完壁な涙 (ハヤカワ文庫 JA カ 3-10)

著者 :
  • 早川書房
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本棚登録 : 409
感想 : 28
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  • Amazon.co.jp ・本 (305ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150303228

作品紹介・あらすじ

生まれてから一度も、怒ったり喜んだり悲しんだりしたことのない少年、本海宥現。家族との感情の絆を持たない宥現は発砲事件にをきっかけとして、砂漠の旅に出た。砂漠には、街に住むことを拒絶する人々、旅賊がいる。夜の砂漠で、火を囲み、ギターをかき鳴らし、踊る旅賊の中に、運命の女・魔姫がいた。だが、突如、砂の中から現われた、戦車のような巨大なマシーンが、宥現と魔姫の間を非情にも切り裂く。それは、すべてのものを破壊しつくす過去からの殺戮者だった…。未来と過去の争闘に巻き込まれていった少年・宥現を描く本格SF。

感想・レビュー・書評

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  •  感情が生じさせた涙は
     時間を封じ込んだ水球

    個人的には表題作「完璧な涙」で完結している

  • 巽孝之が解説で絶賛している。実際、おもしろかった。生まれてから一度も怒ったり喜んだり悲しんだりしたことがない人間が主人公なので、そういう「精神異常児」を主人公にした神林作品でしばしば経験したように、なんとも言えないもどかしい思いをすることになるのではないかと心配したが、全然そんなことはなかった。
    収録作品:「完璧な涙」、「墓から墓へ」、「奇眼」、「感情軸線」

  • 時間の軸が感情で空間の軸が五感。この方の想像力は本当に途方も無いな。おもしろかった。多分理解してはいないけど、気分としてはわかるような気がするしやっぱりおもしろかった。で、感情のない主人公とそれを殺すために追い続ける戦車の姿はやはり命懸けの恋に見えるところが神林作品の素晴らしさですなぁ…などと。(戦闘妖精・雪風の零と雪風の関係に近いソレ。<完璧な涙>は戦闘機械側どころか人間側にも感情がないにも関わらず!)

  • ~た。~た。~た。で終わる文面は
    この物語が純然たる事実であるような
    厳然たるリアリティを抱かせる。

    感情を持たない男と
    無自覚に死を超越した女、
    殺戮を徹底的に追求した戦車。

    砂上の楼閣のような世界で
    男は生を求め、
    魔姫を求め、
    感情を求め、
    時間軸と感情軸を絡め込んだ
    スケールの大きな追いかけっこ。

  • 思考機械を書かせたらこの人の右に出る人はいないだろう。その描写の中でも、この作品の”それ”は飛びぬけている。
    その他の部分は、はっきりいって自分には理解不能である。作品世界の構造をつかむことができなかった。そういうところが、この人の作品の難しいところだと思う。

  • 久々に神林長平を読んだ。
    『墓から墓へ』が非常に印象的だった。

  • 人工知能を持った兵器と人間を軸にしたSF。これは面白い。量子的展開。

  • 戦車が思考するとこの描写はよかった

  • 主人公には生まれつき感情がない。怒る、悲しむ、喜ぶ、といったことを、生まれてから一度も経験したことがない。
    彼は毎日部屋のガラスを割る。
    激情に駆られてではなく、淡々と。まるで、何かの作業のように。
    そのせいで母親に気味悪がられ、家から出た彼は、砂漠で暮らすようになる。
    そして、街に適応できない旅賊と呼ばれる集団の中で、彼は魔姫という女と出会う。
    無感動症で、それゆえに家を出たと告白した彼に、老いぬまま100を越える年を生きてきた彼女は、「きっと治る」と笑う。

    彼女をきれいだと思い、家族の誰より必要な人間だと感じても、彼は喜びを感じない。喜びという感情がわからないから。それと同時に、愛というものもわからないから。
    それでもそこから、何かが始まりかけたとき、砂の中から「それ」が姿を現した。

    戦車に似た形の「それ」は二人を敵と認識し、どこまでも追いかけてくる。たとえ姿を見失っても、追跡をやめてはならないという命令が刻み込まれているから。
    「それ」から逃げる過程で、二人はさまざまな世界に紛れ込むが、人間はそれらの中で「生きて」いなかった。
    同じように、彼は自分も「生きて」いないのだと感じていた。ただ「それ」と対峙する時だけ生きているのだと感じた。
    そうした逃走の中で、彼は世界のあり方、というものに疑問を持ち始める。
    世界と自分との関わり、特に個人の持つ時間について、そして自分の感情はないのではなく誰かに取り上げられたのだという結論に達する。

    彼にとって、「それ」から逃げることは、イコール「無感動症を治すための旅」でもあった。とりわけ、魔姫が強くそれを望んでいた。

    そして彼は、あらゆる意味で「完璧な涙」を流す。

    旅の始まりと終わりの対比。
    始まりで目薬の力を借りた彼は、終わりではそれを必要としなかった。

    ただ魔姫のために、泣いた。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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