の中、水中での格闘劇。口に突っ込まれた木切れが頬を突き破ったり、眼球に突き刺さったり、とハードなアクションを描かせるとこの作家は巧い。痛みの感覚を刺戟する筆致に、作家自身に嗜虐性があるのではないかと疑いたくなるほどだ。

    第二部。平和になったドイツではミュンヘン・オリンピックが開催中。アメリカ軍によって救出されたブライアンは、その後医師の資格を取り結婚。今ではいくつもの特許を持つ製薬会社の社長だ。帰国後手を尽くして探したもののジェイムズは消息不明のまま現在に至っている。戦後ドイツを訪れることを避けてきたブライアンだったが、思わぬことが相次いで起きたのをきっかけに、かっての地を訪れることになる。

    第一部では、戦争当時の精神病院における人体実験の様子や、ナチスが戦利品として収奪した美術品その他の物資の隠匿、といったエピソードで興味をそそりながら、様々な悪を体現する偽患者たちが消灯後の病室でひそひそ話す、殺人や拷問の自慢話が披露される。隣のベッドで耳を澄ませて聞き入るジェイムズがあまりの残酷さに反応を悟られてはならないと必死で息を殺す様が凄絶だ。

    戦後、偽患者たちは隠匿物資を元手に財を成し、過去の身分を隠して一般人として暮らしている。そこへ、ジェイムズの安否を尋ね、過去からブライアンが現れる。悪人たちは、ブライアンの目的を知らないが、危険を察知し始末しようと行動を起こす。魔の悪いことに、夫の行動に不信を感じたブライアンの妻ポーリーンがドイツに飛んでくる。第二部は、ジェイムズの消息を探るブライアンの探索行と悪人たちの知恵比べ、というミステリ仕立てになっている。

    少年時代、ジェイムズとブライアンは熱気球でドーヴァー海峡を飛ぶという冒険を試みる。空気が漏れだした気球から飛び降りたブライアンは崖の上に着地できたが、最後まで降りなかったジェイムズは、突風にあおられて崖に激突。気球は木の枝に引っかかって、崖の途中で宙吊りになりながら、ジェイムズは、ブライアンをなじり罵倒する。危機の最中に親友を見捨てて逃げるという本作の主題の、これが伏線になっている。

    小さい頃からの遊び友だちで、そのまま戦友となった二人だが、性格はちがう。すべてにおいて、決定権を握るのはジェイムズの方だ。ブライアンは、いつもジェイムズの「だいじょうぶだよ。うまくいくさ」という言葉を信じて一緒に行動してきた。熱気球が膨らみきっていないのに飛ぼうとした時も、偶然通りかかった列車に乗りむ時も、ジェイムズが仕切ったのだ。ブライアンが自分で離脱を決めた時、ジェイムズはそれをなじる。

    三十年近く、ブライアンはそれを恥じてきた。どうすればよかったのか。著者あとがきのなかで、作者は「これは戦争小説ではない。『アルファベット・ハウス』は人間関係の亀裂についての物語である」と述べている。絶え間ない暴力に見舞われる精神病院からの脱走、葬ったはずの過去からの反撃、とスリルとサスペンス溢れるストーリー展開に魅せられながらも、やはりこれは作者の言う通り、亀裂した人間関係の回復とその難しさを描いた物語なのだ、と思う。余韻の残るラスト・シーンに胸打たれた。

  • 1997年刊行のデビュー作。
    著者の代表作といえば『特捜部Q』シリーズで間違いないだろうが、本作は第二次大戦〜戦後を舞台にしたサスペンス。
    ドイツに墜落した英国軍のパイロット2人が、追っ手から逃げるうちにどんどん逃げ場を失って行く冒頭にワクワクした。病院列車に逃げ込んで、最初の追っ手は振り切ったものの、重体の親衛隊将校に化けるしかなかったばっかりに……。
    また、精神病院に収容されてからの、緊張感あふれる人間関係も面白い。この2人以外にも偽患者が何人かおり、どうも彼らは何か良からぬことを考えているようだ……。

    さて、後半の第2部、戦後に入ってからは、脱走に成功し、今は医師としてそれなりの地位を築いたブライアンが主人公になる。精神病院に取り残された相棒のジェイムズの行方は未だに解らない……。
    若書きというのか、第2部に関しては勢いを感じるものの、ややご都合主義に振れているきらいがあって、一部の登場人物の言動にわざとらしさが拭えないところがあるのは残念だった。
    反対に迫力があって引き込まれるのはアクションシーン。これは後の『特捜部Q』にも通じるところが感じられた。また、『特捜部Q』は一種のキャラクター小説としても読めるのだが、本作でも登場人物の造形は高い水準にあると思う。
    本邦では『特捜部Qの〜』という枕詞がつくユッシ・エーズラ・オールスンだが、未邦訳のノンシリーズ作品が3作あるようなので、こちらも邦訳されることを祈りたい。

