コロナ―宇宙大作戦 (ハヤカワ文庫 SF ウ 1-31)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (303ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150107932

感想・レビュー・書評

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  • 珍しくハードSFなスタートレックのオリジナル小説。ファンとしては素晴らしいの一言。良い意味でプロのSF作家による「本気」のファン創作だった。もちろんコロナウイルスとは無関係です。

    ボンヤリ読んでいたらついてゆくことすらできないレベルの科学的知識でもって、ドラマで活躍する科学装置やキャラクターが叩き直されていて素晴らしい。それでいて「正典」の世界観を1ミリも崩していない。どうかするとドラマよりもカッコいいから、STファンとしてなんだか妙に誇らしいような気持ちになれる。

    ウフーラのセリフもかっこいいし、マッコイの内面描写も深い。艦長と副長の私室での自然なやりとりも、みないかにもそれらしく、行動も理にかなっている。最新鋭航宙艦の上級士官達らしい聡明さと知性が端々から溢れている。

    そう、こんな彼らが見たかった、こんなエンタープライズ号が見たかったんだ!読みながらそんな風に感動してしまうのである。例えるならば、ずっとDVDで観ていたのを突然4K Ultra HD blu-rayで観せられたような感動とでも言えば伝わるだろうか。要するに解像度が高いのだ。正直、物語を追うよりも再現性を確認するのが楽しかったかもしれない。

    だから今作では、トカゲの着ぐるみ相手に空手チョップを繰り出したり、毎回ゲスト女優とキスシーンをご披露するキャプテン・カークは残念ながら見ることができない。

    もちろん、それはそれで愛すべきスタートレックであって、ソフトからハードまでマダラに含有してしまう懐の広さというか、間口の広さがシリーズの良さでもあり、人気の秘訣でもあると思うから、決して馬鹿にする気持ちはなくてむしろ好きですらあるのだが、今作のように、ハードSF100%なスタートレックもまた格別の良さだった。

    これに匹敵するのはジェイムズ・ブリッシュ『二重人間スポック』と、公式ファン創作アンソロ『新たなる航海』に掲載されたNASA職員の短編だろうか。スタートレックへの愛と、ハードSF作家になれるくらいの造詣がなければ書けないたぐいの作品だ。

    そして今作といい『二重人間スポック』といい、両作家がともに転送機を物語のキーにしているのが興味深い。やはり同ジャンルの作家だけに目の付け所が似ているんだなと思った。

    物体を原子レベルまで分解して、別の場所で再構成するスタートレック名物の「転送機」。元々はドラマ制作時に移動シーンを簡略化するため導入された物だが、確かに、改めて考えると、あれこれ思考実験したくなる装置だ。ドラマシリーズ中でも、転送中に分裂したり、2人が1人に混ざったり、パラレルワールドに飛んだりと、たびたびネタなっている。

    ちょっと考えてみても無限に出てくる。個体としての連続性はどうなっているのだろうとか、元データから再構成するなら複数体再生も可能なのではないか、その場合どの人物を本物と認定すべきかとか、死ぬ前のデータがあれば個体は永遠に生きられる理屈になるのでは?

    今作では「一旦死んでる説」をぶちあげていて良かった。確かにそうも考えられる。再生が約束されているとは言え、その都度肉体が破壊されるのだから。ある種死刑台だ。ドラマ「コンピュータ戦争」回にはまさにそんな機械装置が出てきた。それに、この説なら、医者であるマッコイだけが頑なに転送機に対して嫌悪感を保ち続けるのも納得できる。

    この、分解して飛ばして復元するという、かなり大雑把かつアメリカンな手順は、荒唐無稽なホラ話のようでいて、考え方としては3Dプリンタと同じだから、この先何らかの形で実現するかもしれないと思わないでもない。ハードSF作家が目をつける理由は充分あると思う。

