ダック・コール (ハヤカワ文庫 JA イ 4-1)

著者 :
  • 早川書房
3.76
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本棚登録 : 691
感想 : 88
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  • Amazon.co.jp ・本 (374ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150304027

作品紹介・あらすじ

石に鳥の絵を描く不思議な男に河原で出会った青年は、微睡むうち鳥と男たちについての六つの夢を見る-。絶滅する鳥たち、少年のパチンコ名人と中年男の密猟の冒険、脱獄囚を追っての山中のマンハント、人と鳥と亀との漂流譚、デコイと少年の友情などを。ブラッドベリの『刺青の男』にヒントをえた、ハードボイルドと幻想が交差する異色作品集。"まれに見る美しさを持った小説"と絶賛された第四回山本周五郎賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 著者は草木にも野鳥にも詳しくないらしい。それでも本著に登場する野鳥は珍しいものもあり、物語に効果を与える重要な役割を担う。短編集である。キャンピングカーをベースに、子供と猟をする話が非常に良かった。キャンピングカーというだけで胸踊るが、そこで仕留めた鴨を料理する。非日常のワイルドさを疑似体験した。

    何かに詳しくない、というのは、その分野や世界が自分自身から抜け落ちているような感覚だ。鳥の名前を知らないと正確で色彩豊かな文章は書けないし、読み手ならば、名前が知らないと脳内イメージが名もなき野鳥一匹になる。小説で想起するイメージは、自らが体験した過去のデータベースとその組み合わせに限られる。それも悔しいので、最近、分からない単語はネットで検索しながら読んでいる。

    キャンピングカーと雨。ウィスキーが合いそうな小説だった。もしかしたら、このイメージも結局は登場する固有名詞から連想し、自らの過去の体験を照らし合わせた、オリジナルなものかも知れないが。小説はそういう楽しみ方で良いかな、と。

  • 全てに鳥が絡む短編集で面白かったが、これが歴代のミステリランキングの上位に入る作品として評価されている点については、それほどかなぁという気がする。

  • 男のお伽話という趣きの短編集です。一人の男が夢を見ているような設定ですが、短編自体に鳥以外の接点はありません。どれもこれも雰囲気の違う話で全く飽きません。
    ハードボイルドな雰囲気のものもあれば、ジュブナイルっぽいものもあります。
    途中何故か僕の敬愛する野田知佑さんの本の引用も有ったりして、とてもとてもわくわくしました。
    そういう副産物を省いたとしても、皆味わい深い短編となっているので、是非皆様に手に取って頂きたい佳作となっています。
    狩猟というものが持つ残酷な部分というのは、必ず誰かが処理してくれている血なまぐささを無視する傲慢さとつながっていると思います。自然を破壊するのは自然から命を間引いて食す人ではなく、自然から遠く離れた人々の手で行われます。
    狩猟や釣りを残酷だという気持ちも分かるのですが、そこに関わっている人は自然を愛している人たちなので、自然に関心が無い人たちは情け容赦なく、死刑宣告の書類にサインをするのです。

    閑話休題
    とにかく、自然に包まれたくなる本です。今すぐ釣りに行きたくなります(僕は狩猟は無理)

  • ハードボイルドであり冒険小説であり奇妙な小説でもある本書。ただ統一されているのは「鳥」にまつわる話で固められた物語であるということだ。著者の稲見一良さんがそうだったためか狩猟や自然にまつわる描写が丁寧で丹念。ある青年が出会った不思議な石を書く男性。彼の描いた石(鳥の絵)から物語が飛ばされていく。鳥という生態を通して生と死をまざまざと見せつけてくる。良かったのは「ホイッパーウィル」脱獄囚の狩りを頼まれた主人公をハードタッチで描く。これがたっぷりと読ませられた。

