世界の誕生日 (ハヤカワ文庫 SF ル 1-11) (ハヤカワ文庫SF)

  • 早川書房
3.81
  • (11)
  • (7)
  • (12)
  • (1)
  • (1)
本棚登録 : 264
感想 : 13
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (608ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150120375

作品紹介・あらすじ

『闇の左手』と同じ宇宙を舞台に描く〈ハイニッシュ〉ものなど全8篇を収録する傑作集

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • SFが苦手でル・グウィンさんの本はファンタジーしか読んだことがなかったが、彼女はSF界での評価も抜群なのは知っていた。
    アニメ作品でいくつかSFに触れる機会があり、チャレンジしてみようという気になりようやく手にとった。

    子供向けファンタジーに比べて生々しく、衝動や緊迫に息を飲む機会も多くあったが、ジャンルは違えど彼女の文化人類学的な視座や思想から紡がれる小説はやはり秀逸。神話や古代壁画を見ながら、ヒトや文化の起こりを見つめ直す感覚。4人の婚姻制度や神々の掟、宇宙旅行など、前提のない世界である時はヒトらしく、ある時は理解しがたい場面にも感情移入させる筆致には唸らされる。短編集で、もう少し続きを見届けたいと願うところで呆気なく途切れるものも多かった印象。読者の心に引っかかり、ついつい頭で続きを描いてしまう尾の引き方が、どの作品にも愛着を沸かせる。

    エクーメンとか何の何年とかは正直よくわからなかったのだが、ハードSFは見切りをつける姿勢を身につけなければ笑。不思議な文字列に遥かさと、果てない宇宙の文化史に思いを馳せる素敵な時間だった。

  • 性や性別、人種、宗教、文化を巡って、幾つもの星々の物語を描く短編集。

    各星の習俗や歴史を丸々造り上げているから、短編ひとつひとつの情報量が凄まじい。結婚のあり方、孤独のあり方、流浪のあり方…緻密かつ大胆に語られる未知の生活様式。読むごとに気力を使い、読み終えるごとに呆然とさせられるのは、まるで異文化を理解しようとして、し切れなかった感覚のよう。

    最後の短編『失われた楽園』のみが、異星の物語でなく、地球を出発し、植民星を目指す宇宙船の物語。本書全体の3分の1ほどを占める長い作品だけれど、読んでみたら、この作品が一番読みやすかった。
    地球と違った宇宙船内の生活様式や、そこで生まれた新興宗教の興隆など、細部が面白いのも理由のひとつだけれど、おそらく登場人物たちが(宇宙船生まれの世代であるとはいえ)地球の文化や言葉を背景に持っていることが理由なのだろうと思う。
    裏を返すと、そこまでの7つの短編が、地球の文化と隔絶した異質なものとして、いかに完成度が高いかということでもある。

    ル=グウィンが序文で、短編『古い音楽と女奴隷たち』について「ある批評家は、奴隷制度をわざわざ書くに値する問題としているわたしを嘲笑した。彼が住んでいるのは、いったいどこの惑星かとわたしは不思議でならない。」と述べているように、きっとこれらの話は異星の話でありながら、また、地球の話であるのだろうと思う。
    異なる文化を理解することの困難を突きつけはするけれど、豊潤な物語を読むよろこびの後ろに、他者を理解しようとする試みの面白さもまた垣間見せるような、奇特な作品だと感じた。

  • 「求めぬ愛」「山のしきたり」で描かれる惑星Oでの結婚は、二つの半族(朝と宵)の男女二組で成立するため、構成員は四人。
    異性とも同性ともペアになれるが、同じ半族同士がペアになることはない。
    四人はそれぞれ独立した部屋を持つことができ、部屋の主の許可なしにそこへは入れない。
    とても自由なようにも、ひどく不自由にも思える。
    「孤独」のレンが実践したように、私が私であるために自由が必要なのは明白なのだけれど。

  • 何もしたくない冬の1日に読むのが良いかも、、、

    早川書房のPR
    http://www.hayakawa-online.co.jp/shop/shopdetail.html?brandcode=000000013057&search=%C0%A4%B3%A6%A4%CE%C3%C2%C0%B8%C6%FC&sort=

  • 質・量ともにしっかりした物語たち。わたしたち人間のかかわる社会、その不平等や弱さまた嘘を、別の視点から光を当てることであばくような、しずかな迫力がある。読了してからまた序文を読み返すのも良いと思う。
    後半の3話「古い音楽と女奴隷たち」ーー価値あるとされるものと所有され当たり前に顧みられないもの、「世界の誕生日」ーー終末の予言とその終末のつづきのこと、「失われた楽園」ーー別の星に旅立つときその船の中で何が起こるかーーが、とくに私には重く感じられた。
    あとがきは好きになれないかもしれない。

  • 「闇の左手」でも思ったんだが、どっか伊藤計劃っぽい、ってか、伊藤計劃がル・グィンっぽい、なんだけど。

  • 2017/3/10購入

  • 『闇の左手』時代の宇宙を描く叙事史的作品集。エンターテイメント的な作品ではなく、男女比が極端に違う世界、男女4人で「結婚」する世界など性のあり方の記述が多いのは読むのに少し抵抗があった。その点地球の近未来(?)SF「失われた楽園」は読みやすく、好きな作品として心に残った。

  • 作家の創りあげた世界がここにある。宇宙のどこかにある星の上に。色々な星に住むヒトたちの話、そして長い旅をしてその星にたどり着き住み始めた一部のヒトたちの話。一緒に想像しながら読む。ここではない星に住むヒトたちの話を

  • ホントにル・グィンは唯一無二だなと思う。ぶつぶつ途切れるような文体はなかなか頭に入ってこないし、彼女の作り出す世界はぶっ飛んでいてとてもすんなり理解はできない。解説に「思考実験」とあるけど、まさにその通り。それでも一生懸命理解しようと読むせいか、どれもあとを引く。特に「セグリの事情」は衝撃的だ。男女の比率が1:16だと、こんな凄まじい世界になってしまうのか。「失われた楽園」は、ラストが少し楽観的過ぎるように思えたが、何世代もかかる恒星間旅行で起こりうる出来事が興味深い。久しぶりに「風の十二方位」も読みたくなった。

全13件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

アーシュラ・クローバー・ル=グウィン(Ursula K. Le Guin)
1929年10月21日-2018年1月22日
ル=グウィン、ル=グインとも表記される。1929年、アメリカのカリフォルニア州バークレー生まれ。1958年頃から著作活動を始め、1962年短編「四月は巴里」で作家としてデビュー。1969年の長編『闇の左手』でヒューゴー賞とネビュラ賞を同時受賞。1974年『所有せざる人々』でもヒューゴー賞とネビュラ賞を同時受賞。通算で、ヒューゴー賞は5度、ネビュラ賞は6度受賞している。またローカス賞も19回受賞。ほか、ボストン・グローブ=ホーン・ブック賞、ニューベリー・オナー・ブック賞、全米図書賞児童文学部門、Lewis Carroll Shelf Awardフェニックス賞・オナー賞、世界幻想文学大賞なども受賞。
代表作『ゲド戦記』シリーズは、スタジオジブリによって日本で映画化された。
(2018年5月10日最終更新)

アーシュラ・K・ル・グィンの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×