星界の紋章 3 (ハヤカワ文庫 JA モ 1-3)

著者 :
  • 早川書房
3.68
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150305550

作品紹介・あらすじ

「人類統合体」の攻撃をようやく逃れたラフィールとジントだったが、不時着した惑星クラスビュールは、すでに敵艦隊に占領されていた。帝国に戻る手段を失った二人は、味方の艦隊が戻るまで、この地に潜伏しなければならなくなった。だが、宇宙空間では無敵だったアーヴの王女も、地上では、世間知らずの少女にすぎない。立場が逆転したジントは、王女を守って行動を開始した。-新時代のスペースオペラ、堂々の完結篇。

感想・レビュー・書評

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  • この本は、スペースオペラの名作「星界の紋章」シリーズの第三巻です。この巻では、人類統合体の追撃から逃れるために、惑星クラスビュールに不時着したジントとラフィールの冒険が描かれます。クラスビュールは、敵の支配下にあり、地上ではアーヴの王女であるラフィールは無防備です。ジントは、彼女を守るために、危険な環境や敵の追跡に立ち向かいます。一方、宇宙空間では、ジントとラフィールの救出を目指すアーヴの艦隊と、人類統合体の艦隊との壮絶な戦闘が展開されます。果たして、ジントとラフィールは、無事に帝国に帰還できるのでしょうか・・・。

    この本のテーマは、私にとっては「成長」と「愛」でした。ジントとラフィールは、互いに惹かれ合いながらも、自分の立場や責任、信念に悩みます。しかし、困難な状況の中で、二人は一回りも二回りも人として成長していきます。特にジントは、自分の運命を受け入れ、自分の意志で行動するようになり、ラフィールも、自分の感情を素直に表現することをためらわなくなるのです。二人の関係に私は、単なる恋愛ではなく、深い愛と尊敬に満ちあふれたものを感じました。

    この本のおすすめポイントは、二人の成長と愛の物語を、スペクタクルな宇宙戦争のドラマとともに楽しめるところです。作者の森岡浩之さんは、宇宙空間や地上の描写、アーヴの文化や言語、戦闘シーンなど、細部にわたって丁寧に描き込んでいます。また、登場人物たちの感情や思考も、細やかに表現されており、登場人物たちの喜びや悲しみ、怒りや恐れ、希望や絶望など、様々な感情に共感することがきっとできることでしょう。

    総評として、この本は、宇宙の壮大なスケールと、人間の小さな感情とが、見事に調和したスペースオペラの傑作と言えると思います。登場人物たちの魅力や成長、戦闘や謀略の展開、文化や言語の設定など、どれも素晴らしかったです。

  • 銀英伝と並び、10回以上読んでいるもの。ボーイミーツガール系のジュブナイルでとても面白い。独自の言語であるアーブ語のルビも、むしろルビなしでも理解できるくらいにはまっている作品で、またしばらくしたら読みたくなる気がする。

  • ★ぼくはかならずきみの傍らにいてみせる。(p.244)
    5つのポイント
    /宇宙での艦隊戦「スファグノーフ門会戦」はアーヴの勝利。
    /地上ではジントとラフィールが動物ロボットが楽しい「グゾーニュ幻想園」に逃げ込む。
    /ベネージュ准提督のキャラクタ。
    /エントリュア警部のぼやきと、アーヴに対する憎しみを暴走させるカイト。
    /反帝国クラスビュール戦線の愉快な面々。

    ■三巻通してのポイント
    /ボーイ・ミーツ・ガール。異なりすぎる背景を抱く二人の絆。
    /人類と宇宙(アーヴとは)。
    /宇宙戦記もの。
    /宇宙の論理対地上の論理。
    /自由を標榜しつつそれを強制する人類統合体と専制君主制だが鷹揚なアーヴ。

    ■アーヴについての簡単なメモ(申し訳ないとは思いますがアーヴ流の呼び方はめんどうなのでなるべく書かないようにします)

    【星界の紋章(Ⅰ)一行目】よく晴れた夜空。
    【星界の紋章(Ⅱ)一行目】この年はフェブダーシュ男爵領暦で一三六年にあたる。といっても、男爵館の公転周期が短いため、男爵領の一年は標準年の三分の一ほどしかない。
    【星界の紋章(Ⅲ)一行目】ルーヌ・ビーガ市警察犯罪捜査部警部エントリュア・レイの気分はあいかわらず最低だった。

