- Amazon.co.jp ・本 (370ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150120979
作品紹介・あらすじ
地球を襲う怪事象、悪魔と坊やの激闘、謎の惑星に潜む罠など12篇の奇想が大集合。
感想・レビュー・書評
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フレドリック・ブラウンの描く12の短編が収録された作品。
日本の有名なSF作家である星新一が訳した作品という時点で「面白くないわけがない!」と胸を躍らせて読書開始。
キャッチーな話から陰鬱な雰囲気の漂う話まで多種多様で、表題作に連なり短編集の中には狂気を強く意識した作品が多かった印象。そして何よりも、そのキレ味鋭い展開とオチに舌を巻くばかり。
作品の中では『みどりの星へ』『雷獣ヴァヴェリ』『ユーディの原理』辺りが好みだった。
特に『雷獣ヴァヴェリ』は未知の生物の襲来によって世界から電気が失われていく過程とその後を描いた作品なのだが、人類の強さと電気が失われた世界の美しさを短い物語のなかで上手く表現していた。書物が禁制品とされたディストピアを描くブラッドベリの『華氏451度』と比較してみると、あちらとは対照的に便利だったものが失われてしまった世界にもかかわらず、非常に幸福そうな人々の姿が印象的な終わり方だった。
訳者であり稀代のSF作家でもある星氏からブラウン氏へのリスペクトをふんだんに感じることができただけでなく、”星新一らしさ”が作品全体から滲み出ており、翻訳小説を読んだことのない人や、苦手意識を持っている人にこそ読んでほしい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
探偵小説、SF、長短編を問わず奇抜な着想で、あらゆるジャンルに活躍したフレドリック・ブラウン(1906-1972)が1940年代に発表した作品を、星新一(1926-1997)翻訳による12編のSF短編集。 自分を<ナポレオン>と信じて生きている男の野望と策略が渦巻く標題作が、もっとも刺激的・・・ある精神科病院での会話~「君は気ちがいか?」 「いいや」 「ここには、気ちがいもいるし、気ちがいじゃないのもいるんだ」 「どうすればここから出られる?」「自分が気ちがいだと認めればいいのさ」 「???・・・」
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訳者はSFのショートショートで有名な、星新一。
この短篇集を読んでいると、不思議と星新一が脳裏に浮かんできて、訳していて楽しかっただろうなと、ほくそ笑んでしまいました。
11の短篇の後に、タイトルの中篇で終わるのですが、最初の『みどりの星へ』から狂っています。
他にもサスペンス、ミステリー、SF、ファンタジーやコメディなど多岐にわたっていますが、どれも文章にキレがあり、また発想からして面白い。短篇は、短いだけにオチが重要と思いますが、どれも一捻りしてあって、とても楽しい読書体験でした。
ところで『ノック』の書き出し部分について、星新一自身の短篇『ノックの音が』の「あとがき」で、タイトルを付けるにあたって参考にした旨が書かれています。『ノックの音が』は、内容をまったく覚えていないので、再読してみようと思いました。 -
20世紀アメリカのSF作家フレドリック・ブラウン(1906-1972)の短編集。星新一訳。
星新一は、自分が影響を受けた作家としてしばしばブラウンの名を挙げている。物語の展開・オチの付け方とその余韻の残り方・作中の雰囲気に加えて、文体も(当然のことながら)星新一そのものなので、彼のショートショート作品を読んでいるようなテンポが思い出されて懐かしく、楽しめた。彼の無駄を排した乾いた静かな世界観と文体が好き。小中学生のころ彼の作品集を読みあさりそのテンポが沁みついていまの好みが作りあげられてしまったのかもしれぬ。
