夢みる宝石 (ハヤカワ文庫 SF ス 1-3)

  • 早川書房
3.63
  • (21)
  • (38)
  • (48)
  • (6)
  • (1)
本棚登録 : 382
感想 : 46
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150115487

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • おかしなカーニバルで団長の野望を打ち砕く話。

    常識はずれのおもちゃ箱みたいな
    それでいて計算し尽くされた世界観。
    ぞくっとするほど残酷で醜悪だったり
    かと思うと、
    涙が出そうに血が通った温かさがあったり。
    自分らの世界とちょっと似てるけど全く別の、
    違った法則に則ってまわる完成された世界が
    そこに実際にあるように感じた。

    そう感じさせることが、
    この作品が傑作ファンタジーであることの
    証明だと思う。

    人間と宝石もそうだし、
    解説を読むとスタージョン氏と我々も、
    もしかしたら私と友人もそうかもしれないけど、
    自分の常識が、
    あくまで“自分の”常識でしかないということを、
    もっと謙虚に知った方がいいのかもしれない。

    解説で紹介される
    「スタージョンを読む前に発狂すべし」
    というアドバイスは、
    お前が常識と呼んでいる偏見を捨てないと
    この作品ではすぐに迷子になるぞ、
    ということなのかも。

    世界を司る常識が違うのと
    外国文学らしい言い回しの難解さと超展開に
    情けなくもしばしば置いてけぼりにされたので、
    間髪入れずに2回読むことをおすすめしたい。

    世界の法則を掴んでから読めば、
    序盤の何気ない記述からも
    はっきりとした意図がみえてくる。

    人間的な非人間と非人間的な人間の対比もまた、
    難しい問題をなげかけてくる。

    ハバナのウインク、バディの贈り物、キドーの歌、
    宝石の夢に翻弄される世界にも
    心をぎゅっとされるような
    人間的な感情や行いがあって、
    ワッフルの表面の砂糖粒みたいで、
    ミクロの目で見ると
    そういう場面がすごく好きだったし、

    結局「僕は何者か」じゃなくて
    「僕は何がしたいか、どう行きたいか」って話の方が
    100倍大事な本質で、
    砂糖粒みたいな行いを
    できるだけたくさんできるように
    心を育てて生きていきたいなあ。

  • みなしごのホーティは、里親から指を切断される虐待を受け、大切にしているぬいぐるみを抱いて里親の元から逃げ出す。ホーティがたどり着いた先は、”人喰い”と渾名される謎の男モネートルが率いるサーカス団だった。障害を持ちながらも助け合って生きるサーカス団の仲間たちに支えられながら、女の子に化けてサーカス団の一員となって活躍するホーティ。しかし、モネートルが邪悪な野望を抱いて暗躍していることに気づいたホーティと仲間たち、そしてかつてホーティと仲が良かったケイは、その野望に巻き込まれながら、それを阻止しようと闘いを始める・・・

    優しくて、残酷で、凛として、猥雑な物語。
    コミュニケーションが困難な異星体「宝石」を主軸にストーリーが展開する構造は、レム「ソラリス」と同様のSF的想像力を感じます。でも、SFかと言われると必ずしもそうとは言い切れず、ファンタジーとも、あるいはホラーとも言える、なんとも一言でまとめ難い作風です。
    だからこそ、スタージョンの代表作たり得ているのだと、鴨は思います。

    【以下、ネタバレ注意!】
    遠い昔より地球に降り立ってきた「宝石」は、なんらかの意識を有しており、「夢見る」ことにより、地球上の生物にさまざまな影響を及ぼし、動植物を一から生成することさえある。しかし、なぜそうするのか・そうなるのかは、誰にもわからない。
    宝石が単体で夢見て生成した生物はどこかしら欠けていることが多く、サーカス団に所属する障害者の大半は、そうした「宝石人」でした。一方、ホーティは2つの宝石により生成された「宝石人」であり、五体満足であることに加え、自らの姿形を意思の力で自在に変えられる能力を有していたのです。里親から切断された指が自然に元に戻っていくことに気づいたホーティと、彼を一人の人間として教育しつつ密かに愛する小人症のジーナ(彼女も実は宝石人であることがのちに判明)は、宝石を集めて巨大な力を得んと悪逆の限りを尽くすモネートルと戦うことを決意。元里親の悪の手が伸ばされていたケイを助け出すことに成功し、大きな犠牲を払いながらもモネートルとの闘いに勝利した二人は、宝石人同士で生きていくことを選択し、姿を消します。