    ...あ
    【アーヴ】元は宇宙を股にかける武装商人だったが都市船「アブリアル」内ですべて自給自足できていたので武家の商法のようだった。《アーヴ、その性、傲慢にして無謀》紋章Ⅰp.140と言われる。ある時期の研究により「門」を開くことができるようになり、無用の争いを避けるためにもその技術を独占することにし、「アーヴによる人類帝国(フリューバル・グレール・ゴル・バーリ)」略称「アーヴ帝国」を設立した。おそらく拠点となる決まった星を持たず宇宙船内で生きていると思われる。
    【アーヴ人】遺伝子操作により青い髪で若々しく美しい。はるか昔のルーツは地球人。どうやらおそらく日本人の一部と思われる連中が独自の文化を守るため地球を脱出し、今日中可能惑星を探すための道具として長期の宇宙旅行に耐える人工生命体として数十体作り上げ送り出されたのがアーヴだったようだ。青い髪は人間と区別し単なる道具であることがわかるように設定された。その後勝手に独立し宇宙とともに生きる民族となった。自分たちのことを「星たちの眷属(カルサール・グリューラク)」と呼ぶことを好む。《いまでは宇宙が故郷だ。》紋章Ⅰp.132。アーヴは「機械のパーツだ」と人類統合体は言い敵対している。アーヴ人は誇りを重視し気高くあろうとする。逃げることを考えないのでジントは困惑することがある。
    【アーヴ人の味覚】薄味を好むのでジントなんかにとってはちょっと物足りない。
    【アーヴによる支配】一五〇〇ほどの有人星系と二万以上の半有人星系を支配している。政治はおおむね被支配惑星の自治に任せるが「皇帝」を立てたとしても帝国の書類上は「領民代表」となる。帝国への反抗、離脱は許されない。制限は二点のみ。(1)恒星間飛行が可能な宇宙船の建造は認めない。代官である領主が認めれば保持はできるが武装は不可能。もともと「門」の無制限な利用により戦争が起こることを避けるのがアーヴ帝国設立の理由だったようなので当然と言える。(2)帝国星界軍の募集事務所を置く。星界軍に所属したり領主の配下になったとき被支配惑星の領民ではなく帝国の国民となる。応募者の妨害は許されない。
    【アブリアル】ラフィールの姓の元になった大昔の都市船。まあ、イメージ的にはマクロスかなと。当時の戦闘は戦闘機(高機動戦闘ユニット)によるもので、菱形の編隊、これもやはりマクロスのダイヤモンド・フォースな感じを組んでいた。指揮官が先頭の機体に乗り、それが前衛翔士、次席が後衛翔士、左右の機体の操縦士は列翼翔士。その編隊が二つ集まり、二部隊を指揮官機と同僚機が率い、計十機になるので指揮官は十翔長と呼ばれた。都市船アブリアルの時代、戦闘ユニットは全部合わせても一〇〇機から二〇〇機だった。その総指揮官が百翔長。それらの呼称が現在の軍の中にも残っている。大昔の「アマテラス」が変じた名称のようだ。
    【アブリアル一族】皇帝一族。ラフィールが属する。怒りの抑制が苦手。
    【アブリアル司令長官】ドゥサーニュと思われる。マーティンに最初に現れた侵略艦隊のトップ。友好条約には応じなかった。外交官でもあり、皇太子でもある。
    【アブリアルの耳】いわゆるエルフ耳。皇族にしか許されない。ラフィールの耳は少し小さいがそれには理由があった。
    【アルサ】フェグダクペ・アルサ。フェブダーシュ男爵の元で働いていたがラフィールに協力する。
    【遺伝子操作】アーヴでは遺伝子操作はアーヴという芸術作品を作るための技術のようなもの。美的見地からそれを行う。人類統合体では遺伝子調整を悪として憎んでいるが工学的な医療により同等のことは行っている。
    【イリューシュ王国】ハイド星系がある王国。八つの王国のうち唯一銀河外縁部にある。
    【ウニーシュ】鎮守府司令長官。
    【エルフ耳】『星界の紋章』第一巻の表紙カバー絵はラフィールを描いているが、エルフ耳をしている。これはアーヴ全般ではなく「アブリアルの耳」と呼ばれアブリアル家の家徴らしい。これでも家の中では耳が小さく若干の劣等感を抱いているらしい。
    【エントリュア・レイ】スファグノーフ候国唯一の有人惑星クラスビュール、ローハウ州、ルーヌ・ビーガ市の市警察犯罪捜査部警部。
    【王国/フェーク】帝国は八つの王国から成る。それぞれに国王がいるが、その中の領主たちは皇帝直属なので王という地位は形式的なものであり実質的には地域の名称のような扱いとなっている。それぞれの王国は帝都ラクファカールにある八つの「門」に対応しつながっている。そのうち七つは確率の問題で銀河中央部にあるが、「イリューシュ王国」ひとつだけ外縁部である「第十二環」に存在し、他の銀河につながっていると考えられている。ハイド星系はその第十二環にある。

