都市 (ハヤカワ文庫 SF 205)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (367ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150102050

感想・レビュー・書評

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  • 復刊されるべき作品

  • SFの古典的名作。1952年の作品。

    犬類が文明を営る未来世界で、犬たちに断片的に語り継がれてきた神話の数々。それは二十世紀末に始まり、1万年を超える悠久の時の中で、人類が衰退し消滅し代わって犬類が高度な文明を担うに至る過程と、ジュウェイン哲学やコブリーズなどの、この世界の幽玄な部分を明らかにする壮大な物語だった。

    人類は二十世紀末、技術の発展に伴い都市を捨て、世界に散っていく。この動きに抗ったのがウェブスター家。その後、ウェブスター家は、広場恐怖症により火星の哲学者ジュウェインの病を治療できず、人類はジュウェイン哲学を入手し損なう(が、人類の鬼子にして異能進化を遂げたミュータント、ジョオが密かに解明し、我が物とする)。ウェブスター家は、人類の知恵や哲学を補うため、元々知能の高かった犬に手を加え、喋れる種へと変える。しかし、木星への進出を試みた人類は、木星の生物(ローバー)へと転位することによりその潜在能力が解放され、深い知恵と鋭敏な肉体・精神を持った至高の存在へと昇華できることを知ると、そのほとんどが木星へ行き、人ならぬ存在へと変貌を遂げる。地球に残ったウェブスター家は、犬たちが主人たる人類の失敗を繰り返さず(健全に?)進化・発展していけるよう、人類の痕跡を消し、その影響を排除することに努めた(犬たちに地球を白紙の状態で委ねた)。

    ウェブスター家の家政ロボット、1万年の記憶を持つジェンキンズは、主要キャラクターとしてほぼ全編に登場し、これらの出来事の記憶の繋ぐ役割を演じている。

    物語途中でファウラーは、「世界は今まで、ウェブスター一族のために、あまりに多くのものを喪ってきた。」と叫んでいるが、結局、呪われた(?)ウェブスター家は、ジュウェイン哲学を失い、ミュータントと決別し、犬に言葉を与え、人類の消滅を阻止せず、犬のために人類の影響を排除し、と人類及び犬類を1万年にわたって振り回してしまったことになるのだが…。

    なお、「ジュウェイン哲学」とは、火星の哲学者ジュウェインが解明しつつあった哲学の新しい概念で、太陽系を造り変えるほどのインパクトを持つとされる。要は、他の人間存在の観点を感じとる能力(テレパシーよりもずっと高尚な能力)を培うためのもの。「コブリーズ」は、人間はそれを霊魂と呼び、本当は隣の空間にある何か、別次元にある別の生命形式のことだという。

    とまあ、本作は物語が壮大すぎて、かなりの消化不良。哲学的な部分も分かりい(もちろん翻訳の問題もあるかもしれないが)。とはいえ、70年近く前の作品なのにアイデアが斬新で古さは全く感じなかった。やはりSFの古典は凄い!

  • 古書購入

  • 一万数千年後の地球には人間の姿はなく、代わって犬が文明を築いていた。人間が創ったロボットは自らを修理、補修しながら生き続け、時に犬を助け、助言しながらも犬とは一定の距離を置いていた。人間の存在はすでに忘れ去られ、わずかに残る文献を犬が調査した結果として記される、人間とロボットと犬の八つの物語。

    ・第一話 都市
    原子力エネルギーが発達し、一人に一台の飛行機やヘリコプターが当たり前となった時、人々は都市から郊外へと移住した。結果、都市は過疎化し空き家だらけとなった。一方、農業は水耕栽培により十分な食料が確保され、飢えの心配はなくなったが、農家の仕事はなくなった。仕事を失った人々は都市の空き家に住みつき、暴徒と化しつつあった。警察は空き家を焼き払い暴徒を追い出そうとしたが、原子力で儲けた男が現れ空き家を全て買い取ったとして焼失を防いだ。ジョン・J・ウェブスターはこの土地を管理する仕事についた。

    ・第二話 密集地
    ジェローム・A・ウェブスターは医学博士であり、特に火星人の生理学についての権威だった。ロボット執事のジェンキンズに仕えられ、家から出ることのなかったジェロームはいつしか広場恐怖症となってしまった。旧知の火星人哲学者が急病となり、すぐにもジェロームによる手術が必要とされたが、広場恐怖症のため火星に赴くことができなかった。この時、火星人哲学者ジュウウェインは太陽系を造りかえるほどの概念、宇宙時代の十万年ほども、いちどきに人類を進歩させるような概念を発見していたが、これを発表することはできなかった。ジュウウェイン哲学は失われた。

