- Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150115487
感想・レビュー・書評
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おかしなカーニバルで団長の野望を打ち砕く話。
常識はずれのおもちゃ箱みたいな
それでいて計算し尽くされた世界観。
ぞくっとするほど残酷で醜悪だったり
かと思うと、
涙が出そうに血が通った温かさがあったり。
自分らの世界とちょっと似てるけど全く別の、
違った法則に則ってまわる完成された世界が
そこに実際にあるように感じた。
そう感じさせることが、
この作品が傑作ファンタジーであることの
証明だと思う。
人間と宝石もそうだし、
解説を読むとスタージョン氏と我々も、
もしかしたら私と友人もそうかもしれないけど、
自分の常識が、
あくまで“自分の”常識でしかないということを、
もっと謙虚に知った方がいいのかもしれない。
解説で紹介される
「スタージョンを読む前に発狂すべし」
というアドバイスは、
お前が常識と呼んでいる偏見を捨てないと
この作品ではすぐに迷子になるぞ、
ということなのかも。
世界を司る常識が違うのと
外国文学らしい言い回しの難解さと超展開に
情けなくもしばしば置いてけぼりにされたので、
間髪入れずに2回読むことをおすすめしたい。
世界の法則を掴んでから読めば、
序盤の何気ない記述からも
はっきりとした意図がみえてくる。
人間的な非人間と非人間的な人間の対比もまた、
難しい問題をなげかけてくる。
ハバナのウインク、バディの贈り物、キドーの歌、
宝石の夢に翻弄される世界にも
心をぎゅっとされるような
人間的な感情や行いがあって、
ワッフルの表面の砂糖粒みたいで、
ミクロの目で見ると
そういう場面がすごく好きだったし、
結局「僕は何者か」じゃなくて
「僕は何がしたいか、どう行きたいか」って話の方が
100倍大事な本質で、
砂糖粒みたいな行いを
できるだけたくさんできるように
心を育てて生きていきたいなあ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
主人公ホーティは幸せではない。
判事の選挙に立候補するに当たり、孤児を養子にして育てたら選挙に有利だとの判断でホーティを引き取っただけの、横暴で冷酷な養父アーマンドにいつもひどい仕打ちを受けていたからだ。
9歳のホーティは家出をする。
唯一の友であるジャンキーを連れて。
ジャンキーは、公園に捨てられていたホーティが孤児院で手に入れた人形なのである。
家出をする直前、ホーティは大怪我をする。させられる。
アーマンドが強く締めたドアに挟まれ、指を3本切断してしまったのだ。
ホーティはカーニヴァルの一団に拾われ、その後行動を共にすることになる。
カーニヴァルの見世物小屋で働く彼ら。
こどもサイズの身体しか持たない彼らは、弱者ではあるがとても優しい。
しかしこのカーニヴァルの団長は恐ろしい人物なのである。
人食いと呼ばれる男モネートルは優秀な成績で大学を卒業して医者になるが、ちょっとした事件のせいで病院を追われる。
そのことにより彼は、自分を締め出した人間社会を、全人類をさげすむことにした。
カーニヴァルの仲間は、ホーティを自分たちの仲間の女の子としてモネートルに紹介し、彼の魔の手からホーティを匿うのだ。
特に、ジーナ。自分の親戚として同室で暮らすよう手配し、繭で包むように暖かく柔かく慈しんでホーティを育て、教育する。
一度見聞きしたことは決して忘れないホーティ。
9歳の時から何年も、同じ体型でカーニヴァルにいつづけるホーティ。
おや?宝石はどうしたの?
水晶のような見かけの宝石は、私たちが住んでいる、理解している、この世界とは違う世界のものなのである。
宝石は生きている。
宝石は、夢を見るし、結婚をする。
宝石の見る夢というのは、私たちの現実の中で像を伴い、そして決して同化することのない異質な存在。
モネートルはそれを利用して、人間たちに復讐しようとしている。
それに対する切り札がホーティということなのだが、この作品の肝はそこじゃないと思うんです。
ストーリーを言ってしまえばそれだけのことなのですが、読んでいる間、心がずっと温かいものに包まれているような気がしていました。
ホーティが憎む養父のアーマンドや、モネートルの残酷な振る舞いなどの部分もありますが、虐げられていたホーティに唯一優しく声をかけてくれたケイの存在や、カーニヴァルの仲間たちとの交流。
SFのスタイルで書かれた作品であるけれど、ここに描かれているのは弱く小さな人たち。
だからこそ深く優しく人を思いやることができる。
特にジーナの献身。
“どんな悪夢よりもこのほうがまだ恐ろしい、とケイは思った。おびえた狼と死にかかった小人といっしょにトレーラーに監禁され、狂人と気味の悪い人間がいまにも戻ってくるかもしれないという状態。”
一般的に見たら、そうなのだろう。
薄気味の悪い人たち。
悪意を持って見ているわけではないのに、そう思えてしまうのだろう。
けれど、本当の彼らは、彼らの心はとても美しい。
とても繊細で、とても美しい。
この小説もそう。とても繊細で、とても美しい。 -
物語全体を通して、愛と憎しみが常につきまとっている。SFなのに現実のよう。
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孤児のホーティは里親から愛されず、ついに家から追放されてしまう。路頭に迷うホーティが潜り込んだのは、普通でない人間が集うカーニヴァル。ホーティは、そこで小人のジーナとそして人間嫌いの団長モネートルに出会う。モネートルは奇妙な趣味があった。それは宇宙から来た不思議な水晶を集めることで…
シオドア・スタージョンって、こんなにも素敵な物語を描く作家だったのか!
本書では他の多くの小説がそうであるように、普遍的なテーマを含んでいます。評論家の石堂氏が本書を「愛による孤独からの解放」と評するとおり、それはすなわち愛と勇気。そんな普遍的なテーマではありますが、幻想SFの巨匠が描く物語は、他の小説では味わえない独創性があります。とりわけ、人間でないものが人間らしく(つまり愛と勇気を知っていること)、人間であるものが人間らしくない、この構造は、ひとは種族や外見といった見せ掛けのカテゴリーではなく、その内面にこそ、ひととしての素晴らしさが表出するものだと主張しているようでした。この人間らしさが愛と勇気をもって描かれる終盤には、とにかく心が揺さぶられることに。
うん、満足の一作です。 -
おもしろかった…と思う。
難しいところは読み流してしまったから、完全にこの本を読破したとは全く思えないけど、難しさに反してお話の流れは興味深くてするする読めた。 -
カーニバルの団長が世界征服を企んでるとか、なにか昔の日本の特撮物のような設定ですね。
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2021.01.29 図書館