    ...か
    【階級】軍では軍の階級のみがすべてであり宮中での序列は関係ない。
    【カイト】四ヵ国連合平和維持軍憲兵。シレジア共和国出身で遺伝子改造による不老化処置を受けているので遺伝子調整を悪とする人類統合体では肩身が狭く虐げられている。
    【学術的】《学術的ということばにまつわる事柄は、たいていまっさきに忘れられる傾向にある。》紋章Ⅲp.106
    【拡大アルコント共和国】四カ国連合のひとつ。
    【カシュナンシュ】アーヴ情報局長官。トライフ提督とは個人的確執があった(恋のさや当て)。
    【カヒュール】トライフ提督の部下で千翔長。いろいろ進言をする。
    【技術系四科】造兵科、造船科、造機科、光子科。
    【ギュムリュア】軍匠十翔長。ゴースロスの整備・点検の総責任者。機関士長という感じか。女性。
    【教育】アーヴは貴族制であり、幼少時の教育は家風を叩き込むためにも家庭内で行われる。人格が定まっていないうちに他者に教育をほどこさせる学校のような施設は問題外。
    【脅迫】エントリュア《脅迫ってのはおれたちの商売道具なんだ。》紋章Ⅲp.109
    【空識覚/フロクラジュ】アーヴ特有の能力。空識覚器官を使い宇宙船の感じること、宇宙船の周囲の様子がすべてわかる。空識覚器官は一億からなる個眼からなり近いものとしては昆虫の複眼。ふだんは頭環で隠されている。
    【クー・ドゥリン】ジントのデルクトゥーでの友人。
    【グゾーニュ幻想園】惑星クラスビュールにあるロボット動物がいる動物園というか遊園地。ジントとラフィールが逃げ込んだせいで大被害をこうむる。溶岩のくぼみをすっぽりドームで覆った構造となっている。
    【クファネス】フトゥーネの先任参謀で百翔長。登場時は新任。どうやらベネージュに気に入られたようで彼女が昇進したときこれでようやく離れられるとぬか喜びしたが連れて行かれることになった。
    【クラスビュール】スファグノーフ侯国領唯一の有人惑星。初代の時代にテラフォーミングされた。人口三億八千万人。自転周期は約三十二時間だが、生活時間は二十四時間とし、完全に分離させているので惑星の昼と夜が生活時間とはずれる。
    【クランドン市】惑星マーティン唯一の都市。三つの複合機能建築からなり、オムニⅠ、オムニⅡ、オムニⅢと名付けられている。ジントが暮らすコリント家はオムニⅢにあり、首相官邸はオムニⅠにある。
    【ケールディジュ】トライフ提督の乗艦で艦隊の旗艦。
    【血縁】アーヴは遺伝子をいじくりまわしたり、遺伝子のやりとりをしたりするので貴族といえど血縁をまったく重視しない。重要なのは家風の継承であり遺伝子の継承ではない。
    【光子科/ファズイア・ダテュークリール】技術系四科のひとつ。思考結晶を扱う。
    【皇族】アーヴ皇帝は世襲だが、継承者の資質を考慮できるようアブリアルの姓を共有する八つの王家から選ばれる。①スキール王家②イリューシュ王家③ラスィース王家④ウェスコー王家⑤バルケー王家⑥バルグゼーテ王家⑦スュルグゼーデ王家⑧クリューヴ王家。ラフィールは最後のクリューヴ王家に属する。必ず軍役につかねばならない義務がある。ドゥネー星界軍大学に他の階級の者より早く入学でき十翔長までは半年で昇格できる特権があるがその後には特権がなく罰則等も普通に受ける。順調に飛翔科翔士の十二階を昇り帝国元帥に達すると帝国艦隊司令長官に親補される。平時には一兵も指揮しない職だが次期皇帝になることがほぼ約束される。それが決まれば年上の皇族や二〇歳と離れていない年下の皇族は予備役編入を願うのがならわし。一代限りの皇族になることもできるが「ボース」姓となり身分も貴族と格下げとなりアブリアル姓は名乗れなくなる。ほかあれこれややこしい。
    【ゴースロス】ジントがデルクトゥーから乗り込んだアーヴの最新鋭巡察艦。練習艦隊に属している。が、訓練生が乗っているわけではなく、新鋭艦なので、こなれるまで練習艦隊に属して訓練する。戦艦として特に巨大なわけではないが、帝国その他の人類世界の中で現在最強と思われる戦闘力を持つ。
    【子育て】《子の遺伝子を彫琢して育てる。それで親になるんだ》紋章Ⅰp.88
    【言葉】《いつでも皇族のことばは都合よく解釈されるものなのだと、父が話していたのを思いだす。》紋章Ⅱp.39