    ・第三話 人口調査
    トマス・ウェブスターは恒星間ロケットを開発した。その息子、ブルース・ウェブスターは犬に言葉を教え、人と同じように見るためのコンタクトレンズを開発した。言葉を覚えた最初の犬がナサニエルだった。この二人と一匹に出会ったグラントは人口調査のほかに突然変異(ミュータント)の調査もしていた。その後、グラントはミュータントの一人、ジョオと出会う。ジョオはトマスにロケット開発のヒントを与え、また未完成のジュウウェイン哲学を完成させることもできるといった。しかし、ジョオはその内容をグラントに話すことなく去った。

    ・第四話 逃亡者
    木星調査のため送った五人は戻らなかった。隊長のファウラーは自ら調査に出向くことを決め、愛犬のタウザーと共に木星に降り立った。体質転位機を使って木星の生物、ローパーに転移したファウラーとタウザーはテレパシーのような意思疎通が可能となり、全ての真理を悟ることができた。二人は報告に戻ることはなかった。

    ・第五話 パラダイス
    五年後、ファウラーが地球に帰ってきた。世界委員会の議長、タイラー・ウェブスターはファウラーと会見した。ファウラーは人類に木星に行けばパラダイスが待っていると伝えようとした。しかし、タイラーはそんなことをすれば人類がすべて木星へ行き、築き上げてきた文明が消え去ってしまうと考えた。ファイラーに何とか思いとどまらせようとしたが叶わなかった。そんな時、ミュータントのジョオが訪ねてきた。ジョオはタイラーにジュウウェイン哲学を理解するよう仕掛け、全人類にも波及するよう仕組んだ。これにより、人類は木星の本質を理解し、木星に大挙して移住し、ミュータントの思惑どおり地球を明け渡すこととなった。

    ・第六話 道楽
    大部分の人間が木星に旅だったあと、地球ではロボットのジェンキンズに助けられながら犬が進化を続けていた。わずかに残る人間はジュネーブに集まって暮らしていた。その中の一人、ジョン・ウェブスターはサラと久しぶりに出会う。サラはジョンの息子の母親だが、家族という関係性はすでに過去のものとなっていた。その他にも商売、仕事、目的すら必要なくなっていた。地球に残った人間は衰退をたどり、サラは冷凍睡眠に入ることを決意した。残されたジョンはジュネーブを出てジェンキンスのいるアメリカのウェブスター邸に向かった。犬たちにとっては人間は伝説の中の存在で神と同じだった。

    ・第七話 イソップ
    犬は他の動物たちにも言葉を教え、食べ物を配給した。その結果、争いはなくなり殺しあうこともなくなった。ピーター・ウェブスターは多くの動物の中の一種族として暮らしていた。現在を超える文明を築いた種族だとはロボットのジェンキンズ以外は知る者もなかった。ピーターはある日弓と矢を作り、駒鳥を撃ち殺してしまった。これを知ったジェンキンズはピーターを探しだした。その時、ピーターは犬がコブリーズと呼ぶ別次元の生物を殺そうと戦っていた。コブリーズを追い払ったピーターを見てジェンキンズは、人間が本質的に争い、殺しあうことは避けられないのだと悟った。

    ・第八話 簡単な方法
    ある日一人のロボットが「お召」を受けたと言って洗い熊のアーチーの元を離れていった。犬のホーマーは放浪ロボットに会いに行った。そこで<ビルディング>についてロボットから聞くことができた。<ビルディング>はミュータントのジョオによって進化させられた蟻が作り上げたものだった。この<ビルディング>は拡張を続け、このままでは世界が覆われてしまうと考えられた。また、ロボットに対する「お召」が蟻によってなされたこともわかった。別世界から帰ってきたジェンキンズは蟻から動物たちを守るため、冷凍睡眠中のジョン・ウェブスターにテレパシーで語りかけた。蟻を追い払う方法は餌の中に毒を混ぜればいいとジョンは言った。しかし、ジェンキンズは動物の文明を失うのも仕方ないとし、殺戮は行わなかった。

  • 古さを感じさせない佳品、犬好きのひとに!   
    表紙   5点金森 達
    展開   7点1952年著作
    文章   6点
    内容 760点
    合計 778点

  • はじめは、あれ?期待外れ?…かと思ってたら、どんどんはまりこんでいく。
    結局期待以上だった。

  • 中継ステーションの作者

  • こんなに簡単に人類は滅んでいくのか……。最終的には、奪い合うことが人間を滅亡へ導いたってことなんかなぁ。

  • クリフォードDシマックの描くディストピアの物語。緩やかに種族として死んで行く人類の話。まあ、ヘリが与えられたからって、みんながみんな郊外に家買ったりはしないだろ。通勤に時間かかるだろうし。結局、最後の話は犬も蟻に追い立てられて他の宇宙に行ったってことなのかな。シマックは犬派だったから、猫派の興隆に負けたんやな。

  • 一つ一つの話は妙な雰囲気があって面白いが、全体としていまひとつ印象に残らない。犬なのか、都市なのか。

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