ハーモニー (ハヤカワ文庫 JA イ 7-2)

著者 :
  • 早川書房
4.26
  • (1332)
  • (1034)
  • (407)
  • (56)
  • (24)
本棚登録 : 8052
感想 : 1004
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150310196

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ひさびさにSFを読んだ。
    SFだけじゃなくミステリーや哲学的な要素も含んでいて面白かった。

    21世紀初頭に発生した<大災禍>。
    それは全世界規模で不安が巻き起こり核爆弾を互いに打ちまくった大災禍。
    人類は社会の要素である価値観を植えつけた世界に移行し、健康であり争わない高度な医療経済社会を築いていた。

    高度な医療経済社会では、身体の状況や感情がすべてサーバーに送られ、悪い変化の兆しがあるとあらゆる処方箋を提示し実行できる支援をしてくれる。病気も肥満もない健康体。つまり身体の状態管理維持支援をフルアウトソーシングしている。

    みんな同じ肉体。みんな理想の肉体。
    体調変化に気を配る必要がない世界はスマートかもしれない。
    世界は進化するけど個は退化ですよね、やっぱり。

    この小説は「人ってなに?」を突きつけてくる。
    身体の状況をフルアウトソーシングすることを許容するならば、「意志」も第三者にアウトソーシングしてもいいのではないか?
    脳も身体の一部じゃないのか?と。

    争い、病気、自殺、不安をなくし進化させる世界を突き詰めた到達点にあるハーモニー(調和)とは...。

    たどり着くハーモニーな世界の仕組みは理論的に正しいのかもしれない。
    でも感情が正しいと理解しない。
    理論的に正しい、統制的な世界を望むのか。
    統制されていない理不尽な世界が遺る個の感情・意志のある世界を望むのか。

    統制的な世界に、個を認識できない、個を知らない世界に生まれてしまったら、それが世界でありとても生きやすい世界かもしれないですね。
    でも争いがあるからこそ、矛盾を抱えるからこそ進化するんじゃないかな。
    ハーモニーは計算されつくした世界だけじゃなく、ノイズからも生まれると思う。

    地球を滅ぼさないハーモニーを構築しつつ、ノイズを許容できる世界が訪れますように。


    著者が生き続けていたら読み応えのある作品にもっと出逢えたんだろう。
    残念です。

  • 世界観や設定が卓越して面白かった。だが私のような原始の感覚の至上主義者からすると氏の合理的すぎる思考には物足りないところがいくつもあった。そうであることに安心する。この作品は小説であるが、作中の事件が、ある意味では現代に起きてもおかしくない危うさを含んでいるからだ。故に、「氷でできた刃」のように美しく感じるのかもしれない。早逝が惜しまれる。

  • 勧められなかったら読まなかった本。
    すごい完成度の高い未来の世界に次々と予測出来ない事が起こる。
    この世界ならではの少女達の自殺の動機。
    なかなか斬新な一冊。

  • エヴァ観た日に、伊藤計劃『ハーモニー』読了。

    ミァハの自分勝手さとかトァンの振り切れない甘さとか人間誰しも持ってるような、決して「良い」とは言えないような部分が光る

  • 近未来に対する設定がすごい。よく考え抜かれているなぁ。未来が舞台ながらたまに参照される古典や歴史の事実。人という種の定義やその限界。独特なタグ表記の意味。とても楽しめました。なんか、EVAの「人類補完計画」みたい。最後のシーンだけちょっと消化不良かなぁ。。

  • 近未来の大戦後に作られたユートピアの話。
    世界観は前作の虐殺器官に続いている。

    この作家は言葉の力をすごく信じている。
    前作はそのままだったけど今回もそれを節々に感じられた。

    人が病気を駆逐した世界ってどんなものなんだろう。
    いまいちピンとこない部分もあった。
    ひとつの病気が無くなったら、さらに違う病が出そうだけど。
    でも極端な世界観は読み手の想像が広がるなぁ。
    これがSFなのかな。