    ...さ
    【最低】《まあ、最低という概念について考えるにはいい機会だな――とエントリュアは自分を慰めた。これが底だと思ってもまだまだ下がある。》紋章Ⅲp.9
    【サリューシュ】前衛翔士。ゴースロスの先任砲術士。鋭い目付き。由緒ある姓を持つ男性。操舵士でもあるようだ。戦闘隊長といったところか。
    【サンガリーニ】サンプル・サンガリーニ。「人類統合体」がアーヴの帝宮アブリアルに派遣している大使。
    【時空泡群】細かな理屈はともかく、宇宙空間で時空泡群があったらそこには艦がいると思えばいいようだ。
    【思考結晶/ダテューキル】まあ、コンピュータみたいなもんかと。感情はないので人間の命令は聞くが人工知能として自律的に思考・分析を行っているようだ。《混乱は人間の重要な属性であり、彼らから混乱をのぞいてしまえば見るべきほどのことはたいして残らない、と解析しきっていたから。》紋章Ⅱp.60
    【死生観】アーヴの軍人はわざわざ命の危険を侵すことはしないが、戦いを挑まれたり誇りをけがされたりしそうになると徹底抗戦し容赦ない。そして逃げようという発想すらないのでジントは苦労する。《そのときまで生きていたいし、きみにも生きていてほしいんだよ》紋章Ⅱp.104
    【ジムリュアの乱】かつて星界軍と地上軍に分かれていた頃、地上人主流の地上軍が大規模な反乱を起こしたが、それを首謀者の名前を取って「ジムリュアの乱」と呼ぶ。鎮圧後即座に地上軍は解体された。
    【自由】人類統合体は自由を標榜するが支配下の惑星にそれをチカラで強制する。アーヴは専制君主制だが支配下の惑星に対しては鷹揚で自由にやらせている。
    【銃】凝集光銃は安全と発射の中間に設定すると探照灯として使える。
    【主計科】ジントがアーヴ軍で就く予定の事務方の役目。食料や備品の点検で日が暮れる。ある意味最重要部署。
    【主計修技館生活諸規則】ジントが頭に刻み込むようにと渡され格闘した。古い規則は削除せず様々な補足をつけることで矛盾点を回避している。そのせいで膨大なデータとなっている。古代ローマの法律ようなタイプか。
    【出生の秘密】アーヴでは「出生の秘密」がある場合が多い。成人するまでは自分の出自(遺伝子)がわからなかったりする。成人すると遺伝記録を閲覧できる。《出生の秘密があったほうが、子どもの人格は豊かになる》という考え方がある(紋章Ⅰp.90)
    【翔士/ロダイル】深紅の腰帯を身につけている。
    【シレジア共和国】人類統合体に組み込まれている。住民は遺伝子改造による不老化処置をしているので遺伝子調整を悪とする統合体では肩身が狭い。
    【進化】ラマージュ《進化の萌芽は遺伝子異常として摘みとられる。遺伝を意のままにできる力を手に入れたとき、人類が行ったのは、けっきょく、自らの進化を封じこめることであった。吾が帝国でも御身らの国々でも変わりあるまい。進化を恐れるゆえのこと》紋章Ⅱp.185
    【人口】アーヴの人口は二五〇〇万人ほど。ほとんどが士族(リューク)で(スイーフ)は二〇万人程度。ジントはアーヴ人種でないにもかかわらず、閣下(ローニュ)の称号を持つ一六〇〇家ほど、家族を含め二万人もいない「諸侯(ヴォーダ)」の一人となった。なお、アーヴ人以外も含めると国民は一〇億人、領民は九〇〇〇億人ほど。
    【ジント・リン★】視点役としての主人公。惑星マーティンで暮らしていた茶色い髪を少年。政府主席ロック・リンの息子。母は鉱山監督だったが事故で死亡、ジントは母の面影も覚えていない。コリント家で育てられティルの妻リナに対しては母親として愛情を抱いている。アーヴ帝国侵略艦隊来訪時に父ロック・リンがおこなったある取引によって波乱の人生が始まる。帝国貴族になった後の正式な名前は「リン・スューヌ=ロク・ハイド伯爵公子・ジント」。基本的にはずっと役立たずの立場に甘んじている。とりあえずものごとが通り過ぎるのを待つタイプではある。《あとでちゃんと怒るから》紋章Ⅱp.57。《ジントは――卑怯にも――気づかないふりをした。》紋章Ⅱp.59。ふだんはわりと温厚で飄々とした性格だが感情の起伏は大きく自己の価値観の押しつけ度もけっこう強い。
    【人民主権星系連合体】四カ国連合のひとつ。
    【信頼】《人質に信頼されるなんて、期待しないだろう》紋章Ⅲp.32
    【人類統合体】四カ国連合のひとつ。アーヴに敵対する勢力の中心。かつてスーメイ星系でアーヴが発見したのと同様、平面宇宙を利用する技術を発見し、アーヴとは異なりその技術を充分な対価を支払えば広く公開した。アーヴに言わせるといたずらに争いを広げるだけだと思われ、実際にそうなった。そうして分かれていった星間国家のひとつが「人類統合体」で人口は六〇〇〇億あまり。「ノヴァシチリア条約」の中心国。民主主義を標榜しすべての災厄はアーヴによるものと考えている。
    【スファグノーフ侯国領】唯一銀河外縁部にあるイリューシュ王国に属し、スファグノーフ門を持つ。有人惑星としてクラスビュールがある。ソスィエ・ウェフ=サイラル・ダグレーがヤクティア戦役で大功を樹てスファグノーフ星系を与えられ惑星クラスビュールをテラフォーミングした。家紋は「銀の枝と蝸牛/ヤーズ・シュレンナ・ル・クラスビュール」。ゴースロスを脱出したラフィールとジントが到着した。
    【スファグノーフ門沖会戦】ジントとラフィールが惑星クラスビュールで逃げ回っているとき頭上で行われた艦隊戦。アーヴが勝利。
    【スポール】アーヴの名門。アブリアルとは折り合いが悪い。ベネージュ《淑やかなスポールとがさつなアブリアル》。ラフィール《性格のいいアブリアルと陰険なスポール》紋章Ⅲp.193
    【星界軍/ラプール】アーヴの軍。
    【星間船】帝国の星間船はすべて皇帝のものであり完全に管理されており各企業や諸侯に貸し出されるという形になっている。ゆえにマルカの自分の船を手に入れたいという望みは絶対にかなうことがない。
    【制御籠手/グーヘーク】アーヴは左手にはめた制御籠手と音声入力で操船する。合成皮革製と多くの金属パーツで構成されており、肘まで覆う長さがあり、小さなディスプレイがついているようだ。
    【性別】アーヴの性別は外見からはわかりにくい。男女ともに同様に美しいので。
    【正論】《前から思ってたんだがよ、正論をきくってのは、どうしてこういらいらするもんなんだ?》紋章Ⅱp.263
    【セールナイ】フェブダーシュ男爵の家臣のひとりだったがラフィールに心酔する。
    【善人】《エントリュアの見るところ、善人には二種類あった。消極的な善人と積極的な善人と。前者は感謝されるが、後者は自分以外の誰も満足させない。》紋章Ⅱp.218
    【造機科/ファズイア・セール】技術系四科のひとつ。機関を設計する。
    【葬儀屋】反帝国クラスビュール戦線のメンバー。後に「しょうがないだろう」としか口にしないようになる。
    【造船科/ファズイア・ハル】技術系四科のひとつ。船体を意匠する。
    【造兵科/ファズイア・ロウボン】技術系四科のひとつ。兵器を考案する。

