火星のタイム・スリップ (ハヤカワ文庫 SF 396)

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制作 : 小尾 芙佐 
  • 早川書房 (1980年6月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (343ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150103965

火星のタイム・スリップ (ハヤカワ文庫 SF 396)の感想・レビュー・書評

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  • ディック祭り4冊目。
    「火星」「タイムスリップ」とSFなガジェット二つを組み合わせたタイトルながら、どっちもあまり関係なく、非常にサイケデリックでディープな話。
    未来ってつまりは「物は壊れ、人は死ぬ」ということだよなー、
    それが見えたら虚無と絶望でしかない、というなんとも恐ろしくバッドトリップな話。
    これって、「アンドロイド・・・」でいうところのキップル理論と一緒?
    さらに、恐怖なのは、死なせてくれないこと・・・・。

    ただ、その絶望を克服するのは「愛」!
    ディックって素直に「愛」の力を信じているんじゃないかなー。

    ガブル!ガブル!

  • ディックの諸作品はどれも印象的なタイトルだ。「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」や「ユービック」など、どれもインパクトのあるタイトル。そんな中で「火星のタイムスリップ」というある意味ベタなタイトルのこの作品。黒の背景にスタイリッシュなデザインを施した新装版ラインナップにもなかなか入ってこず、どうなのかと思ってました。

    が、陳腐なタイトルにだまされてはいけない。傑作!
    なんだ、この不安でいっぱいの居心地の悪さにもかかわらず、どうしても読んでしまうこの感覚。まるで本にとり憑かれてしまうようです。

    ヤク中の変なおっさんなんて思っててごめん。ディック恐るべし!

    この秋はディック祭りだな。

  • 人類の植民が進みつつある火星。圧倒的な水不足を背景に絶大な権力を持つ水利組合の長アーニイ・コットは、火星の開発計画に伴う利権争いに出遅れ、地球の資産家達に先を越されてしまう。損失を取り返さんと憤怒に燃えるアーニイが目を付けたのは、常人と異なる時間感覚を有しているらしい自閉症の少年マンフレッドだった。マンフレッドの能力を利用して過去の改変を図るアーニイ、他者とコミュニケーションを取ることが全く出来ないマンフレッド、マンフレッドと意思疎通するための機械の開発をアーニイに命じられる技師のジャック、三者の異なる思惑が、火星の運命を思いがけぬ方向へと導いていくことになるが・・・。

    うひゃー、やられた。面白いです。
    タイトルで損をしている作品だと思います。アーニイがマンフレッドの能力によってタイム・スリップするに至るまでの話が、確かに物語の骨格を成しています。が、だからといってこの作品を、如何にもジャンルSF的な「時間SF」と頭から決めてかかると、かなりの衝撃を受けることになるのではないかと。

    傲慢で人の話を聞かず、他者を自分の道具としてしか見ることが出来ないアーニイは、マンフレッドが時間改変能力を持つと決めつけて、周囲のキャラも巻き込みつつ強引に計画を進めていきます。しかし、マンフレッドが実際に時間改変能力を持ち、そしてそれを発揮してアーニイを過去に連れて行ったのか、本当のところは明確には描かれていません。
    様々な解釈が可能だと思いますが、鴨は、アーニイが連れて行かれた「過去」は、マンフレッドの精神世界における幻想の過去であり、アーニイはマンフレッドを「使いこなす」ことができなかったのだろうと考えます。そもそも、マンフレッド自身は過去には何の興味も無く、自らの暗澹たる「未来」にのみ拘泥していたわけですから。一方、マンフレッド自身は未来の改変に成功し、彼に取って心置きなくコミュニケーションを取れる唯一の存在であるブリークマンと共に、新たな未来を生きることを選択します。しかし、それが現実世界と地続きの時間線に位置する未来なのかどうかは、誰にも判りません。
    こうして、ストーリーのクライマックスでタイム・スリップ(らしきもの)は確かに行われるのですが、それはアーニイの死をもたらした以外、結局何の変化ももたらしません。それまでアーニイに振り回され続けた登場人物たちは、皆事件前の生活に立ち戻り、これまでと変わらぬ生活を続けていきます。地に足の着いた現実に目を向けようと務める、強い意志を有しながら。

    ラストシーンは、新たな未来に生きるマンフレッドの変わり果てた姿にパニックを起こして家を飛び出した彼の母親を根気よく探し続けるジャックとその父親、そして彼らの帰りを待ちながら夕飯の支度をするジャックの妻の姿を淡々と描写して幕を閉じます。鴨はここに、「過去を変えたり未来を覗いたりすることは本当に有益なことなのか?」「現在を大切に生きることが、最も重要ではないのか?」という、強いメッセージを感じます。たとえその現在が、取るに足りない平凡なものであったとしても。
    SFの枠を拡張して普遍的なメッセージを発し続ける、傑作だと思います。

