紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)

  • 早川書房
3.91
  • (151)
  • (174)
  • (129)
  • (26)
  • (5)
本棚登録 : 2505
感想 : 225
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150121211

作品紹介・あらすじ

第一短篇集である単行本『紙の動物園』から、母と息子の絆を描いて史上初のSF賞3冠に輝いた表題作など、7篇を収録した短篇集

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 中国で生まれ少年期にアメリカに移住し育った著者。その生い立ちと経験が深く濃く反映されている気がした。それぞれの短篇、設定は面白かったが、なぜかいま一歩作品の世界に入り込めず…。

  • 表題作の印象的なタイトルから気になっていた作品だったが、期待以上だった。とても短いページ数の作品ばかりなのに、長編小説を読んだような心持ちになり、素晴らしい短編小説というのはこういうものなのだと再確認することができた。

    「紙の動物園」では、切ない読後感とともに、紙でできた動物たちを通した親の子供への限りない愛情を感じた。取り返しがつかなくなってから後悔しても時間は戻らないのだから、今のうちに親孝行したいと強く思わされた。

    SFとして読んだときにいちばんいいと思ったのが「結縄」で、タイトルに関わるSF的なネタにとどまることなくもう一ひねり加えてあって、物語にさらに深みを持たせているところに作者の高い技量を見て取ることができた。

    いずれも短編傑作集の名前に恥じない素晴らしい作品群だったと思う。作者の他の作品や中国SFと言われたとき名前を聞かないことのない「三体」にも手を出したくなった。

  • 折り紙の動物に魂を込めた母親の気持ちに気づいた息子を描く表題作ほか。

    ここ10年で注目されるSFの旗手、ケン・リュウによる短編集です。話題となっていた「紙の動物園」は気になっていたけど読むのは初めて。うっかり読んであっさり泣かされてしまいました。SFというよりもとても抒情的な作品で、心の柔らかいところをぎゅっとされるようなお話でした。
    ほかにも移民問題を題材にした「月へ」や、かつてのアカ狩りを描いた「文字占い師」などは社会(アメリカ)の闇にも光を当てる、アジア人ルーツならではかもしれない見方で社会を描いたりと、野心的な作品も多く、また、AIやプログラミングの視点から人格や思考を読み解いたりと、SFらしいSFでも楽しませてくれました。
    全体的にはとても心に訴えかける作品が多く、短編集ながら印象強い一冊になっていました。これは名作だ。
    短編集シリーズとして「もののあはれ」もセットで出ているのでこちらも読まねばなりませんね。

  • SFかと思い購入したが中国の歴史と結びつく辛い話が多くて読み進めるのが大変だった。『文字占い師』は悲しく虚しい結末に一番心を揺さぶられた。

  •  文化的背景を元にした葛藤を題材に扱った作品とSFが収められた短編集。
     収められている7編の小説のうち、「紙の動物園」「月へ」「太平洋横断海底トンネル小史」「文字占い師」はSF要素があるものの文化的背景による葛藤が主題となっているように感じた。残りの「結縄」「心智五行」「愛のアルゴリズム」ではSFがメインなようだった。「愛のアルゴリズム」以外の作品では中華的な文化が話の大筋に組み込まれそれによる葛藤も描かれるが、「愛のアルゴリズム」だけは語弊があるかもしれないが、ある意味この短編集の中で一番読みやすさのある作品なように感じた。
     「紙の動物園」は母の愛を描いた作品だった。話の筋だけをなぞると、母と仲違いしたまま母を亡くしてしまった息子が母の残した手紙を読んで母の想いを知るという一見するとよくあるような話だが、欧米的なloveではなくアジア的な愛を描いていたり、癌の痛みや老虎のメタファーなど細かい要素が随所に散りばめられているのがよかった。
     「月へ」は月に手を伸ばした親子の話だった。間に挿入される例え話と主人公の過去が秀逸で、正しいこととは何かを問われる話だった。
     「結縄」と「心智五行」は温故知新が主題となっているが、昔のものもそのままでいいのかという疑問が提示されていた。
     「愛のアルゴリズム」は人は情報とシステムしかないのではないかということを投げかけるSFで、面白かったが他の作品と比べてらしさは感じなかった。
     「太平洋横断海底トンネル小史」と「文字占い師」は他の作品とは一線を画すように感じた。あまりこのレビューの陳腐な言葉で表現したくないが、人の温かさが秘密を守りにくくする話だった。特に「文字占い師」ではこの世界の真理を知っていた人がその真理によって排除されていくむごさが筆舌に尽くしたかった。
     全体を通し、民族、文化、感情といった割り切れないものに目を向けた小説だったと思う。すごいものを読んだという読後感が強く残った。

  •  実によくできている作品ばかりなのに、飽きちゃうのはなぜなんでしょうね。マア、ぼくだけなのかもしれませんが、どうも、そのあたりがこの作家の「秘密」かもしれませんね(笑)。