    ...た
    【ダスワニ】反帝国クラスビュール戦線メンバー。
    【地球】人類の故郷。
    【ディアーホ】ラフィールの飼い猫。ホーネリアの孫。
    【ディーシュ】主計十翔長。ゴースロスの書記長。男性。人間の面倒を見る責任者。そのままだったらジントがその配下についたと思われる。
    【帝国貴族/ルエ・スイーフ】ジントは父のせいで帝国貴族になった。
    【偵察分艦隊】名称とは裏腹に強力な武力を持ち、力任せに敵領域をのぞき込むことを使命とする分隊。
    【ティル・コリント】ロック・リン主席の秘書官。妻はリナ。ジントはコリント家で育てられたようなもの。
    【デルクトゥー】惑星。宇宙港はお祭り騒ぎ。《デルクトゥー人は時間のつぶし方を知っている。》紋章Ⅰp.34。人名は姓名の姓の方が先に来るのでマーティンなどとは異なる。
    【ドゥサーニュ】バルケー王。帝国元帥。帝国皇太子。次期皇帝。帝国艦隊司令長官。《この戦、わららが敗けたほうが、人類にとってよいのかもしれません》紋章Ⅱp.194。ハイド伯爵家を創設した。
    【ドゥビュース】アーヴ皇帝ラマージュの息子。ラフィールの父。
    【特殊兵科】主計科、空挺科、軍医科、技術科、警衛科、法務科、看護科、軍匠科、造兵科、造船科、造機科、光子科、航路科、軍楽科がある。
    【独立党】惑星クラスビュールでアーヴの支配に反対し独立を主張する政党でちゃんと議席も持っている。アーヴは基本惑星の統治はしないので特に弾圧などしない。
    【トライフ・ボルジュ=ユブデール・レムセール】アーヴの提督。アーヴには珍しくがっちりした体格。好戦的な感じ。トライフ家の紋章は「歎く雉」。