    自分が他の人とは明らかに異なる存在であることに気づき、悩みながらも、ジーナと仲間たちに支えられて一人の”人間”として成長していくホーティ。
    見た目は10歳そこそこの少女でありながら、内面は成熟した聡明な女性であり、ホーティを救うために命を賭けて共に闘うジーナ。
    最終的に「宝石を自己の意思で動かす能力」まで手に入れたホーティが選んだのは、サーカス団を捨ててジーナと共にひっそりと隠棲する道でした。
    ずっと闘い続けてきたホーティにとって、それは穏やかに暮らすための唯一の選択肢なのでしょう。でも、鴨はこのラストシーンに、どうしようもない無力感を覚えてしまうのです。世界中に同じような宝石人が存在し、自分の存在に悩んでいるであろうことが容易に想像できる状況下、ホーティとジーナには、もっとできることがあるのではないか、と。

    鴨がそう感じてしまうのは、他でもなく鴨自身が「宝石人ではない」から、単なる第三者だから、という自覚があります。
    昨今流行りの「ダイバーシティ」問題にも通じる、そんな観点から読むと、深い問題意識を感じる作品です。
    でも、スタージョンの筆致は常に軽やかで、サーカス団という舞台設定も相まって、それこそ宝石箱をひっくり返したかのようなカラフルさと賑やかさ、そして一抹の切なさを感じる作品でもあります。読む人によって、この作品から受け取るものはきっと人それぞれ違うのだろうな、と鴨は思います。

  • 人間とは全く違う価値観を持つ一つの生命として「宝石」という種が存在しており、それぞれ孤独でありながらも、かと言って排他的ではない関係性を持ち、さらには対になり、時折夢を見てはそれを現実世界に不完全なまま模倣する。宝石と人間、そして宝石に作られた疑似的な人間の3つの存在を通して繰り広げられる人間模様、、といったように個性的過ぎる世界観を放つ作品。難解な設定の割には意外にもサクサク読み進めることができた。人でないながらも、人類のため、もといホーティの為に命をかけて奔走したジーナや、ひとりの弟のために自己犠牲し続けたケイ。一方で人間に深い怒りと憎しみを抱く人喰いや傲慢で醜いブルーイットなど、思考する存在の美しさと醜さを感じることができた。

  • 主人公ホーティは幸せではない。
    判事の選挙に立候補するに当たり、孤児を養子にして育てたら選挙に有利だとの判断でホーティを引き取っただけの、横暴で冷酷な養父アーマンドにいつもひどい仕打ちを受けていたからだ。
    9歳のホーティは家出をする。
    唯一の友であるジャンキーを連れて。
    ジャンキーは、公園に捨てられていたホーティが孤児院で手に入れた人形なのである。

    家出をする直前、ホーティは大怪我をする。させられる。
    アーマンドが強く締めたドアに挟まれ、指を3本切断してしまったのだ。

    ホーティはカーニヴァルの一団に拾われ、その後行動を共にすることになる。
    カーニヴァルの見世物小屋で働く彼ら。
    こどもサイズの身体しか持たない彼らは、弱者ではあるがとても優しい。
    しかしこのカーニヴァルの団長は恐ろしい人物なのである。

    人食いと呼ばれる男モネートルは優秀な成績で大学を卒業して医者になるが、ちょっとした事件のせいで病院を追われる。
    そのことにより彼は、自分を締め出した人間社会を、全人類をさげすむことにした。

    カーニヴァルの仲間は、ホーティを自分たちの仲間の女の子としてモネートルに紹介し、彼の魔の手からホーティを匿うのだ。
    特に、ジーナ。自分の親戚として同室で暮らすよう手配し、繭で包むように暖かく柔かく慈しんでホーティを育て、教育する。

    一度見聞きしたことは決して忘れないホーティ。
    9歳の時から何年も、同じ体型でカーニヴァルにいつづけるホーティ。

    おや?宝石はどうしたの?

    水晶のような見かけの宝石は、私たちが住んでいる、理解している、この世界とは違う世界のものなのである。
    宝石は生きている。
    宝石は、夢を見るし、結婚をする。
    宝石の見る夢というのは、私たちの現実の中で像を伴い、そして決して同化することのない異質な存在。

    モネートルはそれを利用して、人間たちに復讐しようとしている。
    それに対する切り札がホーティということなのだが、この作品の肝はそこじゃないと思うんです。

    ストーリーを言ってしまえばそれだけのことなのですが、読んでいる間、心がずっと温かいものに包まれているような気がしていました。
    ホーティが憎む養父のアーマンドや、モネートルの残酷な振る舞いなどの部分もありますが、虐げられていたホーティに唯一優しく声をかけてくれたケイの存在や、カーニヴァルの仲間たちとの交流。

