- Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150118631
感想・レビュー・書評
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2024年になっても新鮮な読み心地と生々しい迫力を備えている。時代を超えて読み継がれるとともに、実現可能な時代になりつつあることの恐怖も沸き起こる短編集。以下は個々の作品の備忘録
・トータルリコール
経験の記憶を販売する会社で記憶の植え付け施術失敗と思いきや、政府の要人というか機密を持っている重要参考人的な立場だった人の話。映画も見てみたい
・地球防衛軍
人類が始めた戦争を、人類が作ったAIで代理戦争をさせるも人間より遥か上の知能を持ったAIによって管理下に置かれていたことに気が付く愚かな人間の話。
・訪問者
核戦争後、人間が住めなくなった地球で生き延びるために細々と息をしている様を描いた作品。地球も生きていて、人間が滅びるのも地球の歴史の一部になり得る。人間が最後の地球の支配者だなんて考えは傲慢…。
・世界をわが手に
ラスト数行で察してしまう世界の真実と創造者。破壊衝動に限らず「本能的欲求・衝動」と括ってしまうが、それは理解を簡素化するための言葉だった。溜まったエネルギーの発出。何かを使役したい、力を持ちたい、強さを自覚したい。神になりたい。残酷な世界の成り立ちは残酷な人間のエネルギー衝動によるものだったかもしれない。
・フードメーカー
頭の中を他人から読まれてしまう恐怖。政府に対して不都合な思想ややましいことがあれば即刻逮捕。まさにディストピア!
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本書はフィリップ・K・ディック短編傑作集ですが、有名なところではトータル・リコール、そしてマイノリティ・レポートが掲載されています。もちろんこれらの有名な話も面白いですが、私はむしろそれ以外の短編を堪能しました。
ネタバレになりますので深く書きませんが、「地球防衛軍」「訪問者」は立場の逆転という視点を、「世界をわが手に」はいまでいうシミュレーション仮説につながる話です。「ミスター・スペースシップ」はBMI(ブレイン・マシン・インターフェース)、「フード・メーカー」は、デジタル監視社会といった形で、むしろ2023年に読むほうが、リアリティを増しているという作品もあると思います。私は個人的に「世界をわが手に」が特に印象に残りました。この短編の中で、世界球という玩具を作っている会社の社長が、「人々は倫理観だけでは動かないんだよ、そうではなく・・・・」というシーンがあり、これは現代のSDGsへの大いなる警句だと思いました。つまり「サステナブル」「持続可能な社会」と倫理だけに訴えていても、一部の人は従うがマジョリティは動かないだろう、ということを想起させるわけです。SFのストーリー展開が卓越しているだけでなく人間心理を深くついた作品集だと思います。 -
フィリップ・K・ディックは20世紀中盤に活躍したSF作家で、この短編集は、有名な二つの映画化作品をベースに、21世紀に入って日本で再編されたもの。
いずれも切れ味抜群の結末と個性ある世界観で、「傑作短編集」の名に恥じないものばかり。
同じ作家の少し難解な長編「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」に比べて、ずいぶんと解りやすく、読みやすかった。
映画化された「トータル・リコール」「マイノリティ・リポート」はもちろん、他の作品もいずれも印象深い。
「訪問者」は、驕慢であった人類の地球上での最後の姿が垣間見える。
「吊るされたよそ者」のあとは、街中を走り回る自分の姿を夢に見そう。
「フード・メーカー」には、監視社会の問題が漂う。
フレドリック・ブラウンがちょっと不思議系でレイ・ブラッドベリが寓話的であれば、ディックは文字通りSFの王道。
もっと、掘っててみようかな……。 -
映画化された「トータルリコール」、「マイノリティー・リポート」含む10篇の傑作短編集。
ディックの映画化されたものは「ブレードランナー」を除いてつまらないので、この短編集も期待しないで読み始めたのですが・・・
やるではないですか!ディックにサイエンスは期待しませんが、人間(自分)は何をもってして人間(自分)と呼べるのか?という観点でいろいろな要素に分解して執拗に描くことにかけてはディックは最高です。これは、確かに精神を病んでしまうでしょう。