    ...な
    【荷物】《そなたはわたしのたいせつな荷物なんだからな、怪我してもらってはわたしが迷惑する》紋章Ⅱp.48
    【年齢】アーヴの年齢は見た目からはわからない。十五歳くらいまでは先祖と同じように成長し「成長」と呼ぶ。その後二十五年ほどかけて外見的には十歳ほど加齢し「成熟」と呼ぶ。その後は死ぬまで老けない。不老だが不死ではない。知性が破壊される前に生命活動を止めるようデザインされており、寿命はおおむね二〇〇歳から二五〇歳。
    【ノヴァシチリア条約】→四ヵ国連合

    ...は
    【バースタイル】新造の突撃艦。ラフィールの乗艦となる。
    【ハイド伯爵家】《ハイド伯爵家の創設物語は英雄譚じゃなくて、犯罪劇なんだよ。マルティーニュの人たちは、みんな、ぼくと父を憎んでいる》紋章Ⅰp.41。紋章旗の図柄は緑地に赤くレズワンという、鳥のように見えるがじつはマルティーニュの海を泳ぎまわる有毛魚類の一種が縫いとられている。実物はけっこう間抜けな感じの動物だが旗にするとそれなりの威厳がある。
    【ハニア連邦】四カ国連合のひとつ。ラフィールが持ち帰ったゴースロスの航行日誌が公開されると開戦理由を捏造した人類統合体を非難し中立を宣言した。要するに、日和見に移行した。もともと戦争には気が進まなかったのだろうが、勝てそうになったら参加しようという感じか。
    【反帝国クラスビュール戦線】帝国から独立して自分たちで貿易等をしたい一派。帝国そのものには特に反発心を抱いてはいない。一挙に独立を手に入れる派と、自分たちの自由にできる宇宙船を手に入れる派の二派がある。ジントたちの前に現れたのはマルカ、小男の葬儀屋、口髭を左右で赤と黄色に塗り分けているミン、壊し屋ビル、大男のダスワニ。ジント《まだなにもされていないのに、親から虐待されるのを恐れて家出したがっている子どもみたいだ。》紋章Ⅲp.34。アーヴは基本ほったらかしなので人類統合体の自由主義からの独立をめざすほうがやりがいがあることになんとなく気づいた。
    【人質】アーヴに人質は通用しない。
    【ビル】反帝国クラスビュール戦線メンバー。
    【ファラムンシュ・ウェフ=ルサム・ラザス】帝国元帥にして軍令長官。軍事面のトップと思われる。
    【フェブダーシュ男爵】アーヴにも俗物はおり、気高くない。能力は意外に低くはないと思われる。自分ではアーヴらしいとイメージしている小さな王国を築き地上人の女性たちに君臨していた。ゴースロスを脱出したジントとラフィールが最初に到着した星系。いろいろ思惑が重なり、王女であるラフィールを軍務中であるにもかかわらず強引に引き留めようとした。《ここではおれたちが正義なのだ》紋章Ⅱp.51
    【フェブダーシュ男爵の父】先代男爵の父は地上人だったようなので現男爵の成金趣味はうなずける。母親が成り上がり、自身も造船翔士まで昇った。なかなか老獪で楽しい人物。《おお、少年よ、負け惜しみということばをきいたことは?》紋章Ⅰp.245
    【フェブダーシュ男爵領】フェブダーシュ男爵をトップに置く新しい国家。辺境にあり、領民は約五〇人。反物質燃料の作成で利益を得ている。
    【フトゥーネ】偵察分艦隊。司令官はベネージュ。フトゥーネとは「舞踏の女神」のことらしい。
    【ヘールビュルシュ】ベネージュの乗艦でフトゥーネの旗艦。
    【平面宇宙/ファーズ】理屈はともあれ、われわれの宇宙とは完全に独立し別の物理法則が支配する一次元の時間と二次元の空間からなる宇宙で、要するに「門」を通るとそこに入り、超光速移動が可能になる。まあ原理は異なるだろうけど「ワープ」できるようになるくらいに考えておけばよいかと。この宇宙にいる限りは通常宇宙で起こっていることは何もわからないし、自分たちの位置もわからない。
    【ベネージュ】登場時フトゥーネ艦隊の司令官。スポール・アロン=セクパト・レトパーニュ大公爵・ベネージュ准提督。名門で超大金持ちで贅沢で趣味で軍人をやっている(ように見える)。「惑乱の淑女」という異名を持ち気に入っているようだ。《このレトパーニュ大公爵はね、遊び仲間は選ぶの。遊び相手は選べないけれど》紋章Ⅲp.62。スポール家はアブリアルと仲が悪くお互いに嫌悪を隠さない。ジントには《肉食性の蝶を連想させる》p.194
    【星たちの眷属/カルサール・グリューラク】アーヴはよく自分たちのことをそう呼びたがる。