  • 日本のハードボイルドの中では
    伝説的な作品と言われているこの小説。
    実はハードボイルドというよりも大人のメルヘンという感じの
    優しくてhappyな気分にさせてくれる短編集です。この小説は文体的にはハードボイルドだし
    狩猟とかマンハントなんかがモチーフになってるんですが
    実は思い切りメロウな大人のメルヘンなんですね。
    そしてファンタジー。
    魔法使いとかが出て来るわけではないんですが、
    苦境に立たされる主人公を救うことになるアイデア
    つまり筆者である、稲見一良さんの描く奇跡がなんとも良いんですよ。
    暖かくて優しい奇跡を物語の中で描いてくれるんですね。

    どんな奇跡なのか?という事を書いてしまうと
    もしもこれから読む方がいらっしゃるとしたら
    マズイのでもちろん書きませんが(笑)
    ネタバラシしたいなぁと思わずにはいられないので
    奇跡を必要とする登場人物たちの苦境だけ少し書きましょうか(笑)

    6篇の短編が収録されていますが、ラストの2篇は最高ですね。
    【波の枕】では東南アジア沖で乗船が火事になり
    ただ一人で海に漂うという男の話。
    この男いかつい顔の無愛想な朴念仁ではあるんですが、
    陸に帰れば怪我をした鳥や小動物なんかを元気になるまで
    介抱してやるような優しい男でもあるんですね。
    で、だだっ広い海で一人ぷらぷらもうどうなってもいいか、
    なんて諦めはじめているところでちょっとした奇跡が起きるんですね。
    その奇跡というのが良いんだな、まさかそんな展開とは!!
    と私は思いました。

    それから【デコイとブンタ】これは結構変わった設定で
    デコイつまり鴨狩りなんかで使う木製の囮の模型ですね、
    これが語り手の話なんですよ。
    そのデコイがブンタという少年に拾われて大事に扱ってもらう。
    その少年は一人で遊園地へ行くのですが観覧車のてっぺんで
    置き去りになってしまうんですね、もちろんデコイも一緒に。
    そして間の悪いことにその日からしばらく遊園地は休園の予定で
    このままではずっと観覧車に閉じ込められたままになる。
    もちろん、食料もないし、昔の話ですから携帯もあるわけなく
    助けを呼ぶことも出来ない。
    だけど、この少年あきらめないんですね、そこで奇跡が起きる、
    そして少年に奇跡が起きるように、デコイにも何かが起きるんですね。
    はい、どんなことが起きるのでしょうか??

    どちらも見事なメルヘンですし、happyな気分にさせてくれます。
    この本、久々に読んでおセンチになっていた私も元気になりました(笑)
    ということでオススメですよ。
    2017/08/20 21:12

  • 鳥達に導かれるように不思議な物語の世界に惹きこまれて行きました。

  • 自分とはまったく接点のない世界を
    体験できるのが読書の楽しみだとすると
    この作品は、まさにそれをもつものだった。
    正直、最初はなんじゃこりゃ、な感じだったし
    しばらくは全く興味もない鳥の世界の話かと
    つまんなくもおもったが、
    読み進めるうちに・・・はまった。
    それぞれの短編が実に愛おしい。
    ハードボイルドな雰囲気もいいねえ。

    この作者はもう亡くなっているとか。
    藤原伊織も、亡くなってあとに作品を読んだ。
    同じパターン。
    残念です。

  • ハードボイルドというほどハードでもなく、幻想的というほど幻想的でもなかった。

  • 人からオススメされて読みました。
    鳥をテーマにした連作短編集。

    透明な文体というのか、読んでいてスッと入ってくる。
    美しい文章でした。
    天才的な狩りのセンスを持つ子供と一緒に狩りをする話がお気に入り。

  • もしもあなたが稲見さんのことを知らなかったら、それほど勿体ないことはない、そしてこれからその作品を読める幸せをぜひ味わってほしい。鳥を介した6編の物語。時にハードボイルドで、時にジュブナイルな作品集。作者の生き様が感じられる、稀有で美しい作品。

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