3.11後の現在に読んでも古びた感じがしないばかりか、今読むからこそ実感できる作品があるということはすごいことです。 -
この時代によくこのような物が書けたなと思う。
個人的には表題で映画化されたトータル・リコールや同じく映画化されたマイノリティ・リポート以外の短編の方が分かりやすく面白かった。また後ほど再読したいと思う。 -
発表当時から時を経て現在より身近でリアルな近未来を映すSF・サスペンス短編集。タモリの歌唱が頭をよぎる「ミスター・スペースシップ」が異色でありながらどこか微笑ましくて好き。
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表題の『トータル・リコール』を含むSF短編を収録した本。
表題の『トータル・リコール』は、何の変哲もない主人公が、火星にどうしても行きたくて「火星に行ったという記憶を自分に植え付ける」サービスを受ける話。
もしかしたら主人公のようなことが自分にもあるのかもしれないと思うと楽しい作品だった。
ディックの短編集を3冊読んだ中では、一番爽快感があり後味も悪くない作品が多かったように思う。 -
映画「トータル・リコール」「マイノリティ・リポート」の原作短篇を収録した短篇傑作選。白眉はやはり映画化された2篇。最初と最後に配置しているのもよかった。<トータル・リコール>で驚天動地のオチにのめり込み、<マイノリティ・リポート>のきりきりするようなロジックに舌を巻いて終わる。読み終わった後の満足感たるや。他には、核戦争後の世界を描いた<地球防衛軍>と<訪問者>でセンス・オブ・ワンダーを堪能したり、<世界をわが手に><ミスター・スペースシップ>ではシムアースやR-TYPEなどのゲームを思いだしてニヤリとするなど。ガチSFからミステリ風の作品まで、一冊で何度もおいしい。最近めっきり減ってしまった町の小さな個人書店などには、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」や「高い城の男」あたりがぽつんと置いてあることが多いが、ディックが初めてという人にはこの短篇集から入るのをオススメしたいかも。
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短いから内容が薄いというのは嘘だと思える作品群。短いのに凄い。
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■トータルリコール
「自分の記憶は本物なのか」誰もが一度は考えたことがあるようなことが設定となっている話。
何が本物で偽物か?フィリップ・K・ディック作品に通ずるテーマが本書にも埋め込まれています。
■出口はどこかへの入り口
自分の夢を、正しいことをせず、ただ権力に従う。その結果としての評価が「いい人」である。
「いい人」という評価は誰の視点からかのものか、それが内包する意味は?
この評価はむしろ「くそったれ!」なものではないかと考えさせるお話
■地球防衛軍
設定としては米ソによる世界戦争という、作品の書かれた当時の冷戦の影響を強く受けている。
人類は永遠と戦争を続けるがそれは人類が一つになる過程で必要であったものであると語られる。
人類が人類自身では戦争を終わらせられないであろう諦めと、全人類が一つになったときに何を成しえるかという希望の両方を感じさせる。
■訪問者
核戦争後の世界を描く話。もはや”人間”にとっては故郷は帰る場所ではなく訪れる場所となる。
なんとなく切なくなるラスト。
■世界をわが手に
孤独な世界は諦めと狂気を育むだけか。
この世界も誰かの娯楽のために作られただけなのでは?
■ミスター・スペースシップ
機械の体に人間の精神。ありがちな話ではありますが、面白い。
■非O
この作品は正直理解できなかった。特に非Oの存在と設定が。
論理的であるということが正しいことではないといういうことか。
■フード・メーカー
他人に思考を読まれる息苦しさを感じる。
インターネットの検索内容や個人を特定できない情報としてでも思考を読まれるというのはいい気分じゃないよね。
そして情報が集まるところに権力が形成される。
秘密とは弱さであり、武器である。
■吊るされたよそ者
始まりには終わっていて、終わりにまた始まる。
■マイノリティ・リポート
抽象化されされ生み出された「多数」という結果は真実を表しているのか。
神は細部に宿る。