    ...ま
    【マーティン】惑星。ハイド星系の宗主惑星と思われる。恒星間移民船「レイフ・エリクスン」で移住してきた人類の末裔が暮らす。惑星改造技術に頼らなくてすむ酸素大気惑星だった。奇妙な動植物が繁殖していたが移民たちは惑星の生態系を壊さないよう慎重に人口を増やしていった。
    【マルカ】反帝国クラスビュール戦線メンバー。自分の宇宙船を手に入れたい。
    【マルティーニュ】惑星マーティンが帝国に併呑された後の名称だと思われる。
    【ミン・クルサップ】反帝国クラスビュール戦線のメンバー。リムゼール亭の主人と思われる。
    【ミンチウ】デルクトゥーでもっとも人気のある球技。
    【門/ソード】ユアノンの第二形態。簡単に言えば超光速航行のための出入り口となっている。既知の門は約三〇〇億個。紋章Ⅱp.187あたりからいろいろ説明があるがよくわからない。帝都ラクファカールにある八つの門は帝国を構成する八つの王国につながっている。そのうちの七つは確率の問題で銀河中心部にあるが、ひとつ「イリューシュ門」がつながっているイリューシュ王国のみは外縁部である第十二環にある。

    ...や
    【ユアノン】謎の粒子。正体は不明だがエネルギーとして利用は可能。外宇宙に出ようとしてた人類にとって燃料を積載しなくてもかまわなくなるので福音となった。
    【ユーンセリア】前衛翔士。ゴースロスの先任通信士。原色の青といえる髪の女性。しっとりとした落ち着きのある物腰。
    【与圧兜/サブート】宇宙服のことかと。
    【四ヵ国連合】アーヴ帝国以外に星間国家は四つある。「人類統合体」、「ハニア連邦」、「拡大アルコント共和国」、「人民主権星系連合体」。四つ合わせた人口は一兆一千億ほど。いずれも民主主義を標榜している。長期にわたり戦っていたがアーヴに対抗するため対立をやめ軍事同盟の条約を結んだ。ジントとラフィールが出会った十二年前のこと。自分たちは「民主主義諸国」を名乗ることが多く、アーヴは「四ヵ国連合」と呼んだ。自由を標榜するが、アーヴに向けて開戦しスファグノーフ占領したとき、アーヴ憎さで青い髪に染めてはいけないというどこぞの校則のような決まりを設けたりし自由を台無しにしたり、占領した惑星の政府を「奴隷政府」と称したり成熟していないところがある。

    ...ら
    【ラクファカール】アーヴの帝都。常に位置を変えており「混沌の都」とも呼ばれる。他に「竜の頸の付根」「八頸竜」「八問の都」「帝国の揺籃」「陥ちざるもの」「愛の都」「故郷/ムロート」などの異名も持つ。
    【ラフィール★】主人公。惑星デルクトゥーにいたジントを迎えに来た翔士修技生。アーヴ皇帝ラマージュの孫娘。正式な名前は「アブリアル・ネイ=ドゥブレスク・パリューニュ子爵・ラフィール」。「ラフィールと呼ぶがよい!」(星界Ⅰp.63)というのは特別なことなのかも?
    【ラフィールの父】ユーモアセンスはあるらしい。お気楽な言動をラフィールは回想している。そのせいでラフィールは自分が猫の遺伝子を持って生まれてきたかもと心配していた。
    【ラマージュ】アーヴ皇帝。女性。若く見えるがほぼ一〇〇歳。ラフィールはその孫。
    【理念】ラマージュ《歴史をかえりみるに、個人が持ってこそ理念は美しく輝く。国家が持てばたいてい悲惨な結末を生む。国家の理念は臣民を無用の死に追いやる。帝国は理念なく存在し、多様な人類社会を統合することにのみ専念しよう。》紋章Ⅱp.185
    【リムゼール亭】惑星クラスビュールの宿。主人は独立党党員で過激派の心情的支持者。ミンのことか。
    【領主】アーヴ帝国が被支配惑星に差し向ける代官。交渉の窓口でもある。その惑星の産物等による貿易の権利を唯一持つ。
    【レイフ・エリクスン】恒星間移民船。マーティンを発見後記念碑として惑星軌道上に係留されていたがあるとき謎の爆発をし、それが現在の「マーティン」の月となっている。
    【レクシュ】百翔長。ゴースロスの艦長。女性。ラフィールの遺伝子提供者。ジントの感覚では母親。ラフィールは慕っており、自分の遺伝子上の母であることを好ましく思っていた。
    【恋愛と結婚】アーヴは結婚しない。永遠の青春の中で生きるアーヴに結婚という制度はそぐわない。《狂おしいほどに激しく燃えさかり、跡形もなく燃えつきる》のが典型的なアーヴの恋愛。まれに長続きしたり、死ぬまでいっしょに過ごしたりすることはある。必然的に親は基本的には一人しかいないことになることが多い。「父の娘」とか「母の息子」と呼ばれる。「そなたの遺伝子が欲しい」というのはもっとも真剣な愛の告白。ラフィールは自分が「愛の娘」かどうか心配していた。いっときは父親と自宅の飼い猫の遺伝子からつくられた子どもかもしれないと考えていた(アーヴの技術では可能)。
    【レリア】十翔長。ゴースロスの副館長。兼先任航法士。水色の口ひげの男性。親しみやすい感じ。
    【ロック・リン】帝国艦隊が来たときの政府主席。ジント・リンの父。妻は鉱山監督だったが事故で死亡。侵略艦隊来訪時にアーヴとある取引をし、そのせいでジントの人生は難しいものになった。ロック自身は自星の利益を最大限護るためにそうしたが、全国民からは裏切り者と思われている。帝国貴族になった後の正式な名前は「リン・スューヌ=ロク・ハイド伯爵・ローシュ」。