    実は本編よりも解説の方を読んでハッとしました。
    病室でこの作品を書くというのはどういう心境だったんだろう。
    想像すると改めて畏怖した。

    亡くなられているのを知りませでした。
    もっと伊藤計劃の読みたかった。
    もっとすごい作品がかけただろうに。
    残念です。

  • 人間に意識や意志は必要か、そうでないか。最後まで読んでも自分の中で答えが出せなかった。
    争いもなく自死もない世界は望ましいのだけれど、「わたし」というものが無くなったら、それは生きている意味があるのだろうかと悩んでしまう。時には自らを傷つけもするこの自我を、どれだけ厄介であっても、持ってしまった以上は捨て去る勇気は出ないだろうなと思う。
    読んでいる最中、病気や体調不良をなくしたいという気持ちと、空気を読むなんて真っ平御免、何にも指示されたくないという気持ちが拮抗してつらかった。
    ユートピアでありながらディストピア。少女が夢見た世界を、少女自身は見られなかったのが切なくて、でもその決断をしたトァンのことも嫌いになれなかった。私の印象では、終盤でトァンがどんどん魅力的になっていった。真実を知ることでシンプルになっていったのかもしれない。大人になったとも言える。ミァハを神格化する向きが無くなったからかもしれない。
    最終的に色んな要素が削ぎ落とされ、ミァハとトァンの個人的な話になっていくところが良かった。世界を元少女たちが動かしているという、すべてはあの、本気かどうかも分からないたわいもない会話から生まれたのだと思うと感慨深かった。

  • 細かい部分は読み飛ばしたから完全に理解したとは言えないんだけど、ストーリーの大筋はとても興味深くて面白かった。私はこういう、人間の心理とか、生きることの意味とか難しさとか、考えても答えが出ないような、正解がないような、哲学者たちが考えていたような問いについて思いを巡らすのが好き。ある一つの考え方があって、それに対して反対する人も賛成する人もいて、また、ある一点までは同じ道だったのに途中から分岐することもある。ずうっと昔から変わらないんだろうなと思う。意識が奪われたら生きる意味はないのでは、って、反射的に思ってしまうけど、「意識をもって」「苦しみや喜びを感じながら」生きることにだって意味があるのかと問われたら、どう答えて良いかわからない。その時々で生きるために必要な機能をインストールしながら生存してきた。不要なものはアンインストールされるべきなのかもしれない。進化って不思議で面白い。

  • 伊藤計劃の傑作SFファンタジー。
    世界を滅ぼしかけた核戦争〈大災禍〉後に築かれた完全福祉社会に馴染めぬまま大人になった、嘗ての少女の視点から語られる、ユートピアにしてディストピアの物語。

    この手抜きし過ぎ感のある表紙は一体どうしちゃったわけ??そして作中でちょこちょこ挿入されてくるHTMLタグは一体何??と激しく疑問に思いつつ、どんどん読み進めていって最後のページに辿り着いた瞬間には「もうこの作者天才だろ!」と心の中で叫ばずにはいられなかった。

    確かに安全安心の理想郷かもしれないけれど、個々人の自由や可能性まで駆逐されてしまった社会は、人間が生きる意味を最初から失ってしまっているのも同じということなんだろう。それなら感情を手放してしまっても何の問題もないし、人類は幸福になれるのかもしれないけれど、想像するだに恐ろしい近未来。。。
    作者はほんとすごい、すごすぎる。34才という若さで早世されたことが悔やまれる。

  • SF。
    前作「虐殺器官」の続きにして伊藤計劃の遺作、になるのかな??
    虐殺器官の最後に訪れた世界の大混乱のあと、人類が平和と「人間というリソース」の重要性に気づき、世界は「生命主義」の時代に移行する。
    「生命主義」社会においては、隣人を愛せよ精神が世界のスタンダードになり、「善」が蔓延する。
    息苦しい「善」の空気に違和感を感じる女子高生3人がそれぞれの方法で「生命主義」社会にアクションを起こしていくストーリー。

    結果、人間が思考をやめ、論理的に導かれる自明の選択肢を遂行することしか世界に調和が訪れない、という答えが導き出されていくのは切ないなあ。
    また、今ある現実と、この小説で描かれる世界がそんなかけ離れていなくもない、というのが少々怖いところでした。

著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

伊藤計劃の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
村上 春樹
村上 春樹
伊藤 計劃
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×