もののあはれ (ケン・リュウ短篇傑作集2)

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制作 : 伊藤 彰剛  古沢 嘉通 
  • 早川書房 (2017年5月9日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (265ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150121266

もののあはれ (ケン・リュウ短篇傑作集2)の感想・レビュー・書評

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  • ケン・リュウの短篇傑作集は「紙の動物園」と「もののあはれ」の全2巻計15篇を収録。どちらかというとファンタジー寄りな第1巻「紙の動物園」では、ヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞の3冠(史上初!)に輝く表題作を収録。感傷的過ぎると思われる方もいるかもしれませんが、息子に対する母の愛はどうしても心を強く動かされるもので、何度読んでも泣いてしまう自信があります。
    さて、「紙の動物園」を読んでいて強く感じたのは、作者がアジア人であるということ。つまり、欧米中心の世界におけるアジアの立ち位置や東洋文化といった「アジアらしさ」をうまく物語の中に取り込んだ作品が目立ちます。表題作もそういった作品のひとつですが、個人的に傑作のひとつだと思う「結縄」は、アジアの立ち位置と東洋文化の両面を題材に、欧米人にうまい具合に利用されるアジア人を皮肉に描ききった作品で、「文字占い師」もそういった虐げられるアジア人を強く感じる作品でした。だからでしょうか、「紙の動物園」を読み終えて感じたのは、「おもしろいのだけど、なんだか後ろ向きの作風だなぁ」というもの。しかし、そんな思いも、第2巻「もののあはれ」を読んで考え直すことに。

    「もののあはれ」は、「紙の動物園」とは異なり、SF作品で構成されます。ヒューゴー賞受賞の表題作は、東洋版「たったひとつの冴えたやりかた」といってもいいかと。しかし、そこで描かれるヒーロー像は西洋のそれとは少し異なるもの。西洋と東洋をしっかり対比させて描かれるのです。「たったひとつの冴えたやりかた」の主人公コーティーは、まさに彼女個人がヒーローであるといっても過言ではないでしょう。しかし、本作の主人公である大翔は(作品中でもはっきりと明言されるとおり)ヒーローではありません。西洋と東洋のヒーロー像の違いを作品中ではチェスと碁を用いて表現していますが、「個々の石はヒーローではないけれど、ひとつにつどった石はヒーローにふさわしい」、これが本作で描かれるヒーロー像です。「紙の動物園」では自虐的ですらあったアジアらしさがここにきて素晴らしい魅力として表現されているのでした。
    本書では表題作に加え、不老不死を題材にした姉妹作「円弧」と「波」やテッド・チャンの「地獄とは神の不在なり」から着想を得た「1ビットのエラー」など、SF作品としても読み応えのある作品が続きます。そして、2巻通じて最も好きな作品となった「良い狩りを」をラストに迎える構成で、とにかくこの短篇集「もののあはれ」はとても満足できた1冊でした。
    1冊にまとめた方が良かったのでは…?という愚問はさて置き、ケン・リュウの今後の作品にも期待がもてる全2巻でした。

  • ケンリュウの短編集もう一冊。

    表題作の“もののあわれ”、
    生と死を超越していく“円弧”、“波”
    がツボすぎる。

    SFとしながらも、そこには人の普遍的な哀しさがある。

  • 中国系作家のSFが、最近「来てる」感じになりつつあります。本作のケン・リュウも、中国出身米国暮らしのSF作家。日本で紹介されて以来、各所で絶賛され、今や芥川賞作家の又吉直樹氏が帯の推薦文を書くといった話題性もあって、SF者の間では結構なブームになっています。
    鴨もSFマガジンで「良い狩りを」を読んで(「もののあはれ」収録)、面白い作風の作家だなぁと思っておりました。遅ればせながらこうして短編集としてまとめて読んで、なるほどこれは日本人受けするだろうなぁと感じました。端正で抑制が利いた筆致で描き出される、切なくて心に沁み入る人々の心の交流。一応SFとして紹介されてはいますが、ジャンル分けに縛られること無くもっと幅広い意味で「物語」として捉えていい作風だと鴨は思っています。SF摺れしていないフツーの人が軽い気持ちで読んでも、十分読み応えがあります。

    ・・・が、SF摺れしてしまった鴨にとっては、正直なところちょっとした「あざとさ」を感じてしまうところもないわけではなく・・・。
    語弊を恐れずに言わせていただけるなら、「あぁ、ここで感動させようとしているなぁ」とわかってしまう押し出しの強いセンチメンタリズムとでも言いましょうか。好きな人はそこがたまらないんでしょうけれど、鴨には残念ながら鼻に付いてしまって、ちょっと引きながら読了いたしました。
    良くも悪くも、アジア的な作風なのだと思います(個人的な見解ですので、もちろん反論があることは承知しております)。アジア的な作風、嫌いではないんですけど、作者に寄ってイメージが全く異なるのが興味深い。ケン・リュウの作品は、今後どう展開するのか追い続けて行きたいと思います。