  • SFっぽくない表紙の雰囲気に惹かれてのジャケ買いだったのですが、予想以上に自分好みの短編集でした。

    7編の短編はいずれも、中国で生まれ少年時代にアメリカに移住した著者の文化的背景が感じられる作品です。
    SFというよりはファンタジー要素が強い感じでした。
    強い印象を残す表題作や「文字占い師」もよかったですが、個人的には「結縄」がとても印象的でした。
    アジアの奥地の村に伝わる結縄文字と最先端の医療研究がつながる過程に静かな興奮を覚えます。
    その一方で、村長と若き白人研究者とのあいだに育つのではないか、いや育ってほしいと期待していた友情がしおれていく結末の、怒りにも似た寂しさ。
    やり場のない切なさに、しゅんとしてしまいます。

    また、「心智五行」は短い中に映画のようなエンターテイメント性がつまっていてわくわくしました。
    主人公の最後の一言が心にくい。

    本書は単行本を2冊に分冊刊行したうちの1冊とのこと。
    もう1冊もぜひ読まねば。

  • 紙の動物園が1番わかりやすいが、その他の短編も悪くない。けどそれ私は中国風味をやや苦手としており、今後の付き合い方は考えたい。

  • 理系理系していてるネタ料理SFで、こういうの読みたいよねうんうん、と好感。ニューディール政策でアメリカ国内を振興するのではなく、太平洋トンネルを建設していたらという話が、まるっきりフィクションなのにおもしろかった。

  • 『髪の動物園』と『もののあはれ』を一気に読んだ。久しぶりに本を読んで泣いた。どちらもいくつかの言語を行き来する物語。よく出来ている、上手い!

  • 折り紙で創られた動物たちが生命を吹き込まれたかのように動きだす。母と子の物語に添えられたその幻想性と奇想に目を瞠るが、読み終えたとき「言語とはなんだろう?」と考えた。言語が単なる伝達の手段だけでなく、個々人の記憶と歴史を帯びたものであることに気づかされる。物悲しくもしっとりとした静謐な短篇集。

  • どの短編もお気に入りだが「紙の動物園」「文字占い師」が特に良くできている。表題作はファンタジーであると思った。日本ではSFとファンタジーは明確に分けるのだろうがアメリカではファジーな様である。曖昧さがとても気楽なのである。非常に読みやすくウェットな作風で読みやすい。泣けてしまった。

  • バラエティに富んだ短編集。読んでいてまったく飽きがこなかった。テーマは重たいものが多いので、心が元気なときに読むのをおすすめしたい。資本主義社会が生み出した社会の歪み、特許や著作権といった知的財産権が踏みにじるもの、遺伝子組み換え作物が破壊するもの、近代化のために犠牲になった大勢の命、支配する者と支配される者、腸内細菌やAIやロボット、そして台湾の歴史的事件...。中国系アメリカ人の天才ケン・リュウだからこそ書ける、唯一無二の作品を集めた短編集。

  • タイトルの小説とあと1つくらいしかピンと来なかったです。合わなかったのかなぁ…という感じでした。

  • どこか古い自分の頭に残っている『SF』というジャンルの堅苦しさ、難しさはそれほどない短編集でした。ファンタジーとも違う、近代の先にある技術や理論に裏打ちされた創造性のある設定がベースにあり、その世界線で交わされる、人々の情の交流と断絶が色濃く豊かに描かれた物語ばかりで、ひとつひとつ違う形で胸に響くものがありました。

    表題作がいちばん素直にだれしも切なさを受け取れる短編ではないかと思いました。親子の情が悲しくすれ違っていくさま、もう取り戻せないものへの遥かな思慕が、動く紙の動物たちというユニークでとっつきやすい設定も相まって、やわらかく心を打ちました。
    そして「愛のアルゴリズム」もまた同系統の、けれどぐっとベクトルはより取返しのつかない方向へ離れてしまった愛情を描いた物語で、そのきっぱりとした断絶の清々しさが、鮮烈に後に残りました。
    「文字占い師」は漢字という日本人にも馴染みやすいアイテムをベースに、少女と老人たちの暖かな交流と、残酷な物語を両面に描いています。文字へ託した想いと、そのものがあっけなく踏みにじられる非情。その酷さをさらりと描き、しっかりとアジアの歴史の一側面を思い知らせてきます。その重さは目を背けたくなるけれど、受け止めなくては、知らなくてはならない。

    架空や創造を多分に含みながらも、人々はリアルに細やかに情を交わし、世界は非情な側面をむき出しにしている。短い話のなかで、しっかりとした芯の通った密度の高い世界が構築されていて、凄いと思わされるものばかりでした。
    自分には初読みの作者さんでしたが、ほかの本もどんどん読んでみたいと思います。

