変数人間 (ハヤカワ文庫SF)

制作 : 大森望 
  • 早川書房
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本棚登録 : 332
感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (495ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150119294

作品紹介・あらすじ

全知全能の世界で唯一予測不能な男を描く表題作他、超能力&サスペンスSF短篇を集成

感想・レビュー・書評

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  •  フィリップ・K・ディックはこの本がはじめて。ディックと言えば『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の思弁系SFのイメージがあったけれど、この短編集には、軽いユーモアSFや超能力を題材とした正統派のSFが主に収められている。『パーキー・パットの日々』と表題作『変数人間』が印象に残った。

    『パーキー・パットの日々』

    “父親がつぶやいた。「あのオークランドの連中。あのゲーム、あの特別な人形、それがあの連中になにかを教えたんだよ。コニーは成長しなくちゃならない。それで、あの連中も彼女と一緒に成長するしかなくなったんだ。ピノールのまぐれものは、そのことをまなばなかった。パーキー・パットからは。これからも、まなべるかどうかはわからない。パットも、コニーとおなじように成長しなくちゃいけないんだ。コニーも、前にはパーキー・パットとおなじようだったようにちがいないよ。ずっと前には」
     父親のいっていることに興味がないー人形だの、人形を使ったゲームなんかのどこがおもしろいんだろう? ティモシーはさっさと駆け出し、目をこらして、なにが行く手に待っているかをのぞいた。自分と、母親と父親、そして、リーガンさんを待っている、たくさんの機会と可能性を。(p.59)”

     核戦争後の荒廃した地球で、火星人から与えられる物資を頼りに各地の地下シェルターで暮らす人々。大人たちが興じているのは「パーキー・パット」という名の人形を使った奇妙な遊戯で、彼女に手作りの小物を与え、架空の人生を送らせることでかつての豊かな日々を懐かしんでいた。そんな中、隣のシェルターには「コニー・コンパニオン」人形があることを知り、興味を持った彼らは…

     少し前までは他でもない自分たちのものだった、たくさんの物に溢れ平和な人生を、人形に託すことで心の支えとする中年たち。
    ”ノーマン・シャインは自分のLPコレクションを覚えている。以前は、パーキー・パットのボーイフレンドのレナードとおなじように、高級な服を持っていた。(略)あのころのわれわれは、いまのパットとレナードのような暮らしをしていたんだ。(p.23)“
    彼らの姿には同情と哀れみを覚えるが、手作りの人形に対するそのあまりの執着には、恐怖と同時に滑稽さも感じる。非常に味わい深い作品。

    『変数人間』

    “「これはーこれは変数なんです」カプランは身ぶるいしていた。唇は血の気がなく、顔は蒼白だった。「そこからどんな推論も引き出せないデータなんです。過去からきた男。コンピュータは彼を処理することができません。変数人間を!」(p.380)”

     西暦二一二八年。地球は、太陽系を包囲するケンタウルス帝国と緊張状態にあった。彼我の勢力差を逆転させることを期待された、地球軍の新兵器イカロス。その完成する直前、過去からやってきた男トマス・コールが唯一の不確定要素となり、コンピュータは開戦後の趨勢を計算できなくなってしまった。公安長官エリック・ラインハートは、彼を排除せんと執拗に追いかけるが…
     
     人類が宇宙に進出した未来を舞台にした、大スケールのSFアクション中編。コールを匿った研究所での戦闘シーンは迫力がある。

    パーキー・パットの日々/CM地獄/不屈の蛙/あんな目はごめんだ/猫と宇宙船/スパイはだれだ/不適応者/超能力世界/ペイチェック/変数人間

  • 断続的ひとりディック祭りも、SFマガジンの特集をもって世の中の流れに合流したか・・・

    今回の短編集は、コミカルな雰囲気のものや比較的ストレートなSFが多かった。

    やっぱりディックの魅力はパラノイア的「なんでこうなるの?!」な展開でしょー。

    自らの妄想力を全開にして実態化させる能力ももつ異常者を超能力者と定義するディックは、現代においては異常なのであろうか?