「ぶっそうなやつら」「電獣ヴァヴェリ」「シリウス・ゼロ」「町を求む」「帽子の手品」 ・・・ 星新一の作品といっても通じると思う。「沈黙と叫び」 ・・・ どこかで読んだことがあると思うのだが思い出せない。「さあ、気ちがいになりなさい」 ・・・ 正常/狂気の物語は、座標軸が何処に設定されているのか分からなくなりついに根を下ろす場所を見出せず宙ぶらりんのまま・・・と思っていたら予想外の壮大さに戦慄。
「ノック」 ・・・ この冒頭の二文について、星新一がその名も『ノックの音が』(新潮文庫)というショートショート集のあとがきでラストも含めて紹介されていたのだが、それを知ったうえでも十二分に楽しめる。構成が巧い。確か他のエッセイでも触れていたと思う、よほど気に入っていたのかな。「ユーディの原理」 ・・・ 読んでいて最も面白く興奮した作品。声を出して笑ってしまった。紋中紋というのか。「みどりの星へ」 ・・・ 雰囲気が一番好きな作品。荒れた褐色の星、肩の上の相棒。ふと思ったが星新一の短編「処刑」の雰囲気に似ている。 -
あれ、読んだことがあるような……。
と思って調べてみたら、単行本ですでに読んでいた(汗)。
つまり、単行本で持っているのに改めて文庫を買ってしまったことになる。
うーん、後書きまで一緒じゃないか……。
こういうことがないように、こうしてネット上に読んだ本や購入した本を登録しているのに、全く活用していないなぁ。
まぁ、仕方ないか。
以下の感想は、単行本を読んだ時のものをそのまま引用しました。
フレドリック・ブラウン初体験。
星新一が影響を受けた作家の一人にあげていたが、その星新一自身が翻訳をしている。
確かに星新一が作るようなショート・ショート・タイプの作品が多いが(星新一が作るような、というよりも、ブラウンが作るような作品を星新一が書いた、といった方が正しいのだろう)、星新一よりもドライな感じがするし、SFの度合いも強いように思う。
意外でシニカルなオチには、思わず唸らされるものもあるが、なんだかんだでハッピー・エンドに近い終わり方をしている作品が多い。
表題作である「さあ、気ちがいになりなさい」なんて、サイコ的な展開になるかと思いきや、とんでもない方向に向かっていって……という感じ(「……」を書いちゃうとネタばれになるので自粛)。
そうそう、ネタばれといえば、本編よりも後書きを最初に読む捻くれた人(僕もその一人だ)もいるだろうが、本書に関してはやめたほうがいい。
なにしろネタばれが堂々と書かれているのだから。
しかも本書には収録されていない作品のネタばれも行っており、これから他の作品を読もうとしている人(僕もその一人だ)にとっては、迷惑な話だ。
もう少し気を使って欲しいな、と切に思う。 -
全ての短編が面白い。購入して何度でも読みたい。
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“星新一”訳ってだけで、もう読む気満々。
“村上春樹”訳の“サリンジャー”なんて目じゃない(…ごめんなさい)。
20世紀を代表するフレドリック・ブラウンの切れ味鋭い短編集を、これまた20世紀日本を代表する「ショートショート」の名手が訳した。
「狂気」が「滑稽」であるがゆえの「不気味さ」を切り取る。
地面に書いた円を示して「どちらが内側、外側?」と問いかける。
〇の中と思いきや、地球規模で見れば内・外の区別はない(森博嗣「笑わない数学者」)。
早い話、赤道で区切られた北と南に内と外はないということ。
表題作「さあ気ちがいになりなさい」は、そんな「ヒトの勝手な思い込み」を覆す。
「おそるべき坊や」は目に見えている状態には、とんでもないことが隠れており、目に見えないのは「偶然」であったことに思いが飛ぶ。
「電獣ヴァヴェリ」は、ついこの前まで電気がなかったことをすっかり忘れていたのに気がつかせる。
「沈黙と叫び」は、言葉遊びであるかのようで実は背筋が凍る。
天下のフレドリック・ブラウンに対して、星新一自作のショートショートより切れに乏しいと感じてしまうのは、贔屓のなにものでもない。
ところで「ノック」は競作?元ネタ?
