スペシャリストの帽子 (ハヤカワ文庫 FT リ 3-1)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (457ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150203580

作品紹介・あらすじ

十歳の双子の姉妹が、母親を亡くして初めて迎える夏のこと。屋根裏部屋で、二人は帽子でない帽子"スペシャリストの帽子"を手に入れた…世界幻想文学大賞受賞の表題作ほか、既婚者としか関係を持たないルイーズと、チェリストとしか関係を持たないルイーズ-二人のルイーズを描くネビュラ賞受賞の「ルイーズのゴースト」など、米ファンタジイ界最注目作家が軽妙なユーモアにのせて贈る第一短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • 目次
    ・カーネーション、リリー、リリー、ローズ
    ・黒犬の背に水
    ・スペシャリストの帽子
    ・飛行訓練
    ・雪の女王と旅して
    ・人間消滅
    ・生存者の舞踏会、あるいはドナー・パーティー
    ・靴と結婚
    ・私の友人はたいてい三分の二が水でできている
    ・ルイーズのゴースト
    ・少女探偵

    これは!
    読者を選ぶ本だと思う。
    ファンタジーにもほどがあるというか、ストーリーと言えるストーリーはほぼない。
    つまり、起承転結が。
    読後感は、ほぼ悪い。または、置いてきぼり。
    何をどう解釈しようと思っても私の力量では無理なので、ただそのまま受け入れることにした。

    ただ、いくつかの作品は通奏低音として童話や児童文学が使われていて、それが面白かったな。
    少女が魔法にかけられた王子を助けるため、艱難辛苦を乗り越えるような童話が多いけど、王子はそれほどの苦労をしてまで助けるほどの人間?という雪の女王の問いには、改めて目から鱗が落ちる気がした。
    たしかにディズニーに出てくる王子はあからさまに馬鹿っぽいよね。

    最初はホラー系ファンタジーなのかなと思って読んでいたのだけれど、怖かったのはいろいろと正体不明のせいだと思った。
    わけがわからないものは恐ろしい。
    わからないなりに受け入れると、それほど怖くはなくなった。
    つまり、拒絶すればするほど怖いのかもしれない。
    初めてのタイプの作家でした。

  • 裏表紙の解説から引用すると、「米ファンタジイ界最注目作家が軽妙なユーモアにのせて贈る第一短編集」とのことなのだが、ここまで意味の分からない、それなりに理解できるオチが待っているわけでもない小説を読んだのは、過去30年の読書歴を振り返ってみても記憶になく、かなり戸惑った読書体験となった。というか、もう中盤以降は1ページ30秒ぐらいで読み飛ばしていった。読み飛ばしてもじっくり読んでも、結局、読後感は変わらないということに途中で気づいたので。

    いみじくも巻末の解説で、この「奇妙な読書体験、読後感」の原因が、こちらは解説らしくしっかりと明瞭な言葉で分析されている。
    解説しているアメリカ文学者の柴田元幸氏によると、「言ってみれば、どこかで聞いたり見たり読んだりした、おとぎばなし、恐怖映画、少年少女小説等々の断片を頭のなかで混ぜあわせて、そこからどんどん妄想を膨らませていった結果が作品になっているような感じ」(P.453)で、そのため「ケリー・リンクを一読して「何だかよくわからないなあ」と思っても落胆することはありません。この訳のわからなさは、夢のわからなさです」(P.454)と続けてくれることで、ようやく救われた気持ちになる。そうか、自分はこの著者の空想、妄想、夢物語に付き合わされただけなんだな、ということで納得できる。

    とはいえ、そういった読書体験をしたいと思うか、そういった読書に時間を費やしたいと思うかというと、これは個人により考え方に差があるわけで。
    自分は、最後に向けて伏線が回収されていったり、何気ないところにオチに向けた大きなヒントが隠されていたりするミステリーや推理小説が好きなので、この手の小説は全く趣味に合わず、評価は星2にした。曖昧模糊とした五里霧中の世界に没入して、現世から隔離されるような読書体験をしたい人なら、きっと楽しめるジャンルなのだろう。

  • 毎夜図書館の閉架書庫に忍びこむ女の子。レンタカーで旅行中に出会った女の子。おとぎ話のなかの、ティーンズノベルのなかの女の子。地球の真裏からやってきた、不思議な力をもつ女の子。同じ名前のふたりの女の子。現実逃避のための会話を続けていたら本当に現実から遠ざかってしまったような、〈アンダーワールド〉への入り口を通り越した女の子たちの物語が十一篇収録された短篇集。