    異常者でなければ優れて創造的な人となるのでしょうが、異常と正常が紙一重の差というところを気づかせてしまうディックはやはり恐ろしい。

    「不適応者」が印象深い。

  • 『パーキー・パットの日々』と表題作の『変数人間』が良かった。

    あとは何だかパットしないな……

  • ステップフォードワイフを彷彿させるCM地獄など面白いものもあったが、やっぱりタイトルになってる変数人間がベスト。何故、これが映画化されずにペイチェックが映画化されたのか分からん。
    それこそバーホーベン案件だし、スターシップトゥルーパーズより面白く撮れると思う。

  • 超能力者の話が多いですね。表題作も良いのですが、最初の「パーキーパットの日々」が良かった。終末戦争後の荒廃した世界で、大人たちは平和だった過去に執着し、あるゲームに興じています。執着のしかたが異常なのでちょっと怖いです。

  • 映画「ペイチェック 消された記憶」の原作短篇を収録した短篇傑作選。前半の小品はフレドリック・ブラウンや星新一のショート・ショートを彷彿とさせる、シュールだったりシニカルな作風が続く。後半の三作が絶品。ストレートなタイトルの<超能力世界>はそのままアニメ化できそうな設定の面白さ、映像の華麗さが印象的。でかぶつや息子などのキャラクターが立っていて、ヒロインも魅力的なので個人的には本書で一番推し。映画化された<ペイチェック>はスリリングなサスペンス・アクション。途中である程度結末が見えるものの、読後感はよし。表題作<変数人間>は発想の面白さで唸らせるSF。終盤がやや強引にも思えるが、エンターテイメントとしてばっちり締めてくれた。これもそのうち映画化されそう。

  • 長編はいくつか読んだが、短編集は初めて。巻頭は「パーキー・パットの日々」というディックらしい想像力を刺激する題名の作品だ。内容は核戦争後のシェルターで人形遊びに興じる人々の話。異常と悲惨と滑稽が見事に調和し、愚かだが愛すべき人々の姿を描き出す。しかもエンディングでは彼らが新しい世界へ踏み出す姿が描かれており、なんとこれはディック版「オメラスを歩み去る人々」であった。感心して他の作品も読み進めていくと、短編だけにアイデアの消化がメインで人間の内面を描き出すような作品はなかった。巻末の解説を参照すると「パーキー・パットの日々」のみ60年代の作品で、最晩年の一篇を除いて、他は50年代前半の作品であった。なるほどと腑に落ちて、ディックも最初はこういう作品を書いていたのかと、後に巨匠となる若い作家の情熱を思うとこれらの作品の味わいも深まった。それにしても、本書の表紙カバー絵は二色刷りの線画で描かれた不気味なものだが、昔のハヤカワ文庫のカバー絵は同じく不気味さを感じさせてはいたがフルカラーで色調は明るかった。カバー絵に魅せられて本を買ったこともよくあった。なぜこのような陰気なカバーにしたのだろう。色彩豊かなほうが若い人は興味を持ちやすいと思うが。素人にはわからぬ理由があるのだと思うが、あまり玄人好みに作ると読者層が広がらないのではと、昔のきれいなカバー絵にわくわくした人間は余計な心配をしてしまうのである。

  • SF小説10篇。映画化された正統派SFミステリーが1篇ありこれが一番素直に楽しめた。他は中年達がこぞって人形すごろくに熱中していたりするシュールな作品が多く、これらの良さが分かる人がこの作者にハマるようだ。深読み出来る人向きなのかな。表題作は割と正統派だろうけれどその本質より設定の古臭さが先立ってしまった。途中から面倒になって読み飛ばしたのも2篇あるけど、それらの作品を推す人も多くいるようで。傑作選集と帯にある割に玉石混交な印象だったけれど、それだけ幅のある作品を書ける人というのが一般的な評価なのだろうね。

  • 派手さは片鱗のみ、実はテーマいつも同じなのね

  • ディックのSF短編集.正直SFは苦手だったのですが,この本を機にSFを面白く感じるようになりました.どの短編も面白いです.

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