故郷から10000光年 (ハヤカワ文庫SF)
- Amazon.co.jp ・本 (484ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150109240
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故郷から10000光年 (ハヤカワ文庫SF)の感想・レビュー・書評
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短編集面白いのもあるが分かりにくいのも多い
表紙 4点上原 徹
展開 5点1973年著作
文章 5点
内容 630点
合計 644点0コメントする -
いやぁ疲れた。短篇であるにもかかわらず、読むのには気力と体力が必要な作家。それがジェイムズ・ティプトリー・ジュニア。本書の作者です。
全15編を収録する本書は著者の第一短篇集。著者らしい作品もさることながら、スプラスティックないくつかの作品に新鮮味を感じました。初期にはこんな作品も残していたんだなぁ。ちょっと意外でした。
とはいえ、収録作の大半が著者の初期に見られるあの「ついていくのが大変な」作品ばかり。こういった著者の内省が何の濾過もされることなく、紙に書き写された作品は、咀嚼するのに一苦労(というか、殆ど咀嚼できずにそのまま飲み込んでます…)。一方で、なんとか飲み込んでみると、著者の感性の片鱗をちょっとでも味わえたという達成感で満たされます。作品の真髄なんて、ほんとは良くわかってないんですが、この奇妙な達成感がティプトリーを好きになるひとつの理由でもあります。
著者の本を読むと、「なんだか凄い作品に出会えたぞ」と思える作品にいくつか遭遇します。本書では次のとおり。どれもかっちょいいタイトルばかり!
・そして目覚めると、わたしはこの肌寒い丘にいた
・愛しのママよ帰れ
・われらなりに、テラよ、奉じるはきみだけ
・故郷へ歩いた男
・ハドソン・ベイ毛布よ永遠に
・スイミング・プールが干上がるころ待ってるぜ
・ビームしておくれ、ふるさとへ
見返してみると、やっぱり著者の中でも比較的読みやすい作品ばかり。なかでも、「そして目覚めると、わたしはこの肌寒い丘にいた」や「われらなりに、テラよ、奉じるはきみだけ」は楽しめたなぁ。 -
昨年読んだ第二短編集がたいへん素晴らしかったので、ティプトリーに再チャレンジ。こちらの方が初期の作品を収めている第一短編集だそうですが、作風には第二短編集同様、かなりのバラツキがあります。割とスラップスティック風味の作品が多かったかなぁ。それでも、「故郷へ歩いた男」に見られる独特のスラッシーな表現、「そして目覚めると私はこの肌寒い丘にいた」に感じられるエッジの利いた乾いた文体はこの時期から既に健在。第二短編集に比べると地味な印象が拭えませんが、それでも相当読み応えがあります。
この短編集に収録された作品の大半に通じるテーマは、「故郷」です。より具体的に言えば「もう帰れない故郷への狂おしい望郷の念」が強く感じられる作品集です。第二短編集を読んで鴨が感じたテーマ「社会への違和感」と照らし合わせて考えると、なかなかに考えさせられるテーマです。おそらくティプトリーという人は、常に自分の内面と対話/相克/妥協し続ける、内省的な人だったのでしょうね。スラップスティックな大騒ぎの中にも、スラッシーな超絶技巧の中にも、ふっと自分を、そして人類全体を見つめる、冷静ながらも温かみのある視線を感じます。徹底的に冷めた視線を感じるコードウェイナー・スミスとは真逆の感性を鴨は感じます。どちらも素晴らしいSF書きです。 -
SFというのは、たいがい何かの寓話的要素組み込まれていて、スペースオペラや幻想世界を楽しむ以外の楽しみも提供してくれるものだ。そのようによく練られた物語を、算数の問題を解くようにして読み解くのは時に快感であり苦痛なものだ。直感的に何かを理解してしまえば稲妻が走ったような快感を得ることもできるし、一方、難解なテーマに頭をひねって最後まで腑に落ちないこともある。以前、テッド・チャンの短編を途中で断念したときはまさにそういう感じだった。ティプトリーは「そして目覚めると、わたしはこの肌寒い丘にいた」などの初期短編の物語の背後に、解放されたジェンダー認識やそのもたらす衝撃を隠し持たせていた。40年を経た今でもその大胆さには唸るが、いかんせん私は40年を経た未来の人間だった。それよりもティプトリーが時に喜劇的にときに悲劇的に描き出す、人間あるいは人間集団がいかに固着した観念、考え方を持っていて、身勝手かというところに薄ら寒いものを感じた。だが私はそれよりも別の部分に、ああ、と呻いた。「故郷へ歩いた男」「マザー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイヤモンズ」「ビームしておくれ、故郷へ」はいずれも帰還、故郷への帰還をテーマとした物語だ。遠く離れた故郷へ、もう存在しない故郷へ、ここではないどこかにある故郷へ、この故郷の喪失と渇望の物語は私には不意打ちだった。訳者伊藤典夫ももしかしたら同じ思いだったのかもしれない。だからこの本のタイトルは収録されている短編から取られたものではなく、「故郷から10000光年」とされたのかもしれない。
http://d.hatena.ne.jp/ISBN404308305X/20100425/1272174989
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