グラン・ヴァカンス: 廃園の天使1 (ハヤカワ文庫 JA ト 5-2 廃園の天使 1)
- 早川書房 (2006年9月30日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (494ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150308612
作品紹介・あらすじ
仮想リゾート"数値海岸"の一区画"夏の区界"。南欧の港町を模したそこでは、ゲストである人間の訪問が途絶えてから1000年、取り残されたAIたちが永遠に続く夏を過ごしていた。だが、それは突如として終焉のときを迎える。謎の存在"蜘蛛"の大群が、街のすべてを無化しはじめたのだ。わずかに生き残ったAIたちの、絶望にみちた一夜の攻防戦が幕を開ける-仮想と現実の闘争を描く『廃園の天使』シリーズ第1作。
感想・レビュー・書評
-
人間のゲストが訪れなくなってから1000年が経過した、仮想のリゾート空間「夏の区界」。
そこに放置されたゲストを迎えるAI達は永遠に続く夏を過ごしていた。
しかし世界を食べる“蜘蛛”の出現でその平穏は破られてしまう…。
艶かしく非常に残酷な物語です。
それでいて『夏』のイメージに相応しく、美しい。
凄惨なシーンに眉をひそめながらも読む事をやめられなかったのはそのせいでしょう。
ただ、この本で全ての謎が明かされるわけではない。少し間を置いて続編の短編集を読みたいと思う(続けては精神的にキツイ…)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
著者が水見稜の『マインド・イーター』の解説を記していたことから興味を持った次第。
読了後はさながら這う這う(ほうほう)の体といったところで、これまでに読んだSF小説の中で最も衝撃を受けた一冊。
AI(人工知能)が暮らす仮想空間が混迷の一途を辿る、という凄惨なストーリーでありながら、描かれ方がやけに甘美。随所に「人が物語を作ること・読むこと」への寓意やメタファー(隠喩)が織り込まれており、小説読みの一人として胸を貫かれる思いだった。
展開の悲惨さゆえ星は四つに留めたが、ただのSF・娯楽では終わらない、本物の文学。
文章自体は至って平易だが、この小説の真意をどれほど汲み取れたのかは不明。
※のちに星五つに変更 -
8年ぶりに『グラン・ヴァカンス』読んだ。AIだけが取り残された仮想リゾートの設定、今読んでもそんなに古臭い感じがしないのはすごいなー。続編はいつか読めるんだろうか…
-
-
こんにちは。うんうん、そうねそうね!と激しく共感しながらレビューを読みました。「廃園の天使」シリーズはマイオールタイムベスト10に入るかなと...こんにちは。うんうん、そうねそうね!と激しく共感しながらレビューを読みました。「廃園の天使」シリーズはマイオールタイムベスト10に入るかなというくらい気に入っているのですが、よくわからない…と思う飛作品も結構あるのです。「象られた力」とか最近では「自生の夢」とか。
でも「ラギッド・ガール」は強烈に良かったです。色彩豊かなのに静謐、という独特の世界にやられました。鴨さんの感想が楽しみです!2019/05/10 -
をーたまもひさん、お久しぶりです!コメントありがとうございます。
そうなんですよね、鴨的に初めて読んだ飛浩隆作品が「自生の夢」だったもんで...をーたまもひさん、お久しぶりです!コメントありがとうございます。
そうなんですよね、鴨的に初めて読んだ飛浩隆作品が「自生の夢」だったもんで、「???」なイメージしかない作家だったんですが、「グラン・ヴァカンス」ですとんと腑に落ちた気がします。「ラギッド・ガール」楽しみです!2019/05/11
-
-
構想から10年の歳月をかけて書かれたというSF大作。そして、そこでは「大途絶」から1千年後の「夏の区界」のヴァーチャル世界が実に緻密な筆致をもって描かれる。小説世界の基本構造は極めてシンプルである。ジュールと、ジュリー、ジョゼとアンヌがそれぞれの極をなしつつ、そのムーヴメントが作品の時間を形作っていく。この作品に内包されるもの、そしてここで描かれるものは、「時間」そのものの形象だ。そして、そのすべてを見通すことになる老ジュールこそは、まさにゲルマン神話の「さすらい人=ヴォータン」にほかならないのである。
-
序盤のファンタジー風冒険譚から一転、中盤以降は「ここから先、酷いことが起きるよ」って看板が立ってる道をトロッコで下っていく感じ。言葉の選び方や描写の美しさが、酷さをより際立たせている。SF的な世界観、主要キャラクターたちのそれぞれが持つ論理も精緻に練られていて、善悪の二元論では括れない多層的な整合性を成立させながら描かれる神話的絶望と僅かな希望が心を圧し潰し、絡め取ろうとする。天使とは何か、ランゴーニの作戦とは、ジュールの旅路は、AIたちの運命は。続きはまだですか。早く読ませてください、飛さん!!
-
文章力に飲み込まれそうだ。
私自身が文章を味わうというよりも、書かれた言葉が私の内を蹂躙し、駆け抜けていくような気さえする。
苦痛と悦楽の坩堝。
それは正反対のようで、実はごく近いものなのかもしれない。
濃密な読書体験だった。
しかしこれは人を選ぶな。 -
課題本読了。
柔らかいのばっか読んでたから、久々に脳味噌に負担かかった。
作中のキャラクターを描き方が、重いというか、ぐろぐろしている。
海外SF的なイメージを持った。
それぞれの用語について解説をせずに、とりあえず作中世界に突っ込ませるところとか。
後半の防衛陣営が崩れていくシーンはシチュエーションだけ見れば俺好みなのに、共感できなかった。
人間が内側から崩壊するけれども、それが伏線として描写されていないわけでもないし。
相手側、敵側の正体が良く分からないからか。
それとも絶望を感じる間が少ないからか。
個人的評価高くないから続刊は読まないな。