ブラッド・ミュージック (ハヤカワ文庫SF)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150107086

感想・レビュー・書評

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  • 1985年に発表された小説。企業に勤める遺伝子工学の天才が実験の中止を言い渡される。しかし、彼の研究はほぼ完成していた。実験結果をかんたんに持ち出せない中、彼は自らの体内に注射して持ち出すのだった。
    遺伝子操作で作られた細胞から、徐々に肉体が変化していく。人類の進化は、万人が望むような形ではないかもしれないという作品でありながら、こんな進化なら受け入れられると思う人もいるのだと思う。世界貿易センタービルのシーンがとても印象に残った。
    『夏への扉』と同様、繰り返し読みたくなる作品だった。

  • 去年話題を呼んだ「ジェノサイド」など「人類という種」の未来を語る小説は今でこそ珍しく無くなったが、その元祖はといえばクラークの「幼年期の終わり」ということになるだろう。
    初めて読んだとき、あまりのスケールの大きさに僕らは驚愕したものだった。
    そして、その驚愕を全く新しい形で、よりリアルに、より実感を伴って上書きしたのが、「ブラッド・ミュージック」なのだ。
    だが、新しい驚愕は「幼年期の終わり」ほど能天気な希望に満ちてはいない。苦い味を伴った究極の問いを読者に投げかけてくる。「進化を受け入れるか、否か、あなたならどうする?」と。

  • グレッグベアの『ブラッドミュージック』。1985年なのでSFとしては「わりと最近」の新しいもの。けっこう有名で、たぶんエヴァの元ネタのひとつなのと、磯さんが監督の『電脳コイル』の有名なヒゲ回の元ネタでもあるような作品。

    3年ほど前に一度読みかけて、半分ほど読んで止まっていたため、新型コロナで図書館が休館する前に再び借りました。
    それで、途中までだったから気づかなかったのだけどまたパンデミックものだった……パンデミックものが俺を追いかけてくる……。

    カミュの『ペスト』がすごく売れているそうで「今読まんでもええやん…」と思っていたのですが、以前書いたとおりこれも「怖い作品には人を癒す力がある」からなのかな。


    『ブラッドミュージック』は「80年代版『幼年期の終り』」と言われる作品で、たしかにすごく近い。科学者が、知能を持つ細胞を作って…というお話。バイオテクノロジーやナノテクノロジー。
    『幼年期の終り』や『フェッセンデンの宇宙』、それから後半は『ソラリス』も入ってると思う。

    『幼年期の終り』は外へ向かう、異星人との話。『ブラッドミュージック』は体の中。『ミクロの決死圏』のように体内に入りまではしないけど、広い意味では同じ。
    他に『アビス』は深海の話で、宇宙へ人体へ深海へと「未知のものへ」SFは向かう。

    以前も書いたけど1985年前後って、バイオテクノロジーが最先端で一般的な用語になってきた頃なのかなと。例えば『強殖装甲ガイバー』や、あと戦隊ものだと84年の『超電子バイオマン』とか。「バイオ」って言葉が流行ってたんだねえ。
    ちなみにバイオマンって言うほどバイオには関係なかったような…。その前の『科学戦隊ダイナマン』の方がよっぽどバイオテクノロジー的。ダイナマン側がすごくふざけてるのに対して、ジャシンカ帝国の設定の方がマジメで、「生命のスープ」とか進化の系統樹に沿って各回の敵を生み出す。人類とジャシンカ帝国、ふたつの種族が争って…ってこれもエヴァと構造は同じじゃんね。だからブッちゃんがのちにデザインで参加したんか?

