- Amazon.co.jp ・本 (379ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150102524
感想・レビュー・書評
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『魔女の宅急便』のウルスラ(CV高山みなみ二役)のくだりが私は好きで、その理由は宮崎駿自身が投影されているからだと思うのだけど、ウルスラという名前は劇中では言われていないから、ずっと気になっていました。今年になってから「あっ、元ネタはアーシュラKルグィンじゃないのか!?」とようやく気付いた(遅い)。
日本屈指の軍事マニアである宮崎駿大先生のことだから、ハルトマンの奥さんから取っているのか?とか思ってました。どちらも元は聖ウルスラ。
図書館で借りたい候補のものが貸出中だったため、仕方なく繰り上げて『闇の左手』。「仕方なく借りた〜」と先輩に言ったら「ルグィンに失礼だろ!」とツッコまれた(あたりまえだ)。
有名だし、元々読みたかった作品だけど、結果的に読んで良かった!大満足でした。
ルグィンだと『ゲド戦記』が有名で、そちらはファンタジー。『闇の左手』はSFだけど、ファンタジーとSFは元々近接ジャンルで科学的なのがSFだからそこまで違いはないです。
「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。」(アーサーCクラーク)
ストーリーは、ファーストコンタクトものの逆転というか、スタートレックでよくあるカーク船長たちがとある惑星に行って…というものに近い。黒船来航みたいな感じ。主人公のゲンリーアイが寒い惑星ゲセンにペリー的な使節として来るのだけれど、地球人からすれば未来のお話なのでいきなり武力をちらつかせるようなことはせず、ゲンリーひとりでエクーメン(国連みたいなもの)に加盟してと交渉する。そして右往左往する。すごくざっくり言うと異文化コミュニケーションのお話。
もうひとりの主役は、この惑星の人間であるエストラーベンだけど、途中から「こいつの方が主役やん!」となります。
ストーリーだけならそこまで面白くはないと思う。この作品ですごいのは、その「世界観」。便利な言葉なので、最近はなんでも世界観世界観と適当に使う人が多いのでイラッとしますが、真に世界観が素晴らしいと言えるのはアーシュラKルグィンみたいなこういう作品だと思う。あと他に使っていいのは尾崎世界観ぐらいですよ。
世界観とはなにかというと、要するに設定です。設定とはなにかというと、映像作品の場合はデザインまで含まれるけど、「世界の構築」です。
『闇の左手』の惑星の人間は雌雄同体、両性具有。生物学→文化人類学→社会学と、積み重ねて世界を創造している。ここがすごくて面白いところです。ルグィンのお父さんはインディアン研究の文化人類学者。この作品はフェミニズムSFとも呼ばれるけど、フェミニズムは社会学。
そういう社会科学のSFで、そこが魅力です。途中に何度も挿入される、惑星の神話や民話、伝承がとても面白い。
この惑星には大きくふたつの国家が存在していて、それはそのまま当時の冷戦構造。カルハイドは王国、もうひとつのオルゴレインは共産主義国(清朝までの中国と、中華人民共和国になってからの中国がモデルだそう。ただ我々にとっては先に書いたように江戸時代までの封建制の日本も連想すると思う)。
面白いんだけどこの部分はそんなに好きではなくて、私たちの想像をさらに越える世界を構築して欲しかったなと思う。ディストピアものは社会科学のSFだけど、オーウェルの『1984』もあるし、わりとありふれている。
アメリカ先住民を連想させられるのもわりとそのまま。スタートレックって元々西部劇を宇宙に置き換えたものだから。
この作品が発表されたのは1969年とベトナム戦争のさなか。SF映画だと『2001年宇宙の旅』や『猿の惑星』の翌年。そしてアメリカンニューシネマの時期で、それらの作品と共通点が多い。西部劇、西部開拓時代のフロンティアを延長して日本→朝鮮半島→ベトナム→中東…と西へ進んで行ったのがアメリカの歴史だと私は捉えているので、そう思わされる。
読み進めて行くと、ゲンリーの人種がだんだんわかっていくのも面白い(真逆の思想で描かれた、ハインラインの『宇宙の戦士』にも同じような手法が用いられている)。
終盤の脱出行のくだりからは、『ウェイバック -脱出6500km-』という映画を連想させられた。これの原作は1956年刊行で、50万部以上売れた本だそう。他に『セブンイヤーズインチベット』の原作は1952年刊行。
作品の根幹である両性具有の設定は最高に面白い!良い!ありそうでなかったこのアイデア。性差がない世界で、だからこそフェミニズムSFになっていて、深く考えさせられる。SFじゃないと表現できない世界、これこそセンスオブワンダーだと思う。フェミニズムSF云々と言うと難しそうだけど、そういうのを抜きにしても、SF作品として優れている。
