虐殺器官 (ハヤカワ文庫 JA イ 7-1)

著者 :
  • 早川書房
4.12
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本棚登録 : 13026
感想 : 1629
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150309848

感想・レビュー・書評

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  • SFバイオレンスな本かと思っていたのだが、
    全然違くて、最近読んだ本の中でダントツで良かった。
    誤差のない時間を生きてきたのもあって、私が感じ取っている時代の一部がつめ込まれてる気がした。

    先にハーモニーを読んでしまっていたのだけれど、読んでない人はこちらを読んでからハーモニーを読んだ方がすんなり納得できると思う。

    生きていたらもっと素晴らしい作品を残していただろうに、残念です。

  • 題名がラノベっぽくて嫌なんだけど、中身は面白かった。SFっていいね!
    細部の描写が細かく描かれていていい。
    痛覚マスキングとかポッドの素材とかとか。
    ド文系の私でも、わかった気にさせてくれる道具が良い。

    自国に争いを持ち込ませないために他国同士を争わせるとか、
    実際PR会社が戦争に介入した例もあるので、荒唐無稽な未来でもない感じで。
    ゼミで論じたら楽しいだろうなぁ。

    道具とか、虐殺器官とか、面白い発想がすごく多い。
    他の作家さんだと面白いと思える発想があっても、せいぜい数個で、それを長々と膨らませて、またこの話かよーってなるんだけど、伊藤さんのはそれが無かった。ラストも、主人公と作者に距離があり、あくまでこの構造を語りたいとうことが伝わった。

    ジョン・ポールが虐殺の文法を遺してたとのことだったが、主人公と話している会話の中に、虐殺の文法を紛れ込ませていたのかも。

    ルツィアがあそこまで二人を惹きつける理由は謎だ・・・。

  •  エクリチュールとは死者の国である。とラカンが言ったかどうか知らないが、似たようなことは言っているはずだ。
     だから本書も死者のものであり、実際、作者はもう鬼籍に入っている。この小説を書いているときにどれほど自己の死を差し迫ったものと感じていたのかは知らないが、冒頭からおびただしく死のイメージに満ちている。当然、これは戦争の物語なのではあるが。
     9.11から少し未来の世界。先進国はテロ対策に管理を強めている。他方、発展途上国では政情不安が続き、世界のあちこちで虐殺行為が頻発している。そしてアメリカ国防省は他国での要人暗殺を不可避の紛争解決手段としている。「ぼく」、クラヴィス・シェパードはアメリカ合衆国情報軍の特殊部隊員。紛争地帯の「人道に対する罪」を止めるため、虐殺の中枢となる人物の暗殺を任務とする。
     虐殺の行われる国に必ず出没するアメリカ人の学者ジョン・ポール。彼が虐殺行為を引き起こす何らかの工作をしているらしい。「ぼく」はジョン・ポールの暗殺を命じられる。

     すでに評価の高い作品であるが、なるほど面白くもあり重くもある。まるで、英語圏の翻訳SFを読んでいるような感触は日本のSFらしい手垢を見事にぬぐい去っている。まずはジョー・ホールドマンの『終わりなき戦い』や『終わりなき平和』を連想した。非情なミッションとそこでも何とか保とうとする人間性。本作では特殊部隊員がミッション中に良心によって判断が鈍らないように、モジュール化した脳の機能を切り離すテクノロジーが登場する。この辺はグレッグ・イーガンみたいだが、イーガンのように主体の存在そのものを揺るがすような扱いではない。
     謎の学者をヨーロッパの古都に追いかけるストーリー、「個」ではなく「種」に影響する何かを言語学的に扱うのは、山田正紀『神狩り』を思い出した。
     重いのはテーマ。それはたぶん、「生きるために殺す」ということではないだろうか。本書では戦争が産業化されるさまも描かれているが、戦争の本質は「生きるために殺す」ということであり、さらに一歩進んで、人間の本質は……とまでいえるのかは読者に託されているというところか。
     『自爆する若者たち』とあわせ読むと、絵空事ではなくなる。

