デッドアイ・ディック (ハヤカワ文庫 SF ウ 4-14)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (330ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150112196

感想・レビュー・書評

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  • ヴォネガットはどの作品においても、批判すべき対象をわりと明確に描いてきたけれど、1982年に発表されたこの作品でもそのターゲットははっきりしている。
    「銃」、「薬物」、「核技術」。

    精神科医による安易な「ジアゼパム」「リタリン」の処方で薬物依存症となり、自らの人生を荒廃させる人々。
    核技術関連の重大な事故が発生したにもかかわらず、「パニックが起こらない事」を最優先させる国家。
    防御服を着た人たちがさっさと作業に取り掛かれども、それが何故かを説明する言葉は無く、健康に及ぼす影響を知る機会は住民に与えられない。
    あれあれ・・どちらも、どこかの国の今そのものじゃないか・・。

    「ローズウォーターさん・・」「スローターハウス5」なんかに比べ、より厭世的で冷めた視点。
    強烈なアイロニーが随所にちりばめられつつ、同時に元来のヒューマニズムが隠し切れずに現れるのがこの人の作品に共通した特徴だけれど、本作ではそのどちらも控えめ。

    TV等を通じて見た、インフレと失業に苦しめられた、70年代後半の荒涼たるアメリカの地方都市さながら、冷たく空虚な印象が全篇を覆う。

  • 内容はテンコ盛りだが、あまり記憶に残っていないのは、ヴォネガットに独特の奇想天外な展開がないせいではないか。

    サマセット・モームがたしか「要約するとの」の中でプロット(物語の筋立て)の重要性を説いていて、フローベールの「感情教育」はすぐれた作品だけれども、それがないのでひどく読みにくいと言っていた。スティーブン・キングも「スタンド」の前書きで、「ヘンゼルとグレーテル」を例に挙げてその重要性を語っていた。

    この作品では、米国の現状を告発する個々のエピソードが積み重ねられていて、それはそれでウィットに富んでいて面白く読めるものの、これまでの目のくらむような展開がなくなった分、読後の印象がモヤつつまれた漠然としたものになってしまったのではないか。

    料理のレシピにも興味が湧かないし……。

  • 行動も思考もほんの少し周りとずれているだけなのに糾弾する空気はどの社会においても大差ないだろう。そこに宗教が介入しても解決するとは限らない。虚構か現実かは問うなかれ。その人の感情に触れてみる。私もそれを疎かにしていることを猛省する。救う救われる。それはボランティアという奉仕活動ではなく日常における言動から見直さなければならない。

  • SF?
    初めてのヴォネガット作品。
    『時空のゆりかご』のエラン・マスタイさんが好きということで、細かく章を区切る構成が似ている。
    内容は、中性子爆弾で滅びゆく街の様子を描いたSF…だが、全然SFらしくない。主人公一家の人生を描いたヒューマンドラマという印象が強い。
    ユーモアある文章で、クスッと笑える場面が多く、退屈せずに読めた。

  • デッドアイ・ディック (ハヤカワ文庫SF)

  • なんともけったいな物語。以前「チャンピオンたちの朝食」を読んだときにも同じような印象を受けた記憶がある。高橋源一郎「さよならギャングたち」と同じ(というか高橋がパクったんだろうけど)なんだけど、「さよなら〜」ほど詩的なわけではないなあ。一応ストーリーはあるんだけど、それよりも即興的な文章を味わうべき小説なんだろう。その意味では翻訳で読んでもダメなのかもしれない。訳者あとがきで紹介されていた書評でもそのあたりについて書かれている。以下抜粋。

    「ヴォネガットは、カウント・ベイシーがピアノの名人であるのと同じ意味で、文章の名人である−−どちらのスタイルも、簡潔で、おどけていて、リズミカルだ。そのために、多くの人びとは、この二人を平凡であると思う。だが、その真似ができると思うならやってみたまえ−−できはしない」(ネーション誌)

    「『デッドアイ・ディック』のすばらしさは、その文章、その音、その匂い、その色彩、その飛躍にある。ヴァネガットはジャズの即興演奏家に似ている。自分ではどこへ行きつくかを知らずに、神秘的なタイミングの感覚で話を進めていく。いびきのように偉大なセンテンスをかき、くしゃみのように最高の隠喩を連発する。ときにはホットに、ときにはクールに、だが、つねにメロディックで、その文章の中から風変わりなイメージの小鳥をつぎつぎに羽ばたかせる。それをホワイト・ファンクと名づけよう。」(ナショナル・レビュー誌)

    なによりも驚いたのは、
    「トゥー・ビー・イズ・トゥー・ドゥー」−−ソクラテス
    「トゥー・ドゥー・イズ・トゥー・ビー」−−ジャン・ポール・サルトル
    「ドゥー・ビー・ドゥー・ビー・ドゥー」−−フランク・シナトラ
    という落書きが最後の方にでてきたこと。これはリュック・ベッソン「SUBWAY」の冒頭で出てきたフレーズ。うまいなあと思っていたが、まさかこんなところに元ネタ?があったとは。

  • カラッとした悲哀 傑作!

  • 読みにくい読者を選ぶ作品
    表紙   6点和田 誠
    展開   4点1982年著作
    文章   4点
    内容 425点
    合計 439点

  • 2007/07/14 購入
    2007/07/22 読了 ★★
    2014/08/02 読了

  •  主人公は、ひょんなことから人殺しとなる。それは、単なる事故。そのことがどの様に彼の人生やまわりの人の人生を変えたかということが淡々と語られる。ヴォネガット流に、登場人物が奇妙な少しズレた人達として描かれ、悲しい話であるのに、変にコミカルだった。
     そのコメディ調のオブラートに世の理不尽さ、主人公の悲しみ、心の傷が包まれていて、全体に悲哀を漂わせています。
     最後は、悲しいのに優しく、美しい。そこには彼の人生に対する思いが凝縮されているような気がする。70年以上生きてきたヴォネガットの人生で失ったもの、思い出、失敗など。
     多くの人達の人生の穴が閉じて行く。感動です。

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著者プロフィール

1922-2007年。インディアナ州インディアナポリス生まれ。現代アメリカ文学を代表する作家。代表作に『タイタンの妖女』『母なる夜』『猫のゆりかご』『スローターハウス5』『チャンピオンたちの朝食』他。

「2018年 『人みな眠りて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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