    あと、重要なオリジナル・キャラクターの設定がファンならではの渋いチョイスで感心した。よりにもよって、鉱物資源をとるためだけ開発されたさびれきった辺境惑星に住む、ごく普通の地球人女性とは。

    彼女はまさに、ゲイリー・ミッチェルが捨てられた惑星やホルタが住む惑星、ハリー・マッドの女たちが嫁いだ惑星と似たような所に住んでいる普通の人だ。あんな孤立した星に地球人が植民して日々暮らしていたらどんなだろう、どんな共同体を作り、どんな人間になるのだろうと、想像したままの人物で身近に感じる。

    なぜなら、すでに超文明を築いている「宇宙人」の惑星よりも、そうした辺境の植民惑星の方が宇宙開拓という視点で考えればずっとリアリティがあるから。そしてオープニングの文言を指摘するまでもなく、スタートレックの基本は開拓精神(エンタープライズ)にある。

    だから、スペースオペラを称するスターウォーズのような派手なアクションや宇宙人の面白さよりも、火星移住計画のちょっと先をゆく程度の、地味かつ現実的な設定が実はこのドラマの肝なのではないかと個人的に思っている。

    宇宙を単なる夢物語の舞台で終わらせず、あくまでも「現実の開拓予定地域」であると見なす精神的なベースがあってこその、ゴーン星人であり、オリオンの奴隷商人であり、永遠の守護者であり、ボーグキューブとの死闘なのである。

    そのあたりの理解がないと、辺境惑星に住む開拓団の子孫など地味すぎて物語のキーパーソンにはできないと思う。

    それと、本書にはハーラン・エリスンによる永遠の名作回「世界の淵に立つ都市」へのオマージュも入っていてしびれた。しかも、今回カーク艦長から宇宙を贈られかけたのが、単発ヒロインでもマッコイでもスコッティでもなく、Mr.スポック。

    “The needs of the many outweigh  the needs of the few or the one.” (『カーンの逆襲』よりスポックのセリフ)

    それってまさに、みんなの好きなこれではないか。気のせいか。しかも雲の造形に自由を見出すあたりthis side of paradiseのMr.スポックも思い出させるし、最後の最後の「やっぱりあなたも女の子なのね」も彼の宇宙人の絶大なる女性人気を知っていないと書けないセリフでもあるし、とにかく全編にわたってファンとしての作品愛が素晴らしかった。



    さて、大昔の海外特撮ドラマの小説タイトルでわざわざ検索かけて、こんなに長い他人の感想文を最後まで読む暇な人はあまりいないだろうからネタバレ感想をさせていただきます。
    (以下ネタバレ注意)



    ビッグバン直後の数分間にある種の生命体の歴史が存在した、この設定だけでセンスオブワンダーが炸裂していてすごいなと思う。なかなかこの発想はでてこない。スカロス星人に通じる発想ではあるもののスケール感が桁違いだ。文字通り宇宙レベル。

    たったの数分間に生まれて絶滅した種族だなんて素晴らしすぎる。ビッグバン直後の出来事の密度からしたら、確かに1種族が歴史を終えるくらいの時間感覚なんだろう。想像もつかないくらい凝縮された時間だ。実際には何か起きていたかなんて認識することすら不可能だからこそ、宇宙の広大さに眩暈がしてきて楽しくなってくる。これぞSFなり。

  • 古書購入

  • ベアの割に中途半端 本人の楽しみに書いた作品か
    表紙   5点金森 達
    展開   5点1984年著作
    文章   5点
    内容 630点
    合計 646点

  • ブラックボックス星雲からの救難信号。救難信号は10年前に送られたもの。ヴァルカン人の研究者と冷凍睡眠状態の30人の研究員。転送装置を利用し睡眠状態の研究員たちに感染したと思われる菌を除去しようとする。転送中にチェコフに取りついた謎の「声」。ヴァルカン人研究者華族の怪しい行動。エンタープライズに乗り込んだ異星人嫌いの記者メイソン。

     2003年10月6日読了

     2010年3月31日再読

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