第六ポンプ (ハヤカワ文庫SF)

  • 早川書房
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感想 : 22
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  • Amazon.co.jp ・本 (510ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150119348

作品紹介・あらすじ

出生率の低下と痴呆化が進行した異形のニューヨークを下水ポンプ施設の職員の視点から描いたローカス賞受賞の表題作など、全10篇を収録した『ねじまき少女』著者の第一短篇集

感想・レビュー・書評

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  • これぞディストピア・オブ・ディストピアって感じ。「こんな未来は嫌だ」の大喜利のような暗い設定ばかり。絶対にこんな世界で生きたくはないが読み物としては好みだ。
    特に『イエローカードマン』の世界が一番暗くて嫌だったなー。
    『ポップ隊』の設定は映画化されそう。

    特に“科学技術による生命倫理への挑戦”みたいなテーマが好きな作家さんっぽい。
    人格をデータ化して小さなキューブに保存したり、楽器のように改造したり、遺伝子操作で不死身にしたり。
    環境破壊のせいで新たな格差社会が生じたり、人々が痴呆化したり。科学技術が部族間の争いに繋がったり。

    各短編の翻訳を中原尚哉さんと金子浩さんの2人が別々に担当されていて、なんとなくだけど、中原さんが翻訳したのは内省的な主人公の内面描写が多い作品で、金子さん翻訳の作品はそうでないものが多い気がした。
    どちらも甲乙つけ難く好きです。

    『カロリーマン』『イエローカードマン』と同じ世界観で描かれてるらしい『ねじまき少女』も是非読んでみたい。

  • ディストピア物のSF短篇集(SF9篇+SFではない『やわらかく』の1篇を収録)。

    人口、民族対立、エネルギー、化学物質、水、食料や食品添加物など、貧富の差や環境問題を下敷きにした退廃的未来を描いています。しかし、最後は希望が持てる終わり方が多いので、想像していたよりかは読後感は悪くないです。
    とはいえ、代償は有りますが、民俗文化の対立をテーマとした『パショ』を除いて、未来世界を好転させるヒーローが不在なため、どの世界もその先の未来は、暗澹たる終局を迎えることは想像出来ますが。以下、個別に。

    『ポケットのなかの法』
    場所は未来の四川省成都。“活建築”という生物的に増殖する市街地の路地裏で、ストリート・チルドレンがチベット人にデータキューブを運ぶように依頼されますが、約束の場所に相手が現れません。その後、その依頼物を狙う外国人が現れて…サイバーパンクの雰囲気が良かったのと、データキューブの中身に驚きました。

    『フルーテッド・ガールズ』
    双子の姉妹が、金持ちの女性パトロンに楽器に生体改造され、秘密のパーティーのステージに上がり…荒唐無稽な手術と肉体改造された女性の復讐劇。えっちいのはいいとしても、ちょっと苦手な描写があるのが難です。

    『砂と灰の人々』
    生態系は破壊し尽くされ、食糧難に対応するため、砂を食べて栄養を得ることが可能になり、かつ四肢を切断しても生えてくる不死身を手に入れた人類。その世界では他に生き物の姿はなく、実物は動物園の保護下でしか生存出来ない。そこに一匹の犬があらわれ…犬好きは読まないように。ボロボロの犬の姿は、ミカエル・リンドノード『ジャングルの極限レースを走った犬 アーサー』を思い出しました(こちらは感動ノンフィクション)。

    『パショ』
    砂漠の村から商業都市に留学した青年。学問を修めて村に帰ったところ、伝統を重んじる人々に受け入れられない。その筆頭たる人物が、一番理解して欲しい身内の祖父だった。はたして彼のとった行動は…まるで、アーシュラ・K・ルグィンのような世界観。短篇という尺の短さが仇になっており、全体的に説明不足な感じ。しかし、民俗対立をテーマにしていたり、太字で書かれた教訓めいた言葉など捨てがたい。長篇にしたら化けるかも。

    『カロリーマン』『イエローカードマン』
    この二作は、同じ世界観を描いており、長篇の『ねじまき少女』に繋がっていきます。短篇でも面白いので、いつか『ねじまき少女』を読んで感想を書きたいです。

    『タマリスク・ハンター』
    深刻な水不足に陥っている近未来のアメリカ中西部。長い根を張って水を吸ってしまう、砂漠化の原因とされるタマリスクを伐採すると、報酬として給水割り当てが貰えます。主人公は知恵を絞って、より多くの給水割り当てを貰うため、タマリスク・ハンターとして生業を立てていますが…干上がった川の流域に暮らす、少ないながら目の前に水があっても、優先的な利用を抑えられた住民の嘆きが描かれています。住み慣れた場所を離れるべきかどうか、環境問題に限った話しではないですね。

    『ポップ隊』
    寿命が延び、永遠の命が手に入った世界。そこでは、出産と育児が厳禁であり、違法に生まれてくる子供を見つけてポップ(処分)する警察の隊員がいて…描写は苦手。ただ、主人公が完璧な女性より、肌に張りのない、どこもかしこもたるんだ体の女性に心を奪われるところが好き。

