永遠の森 博物館惑星 (ハヤカワ文庫JA)

著者 :
  • 早川書房
3.78
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本棚登録 : 945
感想 : 117
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  • Amazon.co.jp ・本 (437ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150307530

作品紹介・あらすじ

地球の衛星軌道上に浮かぶ巨大博物館"アフロディーテ"。そこには全世界のありとあらゆる芸術品が収められ、データベース・コンピュータに直接接続した学芸員たちが、分析鑑定を通して美の追究に勤しんでいた。総合管轄部署の田代孝弘は、日々搬入されるいわく付きの物品に対処するなかで、芸術にこめられた人びとの想いに触れていく…。優しさと切なさの名手が描く、美をめぐる9つの物語。日本推理作家協会賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  •  2からSFマガジンで読んでいたが、1も1で面白い。こういう、進歩した世界における人の営みに重きをおいて書かれた作品はすごく好きだ。
     1つ1つで起承転結がありつつも、全体として大きな物語を描き出すような形だともっと好みだが、本作は1編の完成度が高く、様々な趣向が凝らされているのでそうでなくとも面白い。後ろの3つは結構しっかり繋がりもあって良かった。
     思わず唸るようなトリックがあるわけではないが、ミステリを書かれる作家ということもあって、推理小説風味の話の進行は興味深い。多岐に渡る題材からは、美術への深い造詣が伺える。専門用語が多く、想像力の及ばない箇所もままあるが、十分楽しめた。
     キャラクターは魅力に富んでいるし、丁寧な心情描写が胸に響いた。以下、各話の簡単な印象。

    1話は若干の物足りなさを感じた。
    2話は普通。
    3話は言葉遊びに重点を置かれて面白い。
    4話はこれまでとは毛色が違っており、ミステリ風味は控えめながら、好みな味わい。
    5話はめっちゃいい。こういう細かな問題を扱う話は好き。攻殻の新劇場版を若干彷彿とさせる。
    6話は題材が好き。
    7話はテクニカルな感じ。
    8話は図表があるともっと良かった。
    9話は非常に良かった。とりわけキャラクターが魅力的。

  • 長年読みたいと思い続けてきた作品、ようやく手にすることができた。地球の衛星軌道上に浮かぶ、巨大博物館「アフロディーテ」。ここを舞台に、様々な芸術品を巡る人々の想いを描いた美しいSF。
    データベース・コンピュータに直接接続した学芸員・孝弘が主人公だが、根っからの巻き込まれ体質。右往左往する彼の奮闘ぶりにフフッと笑いたくなるが、厄介ごとを抱え込むたび、何だかお疲れゆえに視野が狭まって来てないか?と思うように。微かな杞憂が、後々に響くとは…。
    全9話、それぞれ独立したエピソードではあるが、各話にちょこちょこ登場するとある楽器、とある人物。その伏線がどう回収されるかが見事である。
    近未来の描写だから、一体これはどういう場面なのか、想像するのにすごく頭を使ったが…登場する絵画、音楽、舞踊、工芸品が実際に目に見えるかのような、聴こえるかのような、美しい描写に毎回魅せられる。芸術品を巡る、一見トラブルのようなそれぞれの出来事が、どうしてそうまでして己の想いを貫きたいのか…明らかになるたび、胸が締め付けられる。ラスト「ラヴ・ソング」は圧巻!スタオベものです。活字を追うだけで、こんなに心豊かになれるなんて。美術館、博物館、コンサートを一気に観賞した気分だ。
    日本SFの金字塔と言っても過言ではない、長く読み継がれて欲しい名作。

  • SF初心者だからか少し戸惑ったけれど、知的で優しく美しい素敵な話だ。幸福感が漂う読み味のよさで、読後はうっとり。

    あらすじ:
    地球の衛星軌道上に浮かぶ星には世界中のありとあらゆる美術品、動植物などが集められたアフロディーテと冠される博物館がある。学芸員、田代孝弘は芸術品がらみの部署間の争いや厄介な命令に、頭を悩ませながら対処しているうちに、さまざまな人の想いに触れる。

    何が大変かってそれぞれのデータベースや部署の名前を覚えるのが大変で、さらにいろんな横文字の名前が出てくるから混乱してしまって、初めは「解らないー!」とそこだけ戸惑った。ミステリ風味のストーリーたちはどれも優しく美しくて、素敵。全編を通したテーマがあって、それがまた抜群の効果を持っている。

  • 人生で今まで読んだ本の中で最も美しい本です。

    やっと見つけた…
    たぶん八年くらい前に読んで、タイトルを忘れたままずっと探していた作品。
    やっと見つけた!!!