  • 特捜部Qシリーズの作者、オールスンのデビュー作。第二次世界大戦末期のドイツの病院を舞台にする前半と、それから30年近く経った70年代初めを描く後半の二部構成。第一部ではドイツ軍の機密施設を戦闘機で低空飛行して撮影するという危険な任務を負わされた若いイギリス兵二人が、任務に失敗し傷病者を運ぶ列車に潜り込みドイツ兵になりすまして生き延びたものの、入院先は重度の精神障害を負ったナチ将校たちが収容される特殊な病院で、そこで身を偽りながら精神疾患のフリをし続けるという二重の偽装を重ねて死を免れようとするさまが描かれます。戦争は悲惨なだけでなく犯罪者にとっては通常の世より悪事を働きやすく邪魔者を始末しやすいという側面もあり、主人公の二人の他にも戦時の混乱を利用して私腹を肥やすサディストのグループが前線に送られるのを免れようとやはり偽患者として身を隠していて、目を点けられた若い二人はこの悪人たちに酷い虐待を受けるので、過激な電気療法と無計画な投薬で正気と精気を保とうとするだけでも最悪なのに、読んでいてすごく気が滅入りました。しんどい前半が終わると、後半は映画さながらの展開もあり読みやすいのですが、それでも著者がテーマとして扱った「人間関係の亀裂」が淡々と描かれ、映画のようなハッピーエンドやカタルシスは得られないのでした。それでも続きを読むのをやめる気になかなかなれないあたり、この作家のすごいところだと思いました。面白かった、と素直に言いにくいのですが、大変読みごたえがありました。へとへとになって読了。

  • 書き出しから緊迫感に満ちた筆致で、テンポよく作中にどんどん惹き込まれていく。
    我々が知り得ない、戦争という異常な状況の中で、とにかく自らの命を守るという本能に突き従って決死の努力を続ける2人の主人公に同調、没頭する序盤。
    物語はそこからさらに展開を見せ、30年近い時を経た第二部で繰り広げられるドラマに至るまで、飽きずに読者を掴み続ける。
    とても2時間では描き切れないだろうが、アクション性にも富んだこの壮大な流れはいかにも映像化向きのようでもあり、つまり視覚的なヴィジョンも明確に頭に浮かんでくる類の小説だ。
    個人的には、終盤の活劇がほんの少しだけ好みでない部分があるかな、という感じもしたが、文句なく面白く、極めて完成度の高い作品であることは間違いない。

  • 第二次大戦中、ドイツに墜落した2人のイギリス人パイロットは、精神を病んだ振りをしてドイツ軍の高級将校専用の精神病院に収容される。
    だがそこには同じように精神病の振りをしている悪だくみをしている4人のドイツ軍将校がいた――。
    からくも1人で逃げ切ったイギリス人パイロットは戦後、心ならずも置き去りにしてしまった友人を探しにドイツに向かう――。

    ってなストーリーなので、読了後は『ディアハンター』と『カッコーの巣の上で』が見たくなってしまう。
    膨大な資料を元に、戦中のドイツの精神病院がしっかり書き込まれているので痛々しさ倍増。

  •  戦争に赴く若き兵士たちと、戦地での悪夢のような体験。戦争を挟んで、30年後出会った幼な馴染みは、地獄のような体験により狂気という犠牲を払って待っていた。

     ひどく簡単に本書の概要を記すとこうなるが、こうしてみると1970年代に劇場で観た強烈なベトナム映画『ディア・ハンター』を思い出す。主役のロバート・デ・ニーロとその周りを固める同郷の戦友たちの物語であって、ベトナムという地獄がもたらした人間性破壊の悲劇でもあった故に、若かった魂を心底揺すぶられた作品である。

     本書は、あのディア・ハンターが持つ細密で長大な描写に近いディテール力を持つ。映画『ディア・ハンター』は、徴兵前夜の若者たちの一日を執拗なまでに描き、それに代わる唐突な戦場の描写は中盤にエピソードのように挟まり、しかし強いインパクトを観客に与える。映画は、戦争によって変わってしまった人間模様の戦後・後半部へと様相をがらりと変えてゆく。そこで友情や男女の愛を溶鉱炉のように変化させてしまった戦争の影響が陰影深く辿られ最大の悲劇に向かってゆく。