    と言いつつも、いかにもSFらしい、そしていかにもディックらしい緊迫感に満ちた描写、気色悪いガジェット、常人の理解の枠を軽く飛び越えるぶっ飛んだストーリー展開はこの作品でも存分に発揮されており、王道SFとしても充分に楽しめます。マンフレッドが自分にしか見えない未来のAM・WEBをスケッチし始め、その意味に気付いたジャックが愕然とするシーン・・・学校の中で姿を消したマンフレッドを探して全力疾走するジャックに向かって、学校中のティーチング・マシンが一斉に「ガブル、ガブル」と呟き始めるシーン・・・実にサスペンスフルで「絵になる」、映画化したら面白そうなシーンが中盤以降どんどん登場します。物語全体の緩急の付け方やスピード感も申し分無いし、鴨がこれまで読んだディック作品の中でも断トツに読みやすいかと。ディック初心者にも比較的オススメです。

  • この作品がこのタイトルではもったいない!

    タイトルでは表しきれない深い何かが、人間の心のあり様というか、善悪と心の病と人間の背負い続ける業とでもいうか、そういうものがある。

    同じ時間の同じような場面が少しずつ違ってきたりするあたりが興味深かった。

    しかし、正直なところラストが突然すぎて驚いた。どうしてああなったのかが分からない。

    他のディック作品を読み、また時間をおいて再読したい。

    追記:
    くらくらするアタマでぼんやり考えていたらなんとなくあのラストが理解できた気がした。
    マンフレッドは救われたんだね。

  • 表紙が違うけどなー。
    読んでるうちに頭が混乱して、こっちが分裂しそうだったので「火星」はともかく「タイムスリップ」は追求しないことにしました。
    でも、もしかして新しい土地への開拓団みたいな感じで送り込まれた人たちは(自分の意思で参加したとしても)こんな環境にはあったんじゃないかな?と思うし、護符とか言い伝えとか、馬鹿にできない部分があるのも事実。
    なんか背筋が少し寒くなります。

  • 火星に住んでいるという以外は、普通の人間ドラマでSF星の少ない作品。自閉症の子供が、なぜか未来が見えてしまうという設定で、それを取り巻く大人たちのあれこれ。「設定で」と書いたのは、SF要素はそこくらいなんだけど、結構わかりにくいんだよね、

    ディックの作品らしく、キャラクターの立った登場人物に、順々に視点を移していき、誰にフォーカスが合っているのか最初はわかりにくいが、それほど登場人物は多くないので読みやすいだろう。

    途中から、マンフレッドとジャックという、自閉症と分裂症の登場人物が、未来を見ているのか、それとも架空の時間軸を行っているのかわからないような展開が出始めた辺りで、まともな読者だと面食らうだろうけど、不思議とそれまでよりも掴みやすくなるのだな。

    しかし、ハードなSF要素も少なく、展開は問題なく読めたものの、個人的にのめり込むほどの作品ではなく、「これが好きだ、最高傑作だ」と内容関係なくダラダラ褒めまくる解説にもちょっと面食らった。

    ハヤカワの水色版で読んだけど、最近のは新訳だったりするのかしらん。

  • 火星が舞台なこととか時間移動できる少年とか、道具立てはSFのはずなのに、描かれているのは夫婦の危機と再構築だった。PKDのとにかく憂鬱で疲れている感じを期待して読んでそういう部分も堪能しつつ、ふらふらしていた人たちが我に返る結末に、楽観的過ぎるかもしれないけれどほっとした。

  • ひととおりディックらしさは味わえるけれど、後期作品の完成度に比べるとちょっと物足りない。

  • 何でこのタイトルにしたんだろう?
    確かに火星だし、目的はタイムスリップなのだが、あくまでも副次的な要素でしかないように思う。

    まず第一に、全然火星らしくないw
    火星的な火星ではなく、完全にもう一つのアメリカ(西部開拓時代の)。
    地球からの移民だから当たり前と言えば当たり前かもしれないが、
    彼らの関心・心配事はごく普通の(地球上と何ら変わらない)ことばかり。
    原住民である火星人も、完全にネイティブアメリカンである。
    とにかく、SF小説的な火星では全く無い世界観が描かれている。

    そしてメインテーマは自閉症の子の内世界と他者の現実の混濁。
    現実の現実性を否定するディックの世界観はやはり秀逸である。

    クライマックスの捉え方を色々考えてみるのもまた一興だと思う。

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