    脱線したけど他のSF作品と比べると、1977年の『星を継ぐもの』にはまだDNAという言葉は出てきてなかったと思う。だから『ブラッドミュージック』ぐらいからあまり古さを感じない内容です。


    お話の方、加筆して長編にしたせいか前半と後半でストーリーがガラッと変わるのが面白い。なんと主人公が変わる!後半は群像劇になる。
    前半は細胞を開発した科学者…要するにナード、オタクの非モテが、細胞の力でモテになっていくのが面白い。
    後半はそんなに…で、いっつも若干飽きちゃいます。後半はパンデミックものになるので、ゾンビもののホラーに近い感じ。

    解説もけっこう面白くて良かったです。グレッグベアはサイバーパンクの世代で交流もあったけど、そっちには行かなかったとか。
    それからバックミンスターフラーや『ホールアースカタログ』について触れられているのも嬉しい。『風の歌を聴け』レビューで書いたカタログ文化。POPEYE誌に影響を与えてます。

  • パニックホラーSFファンタジー小説でした!
    想像を要するラストでしたが、読後に謎の感動が…

    ヌーサイトについて全て説明がある訳でなし、登場人物たちの結末も描かれないのですが、ファンタジーとしてとても面白かったです。

  • そして人類は、ミクロの彼岸へと旅立つ。

    人類の変容を壮大なビジョンで描き切ったSF、という点で、クラーク「幼年期の終わり」と同一テーマに属する作品。

    ただし、圧倒的なスケール感で拡散しまくる「幼年期の終わり」に比べ、こちらで提示されるビジョンは徹底的に内向きかつグロテスク。最終章で示される「救い」の気色悪さは特筆モノ。
    人類にとってあまり嬉しくない結末である点はこちらも「幼年期の終わり」も一緒だけど、まだ「幼年期の終わり」の方が前向きなパワーがあると鴨は思いたいです。
    2作並べてオールタイム・ベスト級の作品ではないかと。

  • ヴァージルが主人公の間の展開は身震いする恐ろしさで、細胞が学習していくのが脅威だった。全て学習し尽くされたら乗っ取られるという恐怖に追い立てられる。
    パンデミック要素も、コロナ禍を経験している今は身に迫ってくる。ワクチンの注射だってそう。ウイルスはあっという間に国境を越えてしまうものだし、意志を持ったヌーサイトならより簡単に全てをやってのけられる。
    バーナードが他人の記憶を見て、ヌーサイトの思考宇宙を知るシーンが衝撃だった。壮大すぎて胸がザワザワする。全ての記憶が内包される一つの生命体のような、その混じり合った様々な経験や記憶が共有されてずっと続いていく事実が胸を締め付けて、わけもなく涙が出そうになる。消滅しない、というだけでこんな気持ちになるのか。
    感染した人間の身体が変わっていくのが面白かった。肌の白い隆起は震えるほど気持ち悪いけど、人間の形態への執着を捨てれば安寧が待っている。細胞を弄ったことによる進化を受け入れるのか、もし私が選択を迫られたらどうするだろうと考える。たぶん迷わず捨てるだろうと思う。

  • こんなに映画を見るようにイメージが思い浮かんだ読書ははじめて.... 缶詰を開けるには缶切りが必要!

  • 北アメリカで起きたかなり物質的な(後半は精神的な)人類補完計画。てか元ネタこれ説もみかけた。
    序盤にヴァージルを殺しちゃった理由がいまいちつかみかねる。あの時点ではヌーサイトの脅威がどの程度のものか判明していないので、もったいなくないか?と。むしろその未知への危機感からなのかな。
    ヌーサイトが敵対存在になっている感覚がとても抑えられていて、この手の話につきものなぞわぞわする恐怖感を楽しむわけでなく「なんか幸福そうだな…」と事の顛末を眺めてしまった。
    ラストは救いがあると感じるかそれは騙されてる終わったんだと感じるかは読み手次第なんだろーなと。
    タイトルがおっしゃれで好きだなー。

  • 「80年代の幼年期の終わり」という触れ込みもあり、期待値が上がってしまった。「幼年期の終わり」の方が好きかな。けど想像もつかない世界が展開。細胞全てが意識、知識を持つなんて!ゾクゾクするな。

  • これはマスターピース。面白かった。たぶん今読むといろいろとヴィジュアル面で想像しやすいのではないだろうか。

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