     本書は、戦前部分よりも戦時部分のある特殊な悪夢体験を執拗に描くことでスタートする。第二次大戦末期、出撃した爆撃機の墜落により、パラシュートで脱出した二人の英国軍兵士が、ドイツの奥深くに逃げ延びる。追い詰められた彼らは病院列車に飛び乗り、死んでゆく親衛隊将校らに成り代わって生き延びるが、彼らはそのまま精神を病んだ者として、<アルファベット・ハウス>と呼ばれる過酷な施設での日々を余儀なくされる。さらに命を狙う四人組、脱走、死闘、空爆による施設の壊滅……と、これだけで第一部は終了する。

     作者はしかし、「これは戦争小説ではない」と書いている。その通り、第二部は、生き別れた友のことを人生の十字架として感じている兵士が30年後のドイツへ赴くことで展開する新たなストーリーである。日々、死を意識させられて心まで病んでいたアルファベット・ハウスの記憶を軸に、あの四人組の残党と、置き去りにしてきた友との罪と贖いと許しの物語である。

     人間の心を弄ぶ病院施設というと映画『カッコーの巣の上で』を思い出す。何と、作者は父が精神科医だったため幼少の10年間を精神病院で育ったそうである。そこでは患者が本当に精神を病んでいるのではなく、ふりをしているかもしれないという疑惑を常に感じていたそうである。それゆえ仮病が可能な病気としての精神病院という施設、そこでしか起こりえない陰謀、恐怖などがスリラーのモチーフとしてこの物語を構成しているようである。

     精神への打撃を受けた友と、彼を救い出しに来た幼な馴染みは、少年時代の痛烈な思い出を共有しつつ、もう再生があり得ないような悲劇と犠牲を交感する。ナチというなんとも重たい歴史的題材に、人間を心身ともに支配するという最大の悪を表現してみせた力作である。これがデビュー作とは、そしてこの本の完成に8年を費やしたとは。作家としての活躍が光る『特捜部Q』シリーズ以前にこれほどの傑作をものにしていた作者、やはり只者ではなかったのである。

  • 特捜部Qの作者のデビュー作。第二次世界大戦中にイギリス空軍のパイロット2人が不時着したドイツで精神病院に偽患者として隠れて過ごし、一人だけが脱出に成功。そして二十数年が経った後の物語。
    スリリングなアイデアと予想もつかない方向に展開するストーリーは素晴らしい。相変わらず名前を覚えるのが苦手なのが悪いのだが、登場人物たちが本名以外に偽名を持ってたりするので本当にややこしい。途中で人物を特定するのを放棄したので、やや面白さを味わうことができなかったかも。
    七四式銃にまつわる話は、まさか東の果ての国で、文化教養溢るる自国の小説が読まれるとは思ってもいないからああいう描写になるんだろうな。少し悲しい。3.2

  • 設定にちょっと無理を感じるけど
    読むに堪えないほどの理不尽さ
    もちろん戦争中とはいえ
    これでもかと言う虐待
    タイトルにも違和感
    やっぱりQが・・・

  • ユッシ・エーズラ・オールスンのデビュー作。
    「特捜部Q」を読み続けて、やはりデビュー作を読むのは大事かな、きっと面白いだろうと予約していた。手にしてビックリ。レンガ本には負けるが参考文献まで入れて572ページ。面白くなければ読了できない厚さだった。

    第一部

    舞台は1944年、第三帝国を目指して世界を無残な戦争に巻き込んだドイツにも少し翳りが見えはじめている。アメリカ軍の要請でイギリス軍パイロットの二人が複座のマスタングで出撃した。前座にジェイムス、後ろにブライアン。二人は子供時代からの親友だった。
    ドイツ上空で撃墜され、二人は傷を負いながら国境線に逃げ込もうとする。
    ここからが第一部のメインストーリーになる。
    かれらがチャンスとばかりに逃げ込んだのは、ナチ親衛隊の精神的な負傷者を満載した列車だった。二人は服を取り替え患者になりすます。収容されたのは、フライブルグ近くの、軍務に復帰できない軍人を収容した精神病院だった。
    疾患の程度によってアルファベットで区別されていた。彼らが成りすましたのは上級軍人だったが、治療は薬物と電撃で、荒療治のために心身ともに病んでしまっていた。
    中に戦場を避けて仮病を使う成りすましがいた。だが余りの演技に発覚することもなく、病室での二人も同じように心身障害者に成りすます。
    中に特に悪質な三人がいた、彼らはひそかに隠匿した高価な金品を廃線に引き込んだ貨車に隠していた。夜のひそひそ話で、ドイツ語の出来ない二人も感づいてきた。仮病ではないかと疑った三人に拷問に近い暴行を加えられる。前線が近いことを知りブライアンは脱走する。だがジェイムスは過酷な治療と暴行を受けてやんだ精神と肉体は逃げることに耐えられなかった。