因みにこの小説は、『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』の北村紗衣さんもブログで紹介されていて、「でしょうね!」と思いました。
私はジェイムズティプトリーJr.(アリスシェルドン)も好きで、特にやはり『接続された女』。ティプトリーの方が14歳ほど年上でひと世代前。ふたりは交流があって仲が良かったとか。
どちらも「違う立場の人間になって考える」ことが大事だと教えてくれる作品。途中のエストラーベンのナショナリズムについてのセリフ…ここも泣かせる。
これの前にたまたま構造主義の本を読んでいて、時代的にもかなり共通していると思う。文化人類学なのでたぶんレヴィストロースとか。ルグィンがレヴィストロースについて語ってるものがいくつかあるようなので、そちらも読んでみたい。
異文化コミュニケーションの部分、たとえばレムの『ソラリス』なんかだとそもそも全く異質なものなので理解できない、交流できないという話だけど、『闇の左手』は相手が人間なので理解できる、交流できる。でも理解できない概念(母国語に翻訳不可能な言葉)もある。ここも非常に面白いです。
惑星ゲセンで重要なシフグレソルという概念。キムタク主演、山田洋次監督の『武士の一分』という映画がありましたが、一分を英語でどう訳してるか疑問に思って調べたら「honor」で、なんかちょっとニュアンスが違うんじゃないか?と感じたことを思い出しました。ヌスス。
明日から使えるカルハイド語、ヌスス。
雌雄同体といえばナメック星人もだけど、彼らみたいに口から産卵する設定じゃなくてよかった。ヌスス。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
喉も、肺すらも凍りつくほどの真っ白な世界での逃避行。じわりじわりと迫り来るような闇への恐怖と根源的な生への執着、そこで育まれる信頼、友情(友愛)、とまどいと信頼。そして訪れる唐突な別れ。回想。
人生ベストブックです…。
ハマりすぎて本当にショックで、わんわん泣きながら調べ物をしたりデリダの赦しを読んだりしていたら、著者自身が闇の左手をセルフパロディしたというFour Ways to ForgivenessのForgiveness Dayについての叙述を発見しました。(確か、世界の合言葉は森?か世界の誕生日の訳者あとがきで)でも英語読めないしなあ…でもでも頑張って読むか…ebook買って…なんて思っていたら、買ってそのまま積読していたSFマガジンのルグイン追悼号にまさにその短編(赦しの日)が掲載されて…いました…。奇跡…?しかも…しかも小尾芙佐氏の訳で…ありがとう…ありがとう早川書房…
当方ルグイン超絶初心者ゆえ赦しの日を闇の左手のアンサー、ととるのはいささか早計やもしれませんが、ああ、こういう物語にもなったんだなと、温かいなみだを流し読後を迎えることができました。
""『』省略 -
はるか遠い未来の話。人類の末裔たちの物語。星間を行き来できる世界で、外交関係を結ぶために、人類が極寒の星に使節を送り込む。その使節ゲイリー・アイが語る数奇な物語。
重厚な物語で、読み慣れない言葉もあり、読み進めるのに時間がかかった。
17章 オルゴレインの創世伝説
この辺りから、一気に読むスピードが上がり最後までたどり着いた。
1969年に発表されたと解説にあったが、多様性を受け入れる社会が描かれており、とても現代的だなぁとの印象を持った。 -
難しかった。ゆったりと流れる時間の中で読んだらよかった。いや、それはそれで寒くてしんどいかもしれない。
ゲセン人が両性具有であることの社会学的な洞察が期待していた感じではなかったかなぁ。性欲がよりシステマティックで情動と呼ばれるよりは大人しいのであれば、例えば芸術はどのような発展を遂げているのかしら -
全く異なる生物学的要素を持つ惑星の人々の生活などの描かれ方が、とにかく圧巻。文化の違いの中で育まれる関係性の描き方も巧み。
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2012/09/12
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初のル・グイン作品
造語が多いこと、季節の巡りや名前が地球と全然異なること、
両性具有によって成り立つ独特の文化があること
などなどに阻まれてなかなか読み進めるのが難しかったです(何度も寝落ちした)
特に主人公二人の心理的なやり取りは理解するのが難しかったように感じました。
一読では理解できない部分も多々あったので、機会があれば再読に挑戦したいです -
んー、これは、しばらく本格的なSFから離れてた身としては、ちょっと難しかった。
非常に興味深い設定ながら、それを理解して入り込むまで時間がかかり、人の名前とか関係性もなかなか把握できず、ナニナニ?と行きつ戻りつ。
字面を目が滑ってしまう章もあり、結局良く判らないまま終わったけど、途中で放棄もできない何かがあり、、、。
かなり前の作品だというのが、改めて驚き。