    『やわらかく』
    ある日曜日の朝、熱いバブルバスの湯船に夫婦仲良く入浴している。ただし、その妻は死んでいる…これはSFではないです。きっかけは些細なことだったりするものですが、この夫婦にはどの道未来はなかったでしょうね。

    『第六ポンプ』
    食品添加物の過剰摂取により、出生率の低下と痴呆化が浸透した近未来の人類。ニューヨークの下水処理施設の維持管理を担当する職員たちは、維持管理の技術継承もなく、大量の危険を知らせるログは無責任にも無視し続けられます。そんなある日、第六ポンプが故障し、危険な化学物質だらけの汚物が市街に溢れる危機に遭遇します…日本は食品の規制が他の先進国と比較してゆるゆるみたいで、がんになる人も年々増えています。やはり関係があるのでしょうか?ふと、考えさせられました。あと、トログという逆ポストヒューマンの存在は恐ろし過ぎます。

    気に入ったのは、『ポケットのなかの法』『パショ』『カロリーマン』『イエローカードマン』『第六ポンプ』。しかし、全体としては他の人に勧めづらいので★4。

    同じようにSF短篇集である、オースン・スコット・カード『無伴奏ソナタ』やレイ・ブラッドベリ『十月の旅人』のような感じの描写が大丈夫な人にはおすすめ。

  • 表題作の第六ポンプは、化学物質の過剰摂取により痴呆化が進んでしまった未来という設定の短編。SF作品として非常に面白かったのはもちろんなんですが、テクノロジーが発展して利便性が増した結果、人間の知能が低下していくのではないか、なんてことが言われる現代にも通じるものがあるなと、少し怖さも感じました。

    その他、いずれの短編も環境分野に特化した他に類をみない作品が多く、とても楽しく読めました。復刊してくれて本当に良かったです。

  • 退廃的な短編が続きます。
    「ポップ隊」と「第六ポンプ」が特に好きでした。

    「賭けてみろ」

  • 世の中が文字も読めないバカばかりになってポンプのマニュアルも読めずに修理ができない世界で、唯一文字が読める天才の主人公の物語の表題作。現実をディフォルメすることで、現実の本質にピントが合うSF短篇ならではの面白さです。

  • 「ねじまき少女」世界の短編集。
    環境分野に携わる作者の描く、環境破壊の先にあるイヤ~な情景てんこ盛り。こんな未来は嫌だってのを堪能してしまいました。

  • 今注目している作家の一人。SF作家さんだけど、学生時代は東アジア学を専攻し、経営コンサル経て、環境専門雑誌の編集をしながら執筆を続けているそう。
    『ねじまき少女』から思っていたけど、場面の空気を描くのがすごくうまいと思う。『ポケットの中の法』や『イエローカードマン』なんかは読んでいると自分の周りすらジトジトしているような気になる。土地のにおいがしてきそう。
    環境問題にも造詣が深く、そのせいか物語もディストピアが多くて若干気が滅入るかも。でも目が離せない。
    SFをやっと数作読んできたけど、科学技術単品を軸に進む物語より、その技術で社会や人間がどう変わったか、みたいな部分の割合が多めの作品が好きみたい。
    にしても作者のデビューは27才かぁ。いろいろ考えるなぁ

  • 短編集なので読みやすく、でも衝撃は大でした。
    特に表題作は「自分以外はみんな馬鹿!」と感じてイライラしているような人に読んでもらえたら面白いかも。
    この先世界はもっと悪くなるかもしれないけれどそれでも、と思える話ですごく良いです。
    他にも近未来の中国で食べる熱々の麻婆豆腐と山盛りの白ごはんのような食べ物がすごくおいしそう。
    (私今生きてる!)と実感でき、読み終わって目を上げた時に現実がそれまでよりも輝いて見える気がする本でした。

  • 文明が衰退・滅亡した後のオルタナティブな文明を描いたお話がつまった短編集。
    荒廃した世界の過酷な境遇の中で主人公たちがそれぞれの矜恃、それぞれの希望を見出していくところに「SF的美しさ」が存在している。
    挿入される造語に初めは戸惑うが、読み進めるにつれて造語に馴染みそれと共にその世界にも馴染んでいく感覚があった。
    身体を所有され(改造され)支配される少女といったフェミニズム的テーマの「フルーテッド・ガールズ」、異なる種族(ポストヒューマンと犬)の間の残酷な友情が扱われる「砂と灰の人々」を筆頭に「パショ」「カロリーマン」「ポップ隊」「イエローカードマン」など脳の痺れるような傑作ばかりだった。
    同作者は長編を主戦場としているらしく、そちらもいずれ読んでみたいと思った。

  • 第六ポンプ(ハヤカワ文庫SF)
    著作者:パオロ・バチガルピ
    発行者:早川書房
    タイムライン
    http://booklog.jp/timeline/users/collabo39698
    「SFの中の話」では済まされない。

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