  • SF短編集…といえばそうなのだが、どれも奥深い。
    著者自身の「中国人」なのか「アメリカ人」なのか「日本人」なのか、自分のルーツへの根本的な問いかけが、どのストーリーにもあふれている。
    「地球人」なのか「宇宙人」なのか、「肉体のある人間」なのか「肉体のない機械」なのか、そして「寿命のある生き物」なのか「寿命のない存在」なのか。
    カズオ・イシグロ的な感じもするし、手塚治虫の「火の鳥」的な感じもする。

    いや、この感じは、これから先ずっと「ケン・リュウ的な感じ」と言われ続ける世界なんだろうな。

    どれが好きか…と言われると難しいけど、私は「波」かな。

  • オンライン参加:山内さん。

  • もともと単行本版「紙の動物園」と合わせて一冊だったものを2冊に分割した文庫版のうちの「SF編」だが,文庫版「紙の動物園」(ファンタジィ編)の方が自分には合ってたかな.作者が元プログラマーのためか,人間が進化して肉体を捨てた話が多いのだが,それが性に合わなかったのかも.

  • ケン・リュウ短編集の下巻。ファンタジーを織り込んだ抒情的な作品が多かった上巻に対し、こちらはくっきりとしたSF作品が並ぶ。雰囲気も各作品でだいぶ異なる。とは言え、そのトーンの抒情性は変わらない。特に表題作の「もののあはれ」には、同じアジア人としての目線で描かれる日本人の人生哲学があまりに美しく描かれていて、日本人読者としては何とも言えない気持ちになる。
    スタイル的にはどれもかっちりSFだが、道具立てが硬派なだけで、テーマとなっているのは愛。そこに物質、時とその経過による変化、といったものが絡む。移り行く物質の世界、時が刻む変化に抗う試みを支えるのは、科学と愛だ。その中で、科学と愛は一つに溶け合っていく。自由に生きたい、自分が価値を見出した人生の意味のために生きたい。そんな願いを科学が支え、愛が後押しし、そしてやがて、命はそれぞれの結論に向かって別々の道を歩みだす。ゴールが違っても、途上で交わり、重なり、離れて行ったそれぞれの命は等しく尊く、愛おしい。永遠の生がある世界にも、死は選びうる。機械と電気の世界にも、魔法は生き続ける。感情のすべてがアルゴリズムだったとしても、あるいはバクテリアが生み出す反応だったとしても、そして確信に満ちた一つの思いの正体が弾き出された陽子によってつなぎ目を破壊されたプログラムのエラーだったとしても、そこには愛が宿りうる。機械にも魔法は宿り、機構にも愛は宿るのだ。
    上巻下巻通して、命への愛、生きることへの愛を強く感じる独特なSF作品たちを堪能できた。他の作品も読んでみたい。

  • 元々の単行本『紙の動物園』では、同名の文庫版に収録された7編と本作『もののあはれ』に収録された8編の計15編で構成されていました。訳者あとがきによると文庫版『紙の動物園』はファンタジー編で、本作はSF編として分冊したそうです。
    文庫版『紙の動物園』収録作は読みやすく、また分かりやすい話が多かったのですが、本書収録作はそれと比較すると観念的な装いのものが多く、読解のための難易度がやや上がっているように感じました。
    「もののあはれ」
    SF的にはベタな展開かもしれないけど結末はやはり感動的だ。外国人作家が描いた日本人像に違和感を覚えることはよくあるが、本作はそんなことがなかった。
    「潮汐」
    ショート・ショート。「バカSF」って初めて聞いたけどこういう作品のことなのだろうか。
    「選抜宇宙種族の本づくり習性」
    すんません、これはさっぱり分からなかった・・・。
    「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」
    思考も感情もデータ化された人間?の話。ここから「生と死」について描かれた作品が続く。
    「円弧」「波」
    姉妹編のような2編で、いずれも不老不死について描かれている。死があるからこそ生は輝く、という考えは全くその通りだと思う。
    「1ビットのエラー」
    プログラマーでもある作者ならではの作品。自分は楽しく読めたが、プログラムの基礎を知らない人にはちんぷんかんぷんなんじゃないかとも思う。
    「良い狩りを」
    妖怪退治の話かと思ったら、最後はすごいことに。展開の面白さという点ではこれが一番だろう。

  • 『紙の動物園』よりもSF感の強い短編集。表題作はずるい。あれをうつくしいと言ってはいけない気がするけれど、ずるい。
    最後の作品「良い狩りを」が、現代社会でこうした作品が生き延びていく術をあらわしているようで好き。全体通して、ゴリッゴリのSF読んだ気になった。

  • 単行本「紙の動物園」の文庫化第二分冊。
    第一分冊に引き続き、多くの短編はケン・リュウらしくSFの世界ではありながら、より東洋的な心の内面に踏み込んでくる。そして、人間の生死、命のあり方について考えることを突きつけてくる。
    表題作をはじめ「円弧」など、非常に気に入った作品が多かった。
    ケン・リュウ 他の作品も読むのが楽しみな作家の一人となった。

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もののあはれ (ケン・リュウ短篇傑作集2)の作品紹介

第一短篇集『紙の動物園』を二分冊した2冊目。ヒューゴー賞受賞作の表題作など、心揺さぶる全8篇を収録した短篇傑作集第二弾。

もののあはれ (ケン・リュウ短篇傑作集2)はこんな本です

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