  • 伊藤計劃作品
    「言葉」の持つ力を改めて考えさせられました。
    またラストの展開にも衝撃を受けました。

  • 前評判を聞いてなかったら途中で読むのをやめていたかもしれない。
    自分のことを「僕は」という殺し屋と、能書きばかりで前半は退屈でしかたなかった。

    後半は急速に動きが出てきて、ふむふむというところに物語は着地する。

    前評判を聞いていなかったらもっと満足感は高かったかも。
    あと攻殻機動隊を見る前だったら。

  • 冒頭、グロテスクな描写なので読むのをやめようかとも思ったけれど、読むにつれ物語の広がり、深まりが静かな語り口の下で激しく進んでいく。

    今まで、これほどのSF・ミステリー・アクションすべての要素が詰め込まれた小説があったか?
    文中の言葉を借りるなら、思索的でもある。
    自身の置かれた状況を映画「地獄の黙示録」のカーツ大佐とウィラード大尉にたとえているが、それを遙かに上回るテーマ性と意外性がある。

    10年、生年が遅い作者と、同じような文化的体験をしていると感じられる描写が随所にみられ、それもポイント。
    残念なことに作者はすでに亡くなっている。 残念。

    本当に面白かった。

    前にも「ジウ」のレビューでも書いたことがあるけれど、静かな本屋さんの中にある本の、ページを開いた瞬間からこんな胸躍る物語が飛び出してくるって、本当に面白い。

    やめれんな・・・。

  • 文体の作りが馴染めないまま後半に突入。内面的な情報がおおく、情景描写が少なく想像力を試される。

    4章ぐらいから、動きのある展開。

    人間は、やはり争いなしに生きられないものかと…殺しあうことで得る平和、それに手を染める人間とは…テーマが深くて、一回では、理解しがたい。

  • 良かった点:
    ・技術面での充実した調査。特に材料系の調査は充実していたのではないか。
    ・ミリタリーものらしくない一人称語り。新鮮。
    ・虐殺器官という設定。興味深い。

    悪かった点:
    ・技術間の発展の格差。これだけ発達した材料系・生体系技術があるのに、自動翻訳やら生体探知器やらが存在しないのは考えにくく、近未来の発達に統一感がなく不自然。
    ・知識の陳列:カフカやらオーウェルやら、なるほど単語は多いがどれもがあまり肉付けに寄与しておらず散発的。「神は死んだ」の引用のくだりはニーチェの言うところとまるでずれているが、意図したのか調査不足か?
    ・心情が読めない:主人公の内省と行動が結びついていないように感じる。悪役しかり。虐殺器官の掘り下げがもっと欲しい。

    総評:
    設定は面白いのに、物語に当てる焦点のピントがずれていると感じた。

  • 奇しくも9月11日に読み終えたのがこれ。ネット上で非常に評判の高いSFってことで読み始めたのだけど、しばらくはIDタグを埋められた人が出てくるくらいで、未来設定が出てこないため、ハードボイルドかミステリ小説かと思った。

    また、作品の書き出しはブラッドベリやディックのように、ある意味詩的で思わせぶりだったり、死のイメージの回想だったりして、ウーンちょっとなあと思ったが、読み進めるうちにどんどん読みやすくなってくる。

    さらに、舞台も大筋のストーリーも、ハリウッド映画のような迫力が有り、文体を含めてかなり翻訳物の「洋物」を意識しているが、途中で自分の体験からの「死」を語ったりするあたりは、日本人の作家らしく理解しやすい。

    内容的には、直接手を下さないが世界中の虐殺に関与するテロリスト(というか、煽動者)の暗殺のために、ヨーロッパやアジア、アフリカを飛び回る特殊部隊の男の話で、かなり現実に沿っている様な内容のため、SF初心者にもとっつきやすい。

    個人的には、第2部(プラハ)の時点でオチは読めてしまったものの、最後まで面白く読めた。ただ、これはSFか?どうだろう?

    途中で文学ネタから生物、映画、ネットネタまで細かく広く散りばめられているあたりも、サブカル魂をくすぐられるため、ネットで人気がでるのもよくわかる気がする。

    あまり作品を残していない作家だそうなので、少ない作品を集めてみようかと思う。

    ただなあ、ハヤカワの文庫が入るブックカバーが少ないんだよなあ…。

  • 非常に面白かった。これぞSFという感じ。特定のテクノロジーという媒体を通じて、人間の姿を、内面をありありと描き出す。淡々とした筆致で描かれる残虐な戦場の光景というアンバランスさから引き込まれた読者は、もはやその冷徹に社会を見通し、吟味する視線からは逃れられない。言語というものを通し、そして文化、哲学を通して人間の主体性の問題について正確に言及するやりとりの深遠さに加え、物語の筋も秀逸でエンターテイメントとしても完成されている。間違いなく傑作。作者の夭逝が惜しい。

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著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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