    ケリー・リンクははじめて読んだけど、ずっとティーネイジャー向けの作家だという偏見を持っていた。主要なテーマに十代のセックスと望まぬ妊娠があるようなので、その見方も半分は当たっていたのだろう。けれどもう半分は違った。この人は世の男性作家がもてあそぶのとは全く異なる意味での〈永遠の少女性〉を追い求めているという気がする。
    自分の大学の同級生と浮気して、実家で飼っていた愛猫を轢き殺した夫を、猫の毛を思わせる海に囲まれた〈天国〉に閉じ込めたり(「カーネーション、リリー、リリー、ローズ」)、素性の知れないベビーシッターと上手に死人のふりをするゲームをしたり(「スペシャリストの帽子」)、予約でいっぱいのはずのホテルで強引に部屋を取り、あっという間に支配人と親しくなったり(「生存者の舞踏会〜」)。ここに出てくる〈女の子〉たちの年齢はさまざまだが、みんながみんな怪物のような〈少女性〉を抱えている。
    特に「人間消滅」と「ルイーズのゴースト」における同性間の執着の描き方は素晴らしい。「人間消滅」のヒルディーが自分の家族の問題から逃避し、ジェニー・ローズの超能力をひたむきに信じる様は、ジーン・ウルフの「デス博士の島その他の物語」にも近く感じた。「ルイーズのゴースト」は友情と性愛の分かち難さ、あるいは、親友として唯一無二だった関係に〈娘〉という存在が入りこんでしまった、女性だけの奇妙な三角関係と言うべきか。語り手のルイーズはアンナの母であるルイーズの恋人を寝取ったことに負い目を感じるが、そもそも正しい相手もかつて彼女の恋人だったわけで、その裏切りに重大な意味はない。アンナに嫉妬するルイーズに、自分と同じく子どもをもうけてほしいと願う、女性同士ならではの呪縛のかけ方が重要なのだ。葬儀の場面から出会いの場面に移って終わるこの幕切れは、同性間の執着を描いた小説として完璧だと思う。
    また、特有のユーモアも面白い。「靴と結婚」に出てくる、宇宙人だらけのミス・アメリカ・コンテストや、「私の友人は〜」のブロンド美女描写には笑った。アンデルセンの「雪の女王」をフェミニズム的に解釈し直し、VRゲームのチュートリアル解説風に書いた「雪の女王と旅して」は、アナ雪後の今だからこそ余計に面白く読める。
    女の子たちが中心ではあるが、ちょっとナイーヴな男の子たちも魅力的だ。「飛行訓練」のハンフリーは鳥恐怖症で女系家族に支配されているが、夢想家で優しく少し引っ込み思案なのがかわいい。「私の友人は〜」のジャックも、ブロンド美女にしか興味がないどうしようもないやつだけど憎みきれない。〈女が強くて男が弱い〉〈女が正しくて男が悪い〉というような単純な構図には決して収まらない、それぞれの孤独を抱えた人びとがいる。ゼリーのように鮮やかなのと同時に窒息しそうな幻想と、そのあとに残る確かな寂寥感。本当の〈少女小説〉ってこういう本を言うんじゃないかと思った。

  • スペシャリストの帽子 (ハヤカワ文庫FT)

  • アメリカの女性作家が書く奇談珍談な短編小説。ファンタジーのような恐怖小説のような不思議な妄想の世界。夢の中へ。こういうのを幻想文学というのか。

  • 不思議でかわいい幻想
    かなり好き

    「スペシャリスト」ってなんのことだろ?

  • 『人間消滅』『飛行訓練』『スペシャリストの帽子』が良かった。現実の中にファンタジーが入ってきても登場人物達が揺るがないところがクールでシビれる。

  • 「カーネーション、リリー、リリー、ローズ」★★

  • 『彼女はふり返りもせず、既知の世界の端から足を踏み出した』

    不気味、珍奇、ただよう寂寥感。
    正直に言うと、訳わかんないので読むのに時間がかかる。
    でもやめられない。

    『既知の世界の端から』一歩踏み出したその先は「未知の世界」より余程得体が知れない。
    そこかしこにぼっかり口を空けて待っているような気がする。

  • ネビュラ賞受賞作「ルイーズのゴースト」に出てくる、チェロで幽霊を捕まえる(そして中で飼う)という不思議でどこかとぼけた話から、テリー・ビッスンの短編「熊が火を発見する」(こちらもネビュラ賞受賞。文字通り熊が火を発見する話。かわいい!)を思い出しました。
    ジャンル分けに拘るのは無粋と思いつつ、そう考えるとケリー・リンクは河出の奇想コレクション向きの作家かもしれません。以下いくつか感想。

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    「カーネーション、リリー、リリー、ローズ」…名前が思い出せない妻へ宛てて、繰り返し手紙を出す死んだ男。彼が手紙を書いている砂浜のテラスは、どこかへ向かうための一時休憩場所のような、永遠に足止めされた終着地のような。

    「雪の女王と旅して」…雪の女王にとられた恋人を取り返すため、足の裏にささった鏡の地図を引き抜きながら旅をする女性。途中出会う山賊の娘が彼女に向かって言う、はっきりしたセリフがいい。“そんなばかみたいな旅の仕方は聞いたことがないよ!” 小気味のいい展開にティプトリー記念賞というのもなるほど。

    「人間消滅」…いとこの孤独にひっそりとした共感を抱く主人公。いとこの少女の孤独はおそらく癒されただろう。でも、残された少女は? 年齢にそぐわない、悟りのような独白が切ない。

    「ルイーズのゴースト」…ルイーズの家には幽霊がいる。ルイーズはチェリストと寝る。ルイーズは褐色の肌をしている。ルイーズは有能だ。ルイーズは音楽が分からない。チェリストたちはルイーズを愛する。ルイーズはルイーズを理解しようとする。“ルイーズが訊く。「怖い?」”“ルイーズが答える。「あなたがいれば怖くないわ」”

    「少女探偵」…さまざな角度から考察され、思考され、観察され、“少女探偵”という語句をこねくり回しているうちに、そもそも本当に「人間の少女の探偵の」話なのかという疑問がむくむくと。非実在少女探偵。

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