    SF小説で、宇宙中の『美』を集める巨大博物館『アフロディーテ』職員が主人公のお話し。

    SFなのにテーマは『美』
    不特定多数に対してなんらかの情動を歓喜する何らか。
    それって時代とともに変わらないんでしょうか??
    何か感動を生むものの共通点てあるんでしょうか??
    そもそもみんなが感じる美って同じなんでしょうか??


    例によって脳みそパソコン直結の攻殻的要素もありつつ(個人的ツボ)、
    それが設定要素としてきっちり盛り込まれていて実はキーだったりもする。

    設定に飲まれることなく話が進んで設定に必然性がありかつ登場人物達の内面は普遍的な人間らしさを持ち続けていてその中にこそテーマがある、というのは素晴らしいSFの必要条件だと思うのです。

    あぁ見つかって本当に嬉しい。
    たぶん五年くらい探した…
    私にとっては一生忘れない本の内の一冊です。

  • 地球の衛星軌道上に浮かぶ人工惑星。そこは地球のあらゆる芸術品を収容する巨大博物館<アフロディーテ>。主人公の田代孝弘はこの博物館で働くいち学芸員。脳外科手術により、芸術に関する膨大な知識を集積したデータベースに直接接続することができる学芸員は、そのテクノロジーを駆使して収容される芸術品の価値を確かめ、その意義を問う。ただし、田代孝弘が所属する総合管轄部署<アポロン>は、専門部署間の調整役が主な仕事であり、彼は常に厄介ごとに巻き込まれるのだが…

    うーん、なんともロマンチックな連作短篇集。
    それぞれ扱われる芸術作品に主眼を置きつつも、それを取り巻く人間模様がメイン。SF的バックグラウンドもしっかりしており、雄大な自然を有するアフロディーテの描写も相まって、本当にこんな博物館があればいいのにな、と切望してしまったり…

    そもそも設定がおもしろいですね。芸術とSFを結び付けた作品はたぶん探せばいくつも出てくるのでしょうが、ひとつの惑星がまるまる博物館で、そこに収容される芸術品をめぐって学芸員がドタバタさせられるというのは、なんとも微笑ましい限り。というのも、よく読むSF小説は、異星人と接触したり、タイムトラベルしたり、地球に危機が訪れたりと、どれも穏やかではないからです。本書は日常系SFみたいな感じで、ゆったりと読み進めることができました。

  • 芸術を扱う惑星を舞台としたお話。SFとミステリーを合わせたような感じの作品。全体的にロマンチックな結末で物語として楽しめたし、植物の葉の着き方がフィボナッチ数列になってるとかいう話が出た時は知的好奇心刺激されて色々調べてしまった。

  • 博物館惑星での9偏の短編集。SF小説的なこともあり生物学とか分子生物学、数学とかかなり専門的な描写は多いけど、読んでると芸術の意味とか定義への問いかけと、人間の感性とか感情が凄くバランスを取って入ってくる。愛情をテーマにした話も多かったけど、どちらかというと薄情に書かれてた主人公の気づきとか、目覚めみたいな心の変化が、最後のストーリーで全部が繋がってきて、音楽と情景の臨場感と併せて伝わってきた。理科系への得手不得手で読者を選ぶかもだけど面白かった。

  • SFと芸術。
    一見接点が遠いように思えるが、読んでみると違和感はない。

    短話がいくつも連なっている形式だが、毎回別の芸術ジャンルと別の展開が待っていた。
    加えて最終話への導線も各話に少しずつ盛り込まれている。

    舞台が同じ作品が他にあるなら読んでみたいと思うが、無いなら無いでいい。
    この一冊で十分満足した。

  • 設定はハードSFなのにリリカルな読後感。
    わりと大騒ぎな事件もあるのに、全体的にしんと静謐な空気が感じられて、初めて読んだ作家さんだったが、かなり好み。特に最後の「ラブ・ソング」がロマンチックでよかった。

  • とても"綺麗"で優しいSF。
    芸術やら美術とテクノロジーを融合させた話は読んだことがなかったのですが、面白い。

    イメージや「だいたいこんな感じ」で脳と直接接続したデータベースから検索できる技術も、そのうち実現するんだろうなという感想。
    今の技術だと、キーワードによるGoogle画像検索で概念がなんとなく調べられるので、それの超発展系のような感じか。

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著者プロフィール

1963年生まれ。SF作家。2015年、『放課後のプレアデス みなとの宇宙』のノベライズを上梓。他の著作に『おまかせハウスの人々』『プリズムの瞳』など。本作がはじめてのビジュアルブックとなる。

「2016年 『GEAR [ギア] Another Day 五色の輪舞』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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