    SFのスタイルで書かれた作品であるけれど、ここに描かれているのは弱く小さな人たち。
    だからこそ深く優しく人を思いやることができる。
    特にジーナの献身。

    “どんな悪夢よりもこのほうがまだ恐ろしい、とケイは思った。おびえた狼と死にかかった小人といっしょにトレーラーに監禁され、狂人と気味の悪い人間がいまにも戻ってくるかもしれないという状態。”

    一般的に見たら、そうなのだろう。
    薄気味の悪い人たち。
    悪意を持って見ているわけではないのに、そう思えてしまうのだろう。

    けれど、本当の彼らは、彼らの心はとても美しい。
    とても繊細で、とても美しい。
    この小説もそう。とても繊細で、とても美しい。

  • 物語全体を通して、愛と憎しみが常につきまとっている。SFなのに現実のよう。

  • 孤児のホーティは里親から愛されず、ついに家から追放されてしまう。路頭に迷うホーティが潜り込んだのは、普通でない人間が集うカーニヴァル。ホーティは、そこで小人のジーナとそして人間嫌いの団長モネートルに出会う。モネートルは奇妙な趣味があった。それは宇宙から来た不思議な水晶を集めることで…

    シオドア・スタージョンって、こんなにも素敵な物語を描く作家だったのか!
    本書では他の多くの小説がそうであるように、普遍的なテーマを含んでいます。評論家の石堂氏が本書を「愛による孤独からの解放」と評するとおり、それはすなわち愛と勇気。そんな普遍的なテーマではありますが、幻想SFの巨匠が描く物語は、他の小説では味わえない独創性があります。とりわけ、人間でないものが人間らしく(つまり愛と勇気を知っていること)、人間であるものが人間らしくない、この構造は、ひとは種族や外見といった見せ掛けのカテゴリーではなく、その内面にこそ、ひととしての素晴らしさが表出するものだと主張しているようでした。この人間らしさが愛と勇気をもって描かれる終盤には、とにかく心が揺さぶられることに。
    うん、満足の一作です。

  • 孤児院で育てられたホーティは眼に宝石を埋め込んだジャンキーと呼ぶ人形と常に一緒だった。8歳のある日、養父とのいざこざの最中、左手の指を3本失い、そのまま家を飛び出した。唯一の味方である同級生のケイに別れを告げトラックの荷台にもぐりこむと、そこにはすでに人がいた。そのトラックはカーニバル(移動見世物)のもので、ホーティはこのカーニバルの一員となる。

    カーニバルのボスは人喰いとあだ名されるモネートルという男で、彼は医者であった過去の出来事が元で人間嫌いとなり、更には全人類を憎むようになる。ある時モネートルは細胞レベルまで完全に一致した二つの木を見つけた。これは近くにあった宝石の作用によるものであることがわかり、宝石についての研究を進める。

    宝石は生きており、地球外から来たものと思われた。宝石が夢を見る時、近くにあるものの複製を作り出す。完全に複製することもあるが、不完全な場合もあり、この不完全な複製から小人や双頭の蛇などが作られた。

    宝石の秘密を知ったモネートルは、宝石を支配し命令するための仲介者を探していた。仲介者の存在により宝石の能力を引き出し、全人類を支配する事ができる。その仲介者がホーティであり、ジャンキーの眼こそがホーティを生み出した宝石だった。ホーティを保護し、教え導いたカーニバルのジーナはホーティの正体をモネートルから隠し続けてきたが、ケイとホーティの養父の諍いからモネートルの知るところとなった。

    ホーティとモネートルの精神的な戦いが始まり一時はモネートルが優位に立ったが、最終的にモネートルを殺してホーティが勝ちを収める。戦いの最中ジーナを誤って殺してしまったが、宝石を理解することで生きかえらせることに成功した。

  • おもしろかった…と思う。
    難しいところは読み流してしまったから、完全にこの本を読破したとは全く思えないけど、難しさに反してお話の流れは興味深くてするする読めた。

  • カーニバルの団長が世界征服を企んでるとか、なにか昔の日本の特撮物のような設定ですね。

  • 2021.01.29 図書館

全46件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

シオドア・スタージョン(Theodore Sturgeon):1918年ニューヨーク生まれ。1950年に、第一長篇である本書を刊行。『人間以上』(1953年)で国際幻想文学大賞受賞。短篇「時間のかかる彫刻」(1970年)はヒューゴー、ネビュラ両賞に輝いた。1985年没。

「2023年 『夢みる宝石』 で使われていた紹介文から引用しています。」

シオドア・スタージョンの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
シオドア・スター...
フランツ・カフカ
シオドア・スター...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×