- Amazon.co.jp ・本 (478ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150115388
感想・レビュー・書評
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著者覚え書きで「この小説には何の教訓もない」とある。確かに教訓は無いかもしれない。ただし、麻薬に対する強烈な批判と恐怖を語っている。教訓は小説から得るものではない。読者がどのような教訓を語れるかが本書を読み解くキーになるのかもしれない。本書は普通に読むと、よくあるドラッグ系の小説だ。麻薬でハイになったやつが大暴れするような。読むべきは最後の方でブルースが置かれる立場だ。私は、麻薬だけが悪いのではなく、麻薬の悪用を存在させる社会の仕組みが存在することが悪なのだと解釈した。もちろん、これはひとつの解釈に過ぎず、読者がそれぞれ感じるものは異なるだろう。描写は鮮明ながら、読者に与えるものは形を変えて届けられる。救いたいけど救えない世界だった。
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pkdの作品の中では一番読みやすかった。ディックの実体験を元に描かれた作品ということだったこともあるのだろう。ディックは小説家として数多くの名作を残していながら、経済的には恵まれなかったことも納得できた。後半部分で薬物に関する国会の陰謀が垣間見え、薬物にどっぷり浸かったアメリカの病状に対して戦慄を覚えずにはいられなかった。
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浅倉久志訳による新装版「スキャナー・ダークリー」(旧訳「暗闇のスキャナー」)は、著者自身の実体験を踏まえた物語。テーマは、麻薬。
カリフォルニアのオレンジ郡保安官事務所麻薬課の捜査官フレッドは、上司からも自身の姿を隠す「おとり捜査官」である。彼の真の姿は、なんと麻薬中毒者ボブ・アークター。木乃伊取りが木乃伊になるそんな世界で、与えられた新たな任務は「麻薬密売人のボブ・アークターを監視すること」。自分自身を捜査対象にする彼は、麻薬中毒の深刻化も相まってしまい…
「わたしはドラッグの危険性を訴える福音を説こうと誓った」とは、訳者あとがきで引用される著者の言葉。麻薬中毒の経験があり、その目で幾人もの友人(=麻薬中毒者)の死や破壊を目の当たりにした彼だからこそ響く重い言葉ですが、本書で麻薬中毒の恐ろしさを知る…ほど無教養ではなく、麻薬の恐ろしさは既にありとあらゆる媒体を通じて理解しているところ。ただ、だからといって、何にも感じなかったのかというと、もちろんそうではありません。
主人公アークターは、自分自身を監視する過程において、ある時点ではっきりと「おかしく」なってしまいます。正直、この瞬間に「あぁぁ…」と嘆いてしまいました。それ以降は、凋落の一途を辿るばかり。物語は終盤、アークターが廃人として施設に収容されてしまう姿をみると、ただただ空しい感情にとらわれます。そんな感情は、物語に出てくる言葉の節々で感じるところ。
「黄金時代。そこでは知恵と正義がおなじものだった。すべてが砕けて、鋭い破片になる前のことだ。もう二度と組み合わせることができず、いくら努力しても二度ともとどおりにならない破片の山になる前のことだ。」
「想像してみてよ。意識はあるけど、生きてないってことを。見ることもできるし、知ることもできるけど、生きてない。ただ、外を見てるだけ。認識はしても、生きてない。(中略)もうすでにそれは死んでて、ただいつまでもじっと見てるだけ。見ることをやめられない」
著者は、また、あとがきでこのようにも述べています。
「麻薬乱用は病気ではなく、ひとつの決断だ。(中略)おおぜいの人間がそれをはじめた場合、それはあるひとつの社会的な誤り、あるひとつのライフ・スタイルになる。この特殊なライフ・スタイルのモットーは、『いますぐ幸福をつかめ、明日には死ぬんだから』というものだ。しかし、死の過程はほとんどすぐにはじまり、幸福はただの記憶でしかない。」
引用が多く、長くなりましたが、何を思ったかというと、ただ単に空しい感情が襲ったということだけ。でもこの空しさこそが著者が訴えたいひとつのパーツではないでしょうか。
ちなみに著者特有の陰謀論っぽさは、相変わらず健在です(笑) -
フィリップ・K・ディック、といったらSFと思って本書を取るものなら、拍子抜けするに違いない。まあ、ジャンキーから見た我々の世界は「SF」のようなものだろうし、また逆も然りなのだろうから、ジャンキーを描いたこの作品も「SF」と言えるのかもしれない。
…以上、屁理屈である(笑)
なぜだかわからないが、読めば始終やるせない感じを受けることとなる。結末がああだから、というのもあるだろうが、言い知れぬ恐怖があるからだろうか。
物語としては、若干冗長ではなかったか。 -
中盤にだるいとこはあるけど、ディックの中では比較的筋がわかりやすい。あんまりSFぽくはない。アークター=フレッド=ブルースも、ドナも人格がつかめない。
限りなく透明に近いブルーもだけど薬中から脱した人は喧嘩したり奪い合ってばっかりだった友人をやたらとかけがえながるのが今一つ腑に落ちない。 -
フィリップ・K・ディックだからなのか,難解なお話だった。
元々が薬物で自己が崩壊して行き,自分と他人の境界線が
あやふやになり・・・と段々理解できなくなって行く感じ。
まぁ,最終的にはどこにでもある,アメリカが過去もこれからも
抱えていく(日本もそうだが),ドラッグの問題という
大きな壁にぶち当たって終わる感じ。
映画版もあるが,観ようとは思わないかも。 -
鬼才リチャード・リンクレイターがアニメ映画化した2006年に買ったはいいが、3分の1も読めずにほっぽらかしてあった。(映画も観たかったが、機会を失った)
通読して思ったのは、一字一句理解しようなどと思わずに、酔っぱらいのたわごとを受け流す感覚で読めばよかったのだということ。しょっぱなからして、ドラッグ中毒者の悲惨な幻覚描写。主人公のボブ・アークターだって、おとり捜査官とはいえ、ヤク中だ。同じくヤク中のダチ公どもとの会話ときたら、とことんナンセンス。信用できない語り手という言葉があるけど、ヤク中の語り手ほど信用できないものがあるだろうか?
共感も同情もできないまま、読み進めるのだが、しばらくするとアークターの気持ちがわかってくる。どん底生活において、友情ほどかけがえのないものはないということだ。どうしようもなくいかれた彼らだが、お互いを支え合うという一点において、その生に意味はあるのだ。
終盤はディックらしいあざやかな視点の変換もあり、それなりに満ち足りた読後感ではあるが、ディックのあとがきを読むと悲しい気持ちに襲われる。ヤク中の友人を家に出入りさせるアークターは、ディック自身だったという。有名なSF作家だからとかしこまらず、ストレートに接した若い友人たちをディックは愛し、次々と失った。ディックの沈痛な哀悼の念から書かれた反ドラッグ小説だ。 -
2009/
2009/
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導入部は中毒患者の幻影を再現したかのような書きっぷり。自分が自分を追い詰めるというパラドックスをバランスよく破綻しながらは書いている。映像化されたアニメのようなトレース画像はこの小説を上手く表現しよかった。ヒットしなかったけどね。個人的にはサンリオ文庫版の表紙が好きだったのに。。。。
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友人に勧められて読んだ本。普段SFものはあまり読まないので、なかなか慣れなかったが、後半は力強い感じがした。麻薬をめぐる話。