  • 目下、売り出し中の中国系アメリカ人作家、ケン・リュウの短篇傑作集。
    蔦屋書店で平積みになっていて、又吉直樹が推薦していたので手に取りました。
    ケン・リュウの得意とするSF作品7篇が収められています。
    どの作品も、そこはかとなく切なさが漂っていて、胸にしみます。
    でも、やはり、表題作の「紙の動物園」が絶品。
    米国人の父と、中国人の母のもとに生まれた「ぼく」。
    成長するにしたがって母を疎ましく思うようになります。
    その母が紙で作った動物が、やがて動き始めて……。
    荒唐無稽な設定ですが、そう感じさせないのは、それが中国の古い風習と関係しているから。
    でも、それだけではありません。
    筆者の力量によるところが大きいと思います。
    「ああ、そんなことが実際にあるかもしれないな」
    と思いながら読みました。
    ネタばれになるので、これ以上は書きませんが、終盤の事実が明かされて以降は、胸を締め付けられるようでした。
    「太平洋横断海底トンネル小史」は、第二次世界大戦が起こらなかった世界を描いています。
    太平洋海底にアジアと北米をつなぐトンネルを掘るという、これまた壮大な作り話ですが、読ませます。
    長篇向きの題材を、この長さ(文庫本で28ページ!)で読ませる筆者の技量は相当なものだと感じました。
    「愛のアルゴリズム」も好き。
    人工知能を題材にした作品で、生まれたばかりの赤ん坊を亡くした玩具開発者の女性が主人公。
    となると、赤ん坊をAIでよみがえらせるという着想が浮かびますが、女性は「自分はもしかしたら玩具のように単なるアルゴリズムで考えるプログラムに過ぎないのではないか」と考えるようになります。
    極めてアクチュアルで哲学的な問題に踏み込んでいくのですね。
    あっぱれ。
    訳者あとがきによると、第1作品集となった本作は「ファンタジイ篇」とのこと。
    ただ、どの作品も決して軽くはありません。
    むしろ、作品によっては難解なものもあり、集中力を要しました。
    第2作品集も買いでしょう。

  • 「紙の動物園」

    ここまで極端でなかったとしても、米国に移り住んだアジア人家族において
    程度の差こそあれ実在する話。子供が成長するに従い、言語・文化・食生活等々、
    色々な違いが発生する。その違いをありのままに受け入れられればよいのだが、
    どうしても違いを受入れられなかったり、米国が優れていて、自国が劣っている
    という構造に陥り易くなってしまう。特に米国においては、どうしても英語優先に
    なってしまうし。実際、親にとっても、子供達の英語力が伸びる事が、
    米国に馴染んでいる証として感じる部分もある。著者自身もその様な葛藤の中で
    育ったんだろう。

    息子への愛情、特に、言葉の通じない国で子を育てる苦しみを紙に記す術しか
    なかったというのは残念だったろう。その悲しみを主人公はどの様に受け止めて
    自身の将来につなげてゆくのだろうか。

  • 「紙の動物園」、「月へ」、「結縄」、「太平洋横断海底トンネル小史」、「心智五行」、「愛のアルゴリズム」、「文字占い師」の7篇収録。

    伝統的知識の流出問題を扱った「結縄」、宇宙移民が編み出した腸内フローラの知恵「心智五行」の二作が面白かった。特に、結縄文字、そしてそれを「アミノ酸配列の自然な状態を予測し、折りたたむための正確で速いアルゴリズム」と結びつけるアイデアは秀逸。人工知能搭載のヒューマノイド・ロボットを扱った「愛のアルゴリズム」はまあまあだった。

    それ以外の作品には、その根底に、日本への歴史的なわだかまりと、米国ないし西洋への劣等感(そしてその裏返しとしての中国人・中華民族のプライドの高さや愛国心)の存在が感じられて、読んでいて心がチクチクした。まあ、自分が隣国を意識しすぎているのかもしれないが…。

    「文字占い師」の中の「古代の中国人は周辺諸国の人間から゛華人゛と呼ばれていた。彼らの着ている服が絹と細かなレースでできている華やかなものだったからだ。だが、わしはそれだけの理由じゃなかったと思う。中国人、野の花のようだ。いく先々で生き延び、人生を謳歌する。」という言葉が印象的。雑草的に逞しい中国人。岡本隆司「腐敗と格差の中国史」と合わせて中国人への理解が深まった気がする。

  • 短編集。
    表題作の紙の動物園、愛のアルゴリズム、文字占い師のみ読みました。
    紙の動物園は素晴らしいです。目頭が熱くなりました。その次の、月へ が私には難しくてとても読めませんでした。
    集中力がなく、難しそうな話を飛ばして読んだ結果、上記のようになりました。
    SFはあまり得意じゃないかも。
    映像ならいけるかな…

  • 味わったことのないストーリー展開と読み心地。
     
    SF&ファンタジーという輪郭がうっすら見えてきて、ようやくうまく入っていけるようになった。

    そうであったかもしれない歴史、事実起こってしまった歴史、これからそうなるかもしれない未来を上手に形にしている。短編いちいちに、さぁこれはどんな話と期待を持って読ませる魅力があった。

    一筋縄では行かないストーリーを追うのに全力を使うから続けては読めないけれど、毎日が楽しかった。

    最後のストーリーがああいう形で終わるとはまさか思っていなくて。

    読了後、サン・サーンスの『白鳥』が頭の中に流れていた。
    ヨーロッパでは白鳥は死ぬ前の声が一番美しいと言われているという話を思い出した。

全225件中 1 - 20件を表示

ケン・リュウの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×