    【惑星改造技術】要するにテラフォーミング。ユアノン推進の研究は始まった頃すでにこの技術は確立されており金星や火星で実践されていた。アーヴではいくつもある専門の「惑星改造技師組合/ガリュール・ファゼール・デイウイム」が請け負う。大昔、地球で数十億年かかった行程を大幅に短縮して再現する。クラスビュールは着手から約五十年でテラフォーミングを完了した。

  • 全体を通して楽しく読んだんだけど、全体的になんとなく物足りない。
    会話のテンポが良くて、ピンチに次ぐピンチという展開も面白くて、続きが気になってしょうがないんだけど。

    まず、いちいち付いているアーヴ語のルビが煩雑。
    続きが気になると言っているのに、目が忙しくてなかなか進まないもどかしさ。

    それから登場人物が多くて、誰が誰だか最後の方はもう思い出せなかった。
    でも、敵味方ははっきりキッパリわかるので、誰が誰でも問題なし。

    さらに、場所の位置関係がわからない。
    巻頭に平面宇宙図でも載せておいていただけるとよかったのだが。

    最後に、クラスビュールからの脱出行あたりから物語が駆け足で、もう少しじっくりと情景が目に浮かぶように書いてほしかった。

    以上文句たらたら書きましたが、面白かったのは間違いないです。
    SFを読み始めた頃のわくわく感を思い出しながら、終始楽しく読みました。

  • 星界の紋章〈3〉異郷への帰還 (ハヤカワ文庫JA)

  • 星間戦争の描写にわくわくした。ラフィールとジントの逃避行も無事終わり…一応ここで区切りはついてるなあ。続編があるけど。

  • 文章に使われているルビ文字が読んでいてうっとおしく感じた。その点をのぞけば、ジントとラフィールのいろいろあった冒険譚を楽しく読むことができた。でも、話の内容を深く理解するなら、映像化されたものを先に見た方がより楽しめた気がする。続編もあるので、それを読む時には先にアニメを見てから読むようにしたい。(自分の想像力が貧困なのがそもそもの原因なのだけど。)感想はこんなところです。

  • 子どもが古本屋に出すように仕分けしていたものの中から見つけた。自分じゃ本屋で見かけても手を出さない知らない作家名&好みじゃない表紙絵。
    予想外に楽しく読めたので得した気分♪

  • 解っていても続きが気になる。

  • ぶっちゃけ、終わらないと思っていました。終わるはずがないと思っていました。だから、終わらなかったことに文句があるはずがありません。ええ、文句なんか言いませんよ。ただ、次、よみてー。明日にでも買いに行かないと!

    さてさて地表に降り立って活躍していたジント君とラフィールですが、追い詰められ大ピンチです。のんびりとしている余裕はありません。意味も無く追撃してくる民主主義狂信者たちから逃れながら、面白連中に助けられます。
    やはり、皇族たるものこの程度の運が無ければ、ね。
    と言いながらも、ジント君を待っているのは過酷な運命です。いやはや、これからどうなっちゃうのでしょうか。彼らは……続く

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著者プロフィール

1962年、兵庫県生まれ。SF作家。92年、短編「夢の樹が接げたら」でデビュー。アニメにもなった『星界の紋章』シリーズや、日本SF大賞を受賞した『突変』など、著書多数。

「2023年 『夢のまた夢 若武者の誕生』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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