    ここまでで、精神病院の過酷で粗雑な治療や、見込みのない患者や、疑わしいと思われた患者が無残に処刑されることを述べる。労働可能と見なせば前線に送り返され、ごみのように処分される。作この第一部は心理描写が多く病院の生活、治療法なども事細かに書いている。主人公たちのストーリーを辿るだけなら少し冗長に過ぎるように思えたが、第二部の前段階として読み込んで置いたよかったと感じた。

    第二部

    28年後、イギリスに帰ったブライアンは医師になり薬剤の研究をして製薬会社を興し家庭を持っていた。彼は手を尽くしてジェイムスを探したが、ヨウとして足跡は見出せなかった。
    帰国してブライアンは本名に戻ったが、ジェイムスは入院当時のままになっていた。
    戦後病院を移り、治療と環境のためにますます精神を狂わせ、自己を殆ど無くした日々だった。ただベッドから起きて筋肉を動かす日課で、かろうじて心体の機能を維持をしていた。
    悪徳軍人の三人は豊富な資金で成功し、残りの参謀的一人は目立たない資金運用でコレも富を増やし、新しい名前を得て平然と市民生活を送っていた。秘密を聞かれたという理由でジェイムスを手放さず、彼は入院時からのゲルハルト・ポイカートをユダヤ系のエーリッヒに改名させられた。ドイツ名前のままだと戦犯だと見なされるかもしれない。

    ブライアンはミュンヘンオリンピックの医師団として、ドイツに行く決心をする。改名した三人にたどり着くまで。
    入院中にジェイソンに惹かれどこまでも付き添っている当時の看護師のぺトラがいた。夫ブライアンの言動に不審を抱いた妻も訪独。
    縺れに縺れた糸が次第にほぐれてくる。
    生死をかけた戦いにジェイムスの病んだ心が何かを感じ取る。彼は緩慢な体を使って、動き始める


    第二部は人探しの謎解きに似た展開で、罪の重さをいかに暴いていくか、一部より展開が速い。


    そして、巡りあった二人は、その幸運を喜んだだろうか。
    ジェイムスは、助けに来なかったブライアンを待ち続け、ついに独り逃げた彼に憎むべきではないと思いながら憎悪が深まっていたことに気づく。
    ブライアンは、探し続けたことに心残りは無い。幼い頃の思い出の岬にたってドーヴァー海峡を見ながら、もう取り返せない月日と、二人の心のすれ違いを目の当たりにして悲しむ。
    ジェイムスはただ憎むのではない、過酷な月日に蝕まれ、心身ともに廃人に化しそうな毎日を耐え抜いた、ブライアンにであっても素直に喜べただろうか。

    将来がいい萌しをもたらすかもしれない、人為的に陥らされた境遇であれば人の心はすぐには癒えず、心は様々に形を変える、まず生きることがあってこそ、どこからか亀裂を埋めるときが次第に訪れるのかもしれない。
    戦争を書かず友情を書いたと言う作者の言葉が添えられていたが、深い絆で結ばれていると思っていても、人は心ならずも目先の感情に負け、捻じ曲げられ救われることの無い闇に迷うのかと、酷く哀しい思いがした。

    最初は「岩窟王」のような復讐譚かと思った、第一部は長すぎるように思い第2部は少し感傷的、だが書かなくてはならない目標に向かったというデビュー作は、最後まで読んで分かる作者の心の反映が理解できた。描写の長さを差し引けばとてもいい作品だと思う。

    「特捜部Q]の最新作を読もう。

  • ユッシ・エーズラ・オールスンのデビュー作。
    ナチスの精神病棟を描く前半は、結構しんどかったかな。
    第2部は1970年代になっての話だけど、
    すこーし粗いように思う。
    全体的に、も少し緻密に仕上げればよかったかな~と思う。

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ユッシ・エーズラ・オールスンの作品

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