「ノックの音が…」(ギ~ィ、扉が開き…) -
昔、評論家向井敏の「文章読本」(良い本です)の作家のもつ文体の説明で、翻訳者による文体の違いの例として、ブラウンの星新一とほかの人の翻訳文章例があったのを思い出し、本屋で翻訳者をみて思わず買ってしまった。
計12編、最後の表題作のみ90ページと長い。
星新一訳が特に良いとは思えず、その点では期待が高すぎたようだ。
ミステリ系では「ぶっそうなやつら」「町を求む」、SFでは「みどりの星へ」「ユーディの原理」が面白かった。
むかし創元SF(&推理)文庫でブラウンの短編集を読んできた者にとっては、相変わらずの、期待通りのブラウンでした。 -
第69回出張!アワヒニビブリオバトル@天神さんの古本まつり「古本・古書」で紹介された本です。チャンプ本
2020.10.18 -
アメリカの作家「フレドリック・ブラウン」の短篇SF作品集『さあ、気ちがいになりなさい(原題:Come and Go Mad and other stories)』を読みました。
ここのところSF作品が続いていますね。
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ショートショートの神様による名訳
記憶喪失のふりをしていた男の意外な正体と驚異の顛末が衝撃的な表題作、遠い惑星に不時着した宇宙飛行士の真の望みを描く『みどりの星へ』、手品ショーで出会った少年と悪魔の身に起こる奇跡が世界を救う『おそるべき坊や』、ある事件を境に激変した世界の風景が静かな余韻を残す『電獣ヴァヴェリ』など、意外性と洒脱なオチを追求した奇想短篇の名手による傑作12篇を、ショートショートの神様「星新一」の軽妙な訳で贈る。
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1940年(昭和15年)から1951年(平成26年)に発表された以下の12篇が収録されている短篇集です、、、
「星新一」の翻訳は、とても読みやすかったし、表現が絶妙で、愉しく読めましたね… 1962年(昭和37年)の訳文とは思えない、新鮮さのある作品でした。
■みどりの星へ(原題:Something Green)
■ぶっそうなやつら (原題:The Dangerous People)
■おそるべき坊や(原題:Armageddon)
■電獣ヴァヴェリ (原題:The Waveries)
■ノック (原題:Knock)
■ユーディの原理 (原題:The Yehudi Principle)
■シリウス・ゼロ (原題:Nothing Sirius)
■町を求む (原題:A Town Wanted)
■帽子の手品(原題:The Hat Trick)
■不死鳥への手紙(原題:Letter to a Phoenix)
■沈黙と叫び (原題:Cry Silence)
■さあ、気ちがいになりなさい(原題:Come and Go Mad)
■訳者あとがき
■解説 フレドリック・ブラウンの幸福 漫画家・坂田靖子
着想が奇抜な作品ばかりで、どの作品も愉しめましたが… その中でも印象に残った作品は、『みどりの星へ』、『ぶっそうなやつら』、『おそるべき坊や』、『電獣ヴァヴェリ』の4作品かな。
『みどりの星へ』は、赤い森や紫の空等、緑色の無い惑星に墜落した男「マックガリー」は、その星で30年間を生き延び、緑に囲まれた地球に思いを馳せる… そこに宇宙パトロールの「アーチャー中尉」が姿を現す、、、
「アーチャー中尉」から、地球は滅亡しているが、一緒に火星か金星に戻ることができると聞いた「マックガリー」の選択した行動は!? 狂気的なエンディングでしたね… 絶望的な現実よりも、希望のある幻想を選んだってことですかね。
『ぶっそうなやつら』は、SFではなく、ミステリ仕立ての作品… 疑心暗鬼に陥った二人の男の緊迫感が生々しく描かれており、本作品の中ではイチバン好きな作品ですね、、、
田舎町の小さな駅の待合室で一緒になった、弁護士の「ベルフォンテーン」と、塗料会社の帳簿係「ジョーンズ」… その夜は、殺人狂の犯罪者が病院から脱走しており、二人はお互いを殺人狂ではないかと疑い始める。
この二人の心情の移り変わりの描き方が絶妙… そして、そこに殺人狂が現われ!? 皮肉なラストへ導く手腕は見事でしたね。
『おそるべき坊や』は、両親と一緒に奇術ショーを観に行った「ハービー坊や」が世界の平和を守ることになる物語、、、
「ハービー坊や」が我儘を言って買ってもらった水鉄砲… その水鉄砲には「ハービー坊や」により聖水が入れられており、これが悪魔を撃退して、世界を地獄の炎から救うとは、誰も予見できませんよねー それも、誰もが気付かないうちに。
二番目に気に入った作品でした。
『電獣ヴァヴェリ』は、波動に依存する謎の生命体の侵略により、ラジオやテレビといった電波を使う機器が利用できなくなり、さらに電気が全て使えなくなってしまうという物語、、、
侵略とはいえ、直接的に人類が襲われるわけではなく、電気が利用できず生活が困難にはなるものの、その生活を楽しみ、生き延びようとする人々が牧歌的な雰囲気で描かれており、豊かな生活って、何なんだろうなぁ… と考えさせられる作品でした。
これが1945年(昭和20年)の作品ですからね… 電気への依存度が格段に拡大した現代に置き換えると、恐ろしいパニック作品に仕上がりそうですね。
70年くらい前に描かれた作品たち… 描かれている背景に古くささはあるものの、テーマは新鮮で、現代に置き換えても愉しめそうな作品ばかり、、、
面白い作品って、時代を越えて愉しめるものですね。