- Amazon.co.jp ・本 (366ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150310097
作品紹介・あらすじ
科学とは無縁の世界で育った青年はある日、月世界を目指して天空へと伸びる「天橋立」に向かう。そこで待っていたものは、とびきり可愛い謎の少女だった-無垢な青年が抱く、宇宙への憧れとみずみずしい初恋を描いた表題作のほか、ロボット三原則の盲点が引き起こす悲劇を描いた「灰色の車輪」、宇宙論とクトゥルフ神話が驚愕の融合を果たす「時空争奪」など、ヴァラエティに富んだ全8篇収録の傑作ハードSF短篇集。
感想・レビュー・書評
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「灰色の車輪」「三〇〇万」が特に好き。
古典SFでよくモチーフにされがちなテーマを、よりとっつきやすく再構築したような印象の短編集でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
時空争奪が好きだった
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ラグランジュポイントの事が理解できた。
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表紙で敬遠してたのだけど、紙で買えなくなりそうだったので入手しました。
「あの日」がユーモアたっぷりで面白かった。
「盗まれた昨日」は例によって「失われた過去と未来の犯罪」の習作。短くまとまっていて、SFは哲学と紙一重なのを気づかせてくれる良作。
ハードSFというほど敷居が高くはないので、ミステリ好きにもオススメです。 -
SF。ホラー。短編集。
「時空争奪」は既読。
作者らしさ溢れる一冊。定期的に挟まれるグロ描写が印象的。
「性交体験者」が特に好き。異様な世界観でのミステリという、自分好みのジャンル。白井智之さんっぽさを感じた。
表題作、「灰色の車輪」、「三〇〇万」も良い。 -
未知との遭遇、世界の崩壊など、楽しくも恐ろしい8つの体験。表題作は、少年が謎の少女ガイドさんと出会い、宇宙へ旅立つ模様を描く。小林泰三の持ち味である噛み合わない会話文は、ここで真価を発揮する。「あの日」「三◯◯万」もまた然りだ。
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ハードSFの短編集。コントみたいなノリの「あの日」、ロボット三原則をネタにした「灰色の車輪」が面白かった。
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いわゆる記憶喪失というのがあるが、あれは一時的に記憶を失っているようにみえるだけで、脳の中に記憶は残っており、人間性まで変わってしまうわけではない。では、脳の記憶中枢が破壊されて、すべての記憶を失ってしまったら、私は私でいられるだろうか。記憶がなくなったら、もう私らしく振る舞わないような気がするが、そうだとしたら、記憶こそが自己ということになる。しかし、自己がただの記憶の連なりかというと、そうではないような気もするし、私の記憶を他人に植え付けたとしてもそれは私ではないと永井均ならいうだろう。
小林泰三はそうした問題をテーマに扱うため、「北」とか付く長たらしい名前の独裁国家の訳のわからない兵器実験を持ち出す。もっともらしい説明はともかく、実験のせいで世界中の人間が短期記憶しか持てなくなってしまった。そこで苦労のすえ、長期記憶を電子的な手段で補う技術が開発されたという未来。簡単にいえば、人間みなにUSBの端子が付いていて、長期記憶はUSBメモリに保存しておくという感じ。ここまでが「盗まれた昨日」という短編の設定。その設定下でどんな話が展開するかは読んでのお楽しみ。私はこれが一番面白かった。
この短編の次、本書最後に収められた「時空争奪」は時空レベルで「昨日」が盗まれた話で、バリントン・ベイリーばりのとんでもない話なのだが、冒頭の「天体の回転について」は端正なニュートン物理学SF。ただ萌え要素が付加されているのが表紙の通り。
基本的には論理を追求したアイディア・ストーリーだが、そこにスプラッタな要素が加わるといったあたりが、小林泰三の定番。逆にいうと、無重力環境しか知らない未来の世代の小説家志願者が、重力下の地球の話という「時代劇」を一生懸命書こうとしてとんでもない小説を書いては失敗して、という奇妙な小説が、実は科学的論理に裏づけられたアイディア・ストーリーの相貌を現す。
本書、昔懐かしいSF短編集という感じで好感を持った。もっとも話がまとまりすぎて、もっと破綻したところが欲しい気がするが、無い物ねだりかも。